ツンツン頭さんを守護りたいスレ【滞空回線は糞】 作:原石うじゃうじゃ
本選以降?ククク……
薔薇丸の言葉を聞いて、男は即答した。
「それジョークか?面白い事を言うなぁこの蛆虫は」
言葉とは裏腹に、男の顔に笑みは一つも浮かんでいない。
一体何を言っているのか、心底理解できないといった顔で。
「知らなかったのか?何の力もねぇ非力なやつが俺らにゴチャゴチャ言う資格はねぇんだよ」
「その理論でおっしゃるなら、あなた達こそ
黒子の顔は、露骨に相手を見下す薔薇丸と対して冷ややかなものだった。
だが紡がれる言葉は共通して、目の前の不良を心底馬鹿にしたものである事に変わりはない。
「はーっなんかムカつくなぁ。ガキの癖に傲慢ちきな態度が鼻につくからね」
恐らくは念動力に近しい能力を持っているであろう男が周りにある物を浮かせる。
鉄パイプや鉄板、更に人の背丈程もある鉄柱まで。
本来はビルの改修で使うそれらを、まるで玩具でも扱うかのような気軽さで武器とし。
「その鼻へし折ってやるよっ『風紀委員』ッ」
迷わず悩まず、躊躇わず。
まるで食事でもしているかのような精神で振るう過剰な暴力。
相手を傷つける事、痛めつける事に対し、忌避する人間としての感覚が欠如した行動。
「その台詞、そっくりそのままお返ししますわ」
「はうっ」
銃弾より遅く、最高速に至るまでに数秒必要な念動力。
いくら『幻想御手』で強化されていようとも、素体が貧弱なら強化後も程度が知れている。
何より、カツアゲで満足する程度の不良など、銀行強盗からバスジャックといった救い難い不良(武装無能力集団一歩手前)を毎回相手している『風紀委員』にとって、そう大した脅威ではない。
「へぇ……」
「はっは――ッ」
リーダーの男は未だ『見』の構え。
それに対し、知性も理性も感じない叫びと同時に飛び出す、二人目の男。
つい先ほどまで、カツアゲに夢中になっていた念動力の不良の相方である。
「やめておいた方がよろしくてよ」
「その前にお前を殺してやるよっ」
一応の警告の意味を含めて金属矢を見せる黒子。
対する男はデジャヴを感じる台詞と共に、『学習能力』という四文字を胎に忘れてきたかのような突進を繰り出す。
結果は一瞬。
「せいっ!」
「あががっ」
遠心力の力で強化された鞄が男の鼻を穿つ。
いくら小柄な体系の黒子だろうと、意識外からの一撃という要因もあり、その威力は凄まじいものだった。
すぐさま気絶した男の服と地面を、金属矢を『空間移動』させて連結させ、無力化&拘束。
これで残りは一人、リーダーの男だ。
「おもしれー能力だな。『
「他人事のようにおっしゃいますけど、次はあなたの番ですのよ」
今も尚ニヤニヤと笑う男とは違い、黒子は一切笑っていない。
「大人しく投降するのであれば――」
「俺たちはよォ」
リーダーの男は、地面に倒れる仲間の身体を何の抵抗もなく踏みつけながら歩いて。
「盗みや暴行、他にもあくどい事して楽しんで来たけどよ。最後はいつも『風紀委員』や『警備員』、そして『私軍兵』の連中どもに追われてな、ウザってー目に遭わされてきたんだ」
聞くに堪えない戯言を垂れ流す男だったが、その間にも『布石』は続いている。
両腕を広げ、ゆっくりと歩きながら。
如何にも『自分は何もしていない』とそう思わせるような動きを、様子を相手に見せつける。
「だからでけえ力があればよォ、いっぺんギタギタにしてやりてーって思ってたんだぜ!」
「まったく嫌になりますわね」
特に意識する必要もなく、箸を持つような無意識下での演算による『空間移動』が二つ、炸裂する。
「最近は逆恨みが流行ですの?」
一つは金属矢、それが男の左肩を穿つ位置に転移し。
黒子自身、男の背後に転移する事で突進を回避。
ため息と共に振り向き――。
「まぁ結局返り討ちにし――」
「白井さん後ろ――!」
しかし、
自身に向けられた、少女――佐天涙子による警告の叫び。
それが黒子の耳に入り、背筋の凍る悪意を肌で感じ取るのと。
――鞘に納められたままの刀が割り込んで来るのは、同時。
「っとぉ?アブねぇ……」
少女相手に遠慮なく振るわれる蹴りを諫めたのは、『私軍兵』の青年薔薇丸である。
男は舌打ち。
「ったく、邪魔すんじゃねぇよ『私軍兵』」
「嫌ですよ」
薔薇丸は、そこで言葉を断ち切り。
「女子が傷つきそうになってるのに男が助けるのは当たり前でしょう?これでも大和魂が強くってね」
「よく言うぜ、んな重いもんでこの距離をどうにかできると思ってんのか?」
男は既に、素手というルールから逸脱している。
右手に持っているのは、人体など簡単に裂き、そして肉を削り取れる大型のナイフだ。
だが、大型といえども所詮はナイフ。
確かに、大きく重く。遠心力で切っ先から叩き斬るのが
――本来なら。
「なんですか?それは」
薔薇丸はそこまで言い切ってから、ようやく鞘から刀を引き抜く。
そこから出てきたのは、藍鼠色をした重厚な鋼の色。
だが、それは本来の日本刀とは違い、玉鋼でできている訳ではない。
その証拠に、刀を真っすぐに持ち直した際の薔薇丸の動きは、
次の瞬間である。
「『斬る』とはこうっ」
一歩、薔薇丸が前へ足を踏み出すと同時。
文字通り一瞬の間に、空中を軽やかに舞う剣跡が男の網膜に焼き付いた。
「なにっ」
「……おや?」
カッと、薔薇丸の斬撃が男のナイフに襲い掛かり、結果としてナイフの刃が三分の一削られた。
男は咄嗟に後方へ跳び、そして冷や汗を流しながら、今切断されたナイフの切っ先を、恐る恐る確認する。
(何だ今の!?いくらなんでも速すぎる……!)
