友人
アデレードとの出会いが心に残り、ディオはその後の数日間、自分の心の中で彼女の存在を反芻していた。あの後、アデレードと名乗った少女は何事もなかったかのようにディオに別れを告げて去っていった。まるで白昼夢のようにすべては一瞬だった。けれどその日から、毎日ではないがアデレードはディオの前に現れた。
彼女はいつも、あの黄金の目をしていた。
煤けた煉瓦の影の中で、彼女の目だけが異質な輝きを放っている。その視線が自分に向けられた時、ディオの胸が痛いほど跳ねた。喉の奥が詰まりそうになる。だがそんな素振りは微塵も見せなかった。どこかで覚えた冷めた笑みを浮かべ、淡々とした顔を装う。
「ディオ」
そう呼ばれるたびに、心臓が跳ねる。彼女はまるで名前を呼ぶことに何の特別な意味もないかのように言う。無邪気に、軽やかに。いや、実際に意味なんてないのだ。他者が誰かを呼ぶときに、そのすべてに意味を持たせるだろうか? 答えはノーだ。だが、その声が耳をくすぐるように響くたびにディオはほんの一瞬だけ奥歯を噛みしめる。
今日もアデレードはディオの前に現れた。
「こんにちは、ディオ。会えて嬉しいわ」
そんな言葉と共に、アデレードは笑う。乱される心に知らぬふりをして、彼はぶっきらぼうに「なんだ」と返す。冷静で、何の感情もないように。彼女の目を避けることなく、正面から見据える。アデレードはディオのそんな態度に少し首を傾げながらも、やがてその口元に微笑みを浮かべた。それは決して友好的なものではなく、どこか挑発的で蠱惑的な笑みだった。それなのに、次に放たれた言葉は、あまりにも年相応なものだった。
「ディオ、私たち何度か会っていて、それなのにこんなことを言うのはおかしなことかもしれないけれど、私、あなたの友人になりたいの」
あまりにも唐突に、しかし当然のように告げられた言葉に、ディオは思わず瞬いた。
「……は?」
「だから、友人になりたいの。ディオと」
ディオは、その言葉に思わず絶句した。何か打算があるのか、それともただの気まぐれか。アデレードの真意が読めなかった。けれど、真意なんてない。アデレードは本当にディオと友人になりたいのだ。その、あまりにも真っ直ぐな瞳にディオは息を飲んだ。彼女は本当に友人がほしいのだ。自身に媚びてくるような人間ではなく、自身にひれ伏すような人間ではなく、ただ対等な存在を欲していた。
「好きにしろよ」
それ以上の言葉は出なかった。言葉にすると何かが零れ落ちそうで、ディオはただそれだけを短く告げ、ついと視線を逸らした。
「……ほんと?」
ディオは「好きにしろと言った」と、相変わらずそっけないまま。でも、その冷たさがまるで効果を持たないかのように、アデレードは嬉しそうに笑った。それはもう無邪気に、年相応の顔で。
「ねえ、友達になった記念に、どこか行きましょう?」
「は?」
「だって、せっかくの友達なのよ? 何か楽しいことしなくちゃ!」
アデレードは、まるでその金色の瞳のように目を輝かせた。ディオは、それに思わず気圧される。この少女は本当に自分と友人になったのか。そう疑問に思うほどにアデレードはただ純粋に笑っていた。
「……くだらない」
「くだらなくなんてない。ね、ディオ」
アデレードの笑みに、ディオはまた喉に何か詰まらせるような錯覚を覚えた。息が詰まりそうになる。それは決して不快ではないけれど。ただその黄金の瞳に見つめられると、自分が何か特別な存在になったような気さえした。