掌の上の余白   作:都賀裏

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青い星

 夜会の華やかな灯りの下、柔らかな音楽が流れている。小規模な集まりとはいえ、貴族の社交の場は常に華やかで、豪奢な装飾と気品ある振る舞いが求められる。

 フィッツウィリアム家の一員として招かれたアデレードは、十二歳とは思えないほどの優雅さでその場に溶け込んでいた。何もかもが完璧だ。仕草も、会話の端々も。彼女の周囲には自然と大人たちの関心が集まり、まるで幼い貴婦人のように振る舞うその様子は、多くの者を魅了していた。

 その中で、彼は異質だった。

 ジョナサン・ジョースター。ジョースター家の跡取り。年はアデレードと同じ十二歳。けれど、彼は貴族の子息らしくあろうと努力しているものの、どこかぎこちなさが抜けず、まだまだ少年らしい幼さを残している。そんな彼と目が合ったのは偶然だった。大人たちの話に飽きたのか、アデレードは少し離れたところで静かに飲み物を口にしていた。そのとき、ふと視線を感じて顔を上げると、向こうから彼がこちらを見ていた。ジョナサンは、まっすぐな眼差しをしていた。驚いたように、でも興味を惹かれたように。まるで、綺麗なものを見つけた子どものように。

 

「……」

 

 彼女は数秒、何かを思索すると、彼の元へと歩み寄った。突然近づいてくる彼女に、ジョナサンは少なからず驚いたようだが、すぐにしゃんと背筋を伸ばして、同じように彼女に向かって歩みを向けた。

 

「あなたが、ジョナサン・ジョースター?」

「う、うん……そうだよ。僕はジョナサン・ジョースター。君は?」

「失礼しました。わたくし、アデレード・フィッツウィリアムと申します。どうぞ、アデレードとお呼びください」

「あ、うん……僕はジョナサン・ジョースター。よろしくね」

 

 そう言って、ジョナサンは右手を差し出した。それは、あまりにも無邪気な仕草だった。この場にいる大人たちのように計算されたものではない。誰かを出し抜こうとする意図も、気に入られようとする打算もない。ただ純粋に、新しく出会った相手に「友達になろう」と手を差し出す、その無垢さ。

 アデレードはその手を見つめた。

 

(……なんだか、調子が狂う)

 

 魔性に唆されることのない、無垢な善。彼の中には疑念も欲もない。ただ、手を取りたいから差し出した。

 

「ふふっ」

 

 アデレードはゆっくりと手を伸ばし、その手を取った。

 

「はい、よろしくお願いいたします」

 

 そう答えたアデレードの微笑みは、まるで聖女のように清らかだった。ジョナサンは頬を赤らめながら、彼女の手をしっかりと握った。その手から伝わる熱に、彼女は目を細める。それはとても不思議な感覚だった。優しい子なのだろう。きっと彼は「与える者」だ。そしてきっと「導く者」になる。アデレードは微笑んだ。そして、彼女はその手を握り返した。

 

 少しして――まだ彼女はジョナサンといた。調子が狂う、ど最初に思ったものの、アデレードにとって、彼と過ごす時間はそれほど悪いものではなかった。ジョナサンは他に来ている貴族の子どもと違ってあまり気取らない。鼻にかけたような態度を取らない。だから、少しだけ呼吸がしやすい。

 

「ねえ、アデレードはどんなことが好き?」

「音楽に読書、それから勉学も」

「すごいや、僕も音楽は好きだよ。他には?」

「そうだな……僕は勉強はてんでだめ」

「ふふ、今はだめでも、きっといつか興味を持つことだってあるわ。他に好きなことはある?」

「えーっと、あ、ダニーって犬がうちにいるんだ。すごく利口な猟犬でね、僕の言うことをなんだって聞いてくれるんだ! 僕の大切な友達だよ」

「そう、それは素敵ね」

 

 ジョナサンは、アデレードのことが知りたいとせがんだ。そして、アデレードはそれにできる限り答えた。それは、まるで普通の少年と少女同士の会話のようで、とても不思議な感覚だった。

 

「アデレード」

「はい、お父様」

 

 少し遠くから、フレデリックがアデレードを呼んだ。

 

「それでは、またお会いしましょう。ジョナサン」

「うん、また会おうね、アデレード」

 

 そう言って、二人は別れた。その背に視線を向けていたジョナサンはふと目を細める。

 

(なんだか不思議な子だったな……心臓が、なんだかむず痒い感じ)

 

 初めての感覚に首を傾げながら、彼もまた、自身の父親の方へと戻っていった。その胸に、小さな感情と予感を芽生えさせながら。

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