肉体強化系か、それとも念動力系か。
目の前の剣士に対し、底知れない何かを感じる男とは別に、薔薇丸は吐き捨てるようにその種を説明する。
「この刀はね、鉄ではなく特殊合金でできてるんですよ」
古来、日本において日本刀とは戦の為の武器であると同時に、『神』に捧げる宝物としての意味があった。
日本刀を作る刀鍛冶は、鉄を何度も何度も叩き、折り畳み、叩いて鍛える。
そうして何十、何百もの気の遠くなる作業を経て、文字通りの『魂』を吹き込んだ日本刀を作る。
真っ黒い鉄が『魂』を吹き込まれ、それは見る物全てを魅了する美しく、強い日本刀になる。
「軽量化され、より強靭に。そしてより切れ味を増しているんです」
刀が進化すれば技も進化する。
逆に、技の進化は得物の進化も意味する。
更に薔薇丸が扱う刀は、ただの科学技術によるものではなく『学園都市』の技術で作られた超合金製。
刀本来の切断に関するメカニズムや物理法則をルール無用とする、何でもありの力の化身なのだ。
「まだ試した事はありませんが、この『超日本刀』はダイヤモンドだって斬れるんじゃないかと思えるんですよ」
(ダサい名前ですわね……)
(『超』って、えぇ……?)
自慢げに語る薔薇丸を冷ややかな目で見る黒子。
黒子と違って態度にこそ表していないものの、そのネーミングセンスは流石に……と内心に留める大人な対応を見せる涙子。
「…………かっこいい」
一人、唯一そのネーミングに感化された肥えた少年はこっそりと目を輝かせていた。
「チッ!超が何だか知れねぇが、結局はただ無駄にでかい得物だろうが」
リーダーの男は、再び能力を発動する。
元から強力な能力ではあるが、『幻想御手』によるバフのかかった状態の現在。
その恩恵は自分自身だけでなく、
「こんな狭い場所で『これ』を防げるかあっ!?」
ビュンッと、男がナイフを投擲する。
切っ先が欠け、元よりあった絶望的なリーチ差が更に縮まった今、それを振るう意味はない。
回転し、加速するナイフはそのまま真っすぐ薔薇丸の顔面に向かい。
「させませんわよ――!」
黒子の『空間移動』によって出現した金属矢が、ナイフの柄を貫通する。
――筈だった。
「なっ!?」
しかも、それは黒子の金属矢に反応してではなく、いつの間にか、最初からそう目に映っていたかのような偏移。
演算ミス?いいやそれはありえない。
精神系や肉体系とは違い、空間系の能力者は空間把握能力が必然的に高い。
その上で、複雑な演算という訳でもないただの金属矢の転移を失敗する可能性など、皆無の筈。
「しま――」
ナイフは今も加速している。
薔薇丸の顔へ、目へ、そして脳へ突き刺さり、肉と骨を砕かんと暴れ――。
「私はね、惨めで無様なものが許せないんです」
だが、薔薇丸は動かない。
文字通り目の先、眼球のすぐ近くにナイフがあるというのに、それでも。
涙子は思わず目を閉じる。
黒子も、もはや間に合わないと理性では分かっていても、身体が動くのを止められなかった。
「――例えそれが、自分であっても身内であっても。他人であってもね」
だが、違った。
目の前には、そんな皆の予想を裏切る光景が広がっていた。
血が出ていない。
眼球から突き刺さっている筈のナイフ、何より刺された筈の薔薇丸、その両方には血の一つも纏っていない。
見間違いか、そう皆が疑ったその時にようやく、薔薇丸は刀を振るい、虚空に斬撃による半月を描く。
カランッ、と音を立てて落ちるナイフ。
地面に落ち、音を立てる。
それを皮切りに、薔薇丸は続けた。
「身長は一八〇近く、体重は七〇キロ以上。そして……」
その視線は、すぐ右斜めへ向けられた。
「私から約一メートル離れた正面ではなく。――その位置にいますね?」
「――!?」
「男が隠れて不意打ちだなんて、みっともないですよ」
男の目からはもう、眼光という名の剣呑な気配は失せている。
そこにあるのは既に、これから一方的に喰われる
