ツンツン頭さんを守護りたいスレ【滞空回線は糞】 作:原石うじゃうじゃ
『な、なんだあっ』
突然の乱入者に対し、武装無能力集団を含め、メインロビーに集う人間全ての視線が集中する。
それも当然、皆の視線を一斉に浴びるその少女は、一見ただの美少女。
「武装無能力集団だよね?動かない方がいいよ?」
黄色のみがかかった白髪のボブカットに、赤と灰色の趣向を凝らした配色は、一目見れば誰もが忘れる事などできはしない。
男なら誰もが、それこそ少女ですら息を吞む可憐な笑み。
しかし、それを浮かべたまま手に握られている銃は。
可憐な容姿とは正反対の、無骨で冷たい空気を纏っている。
その立ち振る舞い、揺れない視線。
その少女の脅し文句は口先だけでなく、ここに至るまでの『経験』がしっかりある事は、彼らにも分かった。
「おーっ怖ィイ、女の癖に強気なバカってもしかしてあなたは無敵の人?」
だがその程度で、研究所に殴り込みをかける
少女、錦木千束が手に持つ銃を見ても尚。
彼らはまるで自分たちが慈善活動家であるかのように、涼しい顔のまま。
「私は『愛』が欲しいです」
「うーっ殺らせろ、リーダーおかしくなりそうだ」
アサルトライフル、サブマシンガンを構えた男たちは涎を垂らしながら興奮し。
「
「ところでリーダー……『
「
バット、ナイフ、そしてどこの漫画に影響されたのか、日本刀を所持する
皆はもう、辺りの研究員など既に眼中にないのか、皆が目の前の千束を欲望のはけ口に選んだ。
「なんなら私がグチャグチャにしてやりますよ」
「さあ楽しもうぜっ、リンゴのように皮をむいて一口サイズに肉をカットしてやるよ」
彼らが何故、他の有名な研究所ではなくこの場所を襲撃先に選んだのか。
その理由は単純明快。
――ただ近くにあったから。
手にしたおもちゃを使いたい、力を振るいたい。
その標的として、ここを偶然見つけたからやって来た、これだけだ。
『はーーっ滾るっ、
『
自身の高ぶる
特殊な『脳波』に同調した彼らの演算能力は何段階にも上昇し、彼らに『超能力』を顕現させる。
『肉体の奥底から充実したエネルギーが衝き上がってくるわっ』
「……マジかぁ」
千束は思わず苦い顔。
「武装『無能力』集団なのに能力は駄目でしょぉ……」
彼らは『
――しかし中には、ごく僅かだが『自分だけの現実』が能力顕現における最低レベルまで達している者も、いるにはいる。
だが普段の彼らでは、純粋な
そんなデメリットを、あの『幻想御手』ならば打ち消せる。
野蛮で下劣、間違っても娑婆に出してはいけない精神性と強靭な肉体を持った彼らに与える武器にしては、レベル1~2程度の能力でもあまりにも危険。
見下され、時に不当な暴力を受けて来たであろう彼ら。
だがもう、『
何なら、相手が自分と同じレベル0だろうと、それは都合の良い暴力の発散相手でしかないとさえ思っている。
かつて、格闘家エンセン井上はこう言った『対戦相手が死んでも何とも思わない そのお母さんが泣いてるのを見ても何とも思わない』。
学園都市という
そこで育てられた野蛮人たちの悪意は、もう言葉では止まらない。
右手に持つ、非致死性の特殊段が込められた拳銃とは別に、千束は腰に左手を伸ばす。
だがそれはあくまでも――『決心』であって『殺意』ではない。
相手の持つ武器はどれもが本物。
例え一発でも攻撃が掠れば、皮と肉は裂け、神経を焼くような激痛が走るのは想像に難くない。
手加減はそのまま死に直結する。
しかし、それでも。
「先に言っとくけど、殺しはしないから安心しなよ?」
『あーん?』
殺した方がいいのだろう。
更生する余地もなく、ただ一生戯言を垂れ流す野蛮人たちに、かける情けは無駄なのだろう。
仮に無力化し、施設に入れたとて、彼らが暫くして出てくる事は変わらない。
「……私は
たとえ如何なる理由があろうとも、一度でも人を殺めた者は、闇の中でしか生きられない。
闇の住民となり、同じく死んでいった者たちの呪詛と怨嗟を笑う生き方は。
闇に生き、光の住民を嘲笑する生き方など。
そんな、『悪魔』のような生き方など――。
「『悪魔』になんかならないよ、例えどんな理由があろうとも」
――そんなもの、
「自分で決めたルールは守る。――私が『人間』である為に」
『ほざけェエ――――!!』
そう理解した瞬間、『
「貴様――ッ『
「クソにたかる蛆虫が!二度と足腰立たんようにしたんどっ」
『死ねやごらあっ!!』
銃口が一斉に向き、躊躇なく引き金が引かれた。
迸るマズルフラッシュと同時に響き渡る銃声。
何十もの鉛の弾雨が地面と水平に宙を穿ち、走る。
高位能力者であろうと蜂の巣は逃れられない質量の暴力。
「フッ――!」
それを前にして――千束は
(右、四つ。左から七。そこから等間隔に三と八――!)
