事情通系胡散臭お嬢様になりたい転生トリニティ生   作:水野 四十坂Q

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おまけです。


小話
毒にも薬にもならない話:1


 

 

 

 

 

 

 

 

「んぅ」

 

 窓際から陽光が差し込み、未だ薄寒さを感じさせる部屋を淡く温めた。

 もぞり、と身体を捩らせてみれば、毛玉一つない滑らかな寝具がさらさらと心地の良い刺激を肌に与える。

 

「ふわ〜〜……」

 

 大きなあくびをひとつ。ぐいーと両手を腕に上げれば、背筋のしびれと引き換えに夢うつつな気分が抜けていった。

 

「よし」

 

 今日の朝食はベーコンエッグだ。昨日の夜の時点でそう決めている。まずはパン。近所のベーカリーで買った、ちょっと他よりももちもちしていて耳の柔らかいパンを少し厚めにスライスして、トースターに入れる。そしたら次はベーコン。薄切りのものが冷蔵庫にストックされているので、それをいくつか出して、フライパンに敷く。ああそうだ、給湯器のスイッチを入れなくちゃ。今日は何を飲もうか。紅茶やコーヒーもいいのだが、その辺りの飲み物は結石が出来やすいのでほどほどにしろ、と生前の友人に口酸っぱく言われてしまっていた。ハーブティー……いや、まあ、ベーコンエッグにそれはどうなんだ? 粉スープの方がまだ遥かにマシではないだろうか?

 

 うん、そうだ。粉スープ。粉スープにしよう。別の自治区から仕入れてきた、私の舌に馴染み深い安い味のやつがある。それにしよう。

 

 っと、もうベーコンが焼けているようだ。じゅわじゅわと小気味いい音を立てているそれを救出してやり、代わりに常温に戻しておいた卵を投下してやる。ベーコンからは十分に油が染み出ていたようで、熱変性した白と黄色の物体は、フライパンを傾けてやるだけでするりと皿へ入っていった。

 

 チン。

 

 パンが焼けた音。

 

 視線をやれば、見事なきつね色の焼き目のついたパンがトースターから飛び出していた。

 

 出来た料理を並べて祈りを捧げる。……何かが足りないような気がする。ああ、しまった。サラダか。忘れていた。だが、まあ、いいだろう。今の主役はベーコンエッグだ。最悪これさえあれば何もいらないのだ。

 

 じゅわり。

 温かいパンにベーコン、卵と重ねた物体にかぶり付く。もごもごと口を動かしてそれを堪能した後、塩味の強いスープでそれらを洗い流した。

 

「美味しい……」

 

 うーむ。

 やはり、一人暮らしは素晴らしい。

 なんてったって朝が静かだ。わざわざ実家を出て、自治区の外れに居を構えただけの価値はあったと言える。見るがいい、この清々しい朝を。静謐さを湛える寒空を。小鳥のささやかな合唱を。

 

「そろそろ準備しなきゃ」

 

 言い、立ち上がる。

 皿は適当に洗って逆さにしておく。

 ぬるま湯を桶に満たして顔を洗う。

 スキンケアが終わったら、そんなに強すぎない程度にメイクを。髪の毛はドライヤーとヘアアイロンで、ふんわりとだけさせておく。

 クローゼットにはいつも、お気に入りの服が入っている。その中の一つを手に取る。

 

 最後に、今日はイヤリングを左耳に。

 

 ふむ。

 

 

 

「今日も(わたくし)、美しい!! ビューティフルでパーフェクトな模範的正義実現委員ですわね〜〜!!??」

 

 

 

 小鳥たちが一斉に飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わりましたわ。ご確認くださいませ」

「ありがとう。早いね」

「そりゃ当然ですわよ。正義実現委員会は事務作業も業務にありますからね」

 

 ある日。

 (わたくし)は連邦捜査部S.C.H.A.L.Eのオフィスを訪れていました。

 

「……うん。よくできてる。シズムって結構なんでも出来るよね」

「あら。褒めても何も出てきませんわよ?」

「何も出てこないって言っても、こうして手伝ってもらってるだけでも助けられてるからね」

「まあ、それは確かに?」

 

 用事……と、いうほどでもないのですが。先生には結局エデン条約調印式でトリニティを救ってもらいましたからね。適当に美味しいお菓子でも持って行きつつ、どうせ溜まっているであろう書類仕事でも手伝ってあげましょ……というだけですわ。

 

「そういえば今日、私服なんだね」

「非番ですからね。毎日毎日黒セーラーじゃ飽きますし」

 

 原作やアニメではほとんど描写されませんでしたが、当然生徒も人なので服くらい変えます。私は割とオシャレ好きなので色々持っているのですわ。まあ週5〜7はあのセーラー服ですけれど。ヒフミさんとかも割とオシャレ好きなイメージありますわね。逆のイメージなのは浦和。アイツ普段の格好がアレすぎて違いがわかりませんのよ。

 

 あれなんですのよね。ほら生徒って全員ビジュアルよろしいじゃない? 例に漏れず私も美人なのですけれど、そのせいでファッションに割とハマってるのですのよ。言うなればゲームで装備の見た目凝る感じですわね。性能一緒ならなんでもいい、って全人類本気で思ってるなら重ね着システムがありがたがられるわけないですわね?

