成金になった人間は、破滅するものである。明香のものも合わせて4000万円もの大金を手に入れた嘉手納も、その例に漏れなかった。
「明香。俺、欲しかった狙撃銃買っちゃったよ。いやー司馬重工の最新モデルだぜ、オプションマシマシだよ。もう最高だね。それに、原付も原ニスクーターにしたし、4駆のオフ車も買ったよ。まだ金有るからな。お前の服でも買ってやろうか?」
「キモっ。金は有っても品性は買えなかったおじさんみたい」
「ぐっ。俺の心は致命傷を負ったよ。でも、金が有るからダメージ回復だぜ」
明香は基本的にボーイッシュな服装を好んでいる。嘉手納がスカートを履かせようとしたら、ブチギレたことが有った。なんでも、生理的に嫌らしい。
「世の中金だよな……ヘリとか買えっかなぁ??」
「誰が乗るの?」
「俺が」
明香は露骨に嫌な顔をした。
「なんでそんな顔するの?? なんで??」
「雑魚お兄ちゃんの操縦するヘリに乗るくらいなら、カプコン製のヘリに乗ります」
「……俺のライテクを見せてやるよ!」
「操縦したこと有るんですか??」
「…………ない」
「じゃあ、無理じゃないですか」
「そうだな」
「お金有りすぎてバカになってるんじゃないですか? ただでさえ前髪スカスカなのに……」
「俺の前髪は良いだろ! 前髪は! コレはファッションなの!」
「すみません、チーズ牛丼3種の肉盛り温玉付きでお願いします」
「お前、表出ろよ! いや、待てよ。喧嘩だとコイツに負けるな……狙撃勝負しようぜ!」
「きゅうん……」
「えっ、何? 媚びたの? えっ、それで、片目にゴミが入って目をシバシバしてるんじゃなくて??」
「…………私、女なんですけど!! 幼気で可愛らしい、幼女なんですけど!!」
「そう……」
嘉手納と明香は、狙撃勝負に行くこととなった。結果は嘉手納の圧勝だった。
「もういい! 私もう狙撃やめる! 言ったよね、慣れれば誰でも当たるって! なのにこの現状は何?」
「お前の体格に銃のサイズが合っていないのと、軸が振れていること、トリガーの引き方が雑なこと、姿勢ができてないこと、そういうものの組み合わせの結果だな」
「すん……」
明香は正論に負けた。嘉手納は、狙撃が得意なので良い気になって、明香に講釈を垂れていた。明香はそれを聞いていた。専門家の話というのは意外と興味深いものだったりするのだ。
「カウンタースナイプというものは、相手の位置を知ることが重要なんだ。そのためには地理を知ることが重要となる。相手が潜んでいそうな場所に目星をつけ、動きがあったらコッチも動く。狙撃手っていうのは忍耐を求められる仕事なんだよ」
嘉手納は民警向けの狙撃講座で才能を担保されるほどの天才だ。しかし、明香は芋砂なんて、殴れば死ぬだろうと考えていた。明香はつよつよメスガキなので、頭に12.7mmバラニウム弾をワンマガジンぶち込まれても死なない自信はある。
覚醒したイニシエーターは化け物なのだから。
「聖天子ちゃん。めっちゃ可愛くない?? 蓮太郎めっちゃ信頼されてるじゃん。天童家ってすごいんだなぁ……」
「その話はやめてくれ。あんまりしたくない」
聖天子付護衛官は、襲撃に遭い全滅してしまっていた。そのため、蓮太郎、延珠ペア、嘉手納、明香ペアに護衛の仕事が回ってきたのだ。どうもケースを取り戻したことで、信頼されているらしい。
往路は平穏だった。帰路も同じように、嘉手納がカウンタースナイプが出来る位置に付き、敵スナイパーに注意する。明香と蓮太郎、延珠は聖天子と同乗する。
「延珠。蓮太郎お兄ちゃんが、寝取られそうになってますよ」
「むにゃっ……ぬ? 蓮太郎は妾のものだぞ!!」
「痛ぇ。延珠、舌を噛むところだったぞ!!」
明香は違和感を覚えた。何か視線を感じるのだ。
「おりゃっ!!」
「きゃあ」
聖天子が悲鳴を上げる中、車のドアを吹っ飛ばし、高く跳び上がる。そして、虫のようなモノを潰した。
「敵襲です! 延珠、蓮太郎お兄ちゃん! 迎撃!」
3発の弾丸が、聖天子を乗せたリムジンに飛来する。明香は、バラニウム製のバットでそれを撃ち返した。狙撃手の方へ飛んでいったので、向こうはビビっているだろう。
今頃、嘉手納も敵狙撃手を狙撃しているはずだ。
「里見お兄ちゃん! 敵を捕まえてきてください!!」
「ああ! 行くぞ延珠!」
狙撃手が潜んでいるビルに向かう。屋上で蹲っていたのは、少女だった。明香が、対戦車ライフルをメスガキゴリラパワーで撃ち返したため、対戦車ライフルを3発ぶち込まれていた。
