「イグッ……ライトォ!! 」
「袈裟咬! 」「飛龍爆撃! 」
「「うわぁぁああ!!!」」
ミニゲーム開始から一週間が経過した。
体験入部の期間も今日で終わり、今日が入部届け提出の締切日になる。先週のあの日から、体験入部のメンバーは変わらず5人。最初は入部を迷っていた知夏だったが、サッカーに真摯に向き合う花氷に感化されて毎日体験入部に来ている。今では内布と共に、花氷の後ろで彩雲の解説を聞きながらサッカーへの理解を深めている。
1日目は手も足も出なかった來斗のシュートも、週明けにはゴールネットを揺らす事が何度かあり、今では2回に1回は得点を奪える位の力を身に付けた。
「よっしゃぁ! またゴールゥ!」
快活な叫びがコート上に響き渡る。
日を追う事にパフォーマンスは向上し、初日はパスを軸に攻めていた一年生チームだったが、ボールキープ力の上がった來斗のドリブルという選択肢も増えた。
「これで3-1な。2年チームだらしねーぞ。燦莉ィ! 本気出せぇ!!!」
「昨日からずっと本気でやってるんだけどなぁ……」
「嘘つけぇ! ほら、2年チームから試合再開!」
短く鳴くホイッスル。芦賀からのパスを受ける雨辻の裏から安下那が立ち塞がる。一週間前に比べて、基礎を抑えて形にはなってきたディフェンス。
「行かせないっすよ」
「お、さっきよりもズッシリした感じあるよ」
まるで巨人、と雨辻に評された安下那のディフェンス。ミニゲームとは別に、3人は上級生から個別で指導を受けていた。特に安下那は初心者。全ての技術を一から教わった彼は、飲み込みの速さを遺憾無く発揮しアウトプットまでこなす。
しかしサッカー経験の少なさは覆せない。正直者の彼は、フェイントに引っ掛かりやすい。
「あぁ〜」
「残念、また次ね」
右と見せかけて左。安下那を背にしてくるりと前を向いた雨辻、すかさずシュートモーションに入るが足元のボールは気付かぬうちに盗まれてしまった。
「穂焔君!」
安下那の背後からカバーに来た小金がボールをカット。逆サイドの芦賀に付いていた來斗はすかさず中盤へ走り出しボールを受ける。
「ベガ!」
芦賀に追い付かれた來斗はすぐさま安下那へパス。だがそれには雨辻が付いている。今度は逆のマッチアップ。
「そうそう、上手くなってきた」
「あざっす」
3年生のプレスにも動じない安下那。押されてもブレずに前へ前へと進み続ける。剛健なその様は軽自動車の如く。若葉マーク印のパスは、再び來斗の元に。
「シュートは打たせない!」
「抜かせてもらいます!」
芦賀のブロックを難なく躱し、再びシュートモーション。
「打たせないっ!!」
しかし再び芦賀は食らいつく。クリアしたボールはそのまま枠外へと転がっていく。
ここで試合終了を知らせる長いホイッスルが入るが、まだ20分も経過していない。首を傾げる雨辻は審判へ抗議の目を向ける。
「鳴上早くない〜?」
「監督様からのご指示だボケェ。集合!」
集合の一声で、皆は部室棟の前へと集う。
「はい、皆さんお疲れ様です。1年生3名の実力は大体分かりました。3名共着実に地力がついてきてると思います」
なので、と一息置いて花氷は続ける。
「3年生チームとの試合を行います。これは貴方達の手本となる先輩方と、どれだけ差があるのかを理解する為のミニゲームです。この一週間をぶつけるつもりでプレイしてください」
「「はい!!」」「はーい」
「5分休憩を取るので、3年チームはストレッチを」
解散、の一声で部員は散り散りにバラける。
「來斗、あんた何ニヤニヤしてんのよ」
いの一番に來斗に駆け寄ったのは知夏。3年チームと対戦、というワードを聞いてから様子の可笑しい來斗を見てられないといった面持ちでいる。
「ニヤニヤじゃねえ、燃えてんだよ! ここで活躍して、認められて、俺はFWに選ばれるんだ!!」
