白虎ヤミーの親、元Sランク冒険者【大剣のブラガン】は夢を見ていた。それは彼が左手を失う少し前、『摩天楼』攻略の前夜祭でのことだった。
「なぁ、ブラガン!もしだよ、もしも、あたしらが摩天楼を攻略しちまったら、一体どうなっちまうんだろうなぁ!きっと、王様からい~っぱい報奨金がでるのかなぁ!」
ブラガンに満面の笑みを浮かべながら語りかけるのは、Sランク冒険者パーティー『銀狼の牙』のアタッカー、拳闘士のミリンダだ。
「そりゃあ、もういっぱい出るだろうよ。」
「ほんとか!この串焼き100本買えるくらいか!?」
ブラガンに突き出されたこの串焼きは、ミリンダの好物だ。パーティーメンバーで飲むときにこれが出てくるといつもミリンダがかっさらってしまい、誰も手をつけられないので、見慣れた料理であるが、ミリンダ以外のパーティーメンバーは、実はこの串焼きの味を知らない。
「串焼きぃ?100本かぁ、、買えるなぁ、、、、毎日。」
「えええええ!?」
ミリンダがハイテンションでブラガンに質問し、ブラガンは誇張して回答する。そしてミリンダはさらにハイテンションに驚く。それが彼らのお決まりのやり取りだ。
「まったく、毎日串焼きでは栄養が偏ってしまいますよ。」
「いや、そういうことじゃぁねえだろ。」
ミリンダに突っ込みを入れる女性、リーシアにさらに突っ込みを入れる男はカイルどちらもパーティメンバーだ。二人とも言葉とは裏腹に笑顔である。
そして、カイルが笑みを浮かべて語り掛ける。
「リーダー、期待しているぜ!!今回の攻略も【大剣のブラガン】、あんたの腕にかかっているからな!!」
「は!!」
目を覚ますと彼はベッドの上にいた。天井には見覚えがある。そこは学園の保健室であった。彼は自分の左腕を確認する。なかった。本来は肘関節の内部であるところが皮膚に覆われ、そこにシーツがこすれる。いつもどおりの感触だ。
「懐かしいな...。」
「あら、いい夢が見れたのかしら。」
「...あぁ。いい夢だった。」
ブラガンに声をかけたのはこの学園の保険医ルーミアである。教員らしからぬスカート丈と挑発的に開いている胸元を見せつけながら学園長に上目遣いで視線を送っている。
「ルーミア先生、生徒が真似をします。丈はほどほどでお願いします。」
「いやーん、学園長、せ~く~は~ら~。」
自分の肩を抱きかかえ、くねくねと身をよじらせているルーミアに冷ややかな目を送りつつベッドから立ち上がる。
「学園長、魔法診断によるとまだ体に疲労が蓄積しているはずです。もう少し、寝ていてください。」
先ほどまでのテンションが嘘のように、ルーミアの表情は真剣だ。彼女は切り替えが早い性格のようだ。
「いいんだ、ちょっとやりたいことがあるんだ。」
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ここは冒険者ギルド王都本部。中央ホールは冒険者や依頼者でごった返し、併設している酒場では昼間っから宴会が開かれ、大騒ぎである。
「次の方どうぞ。」
中年のベテラン受付嬢が順番待ちをしている冒険者を呼ぶ。歩き出した男に不自然なところはないが、自然と周囲の注目を集めてしまう。
「冒険者登録を頼む。」
「ん?、あんたその年で冒険者始めようってのかい、、、あんたは、ブラガン。」
ブラガンを見て驚いた受付嬢とは対照的に、ブラガンは少しも驚いていない。それもそのはず、彼女が冒険者業を引退してから受付嬢に転職したことをブラガンはずっと知っていた。知っていて顔を出すことができなかったのだ。パーティ解散の負い目を感じていたブラガンは彼女に合わせる顔がなかったのだ。
「久しぶりだな、ミリンダ。」
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白虎ヤミーとの戦闘の後、研一郎、アナスタシア、ヴィオレッタの三人は気絶したブラガンとセドリックを学園の保健室まで移送した。一部始終を見ていた商人が荷車を貸し出してくれたため、ライドベンダーを使用して迅速な移送をすることができた。
「学園長、寝言で言ってました。もう一度冒険者をやるって。」
「あの年で再スタートとは、恐れ入る。」
「でも、学園長、笑ってたの。」
三人は研一郎の研究室で、お茶を飲みながら休憩していた。アナスタシアとヴィオレッタは疲れたといわんばかりにソファに腰かけている。対して研一郎は少し離れた作業デスクで回収したセルメダル観察をしながら会話に参加する。
窓の外はすっかり暗くなっており、魔法灯の明かりが優しく部屋の中を照らしている。
「学園長、ずっと冒険者に戻りたかったんでしょうか。」
「きっとそうなの、多分、一件落着なの。」
二人はほっこりとした様子で身を寄せ合う。まさに一件落着、万事解決というべきところだが、研一郎は違和感を感じていた。
「なんか忘れている気がするなぁ。まあいいか。」
研一郎が作業に戻ろうとしたその時、
「一体何様のつもりですの!!!!」
研究室の片隅でイザベラが飛び起きた。
「お前まだ寝てたのか、まったくお前は残念だなぁ。」
「っ!!!なぁんですってぇええええ!!!」
その後、イザベラの怒りが収まることはなく、ヴィオレッタが再び『スリープ』の呪文で沈静化した。