事情通系胡散臭お嬢様になりたい転生トリニティ生 作:水野 四十坂Q
「いやあ、まさか。正実にボコされて消えたって聞いてたけど、まさかワンちゃんの仲間入りしてるとはねえ。これは傑作だわ」
「は……? いえ、私超模範的正義実現委員なんですけれども……? これでも超真面目なスーパーエリートなんですけれども……?」
「真面目なエリートねぇ。人って変わるんだなあ」
「か、カズサちゃん。それくらいに」
「ん、ああ。ごめん」
無限に続きそうだった陰湿猫耳女のイジりですが、幸いにしてアイリさんが止めてくれます。覚えてなさいませこの鼠食み女が……
「それで? 知り合いなんだ」
「ああうん、そう。ほら、私って昔はスケバンやってたって話したじゃん。その時の知り合いだよ。たまーに会うことがあったんだ。まあ私が勝ってたけど」
は?
「歴史改竄やめていただきます? 私が勝ち越してましたけど? 数学どころかお算数も出来ませんの?」
「え? なに? そっちこそ忘れちゃった? エリートって言ってたけどお勉強だけできるおバカな感じなの?」
「は?」
「は?」
「まあ、まあまあまあ!」
ケッ。アイリさんにこれ以上迷惑かけたくないのでここは引いてやりますけど、これはどこかで「わからせて」やる必要がありそうですわね……
「……む」
おや。何やらレイサさんが難しい顔をしていますわ。どうされたのでしょうか。
「どうかなさいました?」
「……あ。いえ、杏山カズサの知り合いという割に、私は会った覚えがどうもないなー……と」
「ああ。まあ私は活動範囲が異なりますからね。割と遠くに住んでたんですのよ。レイサさんはカズサさんと中学の頃よくケンカしていたのでしょう? だから多分会わなかったのでしょうね」
「なるほど……あれ? というか自己紹介しましたっけ?」
「うふふ」
実際中等部の頃にレイサさんっぽい子を見た覚えありませんし。多分あの雌猫とレイサさんの戦いは地元での出来事だったのでしょう。
まあ、ヤンキー社会においては遠征とかありますから。勝ちまくって「どこそこだと強いやつはだれだれ」みたいな状態になってくると、「じゃあだれだれとなにがしのどっちが戦ったら勝つん?」みたいな話になってきてしまいますのよ。そういう裏社会ボクシング以外でも行くこともありましたけども。懐かしいですわね……ヤンキーどもをボコって回ったあの日が……
あっ栗浜アケミやイチカ先輩の話はやめてくださいまし。
「シズムちゃん割と有名人だったもんねえ」
「他人事みたいですけど私がケンカに明け暮れるようになったのはツキちゃんのせいですけどね……? あなたがトラブルばかり持ち込むから……」
ツキちゃんの保護者として認識されてたせいで不良グループに高頻度でお礼参りに来られる私の身になってみて欲しくてよ? しかもなんか知らねえけど私ばかり知られていくし。
「言われてたねえ。なんだっけ? ディ──」
トリガーに指かけ。
「シズム!?」
こいつ……自分はキャスバレしてるからっていい気になりやがって……クソわよ……
私、それ嫌いですの。なんか生臭そうで。
「……ふむ。なるほど。昔のライバルというわけだ。夕暮れの川原に大の字で横になる二人。実にロマンだね」
「違うけど?」
「違いますけれども?」
「息ピッタリじゃないのよ」
息、ピッタリ……!? 私が、この女と!?
「屈辱ですわ! 今すぐ訂正してくださいまし!」
「そ、そろそろ出発するよ!」
そうして、ぎゃあぎゃあと騒ぎながら私達はバスに押し込まれるのでした。
「あら、美味しい」
「ね! 新感覚」
「こういうのって真新しさとインパクトだけって偏見ありますけど、食べてみるもんですわね……」
「ありがとうございます。そちら、最新の成形技術とパティシエの技を駆使して生まれた、今年の新作でして──」
んまんま。説明は割とどーでもいいですけどこのスイーツは美味しいですわね。パリパリモチモチ食感がたまりませんわ。あと純粋に暑いので冷たくて甘いのがとてもよき。爽やか。
ふんむ、こちらのスイーツも絶品ですわね……
ところ変わってバイキング会場。会場というか、今回はバスで色々なところを巡る予定らしいので、その一つって感じですわね。今は山の麓にいるのですけれど、最終的には頂上付近にある建物に行くとか、なんとか。近くにカルデラ湖があって眺めもいいらしいですわ。
今は古民家を改築?した風のアートギャラリーなお菓子屋さんにいますけど、何やらバスでの移動中も色々やるようで。
「湯加減はどうかな?」
「湯……ナツさん。どうされました?」
「おや。自己紹介は不要かい?」
「ええ、まあ」
「いや。カズ……"""キャスパリーグ"""と知り合い、だと言っていたからね。彼女の武勇伝でも聞いておこうかなと思って」
「……あの、シズムさんは、杏山カズサとどれくらいの付き合いなんですか?」
「……ん?」
とはレイサさん。声の大きさに反して極めて内向的な性質の方ですが、自分から話しかけてくるとは。先ほど少しだけ話す機会があったので、それで心理的ハードルが下がったとかかしら?