未だ愚かなままの理性とは違い聡明な肉体は、もう敗北の気配を察知し、
ビルの隙間を通って運ばれた風が。
男が踏みつぶした角材の粒子が、薔薇丸に見えないものを見せる。
「私はね。確かに『レベル0』です」
同じレベル0の涙子と、肥えた少年が息を吞む。
「それでも、私は『超能力者』なんですよ」
「……………………はぁ?」
「これだけだと、嘘くさい三文小説みたいですけどね」
薔薇丸は男に語る。
人間とは、元々皆が超能力者だったのではないかと。
ただ、文明が発達する事で、その特別な
ここは学園都市。
能力開発が、この世の全てを『科学』で作れるこの街で、それはただの妄言だ。
だが不思議と、ここにいる皆がそれを静かに聞いていた。
「人間だけなんですよ。目に見えるものだけを信じる、だから惑わされる。人間ってのは、例え視力を無くそうとも『視覚』を持つ生き物なんです」
「ゴチャゴチャと……」
「どうせ視覚系……いや、光学系の能力なんでしょう?あなたがさっきから使ってる力の正体は」
正解だ。
男の能力は『
距離感を狂わせ、方向感覚を狂わせるその力は確かに、本来であれば点から点の移動の『空間移動』には強いのだろう。
「ハッ、短時間でそこまで辿り着いたのは褒めてやるよ。けどよォ、お前にそれ以上何ができるんだ?」
「…………」
「その刀を素早く振り回せるのも何の力かと思ってたが……興冷めだぜ。結局お前もレベル0の出来損ない、作ってもらった刀がなけりゃ何も出来ねぇ」
薔薇丸がレベル0であると知り、男の顔に余裕が戻る。
再び『偏光能力』を発動し、薔薇丸以外からの援護を前もって防ぎ、そして懐から予備のナイフを取り出す。
ようやく取り戻した余裕。
――それは、すぐに消える事となる。
「円月流剣術『陽炎』」
次の瞬間だった。
男の目に映ったのは、薔薇丸が刀を構え『超日本刀』の切っ先をこちらに向けた瞬間、
「なっ――!?」
はためくローブ、他ならぬ薔薇丸の肉体すらも透け、その背景にあるビルの壁までが見える。
どういう事だ、さっき言っていた『レベル0』は嘘だったのか?
男の脳内が『困惑』で埋め尽くされる間も、薔薇丸の変容は止まらない。
(な、なに?太刀筋が……)
辛うじて捉えられる薔薇丸の身体。
だがその手首から先――『超日本刀』を含めた刀身全てが、きれいさっぱり見えなくなった。
透明に変化しようとも、限り限り見えていた薔薇丸の身体との差異。
それは視覚的にも、男に常に新鮮な動揺を与え続ける。
(き、消え――来る?いつ――――)
もう、
特殊な步法と自身の肉体から発するオーラが、敵味方関係なく全ての人間を欺き、痺れさせる。
『陽炎』による幻惑が決まり、その手首を対象が見失った時。
「ちゃあ――――っ」
それは薔薇丸による全力の、そして誰にも止められない『秘剣』が炸裂する確定演出。
(死ぬ――!)
下段からの逆袈裟切り。
――否、それはフェイント。
(殺される――っ!)
斬り上げる途中で捻り、そして真っすぐに突きにくる必殺の秘剣。
それが男の顔面を、鼻を、その脳髄を砕かんと突き進み――。
「最初に言ったでしょう?」
ピタリと、男の額から数センチ離れた位置で静止する『超日本刀』。
肝心の男は白目を向き、口と股間からは、恐怖で色々なものが情けなく垂れ流しになっている。
それを確認し、薔薇丸は背を向けた。
「度し難いカスみたいな男を斬って、人生を棒に振りたくないと」
『幻想御手』によって強化された光学系能力者。
それを倒したのは他ならぬ男が見下し、そして嘲笑っていた『レベル0』。
しかもよりによって、勝負の決め手となったのは男自身が武器とし、誇りにもなっていた『幻惑』。
二重の意味で、男は『敗北』を魂に刻まれた。
「あなたのような男を斬れば私の剣が汚れます」
――勝者、九条薔薇丸。
黒子→紙でもダイヤモンドを切断できる。
薔薇丸→『超日本刀』でダイヤモンドを切断できる。
Q.E.D. 証明終了。