戦国BASARA 勘違い天女とバケツ人魚と 作:サボテンダーイオウ
天姫side
重い重い着物を強制的に着せこまれて、ある意味体が鍛えられている毎日だなと思えるようになったある日、部屋でやることもなく扇をゆらゆらさせているとダッダッダと響く足音と共にいつになく血走った瞳の三成さんが部屋に駆け込んできた。
「天姫様!」
ある意味必死に形相にこちらが驚いたというか身構えた。
「何用ぞ」
「ど、どうか、どうか!これをっ!これを!」
私の目の前で正座して何持ってきたかと思えば豪奢な箱を両手で抱えてそれを私がいる檀上の手前に置き彼はなぜか頭を垂れる。そして必死に言うのだ。
「どうか、どうか…!」
いや何がどうかなんですかっ!?こっちが聞きたいよと言いたいが必死な彼が可哀想なのでとりあえず、箱に手を伸ばしてみた。するり、とヒモが解かれスッと上の部分を持ち上げると緑色の奇怪な物体が『ギロッ!』と黄色い瞳で私を睨みつけてきました。
「………」
私は何も言わずに箱をしまい直し、土下座したまんまの三成さんに静かに問いました。
「これは、なんぞ?」
彼は頭を上げないまま言いました。
「こ、これは!『ちょこ・りーと』なる菓子で天姫様にぜひ献上したく持って参りました」
どうやら、これは菓子らしい。が、普通、菓子から睨まれるということがあるだろうか?
私は再度箱をそっと持ち上げてみた。やはり緑色の奇怪な物体が『ギロッ!』と黄色い瞳で私を睨みつけてきました。
それもメンチ切って。私はまたスッと箱を封印して
「三成、来い」
と彼を手招きしました。彼がこれを食べ物と主張するなら証明してみせてほしいと思ったからです。
※
三成side
「三成、来い」
そう静かに私を呼ばれる天姫様。
私は心の蔵が張り裂けんばかりに高まるのを何とか抑えながら、恐れ多い事と理解しながらも御傍へと近づかせていただく。天姫様は檀上の縁の部分に腰をかけ、指で天姫様の目の前まで来いと指示をされた。
私はそれに戸惑いながらも従うしかない。
やはり、お気に召さなかったのか…。
絶望が私を包む。お叱りを受けるならばいい。
だが、貴様など使えん屑だなと言われてしまったら私は……生きていけぬ。
「口を開けろ」
「…天姫、様?」
思わぬ御声に思わず、許しもなく頭を上げてしまった。
すると、一瞬にして天姫様の氷のような冷たい雰囲気に射すくめられ躰が固まってしまった。天姫様はスッと『ちょこ・りーと』に手を伸ばされ奇怪な一部をもぎ取られた。すると、『ちょこ・りーと』は
『ギャァアアアアアアア!』
まるで断末魔のような叫びを発した。
思わず自然に手が刀に動いていた私に対して、天姫様はまったく動じることなくその一部を私の前に差し出す。
「食べよ」
天姫様は、そう私に命令なされた。私は、意味が理解できずにいた。
まさか天姫様自らがもぎ取られたそれを天姫様自らが私にお与えくださるというのか?
「な、あ、あの…ですが…むっ!?」
言いよどむ私に天姫様は無言でそれを口に入れてきた。
天姫様のすべらかな指が、私の口内に一瞬だけ侵入し、あっという間に抜かれてしまう。口に広がるのは、ただ甘い、味。妖艶漂う、天姫様の微笑み。
「どうじゃ」
「…美味、にござりまする…」
私に言えたのはこれだけだった。これだけしか、言えぬのだ。
天姫様は、仮面をお外しになり、天姫様ご自身を惜しげもなく私の前に御見せ下さる。紫色の瞳に、ああ私の姿が映っている。
なんと甘美であろうことか。だが、それよりも私を射抜くのだ。
『ちょこ・りーと』がついた指にご自身の舌を這わせ
「確かに」
気が、狂いそうになった。天姫様の指に視線が一気に集中してしまう。
なぜならその指は、さっきまで私の…
「美味である」
紅い、紅い舌が私を虜にして離さぬ。
何処までも、何処までもこの御方は私を束縛し続けるのだ。
深き深き、底の底まで。
(未来永劫このままで)
※
天姫side
恒例の吉継さんとのお茶会は途中まで良かった。
昨日のあの断末魔を上げる謎のお菓子の事をすっかり頭から吹き飛んでいたのだ。
あれはすごかった、ある意味度胆抜かれた。だってお菓子が絶叫するとか聞いたことないし。本当に戦国時代とは奇妙なもんだ。
この世界は絶対おかしな人物しかいないに違いないとあれで決定づけされたようなもんである。結局あの『ちょこ・りーと』だっけ?
