第三次関東会戦から1ヶ月ばかりが過ぎた。いつの間にか櫃間の部下になっていた部下は、櫃間から全てを奪っていった。
女の姿だが、その本質は違う。化物だ。赤く光る目は、ガストレアウイルスに感染した呪われた子供たちのものだ。しかし、10歳という年齢ではない。女は成人していた。
「ひつまぶしおじさん。五翔会は掌握できました?」
「まだだ」
「は〜つっかえ。やめたら? この仕事?」
「鋭意、努力している。五翔会のメンバーは、それぞれ地位が高い。奴らを説得するには、時間が必要だ」
「もう、時間切れです。政府は無能じゃ有りません。貴方は無能過ぎます」
櫃間はこの女に逆らえなかった。五翔会の最高幹部である五枚羽。この女がそうだからだ。偽りであるが、櫃間には、それを判断する能力は残されていなかった。
「紫垣という奴に私の細胞は植え付けられましたか?」
「ああ。それには成功した」
「なら問題は有りません。頭は押さえました。あの実験体のガストレアも始末しましたね?」
「当然だ。命令だからな」
櫃間は、自分の思考が女により操作されてることすら想像できなかった。組織から派遣された人員は全て、大阪エリアの斉武の暗殺に差し向けた。今頃斉武は死んでいるだろう。
「ひつまぶしさん、浄水場に案内してください」
「了解した」
「いやー。警察って便利ですね」
櫃間の運転するパトカーが浄水場に辿り着く。適当に事件の捜査だと言ったら、内部へ入れた。警察権力は強力だ。
「はい。終わりです。これで、水を飲んだ人間が私の支配下に入ります」
「凄まじい能力だ」
「ふふーん。当然でしょ。でも、足は付くんですよね。ひつまぶしさんは、ここだけでやめておくのと、まだ続けるのどっちが良いと思います?」
「続けるべきだな。露見するのは時間の問題だ。それまでに出来るだけ感染者を増やすべきだ」
櫃間の答えに明香は満足した。数カ所の浄水場を回り、明香の血液を混入させる。明香由来の血液に含まれるガストレアウイルスは、彼女の一部であり操作できる。
ガストレアウイルスに感染させた人間は、明香の奴隷となるのだ。奴隷は、ガストレア化させ暴れさせることも、部分ガストレア化させ尖兵にすることも、演算器として使用することも可能である。
「ひつまぶしさん。ガストレアウイルスが怖いなら、みんな感染させちゃえば良いんですよ。私が全員を管理してあげます。完璧な社会ですよ」
「私は、そうは思わない。だが、組織の決定だ。それには従う」
「ふ〜ん。櫃間さん。つまらないね。その姿、変えてあげますよ」
明香が、櫃間に指を向けた。そのままかき混ぜるように、指を動かす。
「いぎぃぃぃィィ!!! なんだ!? 貴様っ、誰だ!!!」
「痛みで正気に戻ったんですね。でも、もう遅いですよ。ガストレアウイルスは、万能なので、性分化まで戻すことも出来るんですよ」
櫃間は、その瞬間目の前の女が五翔会のメンバーでもなんでもないことを思い出した。コイツはステージⅤガストレア。ウェアウルフ。擬態能力を持つ危険なガストレアだ。
オペレーションルームで少女を見つけ、警察の特殊部隊を差し向けた。だが、結果、特殊部隊は支配下に置かれた。そして、逮捕を装い警察も彼女の支配下に堕ちていたのだった。
明香は、覚醒したステージⅤのガストレアであり、理性あるイニシエーターだ。血液を飲ませた櫃間の肉体を改造することもお手の物だった。
「身体がッ!? 縮んでいく!!!」
「木更お姉さんに手を出そうとかしてましたよね? それが罰ですよ」
「痛いいぃぃ! やめてくれぇぇぇ゙!!」
藻掻き苦しむ櫃間。彼の身体は縮んでいた。必死に手足を動かす姿は、死にかけの虫のようだった。
「可愛くなりましたね。ひつまぶしおじさん」
「ぁ゙? 生きてる?」
櫃間だったモノは、自分の身体を見回してようやく現状を理解したようだった。
「貴様ァァァァ!!!!」
