王国に進行してくる魔族を退け、平和を守っている。
そんな彼も今年からアカデミーの一年生である。
彼のパーティメンバー、アナスタシア、イザベラ、ヴィオレッタとの学園生活が始まる。
ここは、王都から約100kmの辺境の村、「フォス」。人口312人、麦と養蚕を生業とする平和な村である。
そんな農村に悲鳴が響き渡る。
「きゃああああああ!!!」
「魔物だぁ!!魔物だぁ!!」
「いやぁあああ!!」
この村から西に5kmのダンジョンが氾濫したのだ。
ダンジョンとは、特殊な地形に瘴気がたまってできるとされている魔物の群生地のことである。奥まった場所にできやすいとされ、洞穴や放棄された古城跡に発生するといわれている。
そして、ダンジョンを長らく放置していると中の魔物が増えすぎ、一気に魔物が放出される【氾濫】が発生する。
「はやく!!子供たちを家の中に入れるのじゃ!!」
村長の呼びかけもむなしく、魔物たちは圧倒的な数で村を取り囲んでいる。村一番の戦士とされる男も戦っているが、ホブゴブリン一匹とやりあうのが精いっぱいで圧倒的に手が足りない。
このまま蹂躙されてフォス村は終わる。女子供もまとめて魔物の食糧にされてしまう。
誰もがそう思ったその時、
『クワガタ!!カマキリ!!バッタ!!!!』
この状況に似つかわしくない音声にその場の全生物の動きが止まる。
『ガータガタガタキリッバ ガタキリバ!!』
一瞬の静寂を打ち破ったのは50人の戦士であった。
「はっ!」「せいっ!」「やぁ!」「とぅ!」「はっ!」
昆虫のモチーフが施された鎧に身を包んだ戦士たちは、突如として上空から降り注ぎ、すさまじい勢いで魔物たちを倒していく。
「こ、これは、、、」
「領主様の兵隊様が来てくださったか。いやぁ助かったわい!」
戦士たちは両腕に逆手の刀を装備しており、主に斬撃と蹴りを巧みに使い、魔物たちを村の中心に追い詰めていく。
そして、魔物たちを取り囲んだ戦士たちは魔力を集めるかのように動きを止めたかと思うと次の瞬間、突然戦士たちの仮面の角から電撃が繰り出される。
「あれは!!!」
「電撃魔法じゃの、ということはあの方々は全員貴族様ということになるのぉ。」
王国の貴族制度はシンプルである。魔法を使えるものを貴族、使えないものを平民としている。平民でも魔法の才能が有れば、新しく家が立ち上がることもあるのだとか。
「これは少し厄介かもしれんのう」
瞬く間に村の中の魔物は一掃され、村人の命が失われることはなかった。
そして、戦士たちは村の外の魔物を追撃すべく、一人をのこして行ってしまった。
「あの方々、号令もなしに意思疎通が取れているみたいですね。」
「ありゃ、相当"高貴"な貴族様みたいじゃなぁ。オスカー、絶対に無礼な態度を見せるでないぞ。恩人とはいえ貴族様に目をつけられれば、魔物どころではないぞ。」
一難去ってまた一難、彼らに不安がよぎる。そんな不安を知ってか知らずしてか、戦士の一人が駆け寄ってくる。
「あなた、村長さんですか?」
「戦士様、いかにもわしがのフォス村の村長、グスタフでございます。
そして、こちらは孫のオスカーにございます。」
二人は緊張のあまり、頭を下げたまま戦士の顔を見ることができない。
「はじめまして、グスタフさん。不安だったでしょう。よく持ちこたえられましたね。
でも、もう安心してください。魔物はすぐに討伐されます。
それとあと、オスカーさんナイスファイトでした。」
「「はい?」」
二人はきょとんした顔で戦士の顔を見上げる。あまりのフランクさに脳の処理が追い付いていないようである。
「すみません、顔を見せたほうが安心していただけるんでしょうけど、能力が切れてしまうので、終わったらまた挨拶しなおさせてください。僕は討伐に行ってきますので、家の中で安全にしていてください。それでは。」
そういうと、なんとその高貴なる生まれのはずの男は、平民である二人にお辞儀をしていってしまった。
「実は平民出身とかでしょうか。」
「ふぉっふぉっふぉ、世の中には変わった方がいるようじゃのう」
そして、十数分後
「あっ、村長、戻ってきました!」
どうやら戦闘が終わったらしく、戦士たちが帰還したようだ。疲れたといわんばかりにとぼとぼ歩いている。しかしおかしい、50人はいたはずの戦士が一人しかいない。
「戦士様、ほかの方々は!ま、まさかそんなに激しい戦いだったのでございますか!!」
「あぁ、いや、そういうわけじゃ…。」
『ぐおおおおおおおおおおおおおおお』
安心しきった精神に再び緊張が走る。
村の塀を軽々とまたいで村の中に侵入してくるのは、体高10mはあろうかという巨体を持ったグランドオーガという魔物である。とりわけこの個体は【西の大鬼】と呼ばれているネームドモンスターである。
「まだ倒し切っていなかったのか!危ないですから下がっていてください。僕が何とかします。」
「そんな、戦士様無理です!!勝てっこありません!!」
「伝説級の魔物じゃぁ、この村はもう終わりです。助けに来てくださって本当にありがとうございます。戦士様だけでもお逃げください。」
村人はもうあきらめてしまった。
戦士たちもほとんどやられてしまったこの状況で、勝機は一切ないと。ならば、この礼儀正しい戦士様だけでも生き延びてもらおうと。しかし、
「あきらめないでください。僕が必ず倒します。」
そういって彼は走り出す。その時、
「「増えたぁ!!」」
なんと、先ほどまで戦っていた50人の戦士たちは、彼が分身した姿だったのである。
『『『スキャニングチャージ』』』
「「「はぁ!!!!」」」
50人全員がエネルギーをまといながら飛び蹴りを食らわせる。
大鬼の体はそのエネルギーに耐えられず、爆発した。そして、その煙幕から出てきたのは彼一人であった。
「戦士様!!」
「ね、言ったでしょ、倒すって」
彼がベルトを操作すると鎧が光の粒子になって消え、彼のイケメンフェイスがあらわになる。緊張から解放されると同時に向けられた笑顔に、二人の心は一瞬で奪われてしまう。
彼が二人と話していると遠くから3人の少女たちが駆け寄ってくる。
「セドリック様ぁ~。ぶへっ!!」
こけた。
「もう、アナスタシアさんったらおっちょこちょいなんですから。ふぎゃっ!!」
こけた。
「アナスタシアもイザベラも注意力散漫。足元がぬかるんでいるから足元を注意すべk」
ゴツッ
頭を打った。
「みんな、ほんとにあぶなっかし…」
ドサッ
ぶっ倒れた。
「「戦士様ぁ!!!」」
こうして、フォス村の平穏は保たれたのである。