あれはほとんど三成さんに食べさせた。
勿論、私も食べたけどあの『ちょこ・りーと』の一部を取るときに
『ギャァアアアアアアア!!』
とか必ず叫ぶもんだから嫌になったのだ。食べるのが。
見た目奇抜すぎるのに確かに美味い。まったく恐ろしいもんだと思うが、何やら話を聞いてみると中々に手に入らない珍味?らしく今回食べれたのはまぐれに近いらしい。
私は内心安堵でいっぱいだった。だってもうアレの叫び声聞かなくていいんだもん。
そして今日は癒しともいうべき吉継さんが点ててくれるお茶の日。
気分はルンルンで今にも飛べそうなほどの心持ちだった。
が、それはものの見事に打ち砕かれた。
吉継さんのある言葉によって。
「殿、実は面白き品が手に入りましてな。ぜひ殿に献上したく思いまして。何より茶菓子としても良いのではないかと」
「ほう、なんぞ」
私の目の前にススッと出されたのは、何とも木の板でできた箱に納められた茶菓子。
デカいなと思いつつ視線で開けていいの?と問えば吉継さんは深く頭を垂れる。
それは開けてもいいという了承?と疑問を抱いたが深く考えずに箱を結ぶ紐を解いた。
そしてスッと箱を持ち上げる。すると緑色の奇怪な物体が『ギロッ!!』と黄色いギランギランした瞳で私を睨みつけてきました。
「…………」
言葉を失う私。吉継さんはどこか面白そうにクックックと喉を鳴らし
「今若い娘たちの間で評判な珍味『ちょこ・りーと』にございまする。ぜひ殿にご賞味いただきたく手に入れました。これならば茶に合いましょうな」
と言った。どうやら、しばらくの間コレに悩まされそうだ。
ホントコイツ作った奴恨みたいっ!私は吉継さんにばれないように舌打ちしながら八つ当たりに
『ちょこ・りーと』の『ギャァアアアアアアア!』
という断末魔を聞きながらぶちぶちと容赦なくちぎりまくるのであった。
◇◇◇
狗楽が作った叫ぶチョコクッキー。これが何と戦国の世に稀なる珍味として各武将を虜にさせていることはご存知であろうか。
ある武将に仕えるくのいちは想いを伝えるため、日夜身を粉にして働いていたが、なかなかに想いを直接伝えることなどできる身分でもなく、薄暗くなった夜、丸いお月様が照らす湖のほとりで一人溜息をついていると何処からともなく、おどろおどろしい闇が出現しました。そして、金髪くのいちねーちゃんの足元にヤミーシリーズがうごうごと妖しく踊りながら出現します。太鼓叩きながら出現しているヤミーもいました。
彼は効果音担当なのでしょう。気が利くヤミーですね。
『綺麗なおねーさんっ!何か悩んでいるならこの狗楽様にお任せなさいっ!』
女の子大好き狗楽は目をキラキラさせていつもの倍張り切っていました。
金髪美人ねーちゃんなら尚更です。反対にお市はぶすっとふて腐れておりました。
「市、あの人嫌い」
「まぁまぁまぁ~」
今にもヤミーをけしかけんばかりの機嫌の悪さ。狗楽は何とか宥めさせますが
彼女の機嫌はいっこうによくなる気配はありません。
それどころか、
「市やりたくない」
と拗ねて闇にずぶりっと潜ってしまいました。狗楽は頬をぽりぽりとかいて仕方ないな~と零すとクナイを装備し警戒しまくるボディコンねーちゃんに笑みを見せました。
「っていうわけで『恋』に『恋』する乙女の為、出張狗楽がいざ!参ったからにはその実らぬ『恋』を完璧に叶えてみせましょう!」
と大きく胸をはりました。いつも己が主との会話でバラを飛ばすくのいちは怪しさ爆発している目の前の少女に、不本意と思いながらも自分の願いを託したのです。
この、生き神様人魚に。
越後の毘沙門天は暗雲立ち込める空を見上げ、後ろに突如出現した気配に気を配ります。
そこに居たのはくのいちのかすがであった。
とある任務を手早く終え、ようやく愛しい主との再会にかすがは顔を上気させる。
そして隠し持っているあるブツも実は今か今かと待ち望んでいるのです。
「謙信様、只今戻りました」
「よくぞぶじにかえりましたね、わたくしのうつくしきつるぎよ」
「ああ、謙信様……」
二人の間には色とりどりの花々が咲き誇ります。特に薔薇が咲き誇っております。
二人の世界が発生中、発生中。
しばし、お待ちください。
…………気を取り直してかすがは謙信に報告を済ませました。
謙信は
「そうですか、ごくろうさまでしたね」
とねぎらいの言葉をかけます。かすがは少し頬を染め、
「いえ、そのようなお言葉もったいないのうございます」
と謙遜する。それから、勇気を振り絞って、謙信にある箱をずずっ!と差出ました。
