日も暮れ、街が闇に覆われる頃二人は並んで歩いていた。アデレードの足取りは軽く、まるで踊るようにステップを踏んでいる。ディオはそんなアデレードを横目で見た。彼女はまだ子供だ。その身に宿す黄金の瞳も、その存在感も、すべてにおいて子どもでしかない。けれど、それでもなお――彼女の存在には何かがある気がした。それは決して悪いものではないと直感が告げるのだ。
ふと視線を感じ、そちらに目を向ければアデレードと目が合った。何か言わなくては、そう思った彼が言葉にしたのは嫌味のような、少し棘のある言葉だった。
「お前のせいで今日の稼ぎがゼロだ」
ディオの言葉に、アデレードは目を瞬かせた。それから少し考えて、彼女はぽつりと呟く。ディオは、アデレードのその一言に虚を突かれた。彼女の口から紡がれた言葉は、まるで想像していなかった言葉だったから。
「それがどうしたの?」
アデレードのその一言は、まるでディオの心を暴くような言葉だった。彼女はただ純粋に疑問に思ったことを口にしただけだ。けれど、それはディオにとって衝撃的だった。この街では、貧困にあえぐここでは、たとえ子どもだろうがなんだろうが「自分の食い扶持は自分で稼がなければならない」そんなのは常識だ。それなのに、彼女はそれがどうしたのかと問う。
ディオは、思わず足を止めた。アデレードもそれに倣い足を止める。そして彼は、自分の中に渦巻く感情に名前をつけることができなかった。
「お前は、なんなんだ」
「なにって、私は私よ?」
「子どもでも稼ぐのが普通だ。それなのに、お前は」
ディオはそこまで言って言葉を詰まらせた。アデレードはそんなディオを不思議そうに見ていたが、やがて何かに気づいたようにその目を大きく見開いた。そして彼女は少し背伸びをして、ディオの頰にそっと触れる。その指先は、とても温かかった。まるで日なたで日向ぼっこをしているかのような心地よさだった。思わず目を細めたディオを見て、アデレードはその口元に笑みを浮かべる。
「ああ、今日遊んだ金はどこから出たの、と聞きたいの?」
アデレードのその一言に、ディオは息を飲んだ。彼女が何を言いたいのか、一瞬で理解してしまったからだ。そして同時に愕然とした。彼女は子どものくせに聡いのだ。いや、それとも自分の考えが浅はかだったのだろうか? ディオにはわからなかったが、それでも彼女の言葉に衝撃を受けたのは事実だ。アデレードはそんなディオを気にも留めず、淡々と言葉を紡ぐ。それはまるで歌うように軽やかだった。
「欲しいものは周りが勝手にくれるの。私は何もしていないわ。ただ笑って、『ありがとう』って言えばいいのよ」
ディオはその言葉に絶句した。それはあまりにも衝撃的な言葉だった。彼女は「周りが勝手にくれる」と言ったのだ。つまり、アデレード自身が何かするまでもなく、その笑みと言葉だけで周りの人間が彼女に与えるということだ。それが真実なのか、それともただの虚言なのかはわからない。けれど彼女の言葉は確かにディオの心を打った。
「ねえ、ディオは何をもらったら嬉しい?」
「……金だ」
「そう。ふふ、そうよね」
アデレードは楽しそうに笑った。そうして、彼の手にそっと何かを握らせた。それは金だった。
「勘違いしないでね。これは施しじゃないわ。友人だからでもない。お金をあげることが私たちの関係の理由になったら嫌だもの」
ディオは、その言葉に思わず目を見開いた。アデレードのその言い方はまるで――まるで、自分が特別な存在であるかのように聞こえたから。けれどすぐに、手の上にある金を彼女に突き返そうと、そう考えた。だが、できなかった。他者からの施しなんて受けたくないのに、その金を突き返すことができなかった。けれど「金を渡される」っていう行為そのものが侮辱的だ。
「なんでこんなことをする」
「今日は付き合わせたから」
「金は貰ったのか」
「ええ。欲しい? って聞かれたから、欲しいわって答えたらくれたのよ」
アデレードは当然のように言う。ディオは頭を抱えたくなった。手の上にある金は突き返さずに酒代に使うことにした。そうだ、これはこの女からの施しではない。この女がやる、と言ったのだ。だから、自分の意志で受け取った。それだけだ。