戦国BASARA 勘違い天女とバケツ人魚と 作:サボテンダーイオウ
天姫が『目指すは安芸!』なんて発言をするものだから日輪の申し子=毛利元就は事前に大谷から届いた書状の中身に信憑性を疑う眼差しをかけた。
本来なら真実、迷惑輝まわりない内容なのだがそれに気がつく人物は
今天姫の傍にはおらず彼女のペースに流されっぱなしのままきているので仕方がないと言えば仕方がない。注目の的とされている天姫の頭の中には愛しの狗楽捜しの事しかなく、皆がそれに付き合ってくれると言う妄想が染みこんで彼女に現実として思わせている。
だが三成や大谷らの考えでは、天姫は日の本を制する為足場として安芸を攻めるという。要は『戦やるぜ!ヒャッホウー』という風に解釈されたのだ。
言葉と動作だけでこうも違いが出るというのは恐ろしいものである。
※
毛利元就side
そしてその真実に気がつく事なく安芸の藩主毛利元就は自室にてカサリ、と自分あてに届いた書状を机に置いた。それは大谷の忠告ともとれる中身は豊臣軍の新しい大将自らが安芸に赴く、と記してあった。
「…あの凶王が骨抜きになるほど心奪われる存在が再び訪れようとはな」
この安芸に同盟もといの征服しろと言わんばかりの戦を仕掛けてこようとは。
大谷とはある利害が一致しているため表立って同盟と言う形は出してこなかったが
それなりの交流はある。部下の行動に気がつく事なく我の所に来るとは、やはりあの覇王が現世に戻ったという噂…。やはり噂は噂でしかなかったか。
だが火のない所煙立たぬという。それなりに事実とは違う何かが存在するのは間違いない。
我はそう判断した。判断したうえで面白い、と思った。
この退屈した世に再び混沌が起きようとしている。それは神の啓示なのか、それとも…別の何か、か。もし、その『何か』なら、傍観するのも一興である。
「…その新たな覇王と輩、我が見定めてやろうではないか……」
独り静かに笑みが浮かぶ。
なぜ自分が笑うのか、それは己自身でさえ理解していなかった。その時までは。
「神崎、天姫……破滅を呼ぶ天女……フン、安い名よ」
刺激が欲しいとは思うておらなかったが予想していたよりは愉しめそうだ。
この混沌した世を根本から覆せるものが存在しようか?
否、おるはずがない。すでにアヤツは黄泉に囚われている。
世迷言ではないことを証明してみせよ、大谷。
【それから数日後、豊臣軍の新たな当主と言われる天女との会見が安芸にて行われようとしていた。】
※
さて、安芸に天姫が張り切って来る数週間前、実はこんな出来事が起こっていた。
「うしゃ~、日差しが熱いな~。ねぇ市さん?」
茶色くるくるカールの少女が釣竿を右手に持ちながら隣に座る市松人形みたいな女性に話しかけた。
「人魚さん干からびない?水ならいっぱいあるよ?」
そういって彼女は黒い闇手を出現させて海水を両手で掬(すく)い上げて茶色くるくるカールの頭に上からかけてあげようとしていた。
「それ海水だからしょっぱいし飲めないよ。水ならバケツから出せるから心配しないで大丈夫!」
「そう、人魚さんが干からびないなら、市嬉しい…」
「その前にわたしは人魚じゃないんだけど否定すると市さん泣いちゃうから否定しないよ」
すでに言葉にしているがそれは否定にならないのか、ちょっと女の子が絡んでくると感覚がずれてくるのは姉と似ている所がある。
本人は絶対に否定するだろうが。いつでも女の子には優しい女性フェミニストの狗楽。
「市、人魚さんと友達になれて良かった」
いまだ狗楽を人魚さんと呼ぶ第五天魔王、お市。儚げな印象の裏には強引に自分を押しとおし突き進むという織田特有の血を受け継いでいる。
そんなでこぼこコンビ二人旅は安芸にてのんびりと釣りをしている最中である。
お金を節約するために宿代だけはケチらないで食費のほうをケチってました。
海あるじゃん?釣竿あるじゃん?魚釣れるじゃん?食べ放題ひゃっほー!