「あの、あの!謙信様にぜひ食べていただきたくて…!」
「これは…」
謙信は目を見張りました。
なぜなら、かすがが出した箱のそのものから
禍々しい『闇』をビンビンに感じまくるからでした。ですが、目の前には一生懸命にぜひ食べて下さいアピールしまくるかすがいます。
ここは、彼女の気持ちをすくう謙信様。そっと震えるかすがの手に自身の手を重ねます。
ハッと顔を上げるかすが。瞳は潤んでいました。
「わたくしのうつくしきつるぎよ、あなたのことばしんじていますよ」
これがたべものであると。
「謙信様っ!」
感慨深くかすがが叫びます。謙信は、いつになく真剣に箱を見つめます。
そして、そっとその箱を持ち上げました。
すると現れ出たのは、七色に光るうにょうにょとした物体。
「…………」
しかもそれは謙信に向って触手を伸ばしたと思ったら
『ふりふり』と手を振っているではありませんか。ふれんどりー。
「…………」
謙信は無言のまままた箱をしまい直しました。
そして、どこか不安げにしているかすがに向ってこう、言いました。
「これはかのうわさにあるいきがみさまがおつくりになられたものですか?」
「謙信様っ!お分かりになられたのですか!?」
さすが、我が君!と瞳を宝石の様に輝かせて感動するかすが。
「ええ、このよのものとはおもえぬいきものですからね。かのいきがみさまはこのせんんごくのよにかっぽするにんぎょともいわれていますね。あのおかたならこのようないきものもおつくりになられるのもりかいできます」
そう、謙信自身も聞いてはいたのです。
かの生き神様が、悩める乙女の為に身を粉にして戦国を渡り歩いているという噂を。
実際には歩いている訳じゃなくてヤミーによって出現しているだけにすぎないのですが
そんな些細なことはこの際関係ありません。
かすがが今一番気になっているのは
自分の想いが込められた、コレを食べてもらえるかどうかな点のみでる。
「あ、あの…食べていただけますか?」
謙信はスゥッと息を吸い込み、かすがと視線を合わせました。
さながら戦場での毘沙門天を彷彿とさせる謙信でした。
彼の並々ならぬ決意が感じられます。
「……あなたがわたくしのためにとくべつにいきがみさまにねがっててにいれたもの。ええ、いただきましょう。いのちあるものですがこのよはじゃくにくきょうしょくのせかい。ではかすが、ともにてをあわせましょう」
「はい!」
二人は手を合わせ、祈りを感謝の意を籠めます。
「このよのすべてのしょくざいにかんしゃをこめて、いただきます」
「この世の全ての食材に感謝を込め、ていただきます」
「いざ、まいりましょう」
謙信は再び、箱を上に上げました。
七色に光るうにょうにょとした物体は相変わらず謙信に向って手を振っています。
謙信は、己が手を伸ばし、
七色に光るうにょうにょとした物体の躰をもぎります。
『キャァァアアアアアアアア!!』
悲鳴を上げる七色に光るうにょうにょとした物体。
謙信はゆっくりとそのもぎ取った一部を口に含みます。
ドキドキしながらそれを見守るかすが。すると、どうでしょう。
見た目に反して謙信の口に広がるのなんともまろやかで口どけ豊かに広がる味です。
七色に光っているからなのでしょうか。味がさまざまに変化するのです。
甘くなったかと思ったら、今度はお酒が欲しいと感じるくらいに塩辛くなったりと味は多様に変化。
「おいしいですよ、かすが」
パァァアアア!
分かりやすいくらい明るくなるかすが。相当心配だったみたいです。
見た目がやっぱり、ヒかれてしまうのではないかという不安もあったのです。
「本当ですか!?…良かった…」
安堵すると、自分もそろりと手を伸ばしました。
七色に光るうにょうにょとした物体は相変わらず触手で手を振っていますが
もぎられた瞬間、
『キャァァアアアアアアアア!!』
と叫ぶのは変わりませんでした。
ぱくっとかすがも口にいれて、思わず気分はとろけそうでした。この世のものとは思えぬ絶品な味に言葉を失います。
「おいしい…」
「あなたのきもちがあふれているからでしょうね」
にっこりと微笑まれ、かすがは赤面。
嬉しくてひたすら誤魔化す為に七色に光るうにょうにょとした物体をもぎとりまくりました。
ぶちっぶちっぶちっ。
そしてもぎ取られるたびに、七色に光るうにょうにょとした物体は叫び続けます。
『キャァァアアアアアアアア!!』×3
その声を聞いていた、城の臣下たちは恐ろしい拷問でもしているのかと身を竦ませておりました。七色に光るうにょうにょとした物体の名前は『ちょこ・りーと2』です。
おわり