「安いよ安いよぉ!!おっそこの旦那!串焼きはどうだい!おいしいよ!」
「うまそうだなぁ!一本もらうよ!!」
「まいどぉ!!」
ここは中央市場、王都中の商人がひしめき合い、客を取り合っている。誰もかれも1m歩けば客引きを受ける。そんな中、誰にも声をかけられない男が一人いた。
王立魔法アカデミー学園長、ブラガンだ。彼が客引きを受けない理由、それは彼の左腕にあった。Sランクダンジョン『摩天楼』の攻略時に失った左腕、客引きに出ている商人はその左腕を見て彼に声をかけることをやめている。
「・・・。」
ダンジョン攻略中に重傷を負う冒険者は少なくない。そういった冒険者は引退を余儀なくされ、ほかの職業に転職することが大半である。その中でも部位欠損、特に四肢を失ったものは転職することもできずに物乞いに落ちることが大体のケースである。
しかし、ブラガンにとってこの状況はいつも通りのことであった。自分と対峙した人間はまず左腕に目を落とす。そして、次に私の顔を見て話を始めるのだ。先日会った第二王子もそうであった。だから商人にそのようにみられることにも慣れている。
「ふぅん、キミ。ほしいものがあるんじゃない?」
「!?」
ブラガンが人目につかない路地裏に入ると同時に後ろから声をかけられる。そこには珍しい恰好をした青年が立っていた。ブラガンは腐っても元Sランク冒険者である。そんな彼が簡単に背後を取られるわけがない。ブラガンはすぐに只者じゃないことに気づいた。
「貴様、何者だ。」
「ふふ。その欲望、解放しなよ。」
そういうと、その青年はセルメダルを取り出し、ブラガンに向かって投げる。そしてブラガンの額には縦長のスロットが開き、セルメダルがその中に吸い込まれていく。
「はっ!」
気づくとブラガンは大通りに出ていた。行き交う人々はやはり、左腕に視線を向けている。しかし彼らの表情がいつもと違う。なんだかおびえているようだ。ブラガンは自分左腕を見た。
あった。
失ったはずの左腕がそこにはあったのだ。冒険者を引退した原因。そして、剣を握ることができなくなった原因。それがなくなったのだ。高揚したブラガンの心の中は一つの思考で埋め尽くされていく。
「闘いたい…。」
ブラガンは左腕のこぶしを強く握りしめてつぶやいた。
~~~~~~~~~~~~
「はしれ~、王子君!」
研一郎はそよ風に吹かれながらライドベンダーに乗っている。息も絶え絶えなセドリックたちの全力疾走でギリギリ追いつけるほどの速度でトロトロと走っている。
「はぁ、はぁ、コ、コウガミ、ちょ、ちょっと待ってくれ。」
摩訶不思議な乗り物に乗った男に、自国の王子が全力疾走でついていく光景に通行人はくぎ付けになる。一体あの男は何者なのだ。まさか王子よりも高貴な存在なのだろうか。いいやそんな風には見えない。そんな声が周囲から聞こえてくるが、もちろん研一郎は気にしない。研一郎が気にしているのは、前方を飛んでいるタカカンドロイドが案内する先にいるであろうカザリだ。タカカンドロイドがこちらを振り返る。どうやら目的地が近いようだ。
「きゃぁああ。」
「な、なんだあれ。」
その証拠に通行人の悲鳴が聞こえてくる。悲鳴の元へと駆け付けた研一郎たちは、カザリ、ではなく、いわば白虎の獣人というべき新しい怪人であった。
「たたがいだい!!!」
ブウウウン!!ドンッ!チャリィン!!
