「たぁ!はぁあ!せいやぁああ!」
ドゴォオン
Sランクダンジョン『摩天楼』98階層ボスモンスター『ミノタウロス』にタトバコンボの必殺技、【タトバキック】が炸裂する。
「やりましたわね。」
「セドリック様すごいですぅ」
「強力なキックなの。」
セドリック率いるSランク冒険者パーティ『虎の爪』はここ数日、ダンジョン攻略の任についていた。ちなみに、『摩天楼』の最高到達階層はアカデミーの学園長ブラガンが所属していたSランクパーティ『銀狼の牙』が打ち立てた99階層である。
セドリックがなぜそんな高ランクダンジョンを攻略しているかというと。
~~~数日前~~~
「Sランクダンジョンが氾濫!?」
謁見の間にセドリックの声が響く。集合している貴族や騎士の真剣な表情がそれが事実であることを知らせている。
Sランクダンジョンは王国に5か所存在し、国の政策としてその抑え込みが行われている。
「うむ、『摩天楼』は西方の冒険者協会の管轄で、これまで高ランク冒険者たちの努力によって魔物の間引きが行われてきた。しかし、Sランク冒険者である『大剣のブラガン』の引退依頼、魔物の討伐作戦が失敗続きでな。ついに限界が近づいているようなのじゃ。」
「そうでしたか。それでは早急に『摩天楼』に赴き、攻略してまいります。」
「うむ、頼んだぞ。」
~~~そして、現在~~~
「ついに、99階層だ。アカデミーのダンジョン研究科の予想では99階層が最上層らしい。ボス戦もこれまで通りにはいかないだろうから、みんな、引き締めていこう!!」
「はい!」
「準備は万端ですわ。」
「油断せずにいくの。」
このダンジョン攻略において、虎の爪攻略スピードは尋常ではなかった。前回の攻略作戦時、ブラガン率いる『銀狼の牙』は約2か月間をかけて各階層にベースを設営し、冒険者協会からの補給を受けながら徐々に攻略していった。高ランクダンジョンの攻略とはそのように何人もの人間がかかわる一大プロジェクトなのである。
ぎぎぎぎぎ、ぎ、ぎ
99階層へと続く門を押し開く。するとそこにはセドリックたちにとって不思議な光景が広がっていた。
「この階層だけ雰囲気が違うなぁ。やっぱりここが最上層みたいだ。」
ソファ、ローテーブルにデスク、すべてが高級品で揃えられた部屋は朽ち果てているがさぞ高貴な人間が使用していた部屋であることを想像させる。壁面はすべてまったく歪みのない巨大なガラス板で埋め尽くされ、外の景色が見えている。
「なかなか座り心地のいい椅子ですわねぇ。」
イザベラは周囲に魔物がいないことを確信したようで、少し退屈し始めているようだ。
「これはお菓子作りの道具でしょうか?」
Sランクダンジョン、それもの前人未到の最上階に、見慣れた泡だて器が落ちていることに首をかしげるアナスタシア。そして、
「こ、これは、なの。」
ヴィオレッタが拾ったのは、束になった書類である。何やら透明で柔らかい膜が張り合わされた袋に入っており、非常に細い留め金で右端が止められている。何とも不思議な形式であるが、ヴィオレッタが興味を持ったのはその内容であった。
「古代文字、なの。」
ヴィオレッタはメダジャリバーの起動実験の日以来、王家に伝わる神具について興味を持ち、文献を読み漁っていた。その際に基本的な古代文字の読み方を習得していたのだ。
「みんな、トラップが仕掛けられているかもしれないから気を付けてくれ。」
「大丈夫ですわ、セドリック様。周囲に魔力反応はありませんでしてよ。少なくとも半径20m以内にアクティブなトラップは存在しませんわぁ。」
がこっ
自慢の金髪縦ロールをかき上げながら説明するイザベラが手をついたソファのひじ掛けが沈み込む。
ゴゴゴゴゴ
「あ、あら?」
「ボスのお出ましのようだ。」
部屋の中央部の床が二つに分かれると同時に入口の扉がしまる。退路が断たれた空間がまた別の巨大な空間につながった状態だ。そしてその暗闇の中から現れたのは、、、、
「ぎぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃあああ」
悪魔のような頭蓋骨に大蛇のような背骨、両腕の骨は鋭くとがっており、4本の鎌の様になっている。体長30m以上はあるこのモンスターこそが30年前、大剣のブラガンの左腕を刈り取った死神、【デスサイス】である。
「変身!」
『タカ!トラ!バッタ!タ・ト・バ!タトバ!タ・ト・バ!!』
ぎやああん、どごおおお!!!
デスサイスは巨大な体を震わせ、切るというより叩き潰すように鎌を振り下ろす。
「は!とう!やぁ!」
対するオーズは【バッタレッグ】の跳躍力でデスサイスの攻撃を回避しつつ、【トラクロー】で攻撃を仕掛けている。しかし、圧倒的体格差によりいまいち斬撃が効いていないようだ。というより全くの無傷である。
「でしたら、弱点を狙うまでですわ!!」
スパァン!!