「はいはい、分かったわよ。頑張んなさい」
ワクワクが口元から零れ落ちる。ヨダレを拭く母親のように獅子丸が背中を軽く押した。
「ハッハッハッ! その意気や良し! じゃが、3年生は気迫だけでは負かせんぞー?」
「獅子丸先輩!」
「名久里藍の3年生は地区の中でも優秀なストライカーが揃ってる……ですよね?」
「その通り! 詳しいのう」
「去年、一度だけ試合を見た事があるんです」
「先輩方の凄さは相対してみれば分かるじゃろう。目指せ下剋上じゃ!」
「オッス!! それじゃ知夏、見とけよ!」
「はいはい。怪我はしないでね」
おう、と声を出してフィールドへ歩き出す來斗。やる気充分。肩を回して気分は既にチームのエースだ。
「先輩達には申し訳ないですけど、勝たせてもらいます!」
拳を強く握り息巻く來斗。煌々と燃えたぎる志しに対し、丸い眉がピクリと動いた。
「……来い」
枕狐蹴一、名久里藍中のエースストライカー。
またの名を『東海の炎のエースストライカー』
その呼び名に本人はさして興味は無い。だが、それに相応しい研鑽を積んできたと自負している。その瞳には炎が渦巻いていた。
「一年チームからッス!」
角威の掛け声で、安下那と來斗はボールへと歩み寄る。各々の準備が整ったところで、ミニゲーム開始のホイッスルが鳴り響く。
「行くぞベガ」
「おう」
キックオフと同時に來斗がボールを持って敵陣に切り込む。対するは枕狐。
右にズレた重心。
(と見せかけて左!)
しかし、この程度のボディフェイントは枕狐には通じない。
「夾!」
抜けないと判断した來斗は、即座に小金へのバックパスを選択。
しかし、右サイドに向けて放たれたボールは、簡単にも荒れる風に飲み込まれた。
「遅いぜ一年」
素早い身のこなし。トップスピードでボールを掻っ攫ったのは風神。細かいタッチでボールを持ち、小金とのマッチアップに持ち込む。
「止めろ夾!」
「分かってる!」
奪ってみろ、と言わんばかりに強気な姿勢の風神のドリブル。その覇気に圧倒される小金は、風神のスピードに追い付けず自陣奥への侵入を許してしまう。
「速い! 誰か!!」
ゴール前にはフリーの風神。安下那はまだ届かない距離。獅子丸との1vs1の場面。
「裕也」
急な呼び掛けに思わず後ろを振り返る。しかし3年目の付き合い。
「えぇ、ダリィなっと」
その意図を汲み取るやいなや、ボールは2つの炎の元へ渡る。
ゴール前中央、枕狐の行動を縛るように腕を入れて走る來斗。しかし、そんな妨害なんて意に介さず、ゴールを狙い続ける枕狐。
3歩、2歩。ボールが足下へ近づく。
もう少し、と緊張の一文字が弛む。
「存外、口だけだな」
瞬間、地面が近付く。ボールがかげろう。
「は?」
來斗の視界に映るのは、ゴールへ向かう姿勢。大きな背中。
その右足はゴールへ向かう度に赤く、赫く、そして青く燃え上がる。
「
ボールは蒼炎を纏い、ゴールへ突き進む。
「
獅子の牙がボールをしっかりと掴む。しかし、蒼炎はそれだけでは消えない。
「うおおぉっっ!!」
片手では足りず、両手。しかし、止まらない。
ボールの勢いは殺されぬままゴールネットを揺らす。
どろり、と牙は溶け落ちた。
「口だけのストライカーは、このチームには要らない」
遠い、遠い壁。
このワンプレーで來斗は確信した。自身の強さは、如何に小さく、そして、
目の前が真っ暗になった。
否
「オレ、オレ、絶対このチームでエースになってやるからな!!!!!」
圧倒的点差で敗北を喫した穂焔來斗。身体は疲労困憊、それだけでは無い。唇をキュッと噛み締め、メラメラと燃えていた炎は今にも鎮火しそうなほど震えていた。だが、それでも、その瞳には燃え滾る闘志が確かに映っていた。