研一郎はためらいもなくライドベンダーで怪人に突っ込み、体当たりをする。怪人からはセルメダルがこぼれ、あたりに散らばる。
メダルを失ってダメージを受けた怪人は後ずさり、姿を変える。トラの特徴を持った部位が体内に沈み込み、その内側に取り込まれていた人間があらわになる。
「ブラガン学園長!!」
「セ、セドリック殿下!見てください!この左腕!治ったんですよ!これでまた冒険者が続けられます!また闘いの日々に戻れるんです!!」
「が、学園長、何ですか。その左腕は。」
「え?」
ブラガンが自身の左腕を見るとそこには自身のものとは思えないほど醜い腕がそこにあった。筋肉は異常に発達し、血管が浮き上がり、爪はゴブリンの様に長く鋭くとがっている。
「こ、こんな、違う、違うんだ!!こんなんじゃ!!」
ブラガンが混乱すると同時に、包帯のようなものが体から飛び出しブラガンの体に巻き付く、そしてその包帯が徐々に変形していき、再び白虎の怪人に変身した。
「ほう、こいつは【ヤミー】だな。」
こんな状況でも、相変わらず研一郎の顔にはワクワクとした笑みがこぼれている。珍しい生き物でも発見した少年のような、、、、いや、やはりマッドサイエンティストのような表情だ。
「ヤミー、、、」
セドリックのオウム返しに研一郎は説明を続ける。
「グリードは人間の欲望を利用して、ヤミーを生み出す。そして、ヤミーが欲望を満たせば体内にメダルがたまる。カザリは学園長でメダル稼ぎをしようとしているみたいだなぁ。」
「ふん、あたり。」
「カザリ!!」
研一郎の説明の答え合わせをしたのはヤミーを生み出した張本人であるカザリであった。
「腕が欲しいんだと思ってたんだけど。本当の欲望は「戦いたい」なんだって、人間っておもしろいよね。」
「王子君!!」
『タカ!トラ!バッタ!タ・ト・バ!タトバタ・ト・バ!』
「はぁ!」
オーズVSカザリ&白虎ヤミーの戦闘が始まる。オーズは病み上がり、それに加えて2対1、数の上でも不利である。
「ぐはぁ!」
やはり、オーズは防戦一方で今すぐにでも負けてしまいそうだ。
「おい、取り巻き共、ガタキリバだ。数的不利を解消する。」
「コ、コンボはぁ、セドリック様の体への負担が大きすぎますぅ~」
「これ以外に状況をどうにかできるってのかよぉ!いいからメダルよこせ!!」
「きゃっ!!」
アナスタシアから無理やりクワガタコアとカマキリコアをもぎ取る研一郎に、ヴィオレッタは軽蔑の目を向ける。
「王子君!!コンボだ!やれ!」
研一郎が投げたメダルを受け取ったセドリックはメダルを見て、マジか!といった視線をこちらに向けるが、カザリ&白虎ヤミーの攻撃に押され、仕方なくフォームチェンジする。
『クワガタ!カマキリ!バッタ!ガータガタガタキリッバ!ガタキリバ!』
「はっ!」「やぁ!」「たぁ!」「せいや!」
オーズの反撃が始まった。ガタキリバコンボが作り出す分身体【ブレンチシェイド】がカザリたちを圧倒する。
「くっ!!、やっぱりコンボが来るとまだ危ないね。はっ!」
カザリはガタキリバコンボとの戦闘が不利と即座に判断し、腕から砂嵐を出現させ姿をくらました。
「なぁにをやっている王子君!!早く決めろ!!スキャニングチャージを打て!!」
「ちょっと、君も見ただろ!学園長が取り込まれているんだ!まずは、学園長を引きはがさないと!」
「ふん、面倒だな。仕方ない、キックを使え、斬撃だと中身に当たる。」
分身体の一人が戦闘から抜けて研一郎に文句を言いに来る。研一郎は面倒くさそうだが、助言を伝える。
「はっ!たぁ!、クソ!いくらメダルを削っても学園長が見えない!」
「この間抜け王子が!何人もいるんだから同じ位置に連続で叩き込めばいいだろ!!」
セドリックは研一郎の言い草にムッとした感情を覚えながら。白虎ヤミーに代わる代わるキックを叩き込む。白虎ヤミーはその攻撃を大きな左腕で防御する。しかし、オーズのキックの勢いは強く、どんどんと左腕はセルメダルに分解していく。
「そうだ、その調子だ!」
「あ、手が出てきたのです!」
削れた左腕の先から出てきたのは右腕であった。ブラガンが伸ばしたその腕をセドリックは強く握り、一気に引き抜いた。大量のメダルとともにブラガンが飛び出し、白虎ヤミーは反動で後ずさる。そして、オーズはその隙を見逃さなかった。
『スキャニングチャージ!!』
次の瞬間、50人のオーズが一斉に飛び上がり、四方八方から【ガタキリバキック】を食らわせる。
どぉがぁああん!!!
白虎ヤミーは爆発とともにセルメダルに分解し、オーズが一人に戻る。そして変身を解除したセドリックはやはり、限界を迎えていた。
ドサッ
「「セドリック様!!」」
倒れたセドリックにアナスタシアとヴィオレッタが駆け寄る。研一郎も遅れて歩み寄るがもちろんセドリックの体を心配しているわけではない。
カチッ
「データ取得完了っと。」
研一郎はオーズドライバーから小さなカードを取り出す。どうやら、オーズの戦闘データを取っていたようである。
「ま、まさか実験がしたいがためにセドリック様を、、」
「まあいいじゃないか、これで一件落着だ。よかったなぁ。」
アナスタシアの言葉を遮り、ハハハとわざとらしく笑う研一郎の背中にアナスタシアとヴィオレッタの軽蔑の視線が注がれていた。