ツンツン頭さんを守護りたいスレ【滞空回線は糞】   作:原石うじゃうじゃ

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【聴取】足し算を飛ばして掛け算で

 私軍兵(フローター)第■部署。

 時は超電磁砲・御坂美琴が訪れるより少し前へ遡る。

 

「…………」

 

 ある一人の女性が、扉を開けて中に入った。

 人の気配は、目の前に広がる人間のもの以外にはない。

 選りすぐりの精鋭たち、『脳』という分野に限らない天才たちが集結していた。

 

「これは……」

 

 会議室に集まった人間を見て思わず口にする。

 二メートル近くの体格を誇る、ローブに身を包む男。

 髭を生やした丸眼鏡の男。

 全員、知っている存在だった。

 

「……随分と壮大な光景だ」

 

 一人は齢十五の学生でありながらも、その特異な治癒能力で名が知れた、ココアシガレットを口に咥えた『原石』の少女。

 そしてもう一人は、先ほどの少女とは違って白衣ではなく、青を基調とした制服を身に纏っていた。

 部屋に入ったこちらの気配に気づき、一度目線をこちらに向け、その後すぐに元に戻す。

 長点上機学園――能力開発においては学園都市ナンバーワンを誇る超エリート校生徒、それに相応しい堂々たる態度だった。

 『風紀委員(ジャッジメント)』の存在もあって、こういった場に学生が混じる事への違和感はない。

 だが――。

 

(あの男……間違いない)

 

 どれだけ愚鈍でも、一目見れば分かるその気配。

 只者ではない。

 ローブを纏った男の正体、それは望まず学園都市の『裏』の世界を知ってしまった自分にとっては、既に知っているものであり――。

 

(出身地・生年月日等一切不明の『不世出の天才』……まさかそんな男が、堂々とこの場にやって来るとは……)

 

 『私軍兵(フローター)』。

 学園都市の表、そして裏にすら名を轟かせる治安維持組織。

 『風紀委員(ジャッジメント)』と対を成す腕章に加え、かの『漣家』とも結託する活動範囲の広さ。

 彼らの異常さは知っていた筈だが、それでも驚愕を隠せずにはいられない。

 『壮大な光景』と、先ほど口にしたそれは決して、世辞の類ではない本心からのものだった。

 

「それだけ、今回の事態を重く見ているのですよ」

 

 『何故これ程の人材を』、それへの答え。

 それを口にしたのは、数字の『0』を象ったテーブルの中心に座る、一本の毛すらなく光り輝く頭部。

 その特徴的な容姿、そして事前に仕入れた情報もあって、滞る事なく。

 

「初めまして、水穂機構病院院長から招聘を受けました木山春生です」

「初めまして。自己紹介……は必要ないですね、ではそちらへお座りになって下さい」

 

 『私軍兵(フローター)』最高指揮官・テル。

 彼の言葉に素直に従って、木山は目の前に用意された椅子に座った。

 

「さて、今回の議題は一つ。巷を騒がせている『()()()()』についてだ」

「……!」

 

 ――()()()()

 周りに気取られる事のないよう表情を固定しながら、木山は静かに唾を飲んだ。

 

「ん?待って」

 

 思わず、といった風に上がる声。

 

「私が呼ばれた理由って『謎の昏睡状態』の患者が大量発生した理由の解明じゃないの?」

「あぁそうか、家入くんにはまだ説明してなかったな。申し訳ない」

「いいですって、さっきまで治療で大忙しでしたし、報連相する時間なかったし」

 

 家入と呼ばれた少女は、ココアシガレットを口で弄びながら、机の上で脱力する。

 

「確か『幻想御手』ってあれでしょ?使うだけで能力者たちのレベルが上がるなんて噂のある……」

「そうだ。そして先ほどまで君たちが診ていた患者たちは介旅初矢を含め……皆が本来登録されている能力のレベルと大きく違っている事が確認された」

「……なーるほど、噂は本当だったって訳だ」

「そして」

 

 テルは平然と、件の『それ』を机上に置いた。

 

「これが回収した『幻想御手』だ」

「――!」

 

 『幻想御手』、そう呼ばれて表に出てきたのは、どこの店でも買える何の変哲もない音楽プレーヤー。

 そう、本当に何の変哲もないものだ。

 見た目に特殊な加工が施された訳でも、内部に改造を施したものでもない、店に売られている状態の。

 ただ一つ、違う所があるとすれば――。

 

「これって音楽プレーヤーですよね?何か特別な加工でもしてたり?」

「いいや何も。強いて言えば、その音楽プレーヤーには『ある音』が記録されていてな、もっと正確に言えば『波長』とも言えるんだが……」

「ふぅん……」

「今回君たちを呼んだのはそれだ。現在昏睡状態となった多くの学生たち、それを救うには何をするべきか」

 

 辺りを見回し、そう言うテル。

 いつの間に用意していたのか、現在昏睡状態となっている生徒たちの容態データ。――()()も含めたそれらを纏めた書類を配る。

 皆がそれを受け取った瞬間、部屋から呼吸音すらも聞こえなくなり、それぞれの速読が開始する。

 

(これ程までの学生たちの容態データ……一体いつ)

 

 ()()()()()()()()()()()、木山は『私軍兵(フローター)』の仕事っぷりに思わず唸るしかなかった。

 身長体重は当然として、個人それぞれで異なる『脳波』という名の情報を、ここまで解明し切れる程の科学力は、一体どこで培ったというのだろう。

 速読の時間が始まって数分、再びテルが声を上げた。

 

「現状の解決手段は、この『幻想御手』による波長を打ち消す……あるいは操作する新たな波長を開発し、患者に打ち込む事だ」

 