「うーん……レイサさんが考えてるほどではないと思いますわ。ほら、先ほども言いましたけど、私たちって住んでる場所が離れてるんですのよ。だから毎日だとか、毎週だとか……そういう感じではありませんわ。ただなんかこう、グループの争い? 遠征? みたいな、そんな感じで時々会いまして」
「ああ、遠征、なるほど」
ヤンキー用語に納得した様子のレイサさん。なるほど、そういえばカズサさんと揃ってヤンチャしていたということはレイサさんも元不良と言えなくもないですわね。そうでなくともヤンキー共と会うことは多かったでしょうから、そういう常識が通じるんですのね。
「そういえばさ、シズムって結構私に気を遣ってくれるよね」
「は?」
「いやほら、例えば銃を横にする時、必ず銃口が私に向かないようにしてるでしょ?」
「は? ……は? ──キッッッッッッッッッッショ!?!?!?」
「え、酷くない?」
「いやいくらなんでも気色悪すぎますわよ!? もしかして常日頃からねめつけるような視線で生徒を観察してまして!?」
「そんな変質者みたいな……」
「いや私、貴方のことは変質者そのものと思っていましてよ? 変態」
「直球に酷いなあ」
いやまあ、確かに私は例え安全装置がかかっていようがいまいが銃が向かないようにするとか、まあ、気を遣ってはいましたけどね? アロナバリアがあるとはいえ肉体そのものはトイレットペーパーみたいなものですし。犬から長ネギを遠ざける、幼児の手が届く位置に刃物を置かないようなものですが……
にしたって、私からは何も言及していないのに気が付いているの普通に気色悪いですわよ。きしょ。
「なんで隣の席になるかなあ……」
「仕方ないでしょう。私達偶数人ですし。誰かが隣になるものでしょう」
「いや、アンタはあのお友達と仲良くしてればいいじゃん」
「なんかツキちゃんは皆さんと話していらしているので……」
「……その、『いらして』とか言うの、本当に似合わないね」
「別に、いいでしょう。貴女にどうこう言われる筋合いもないと思っていますわ」
「まあ確かにそういうことに口を出す関係性じゃないけどさ……。なんか、意外だなって。エリートとか、お嬢様とか、そういう感じじゃなかったじゃん。きっかけとかあったの?」
「どうでしょう……? それこそ、スイーツを食べてる一般女子学生に憧れたのかもしれませんわね……?」
「は……? いやアンタ、なんでそれを!?」
「正実情報網ですわ」
「プライバシーの侵害でしょ……!」
カズサさんの恥ずかしがってるとも怒ってるともドン引きしているとも言えぬ表情を見て私ご満悦。先ほど散々恥をかかせてきた罰ですわ。
……と、バスの中で駄弁っていると。
「……?」
「どうかされました?」
「イヤ、なんか、車多くない?」
カズサさんがそう言うので窓を見やれば、前に一台、後ろに一台、左右に二台ずつ。
全部真っ黒なワゴン。窓はスモーク加工。
あれま。
ふーん。
ほーん。
「まあまあ。気のせいでは? 普段から治安の悪いところでお暮らし過ぎたせいで気が立っているのでしょうが、別に渋滞くらい普通のことですわよ。まあ、育ちが悪いとそういう発想になるのは仕方がないところがあるのは理解を示したいと考えてはいますけれども」
予備の弾薬ってどこにあったっけ……ああ、ここか。
富裕層向けのちょっと大きい車とはいえ、バスって狭いからイヤだな〜〜〜〜。
「はいはいそうだといいけどね。渋滞じゃないし、周りに他の車いないけど」
「煽り運転の一種なのでしょうか? マナー悪いのでやめて欲しいところですわね〜」
バン!
ガシャーン!!
「全員手を上げろ!! 今からこのバスは私たち『真・正義実現委員会』のものとする!」
なんて?