 

 ちなみに私はミカ様のフォロワーですわ! もはやファッションはミカ様に始まりミカ様に終わる、と言っても過言ではありません! 全人類とりあえずミカ様の真似しとけ! まあ実際には個々人の容姿の相性がありますから、私も丸パクではないんですけれどもね。そういう意味ではティーパーティーの中では一番信奉してると言ってもいいかもしれませんわね? 逆はナギサ。

 

「今日はいつもと違って可愛いイヤリングしてるよね」

「あ、わかります!? もう先生ったらお目が高い! これ超可愛いんですのよね! 私、これを手に入れるためにそれはそれは苦労しましたのよ! もう、先生ったら! そういうの分かるんだったら早く言って下さいまし!」

 

 見てくださいまし! このデザイン! 嫌味になりすぎない輝き! ワンポイントのごとく埋め込められた小さな宝石!

 これ、追っかけてる彫金師の方に作っていただいたんですけれど、手に入るまで相当時間がかかりましたのよ! でもそんな苦労も手に入ってしまった今となっては思い出! 壊れるのが怖くて制服と一緒に身につけられないくらいにはお気に入りなのですわ!

 どーですこれ! 本当にかわいいでしょう!

 

 ドヤ!

 

 ドヤ!!

 

 ドヤ!!!!

 

 

「うん。シズムによく似合ってるよ」

「……」

 

 

 ……はあ。

 

 私ガン萎え。

 

 目を半開きにして睨みつけてやりますわ。

 

「先生。それ、マジでやめた方がいいですわよ」

「あ、あれ。嫌だった?」

「いや別に嫌というほどではありませんけど……そういう軽薄な言動はほどほどにしてくださいまし。ミカ様とかミカ様とかミカ様とかだけに向けた方がいいと思いますわよ。ただでさえ無駄に顔がいいんですから」

「む、無駄に……」

「無駄ですわ。厶・ダ」

「そんなあ……」

 

 おじさんがやればぶん殴りたくなるような「そんなあ……」も様になりますわね貴方。ムカつきますわ〜。

 原作読んでるのでまあ知っていましたけど、こいついちいち女たらしなんですのよね。息を吐くように口説き文句言うのマジで悪癖だと思いますわよ? 顔が良すぎるせいでシャレにならんのですわ。私はタイプではないですし、そもそも、ンゴンゴ鳴いたりペロペロ舐めたりクンカクンカしてる本性を知っているので、正直どーでもいいのですけれども。他生徒への悪影響が計り知れません。

 

「あ、そうそう。今日は先生にもう一つお土産がありましてよ」

「へえ。なんだろ」

「ふっふっふ……じゃーん」

「本? ちょっと汚れてるね」

「まあその辺は古いものなので許してくださいまし。でも先生なら絶対驚きますわよ? 断言できますわね」

 

 取り出したるはA4サイズの本。ザラザラした質感が特徴的ですわね。いやー、これ地味に手に入れるのに苦労したんですのよ? 全ては先生よりも先に入手するため。

 

「サービスです。1ページだけチラ見せさせてあげましょう……ぺらり」

「!?!?!?!?!? し、シズム、いや、シズムさん!? ど、どこでそれを!?」

「ひ・み・つ、ですわ♪」

 

 本……いえ、アルバム(・・・・)に収められた写真を見るや否や、先生の目が変わります。むふふふふ、予想通りの反応が見れて私大変満足。

 

 そう! これはかのゲヘナ在住銀髪ツインテ褐色肌ちゃんの幼少期の姿を収めた卒業アルバム!! まさしく、先生にとってはオーパーツ、いえそれすら上回る価値を持つ逸品でしょうねえ!!

 

 いやいや、これを手に入れるのは苦労しましたわ。なんせトリニティ生のブラックマーケット立ち入りは校則で禁止されていますから。別に入っちゃっても良かったんですけれど、流石に模範的正義実現委員を標榜する私が率先して校則を破るのはマイルールに反しますし。規制だの調査だの言ってせせこましい努力を積み重ねた甲斐がありましたわねえ。

 

「さあ、先生? これが欲しくば、何をすればいいか、わかりますわよね?」

「し、シズムさん……いえ、シズム様! なんでもいたします! で、ですから、ですからどうかそれを私めにお恵みに!」

「あ〜、なんだか肩が凝ってきましたわ〜。デスクワークしてたからかしら?」

「へ、へへ。シズム様、肩をお揉みさせていただきます」

「喉が乾きましたわねえ」

「シズム様、こちら淹れたての紅茶でございます」

「ポチ? おすわり」

「ワン!」

「一回回ってお手」

「ワンワン!」

「お腹見せてみなさい」

「へっへっへっ」

「ふっ……あは、あははははは!!」

 

 いやあ!

 

 痛快!

 

 爽快!

 

 愉快!

 

 残念系イケメンが無様な姿晒してるのを見るのって、こんなに楽しいんですのね!?!? クセになりそうですわ!!

 

「あはは……あー。はい、先生。どうぞ」

「あれ、もういいの?」

「ええ。十分満足しましたわ。元々、先生に渡すために持ってきたものですし。生で先生の痴態まで見られたのですからこれ以上望むものもないでしょう……あら」

 

 どさり。

 

 何かが落ちる音?

 

 振り向くと──

 

「せ、先生が、先生がお嬢様とSMプレイしてるー!?!?」

「アリス知ってます! お嬢様じゃなくて女王様です!」

「あ、あわ、あわわわわわわ」

「……(フリーズ)」

 

「……ご、誤解ですわよ?」

 

 ゲ、ゲーム開発部!? なんで!? いえ、ちょっといくらなんでもタイミングが悪すぎませんこと!?

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