錦木千束に肉体系の能力はない。何せレベルは0。
しかしこの世界に生まれ落ちたその瞬間から、
天性の才能に積み重ねた経験、それらが編み出す神がかったレベルの反射神経と動体視力。
それを前にすれば、アサルトライフルやサブマシンガンといった、どれだけ優れた銃器を所持しようとも、所詮は素人学生の『
弾雨を潜り、四方八方にいる男たちに何発か特殊弾を放ち、痛みで失神させ、加速。
「せいっ!」
「あがっ!?」
そして正面、アサルトライフルを所持していた『
右膝で鼻を潰し、その後続けざまに振り上げた左膝で顎を揺らし、意識を落とす。
所詮は『
それが包んでいるのは身体だけで、一番守るべき頭は無防備のままなのだから、千束にとってはやりやすい相手。
気絶し、重心のバランスが崩れた男の肩に足を乗せる千束。
周りがその反応速度に驚愕する隙を見逃さず、そのまま左手に持った『それ』を、近くのサブマシンガンを持った男に向かって放り投げる。
「行ってこい相棒!」
「だから!ケータイは投げるものではないッ!!」
「がっ!?」
千束によって空中を舞ったセブンが、サブマシンガンを持った男の顔面に飛び膝蹴りを放つ。
その勢いのままセブンは男の鼻、耳を掴み、宙を駆けてまた別の男の顔面へ跳躍し、それを全力で蹴り飛ばす。
その動きはさながら、野生児ターザンの如く。
「ブーストフォンもないのに無茶をさせるな君は!」
「それはマジでごめん!」
他愛の会話を続けながらノールックで発砲する千束。
数秒ごとに消える自分たちの数の有利に焦り、男たちはすぐさま千束に銃口を向け直して叫ぶ。
『殺せ――っ!!』
千束の足場になっている男……仲間すらも巻き添えに、知った事かと躊躇なく引き金を引くその度胸は、あまりにも危険。
確かに今の千束は、地上とは違って足場が限定されている状態だ。これでは満足に回避はできない。
――その判断自体『は』正しい。
「こらっ!」
「あべし!?」
くるりと、足場にした男の首に足を絡ませて千束は一回転。
そのまま華麗に蹴りを放ち、近くにいた男の顎を揺らし、気絶させる。
年頃の少女の柔らかくていい匂い足。それに顔を挟まれるとは、男であれば誰もが羨むだろう。……本来なら。
しかし残念、ここにいるのは『暴力』しか頭にない野蛮人であり、肝心の挟まれた男も、今は夢の世界だ。
「とうっ!」
「ふぎゃっ」
流れるように二連、男たちの顎を狙い撃つ一撃が紡がれた。
残っている『
蹴りの動作を完了し、無防備になった千束に向けて、彼らは銃口を向けた。
「今度こそ……」
どれだけ動体視力が、反射神経が優れていようと『人体』には限界がある。
両足を使い、全身のバネで跳躍し、宙を舞う千束の身体は今、その射線から逃れる術を持たない。
このままなら、千束は撃たれるだろう。
「隙あ……」
――本来なら。
「おっと、それは見逃せないな」
成人男性であろうそれが紡ぐ、バスの声。
千束に向けられた悪意の攻撃を、上空から降って来た声の主、『黒』が戒める。
「ほっ」
そんな軽い掛け声と共に、一瞬で男の意識を刈り取った者。
それは文字通りの『黒』だった。
黒いカウボーイハット、黒いロングコートに、顔も身体も隠す黒いインナースーツ。
そしてそんな身体とは別に、両目を隠す真っ白のゴーグル。
それの手首から放たれるもの――
「これでいいか?」
「おじさん最高!」
その返答を合図に、『黒』は人間離れした身体能力で跳躍。
そしてすぐさま、千束は左手に銃を持ち直し、右手を『
キィィ――!とグローブから発せられる高音が、否が応でも、彼らに嫌な予感を与え――。
「ちょっとの間眠りなさいっ!」
千束が右手に付けた『アークFX・グローブ』から発せられる、強烈な音波攻撃が残った『
―― 『
所詮『駆動鎧』を身に纏い、身体能力を向上させたとしても。
『幻想御手』によって、付け焼刃の超能力を手にしたとしても。
――それを使えなければ、何もかも意味がない。
「……『幻想御手』使った癖に誰も能力で戦ってないじゃん」
正直、想像していたより簡単な戦いだった。
彼らの妙なテンションから察するに、偶然『幻想御手』を手にしたはいいものの、それを日常的に使うような事はしていなかったのだろう。
「全く……」
まるで『必殺技』とか、『奥の手』のような扱いだった。
これなら、今も尚学園都市のどこかで暴れている、『
彼らは『幻想御手』を手に次第、散歩に行くノリで銀行強盗で強化された超能力を披露するのだから。
「おじさんありがとね、お陰で助かったよ」
「礼ならいい」
奥の手を解放し、バッテリーを使い切った『アークFX・グローブ』を右手から外しながら、千束は両手を背中で組んで『黒』を見上げる。
「ねぇねぇ、おじさんはなんで今日ここに来れたの?何かの仕事中だった?」
「……別にそういうのじゃない。本当に偶然、騒ぎを聞きつけてやって来ただけだ。お前こそなんでこんな所にいる?」
「あはは……ちょぉ〜っと言えない事があって…………見逃して?」
「……まぁいい、詳しくは聞かん」
「さっすがぁ!おじさん分かってるぅ!」
広いメインロビーの中央で、まるで知人と会話でもするかのように振る舞う千束たち。
それを半壊した扉や壁から、こっそりと覗き見ている研究所の人間たちの視線に、足元に立つセブンは気づいていた。
だが、彼らにとってそれは特段気にするものではなく。
「さて、後は『上』の連中に任せようか、千束」
「あーっ疲れたぁ……今日はもう風呂入ってゴロゴロしよ……あ、映画は勿論見るけどね」
「うむ」
あ、と千束は何かを思い出したかのように声を上げ。
『黒』と視線を合わせてから。
「所でさぁ、おじさんなんで室内でコートがハタハタしてんの?」
「大人の事情だ」
半壊した研究所の有様とは反対に、そんなくだらない会話を交わしてから去っていった。
クソみたいな治安(二度目)。