「「4対4〜??」」
「一年は3人っすよ姫先輩」
花氷の発言に引っ掛かりを感じ声に出したのは2年の日車と角威。2人を宥めるように彩雲が前に出る。
「2人は体験入部に来なかったから知らないよな。一年チームvs先輩チームは
「彩雲、仕事」
彩雲のフォローを遮ぎる人の気の少ない瞳で、彩雲はスッと身を引いた。
「はい、それじゃあマネージャー希望の2人はこっちに」
彩雲に連れられて内布と知夏は部室の中へと入っていった。彩雲がその場を離れると同時に、他の3年生は列を乱し円を組んで話し始める。そちらに視線が行く下級生を遮ぎるように再び花氷は話し始めた。
「一年生チームにはキーパーとして獅子丸君を付けます。相手は二年生チームで、足りない人員は三年生の誰かが入ります。獅子丸君、説明も兼ねて部室で着替えさせてきて」
「承知。それじゃあ若い衆ついてこーい」
⬛︎⬛︎⬛︎
來斗達が待ち時間に使用していた会議室の一つ上の階、選手達の着替えを行うロッカールーム。年季の入った備品が多いが、特別ひどい汚れは無く壁はまだ輝きを残している。部屋の中は広く、30人程度分のロッカーが設置されている。
3人が着替えを始める中で、來斗が口を開いた。
「このゲームって、入部後のポジション決めの参考にするためのものっすよね?」
「おう、その通りじゃ」
「つまり、ここで活躍すればセンターフォワードも夢じゃないってことっすよね!」
「威勢がいいのう! 拙者そういう志は大好きじゃ!」
「おれっち細かいルール分かんないし、やりたいポジションとかないけどやれるかなぁ」
「ベガくんならいけるよ」
シャッとジャージに袖を通した來斗は、弾けるように自身の頬を叩いて宣言した。
「獅子丸センパイ! ベガ、夾。俺にボールを集めて欲しい……です! 俺、FWになって、チームで活躍したい!! 頼む!!」
「おう、いいぞ! その意気や良し! ゴールは拙者と夾坊に任せろ!」
「ボクも頑張る! ベガくんもね!」
「うい、パスをしろって事だな。やってみる」
一致団結。声高らかに、彼らは拳を突合せた。
靴紐をキュッと結んだ彼らの気持ちは準備万端。いの一番に來斗が扉をバンっと開ける。
「来たな一年坊主!」
「捻り潰される覚悟はしてきたかぁ?」
腕を組み、ドシンと構えるのは2年DFの角威と日車。ロッカールームの扉から見下ろせる位置に佇んでいる。ドスの効いた声は同年代とは思えず、その威圧感に小金は後退りしてしまう。
「負けませんよ先輩方!! とぅっ!」
それを意に介さない來斗は飛び出した勢いのまま手摺りを乗り越え、2人の目の前に着地した。
「っ〜〜〜!!!」
その痺れには耐えられなかった。
「穂焔君、大丈夫?」
「すっご。俺もやる。とぉっ」
「ベガ君ストップ〜!!」
「アハハっ、今年の1年生はみんな面白いね」
飛び降りても平気そうなベガに拍手をしながら、3年の雨辻が笛を鳴らした。それに釣られて獅子丸と小金が小走りで向かってくる。
「じゃあまずは簡単なアップから! そのあとにミニゲーム、ね」
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アップを終えた部員達は再び部室の前に集まった。
「2年生チームは日車、角威、芦賀と3年生のボク、雨辻燦莉が担当します!」
キラキラ微笑む雨辻。ふんっと息を鳴らす日車、角威を制するようにバインダーを抱えた花氷がスっと前に入る。
「では、先程も言ったようにミニゲームを行ってもらいます。時間は30分程度で考えてますが、状況に応じて早目に切り上げる場合もあります。このゲームではプレイヤーとしてのポジション適性や今後の個人メニューなどを測れたら、と思ってます」
「1年生は気にせず思いっきり楽しんだらいいよ!」
「……そうね。間違っては無いけれど、うん。うん……」
話したいことを遮られて、ペースを乱されてしまった花氷。マイペースな雨辻に振り回されているのだろうと、小金は察すると共にそのむず痒さに共感もした。
「じゃあ、穂焔君」
「はいっ!」
「気合を入れすぎないこと。いつも通りにプレイをしてください」
「頑張りまっす!」
「ボク達上級生はいつものスパイクじゃなくて普通のスニーカーだから、怪我しないようにね」
「「うっす!」」
それじゃあ、の雨辻の掛け声で各々フィールドの配置に着いた。普段の半分のコートのサイズだが、8人でやるにしても少し広いくらいだ。