また、嘉手納の狙撃もあり、少女はもう動けなかった。
「どう……して……?」
「大丈夫か?」
「私を……殺して……私の身体は……テクノロジーの塊……」
「駄目だ。死なせはしない」
蓮太郎は敵であろう少女を抱きしめた。彼女は病院へ送られ、回復した後に天道民間警備に加入することとなる。ティナ・スプラウトのIP序列は2桁であり、優秀なはずだったが、その能力を発揮すること出来なかった。
聖天子を暗殺から守った嘉手納と明香。そして蓮太郎と延珠には大金が入ってきた。
「やったーーー!! みんな!! 叙々苑行こうぜ!!」
「よし! 行こう!!」
世界が滅亡の危機に瀕していても、焼肉店は存在する。
セレブリティ溢れる生活をするには、十分だったが、根が貧乏性なので、生活の質が上がりすぎるということはなかった。タイムセールに行かなくなった程度である。
「世の中金だよな……でも、なんで俺には彼女が出来ないんだ? 蓮太郎の周りには、延珠にティナ。木更さん、司馬重工の未織さんに、ミステリアス研究員の菫さん。聖天子様まで居るのによおぉ」
「前髪がスカスカだからじゃないですか?」
「嘘だろ……俺の前髪はデバフだったのか??」
「嘉手納お兄ちゃんには、私がいますよ。割れ鍋に綴じ蓋です。それで良いじゃないですか」
「チェンジで!!」
「は??」
「お前、おっぱい無いじゃん。ビジネスパートナーとしては、最高だと思ってるけど、プライベートではちょっと……」
「ふふ……私をここまで怒らせたのは、前髪スカスカチー牛芋砂お兄ちゃんがはじめてですよ」
明香が、スマホを操作しているのを見て、嘉手納は慌てた。明香はどう見ても悪い顔をしている。嘉手納は、前髪がスカスカなだけで顔立ちはそれなりに整っている。イケメンの範疇に入るし、モテないわけではない。
「な、何をしてくれたんですか?? 明香さん??」
「ほれ」
「URL??」
蓮太郎にURLが送られていた。明香が、リンクを飛ぶと、おっぱいの大きな女優が、服を脱ごうとしていた。
「お前っ、やって良いことと悪いことが有るだろ!! なんで蓮太郎にエロ動画送ってんの!! どうしてくれるんだよ……俺のイメージを……」
後日、蓮太郎から抜けたとのメッセージが届くのだが、それを見て嘉手納が、落ち込んだ。
「聖天子様も太っ腹だよな。俺、結構使ってるのに3000万有るよ。ヤバいな。民警引退しようかな……」
「熱い志はどこに行ったんです??」
「燃え尽きちゃった……」
「はー(クソデカ溜息)」
嘉手納は、現状にかなり満足していた。金はあるし、健康だし、生活には困っていない。非常に充実している。
嘉手納が、民警になった理由は、復讐のためだった。明香と共に世界中のガストレアを根絶する。それが、当初の思いだった。
「そういえば、抗ガストレアウイルス剤の研究ってどうなっているんですかね??」
「そろそろ本格的に生産ラインに乗るみたいだな。これで、呪われた子供たちが差別されることもなくなる」
「菫さん、めちゃくちゃ凄いよな」
「あの人、転生チート持ってません??」
「……野生の天才だろ」
「私もめっちゃクールキャラなんで、菫さんにはライバル意識持ってるんですけど。雑魚お兄ちゃんには、分からないかなぁ??」
「
「ま、前髪! 私、めっちゃ頭いいんですけど!!!」
「ついに、俺の呼び方が人間じゃなくなってしまった……もう、短くしようかな……」
「え?? お兄さんのアイデンティティが消滅してしまいます! そのスカスカの前髪が無くなったら、単なる短髪のイケメンになりますよ!」
「そっちの方が良い気がしてきた……」
「駄目ですよ! 蓮太郎お兄ちゃんみたいにハーレム主人公になってしまいます! よく分からない女が金目当てで寄ってきて、財布扱いされるのが目に見えます!」
「そうかな……そうかも?」
「ええ。そうです。お兄さんは、私のモノですから!」
明香は、言い放ってしまってから、少し後悔した。恥ずかしかったのだ。
「えっ、なに? 告白? そういうのは、明香が大人になって思いが変わらなかったらにしような」
「……なんで、私が愛の告白をしたみたいになってるんですか!? しかも、振られてるし!! そりゃあ、異性としてちょっとは思ってますけど、カッコいいところも有りますけど!! もう!!」
明香はチート持ちだったので、ガストレアウイルスの侵蝕率をコントロール出来た。また、彼女の血を使えば、侵蝕率をゼロにすることもできている。世界が救われる日は近い。
聖天子狙撃事件RTA。2巻終了