イザベラの手に握られているのは、東邦に伝わる神木で作られた【神弓:天穿(アマヌキ)】、高密度の魔力を纏った矢がデスサイスの鎌の根本、関節部分に正確に突き刺さる。
ドゴォン!!
着弾した矢は少し遅れて爆発する。時限式の【エクスプロージョン】の魔法がかかっていた。高硬度の骨格でできているデスサイスの左腕の肘から下が、ドガンと落ちる。
「そうか!!関節部を狙えば、バラバラにできるわけだ。」
「ヴィオレッタ!!」
「はいなの!」
『タカ!トラ!タコ!』
亜種コンボ【タカトラタ】にフォームチェンジしたオーズは、タコの吸盤を使いデスサイスの体を駆け上がる。そして、
「はぁ!!やぁ!!せいやぁ!!」
トラクローの斬撃を背骨一個一個の隙間に打ち込んでいく。
ガラガラガラガラガラガラガラガラ
複数の骨に分解したデスサイスはトランプタワーが崩れるがごとく、地面に散らばった。
「や、やったんですか?」
「アナスタシアさん、、それを言ってしまうと、、、。」
ガラガラガラガラガラガラガラガラ
地面に散らばったデスサイスのかけらが空中に浮き上がりくっついていく。腕、背骨、頭、これらが正確に組みあがり、完全に元通りになった。
「これはまずいかも」
ぎゃああああああっ!!どがあああん!!!
デスサイスの攻撃はさらにも増して激しく4人に襲い掛かる。
「うぉっ!!ぐあぁあ!!」
「か、回復を!【ヒール】!」
「【シャープネスアップ】!【タフボディ】!」
よけきれずに重い一撃を食らったオーズにアナスタシアが回復魔法をかけると同時に、ヴィオレッタがバフをかける。
「二人ともありがとう。でも、次からは魔力は温存でお願い。持久戦になりそうだから。」
「どうせ、この人間たちは逃げも隠れもできない。ゆっくり調理してやろう。」とでもいうかのようにデスサイスは余裕を隠そうともせず、たたずんでいる。
~~~20分後~~~
「はぁ!!、っ!もう矢がありませんわ!!」
「こっちも魔力切れなの。」
「わ、私もです。」
「はあああ!!!せいやああああ!!!!」
アナスタシア、イザベラ、ヴィオレッタの3人は消耗が激しく、もう戦闘不能状態である。このままでは全滅してしまう。そんな焦りをかかえたまま、セドリックは無駄と分かっている攻撃を繰り出している。彼にはそれしかできない。どうしようもないのだ。
ブロロロロロロ、、、、、。
「な、なにか聞こえるのです。」
次の瞬間、
ブォオオン!!パァリィン!!
高層階ダンジョンの最上階、その窓ガラスを突き破って入ってきたのは、黒のボディに黄色の装飾が施された鉄の塊であった。
「オーズ!!ここにいたかぁ!!」
そして、それにまたがるのはアカデミーきってのマッドサイエンティスト、鴻上研一郎。その背中には【メダジャリバー】が背負われている。
「さぁ!実験だぁ!!【メダジャリバー】の修復が大体完了したからデータを取るぞ!!」
今にも倒れそうなオーズに、研一郎はハイテンションで詰め寄る。彼はあくまでもセドリックたちを助けに来たのではない。次元断層発生装置の修復が完了したため、一刻も早くメダジャリバーの動作実験をしたかったのだ。
「完全な修復はできなかったから、やっぱりベルトからエネルギーをバイパスしないといけないが、制御回路とジェネレータは完全に修復できた。」
研一郎はふらふらのオーズを気遣うことなく、起動状態のベルトとメダジャリバーをケーブルで接続する。
「よし、完了だ!!起動は変身の時に使っている【オースキャナー】を使え!!ほら行って来い!!」
研一郎はオーズの背中を蹴ってデスサイスの前に押し出す。セドリックは研一郎に言いたいことが山ほどあったが、極度の疲労でそれを口にすることはなく、目の前の敵に集中することにした。
そして、オーズはベルト側面の【オースキャナー】を手に取り、メダジャリバーの側面にスライドした。
『トリプル!!スキャニングチャージ!!!』
メダジャリバーにはベルトから供給された赤、黄、緑のエネルギー充填され、前回の起動実験時よりも格段に小さい振動音を上げ、起動する。修復ができているというのは一応本当のようだ。
そして、オーズはデスサイスにむけてメダジャリバーを横一文字に振る。
「せいやぁあああ!!」
メダジャリバーは前回の実験同様に空間ごとデスサイスを切り裂いた。しかし、今回異なるのはデスサイスの体を残して、ほかの空間のずれが戻ったということである。
ぎえええええええええ!!どがあああん!!
空間の歪みが修復する際の衝撃は、デスサイスを粉砕し、爆発した。
「ふん、やはり私は天才だ!!実験成功だぁああああ!!」