1年生チームは來斗がセンタートップ、中盤に安下那と小金、ゴール前に獅子丸。対する2年生チームは前に雨辻と芦賀、中盤に日車、そしてグローブを着けたのは角威。
「じゃー1年チームからキックオフな。準備いいか?」
ホイッスルを片手に、審判役の鳴上が來斗に声を掛けた。
「準備できてます!」
「うし、じゃあ始めるぞー」
短く鳴り響いたホイッスルと共に、小金が來斗へボールを渡す。來斗はそのままドリブルで駆け上がるが、芦賀も雨辻も動こうとはしない。
「来い! 一年坊主!」
「本気の一撃打ってこい!」
DF陣の圧のある声に応えるように、來斗はスピードを上げる。これはチャンスだ、と言わんばかりに口元が緩み、鼓動が高まる。
ゴール前15mとちょっと。本来ならあるであろうペナルティエリアのライン上。
「イグニッション」
着火の合図で足裏でボールに火を灯す。そのままリフトアップしたボールは回転を加速させ火力も強まり煌々と輝く。
「イグライト!!!」
充分に加熱されたボールを右足で振り抜く。
これが來斗が磨き上げ、地区大会優勝をもぎ取ってきたシュート技。
「止めろよ日車!」
分かってる、と手を出して応える日車。勢いをつけてブレイクダンスのように片手を軸にして右足を振り抜く。
「
斜めに両断するかのような右足は來斗のシュートと真っ向からぶつかる。
「ぐおおおおおっ!」
だがしかし、爆ぜるボールは勢いを削がれながらも日車の必殺技を打ち破った。
「
続く角威の必殺技。手を叩きラジコンサイズの小さな爆撃機がボールへと向かい勢いを削いでいく。日車によって勢いを削がれたシュートはあっさりと地面に落ち止められてしまった。
「クッソまじか!!!」
「良いシュートだが、残念だな! 一年坊主!」
角威のパスから試合は再開。日車を経由して芦賀へと渡り、安下那とマッチアップ。
「ディフェンスの時はまず腰を下ろすのがコツだよ」
「うーっす。こうっすか?」
「そんな感じ、さあ奪りに来て!」
サッと加速した芦賀に、安下那は反応してついて行く。接触すると同時に、芦賀は足を止めざるを得なかった。
「体幹つっよいね、でも中盤はドリブルだけじゃないよ」
ポンっと逆サイドへのパス。受けたのは雨辻。
「じゃあ今度は君の番!」
「お、お願いします!」
雨辻と小金のマッチアップ。フワッと揺れる雨辻のフェイントにも小金は対応し、2度のフェイントにも釣られなかった。これもダメか〜とにこやかに笑う雨辻は、中央から駆け上がる日車に目線をやりパスの構えをする。
「見え見えっすよ雨辻先輩!」
「反応早いね、穂焔君」
「穂焔君ナイス!」
パスコースを消すように2人の間に入った來斗。好機と悟った小金は詰め寄るが、雨辻は蹴りのモーションを辞めない。
「雨狩り」
右足から放たれたボールは大きなカーブを描いてゴールの隅へ向かう。小金は反応出来ずにシュートを許してしまう。
「
ライオンの牙を思わせるエネルギーが、獅子丸の右腕を覆い被さる。瞳はボールをしっかりと捉え、牙で仕留めにかかる。
「うぅっ、ぷはぁ!!! 止められたぞぉ!!」
「すげーな獅子丸!」
「やったね獅子丸君!!」
「よくやったな獅子丸!」
「春休みの間に成長したね。遂に止められちゃったか〜」
2年生達の歓声の声に獅子丸は胸を張って高らかにボールを掲げる。成し遂げたぞ、と笑う声は今日一番大きいかもしれない。
「手加減してるわね、燦莉」
再開したゲームを見詰めながら花氷が呟いた。それに反論するように風神が口を尖らせる。
「成功体験も大事なんだよ。獅子丸にはもっと強くなってもらわねーとだし。姫ちゃんきーびし」
「……あの一年、中々やる」
枕狐がポツリと呟いた。
雨辻のプレスをワンツーでくぐり抜け、再度放ったシュートは止められてしまったが次へ次へと歩みを進める來斗。
「穂焔君ね。地区大会優勝チームのエースストライカー……所詮は小学生チームって思ってたけど、確かに1年生にしてはキック力は高い。スピードも良いと思う」
「やる気もあるし、もしかしたら燦莉と競り合うンじゃねーか?」
「「それは無い」」
「無いですか、そーですか〜」
日車をドリブルで抜きにかかるも簡単に奪われた様子を見て、風神は納得したように頷いた。
「0-0で終わらせる気よね、燦莉は」
「だろーな。30分経って終わらなかったら先制点取ったもん勝ちでいんじゃねーの」
「それ、採用するわ」
「よっしゃ〜」
⬛︎⬛︎⬛︎
試合開始から38分経過後、雨辻の加減のない雨狩りによって試合は0-1で2年生チームの勝利で幕を閉じた。