 だが、そう言葉を区切り。

 

「何しろ不確定要素が大きく、実行するには危険が大きい。故に君たちのような……『脳』に詳しい医療従事者を呼んだという訳だ」

「……あれ?テルさんが私たちを呼んだのってそういう事?私たちに危険性云々を判断して欲しいって?」

「少しいいでしょうか」

 

 それに応えたのは、家入に負けず劣らずの麗しい少女。

 長点上機学園の制服を身に纏った『原石』――ルアン・メェイ。

 

「何かな」

「いえ、すみません貴女ではなく。……ややこしかったですね、硝子さんに聞きたくて」

「なぁに?」

 

 ルアンは眉一つ動かさずに。

 

「今、この場にいる中で最も『脳』と距離が近いのは貴方です。故に聞きたいのですが……『幻想御手』の波長(仮)は()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「――――うーん」

 

 ルアンの質問に言葉を濁す家入。

 暫く言葉を探すように俯いた後、助けを求めるようにちらりとテルに視線を向けた。

 テルもその意図を察し、右手を振るい。

 

「では説明を、F.R.I.D.A.Y.」

『はい、それではこちらをご覧ください』

 

 『私軍兵(フローター)』サポートAI・F.R.I.D.A.Y.の操作により、虚空に投影が開始される。

 

「便利なものだね」

 

 丸眼鏡の男、ホー・インセンの感心した声

 

「同感だが今は抑えておけ」

「分かってるよ」

 

 それを窘めるテルの声をよそに、F.R.I.D.A.Y.は続けた。

 

『現在確認されている「幻想御手」をダウンロードした機器はどれも「音楽プレーヤー」一択です』

「……ふむ?」

 

 インセンは首をかしげる。

 

「自分はそういった最近の若者事情は詳しくはないんだが……音楽を聴く。これは音楽プレーヤーに限らなくともいいんじゃないのかい?どうして音楽プレーヤーだけ」

『ご明察です、インセン様。実際に「私軍兵(フローター)」が本格的に「幻想御手」を取り締まる前には、インターネットを通じて直接再生した履歴が確認できました。現在はインターネットに通じた機械全てから「幻想御手」の記録を抹消済みです』

「……うーん、つまり」

 

 インセンは背中を椅子に預け。

 

「今もこうしている間に『幻想御手』を使ってやんちゃをしている子たちは、何かしらの情報網を使って『ネットに繋げると不味い』と察知。その為ネットに繋げる必要のない……所謂『古い手段』を使って『幻想御手』を広めていると?」

『その通りです』

「なら」

 

 重く、部屋を震わせるような圧を秘めた声。

 二メートル近い体躯に相応しいその威圧感に、この場にいる全員が思わず姿勢を正した。

 

「ならば、もうするべき事は決まっている」

 

 男はそう言うや否や、立ち上がって背中を向ける。

 

「どこへ行くKAZUYA(カズヤ)

「患者の下へ。『幻想御手』の回収とやらは『私軍兵(フローター)』の連中がやればいい、俺は『医者』だからな」

 

 西城KAZUYAは顔をテルに向ける事なく。

 

「もう既にやるべき事、俺たちができる事は決まった。ならば後はその仕事に戻るだけだ。時間が惜しい」

「私も同意見かな」

 

 即会議室を出たKAZUYAとは違い。

 家入は椅子から立ち上がり、ぐーっと背筋を伸ばし、のびのびと。

 

「音楽プレーヤーにしろ何にしろ。脳に何かしら作用してるのは間違いないし、それなら治療も()()()()私が一番役に立てる」

「……そうか」

「インセンさん、行こ。ちょっと手伝って欲しいんだ」

「分かった」

 

 続けてインセンも立ち上がり、歩き出した家入の背中を追って部屋を出る。

 バタンと扉が閉まり、現在部屋に残っているのはテル・ルアン・木山とF.R.I.D.A.Y.による三人(プラス一個?)であった。

 はあっ、と吐息。

 

「……全く、本当に頼りになる」

 

 しょうがない、だがそれでいい。

 満足そうに笑ったテルは、すぐに表情を改め。

 

「ではルアンくん。君には今から『科学部』に赴き、『幻想御手』の解析データを整理してくれ」

「私ですか?F.R.I.D.A.Y.に……それに()()がいるのなら、私は無駄では」

「そう謙遜するな。君の生物に関する知識は目を見張るものがある。それに科学部の連中はどれも物理学に特化し過ぎていて、生物学の知識はそれほどだ。……まぁ充分過ぎる程ではあるんだが」

「分かりました、そこまでおっしゃるのなら」

 

 静かに立ち上がり、ぺこりとテルと木山に頭を下げたルアンは、そのまま部屋を出て行った。

 これで、部屋にいる人間はテルと木山の二人きり。

 

「木山先生、あなたにも期待しています」

「…………」

 

 そう言って手を差し出すテル。

 にこりと笑いかけるその顔に、一瞬冷たいものが背中を走る。

 

「……えぇ、こちらこそ。期待に応えられるようにします」

 

 差し出された手を掴み、そう返す木山。

 

(『私軍兵(フローター)』……彼らなら、あるいは――)

 

 一連の騒動の原因。

 それに至った理由も、何もかもが過去形で。

 

 だからこそ、考えてしまった。

 

 もし、最初から彼らに頼っていれば。

 私軍兵(彼ら)なら。

 もしかすれば、なんて――。

 

(…………我ながら呆れるな、そんな都合の良い()()なんて――)

 

 どれだけ手を汚そうとも。

 必ず取り戻すと誓った宝――彼らの為なら、この身はもう惜しくない。

 そう、覚悟を既に決めたのだから――。

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