「櫃間ちゃん。全てを失った感想はどうですか??」
櫃間は少女になっていた。ブカブカのスーツは、床に落ちていた。辛うじて留まっているシャツが際どいところで秘所を隠していた。長く伸びた髪は、胸元を覆っている。
鼻に掛かった眼鏡が、辛うじて櫃間だったことを思い起こさせる程度だ。
「殺しゅ! 殺してやる!」
「うわ。野蛮だなぁ」
飛び掛かってきたロリ櫃間を、明香は蹴り飛ばした。ロリ櫃間には、ガストレアウイルスが混じっており、耐久力の高い呪われた子供になっている。しかし、無防備な腹を蹴飛ばされて無傷で済むほどの力はなかった。
「里見お兄さんのことを消そうとしてましたもんね。当然嘉手納伊予についても知ってますよね? あなたは、嘉手納お兄さんへのメッセンジャーです。私が待っていることを伝えてください」
ロリ櫃間は、腹部を蹴られたショックで失禁していた。腰の辺りが黄色く染まったシャツで、際どいところを隠しながらロリ櫃間は、ヨロヨロと部屋を出ていった。
「じゃあ、東京エリアを滅ぼしましょう」
明香の血液を摂取した人間の一部を演算器代わりにし、ネットワークを立ち上げる。このネットワークは、ある種の菌糸類が持つネットワークを、ガストレアウイルスを使い引き出したものだ。
「議員も結構掛かってますね。聖天子は掛かってないですけど。じゃあ、皆さんデモをしましょう」
明香が支配した人間は、東京エリアの人口の1割に満たない。しかし、そのほとんどが職場を放棄し、デモに参加した。デモ隊は、呪われた子供たちに人権を付与しろ! そう声高に叫んでいた!
老若男女が、熱病に冒されたように、呪われた子供たちのためにと叫ぶ。異常な光景だった。
「これで、世論も動くでしょう。そして、菫さんも抗ガストレアウイルス薬を開発出来ている。なら、もうハッピーエンド間違いなしですね」
五翔会の2枚羽である櫃間の端末に、大阪エリアの独裁者斉武を殺害したとの報告が入った。
「そうだ。メガフロート刑務所の囚人も殺しておきましょう」
明香の支配下にある人間の中から悪人を探し出しガストレアへ変える。飛行型ガストレアに変えた人間に子機を抱えさせる。即席のガストレア空挺部隊だ。
ガストレアたちは、モノリスの磁気で苦しんでいるが、明香はソレを耐えさせた。ネットワークの資源を一部流用したのである。
ガストレア空挺部隊は、メガフロートに突入した。そして、そのままメガフロートの囚人を皆殺しにするよう指示を出した。
「う〜ん。ちょくちょく民警が邪魔してきますね。まあ、細かく制御すると疲れるので、そこら辺はコラテラルダメージということで」
小一時間ほどで、メガフロート大虐殺は終わった。支配下にあるガストレアを、未探索領域に向け突撃させる。ただ死ぬのもかわいそうなので、人類のために役立てるのだ。
「突撃!! ぶっ放せ!! ステージⅤなんて飾りです! やる気が有れば倒せる!!」
明香の手によって飛行型ガストレアは、音速ミサイルのように改良された。チクワのような奇妙な姿だったが、ジェット噴射をし、速度は音速を超えていた。
「早く、雑魚お兄さんが私を殺しに来ないかな〜? そしたら返り討ちにして、ペット兼恋人にして飼ってあげます」
今の明香は、ガストレアウイルスを使い、成長を促進している。その胸は豊満であった。
「ネットワーク。あんまり可愛くないですね。コレは私から切り離しましょう。お兄さんが、歯向かうようだったら、ネットワークの防衛装備を稼働させます。
というより、ネットワークに犯され正気を失っていた設定で良いのでは!? これは、名案ですね!」
「いや、聞こえてるぞ……」
「ワタシハネットワークニオカサレテ…………」
「誤魔化すの下手くそか??」
「こ、こうなったらヤケです!! やってやろうじゃないか! この野郎!」
どうも締まらない決戦がはじまった。