バスの窓を割って侵入してきたのは非行でお馴染みいつものヘルメット団。いえ、スケバンも混じっているでしょうか。なんにせよ不良集団であることは間違いなし。
そしてあまりに──あまりにあまりにあんまりな自称に呆気に取られる
その間にも「速度上げろ!」「は、はい……」などと、目の前で事態が進行していきます。
「いい気分だ」
一人の、少しだけ周囲よりも背の高いスケバンが前へ出てくる。
どうやら彼女がリーダー格であるらしい。
「結局、所詮は温室育ちのお嬢様ってことか。随分と簡単に制圧できたな」
「あの」
「ん? なんだお前」
「すみません、貴女方の……その、し、『真・正義実現委員会』と、とは、何なのでしょう……?」
できるだけ、できるだけ相手に失礼にならないよう気を遣いながら質問を投げかける。だってどうしても気になったものでして。
その様子や、私の口が少しだけ震えている様子をどう捉えたのか、得意げにしたスケバンが口を開くと、
「ふん、そんなことか。そうとも、私たちは真・正義実現委員会。このトリニティ自治区に本当の正義・平和・平等をもたらすものだ」
ほ、ほほほほほほほ、本当の正義平和平等!?!?
バスの乗っ取り──ハイジャックをするような、テロリスト集団が!?!?!?
正義実現委員会へのネガティブキャンペーンの間違いではなく!?!?
「私たちの目的はただ一つ! このトリニティから格差を無くし──」
「いや、そんな長々と喋らなくていいから」
スケバンの語りを最後まで聞かず、カズサさんが強襲。手持ちのやたらとデカいマシンガンでスケバンを撃ちます。
「私らさあ、今日、休みでさあ。みんなと楽しくお喋りしてさあ、スイーツ食べてさあ。楽しく過ごす予定だったんだけど。何? なんだって? 本当の正義? おたくらのくだらないデモ活動で私たちの予定潰すのやめてくれる?」
「ふん。スイーツだと? バカバカしい。これだから金持ちは。やはり現実が見えてないようだな! こっちも歯応えがなさすぎると思ってたところだ。お前ら! やれ! 徹底的に叩きのめせ!」
スケバンリーダーの合図で、再びスケバン一同が銃を構え出します。
「さっきから話だけ聞いてたけどさあ」
「なに? 私たちが温室育ちだとか金持ちのバカだとか、好き勝手言ってくれるじゃん。舐めんのもいい加減にしてくれない?」
「ハ! 事実だろうが! 金持ちで、モヤシで、周りからぬくぬく大事にされてきただけのおバカなお嬢ちゃん!」
「アァ!? 言わせておけば!」
「あ、あの! 事故を起こしそうなので! 出来れば静かに──」
「うるせえ! てめえは黙ってハンドル握ってろ! 仕事だろうが!」
「ひい!」
ああ!
カズサさんやスケバンだけでなく一般乗客学生にまで火が!
いよいよ手が付けられなくなってきましたわね。銃弾だけでは飽き足らずその辺のものを掴んで投げ合い始めたのでもうしっちゃかめっちゃか。ここバスなの忘れてます? 背もたれを7.62ミリ弾が貫通して私のおでこに当たって跳ね返りました。いてえ。
う、うおおお! 完全に乗り遅れましたがやってやりますわ! デトロ! 開けろ実現委員会ですわ! なんかもう状況がよくわかんなくなってきましたけど要は全員黙らせればいいんでしょ!? せめて車内でやるのをやめろ!
「ぐっ!? この、てめ──」
ピン。
聞き慣れた金属音。そう! このキヴォトスでは日用品でお馴染み、手榴弾の安全ピンを抜く音ですわね! ヒートアップしすぎやろがい!
いやていうかまずい! 爆発物はひじょーにまずい!
なんたって!
この車には!
ツキちゃんの私物!
「うおおおお正実パーンチ!!」
「てめ、な──」
全力ダッシュ。普段とは違い銃弾ではなく本当に右ストレートを今にも爆弾を投げようとしていたスケバンの顔面に叩き込み。
そのままの勢いでガシャーンとバスの窓を割りながら、危険物と一緒に車外へ。
バスの外から浴びる風が気持ちいいぜ。
「ふうひとあんし──」
「テメェも落ちろ!」
「へ? ちょ──」
満足感に浸って額の汗を拭っていた瞬間、後ろから蹴りを喰らいます。
スケバンを殴り飛ばした関係で窓から半身を乗り出していたので、バランスを取れず──
「ちょっと、マジマジマジ!? あ」
ふわり、と浮遊感を感じるや否や。
ものすごいスピードで左から右へ流れるアスファルトの黒い線と顔面が接触し──
縦。
横。
縦縦縦横横縦横横横。
衝撃。