な図が狗楽の中で1秒で出来上がった。
そしてバンバンと魚を釣りまくる狗楽。
おなかをすかせた狗楽の為にバンバン闇手を使って魚を乱獲しまくるお市。
まるで息の合ったコンビネーションに審査員たちは思わず100点の札を次々に上げるだろう。
小さな赤いバケツには不思議な事にバンバン魚が放り込まれていき、水が溢れることなく零れることなく魚は面白い事に吸い込まれていくように赤いバケツに消えていく。でも上から覗き込むとバケツの底はちゃんと肉眼で確認できるのが摩訶不思議。とにかく魚ばっかり釣りまくる二人だった。
だが海を生業とする漁師たちにとってはいい迷惑である。
でも二人の行いは船で漁をしている漁師たちには違う風にとらえられていた。
なぜ自分たちの網には魚が全然かからないのか……。
それは海の竜神が怒っている!とか、
噂の人魚がオラたちの日頃の行いに怒りを感じ魚たちを隠してしまった!なんて、
色々誤解してしまってパニくってたから。
するとそこへ領民の訴えが元就の耳に入り、自分の領内でそのような奇怪な現象見過ごすはずがなく海の方へと足を伸ばしてきた。そこで変な二人発見したので迷わず声を掛けた。
「貴様ら、我の領内で何をしておる」
「釣りですが何か。市さん攻撃しようとしちゃ駄目だよ、まだ」
狗楽はちゃんとお市に待ったをかけて攻撃しないように防ぐ。
「人魚さんがそういうなら」
コクンと素直に言うことを聞く市。でも闇手はお市の頭上で蠢いている。今にも鷲掴みしそうな勢いだ。
「では貴様らが噂の人魚と第五天魔王か」
「噂になってんすか、うちら有名じゃん。なんで人魚なのかわからんけど。ってかお市さんは元から有名だね」
「…市、知らない…」
フリフリと首を振るお市。
「え、そうなの?市さんって天然だね」
釣りする手を止めない狗楽はあっけらかんと笑った。
そういう自分も特殊な分類に分けられている事実を知らない。
「ともかく貴様らの所為で我が領内に害をもたらしている。即刻立ち去るがいい」
「え、うちら魚釣ってるだけなんだけど」
「その魚が漁師たちは取れなくなってきていると言っているのだ。お前たちが乱獲しているのだ」
「え~?空腹満たす為に釣りしてるだけなのになに理不尽すぎない?」
「どれだけ腹をすかしているのだ」
珍しく元就がツッコんだ。それだけ尋常ではないほど魚が捕れない状況なのだ。
「仕方ない、じゃあどっかタダで食べれるとこ教えてくれません?」
「なぜ我が」
「だって腹ペコリンなんだもん☆」
「なんだそれは」
変なものを見る視線を狗楽に向ける。しかも狗楽が喋った言葉を人魚の呪文か何かかと疑ったくらいである。だがさっさと消えてほしいので元就はある場所を教えた。
それによって幾ら向こうに被害が出ようとも自分の知った事ではないと思った。
「金を払わずとも飯を食せる場所はある」
「マジですか!?」
『タダ』という所に魅力を感じた様子で食いついてきた狗楽。元就はこう教えた。
「鍋を振る舞う所あり」と。
目をキラキラさせて狗楽は喜んだ。
お市は人魚さんが喜んでいると一緒に喜んで闇手で鷲掴みしようとした。
そして元就的にはさっさと消えて欲しいので二人を送ることにした。
「日輪よ!」
と声高らかに体全体に日の光を浴びて叫ぶ。変なポーズを維持したままで。
狗楽はうわ、怪しいと口元引きつらせ、市は無表情に闇手で襲わせようとした。
元就の日輪が緑色のワープを作り出しその向こう側に見えるのは眩く輝く緑色の何かばかり。二人はそれに掃除機のように勢いよく吸い込まれていく。
ゴォォォォォオオオオオオオオ!
「こんな展開ってアリ?戦国時代じゃねぇよぉぉぉぉおおおおおお」
「人魚さん喜んでる、市嬉しい」
最後にツッコミながら消えていく狗楽と最後まで人魚さん命な市だった。
もちろん、赤いバケツも一緒に。
しゅぽんっ!
変な音立ててワープは消えた。
やっと不穏な種は消え去ったと安堵した元就だったが、すぐには魚は増えるわけがない。というかどれだけ乱獲したのか。しばらく元就の悩みの種となってしまうだろう。
果たして底なし沼の胃袋を持った狗楽を満足させる料理がこの戦国の世に存在するのであろうか?
それを知る為に狗楽と市は旅を続けるだろう。
己の食欲を満たす為、己の友達を守る為。
二人の旅はまだ始まったばかり。