ソドムの市 断罪編   作:HMMLER

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何故だか知らないけど書いてた()

後悔はしていない()


プロローグ

 

1944年7月

サロ

 

 

その日はよく晴れた日であった。

 

その日の前の日は、ヴィヴァルディの「四季」の「夏」の第三楽章で表現されたような、あの雷雨があったが、今日はそれとは一転してスッキリと晴れていて、若干の湿気はあるもののカラッとした暑さもあった。

 

そんな日、街中を数人のドイツ軍将兵、通訳、そしてここを支配するイタリア社会共和国の軍の将兵数人が或るドイツ国防軍将校と共に歩いていた。

国防軍将校の名前はヴェルナー・ホーネッカー、階級は少将である。

彼が何故こんなところを歩いているかと言うと、視察のためであった。

 

イタリア降伏後、イタリア各地は前にもまして不安定であった。

 

そしてそれはサロも例外ではなかった。

 

彼はそんな中でサロの治安を確認するために視察に来ているのだった。

 

 

 

 

 

「暑いなぁ」

 

ヴェルナーはそう言った。

 

「何か飲み物でもないか?」

 

そう言うと、隣にいた彼の副官の大尉が水が入った水筒を差し出した。

 

「おお、ありがとう。」

 

彼はそれを受け取ると満足気にゴックンゴックンと飲むのであった。

 

「あーそれでこれから我々はどこに向かうんだっけか。」

 

大尉は直ちに答えた。

 

「郊外のドイツ軍基地に向かいます。ほら、あの車がそうです。」

 

彼が指を刺した方向にはドイツ軍の軍用車がエンジンを鳴らしながら待っていた。

 

「ああそうだったな…よし、さっそく向かおう。」

 

彼はそう言うと連れの者たちと一緒に車に乗り込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

車の中でヴェルナーは大尉に聞いた。

 

「メルケル君…君はこの戦争はどうなると思う?」

 

メルケルと呼ばれたその大尉は急にそんなことを聞かれた者だから戸惑った。

 

「どう…ですか…それはもちろん総統のもとで勝利をおさめ…」

 

それを聞いたヴェルナーは険しい顔で顔を横に振りながらこう言った。

 

「ああ…御託はいい。私は君の率直な意見を求めてるんだ…。」

 

そう言われたメルケルはより一層な深刻な顔でしばしの間考えた。そして、こう答えた。

 

「閣下…ハッキリ言えば…この戦争は負けです…。」

 

少将は深くため息をつくとうんうんと頷いた。

 

「やはり君もそう思うか…」

 

「ハイ…一ヶ月前に西から連合軍が上陸してきて我々は二正面作戦を強いられて兵力が慢性的に不足しています。それに加えて閣下が東部戦線からここに派遣された数日後にはソ連軍が大攻勢を仕掛けてきて、中央軍集団がまるまる消し飛んだものですから…。もはや勝ち筋は…スターリングラードの時点ですでにほとんど無かったのが、もう…完全に…。」

 

「うむ…」

 

ヴェルナーはそう言いながらその絶望的な状況に気分を落ち込ませた。

そんな中、大尉は身を乗り出すと、こう言った。

 

「閣下…」

 

「ん?」

 

「閣下は戦争が終わったらどうしますか?」

 

ヴェルナーはしばらく考え込んだが…しばらくしてカラッとした笑い声を上げると黙り込んだ。

 

「閣下…?」

 

「ああ…何、私には戦後なんてないさ…戦争が終わったら私はもう終わりだ。」

 

「えっ…」

 

彼はそう言うとしばらく目をまんまると開けてじっとヴェルナーを見つめた。

 

「そ、それは…どう言うわけで…。」

 

彼がそう聞くとヴェルナーはさらに険しい顔をするとこう言った。

 

「メルケル君…君は…君が私の副官になる前から私が東部戦線にいたことを知っているね?」

 

「ハイ…、バルバロッサ作戦の時からいたと…。」

 

「実はな…その際…私はある事に関与してしまったんだ。」

 

ヴェルナーはそう言うと、苦渋の顔を作り出した。

 

「或る事…?」

 

「………総統がユダヤ人とスラヴ人の根絶を唱えていることは知っているね…?」

 

「ハイ…」

 

彼はそれを聞くと、しばらく間を置いた後にこう言った。

 

「私はあのバルバロッサ作戦の時…、親衛隊の占領地でのユダヤ人の抹殺に関与したんだ。」

 

 

メルケルはしばらく黙り込んだ…彼は…ただ黙ることしかできなかった。彼がなんと返事をしたらいいかとまごまごしていた。

 

そんな中でヴェルナーは口を開いた。

 

「私は…私は…あの黒土の大地で許されざる犯罪を犯した…。この手は血に染まっている…私は未来永劫許されないだろう…。」

 

「……………」

 

「戦争が終わったらきっと私は裁かれる…そしてそこで…」

 

彼はしばらく間を置いた。

 

「然るべき運命が待ち受けているだろう…。」

 

「…………」

 

「な?私に戦後がないと言うのはこう言うことなのだよ。」

 

「…………」

 

「私は…生きる価値のない人間だ……、地獄に行くべき人間なのだ…。私が生きているのはただ…」

 

彼はそこで一旦言葉を区切ると、搾り出すような声でこう言った。

 

「惰性で生きているだけだ…。」

 

「…………」

 

しばらくの間、沈黙がその場を支配した。

 

その沈黙を破ったのは他でもないメルケルだった。

 

「閣下…。私は…私は…」

 

「………」

 

「閣下の弁護人をいたします!」

 

「………!」

 

「閣下…あなたは戦後に必ず必要な人間です。あなたのおかげで死地から救い出された兵士が何人もいると聞きます。」

 

「何…ただ義務を果たしただけさ…。」

 

「イエ!あなたの手腕は必ず戦後に必要となります!私なんかよりもあなたが…。」

 

「メルケル君。」

 

彼は諭すような口調で彼の名前を呼んだ。

 

「いいや…君の方がずっと価値がある。」

 

「…!しかし…」

 

「メルケル君…さっきも言ったように私は許されざる犯罪を犯しながら惰性で生きながらえている取るに足らない人間さ…。この手は血で汚れ切っていて、どうしようもない…。だが、君はどうだろう?君の手は血で汚れているか?いいや…。君のような若い人間こそが戦後で必要さ…。だから…な?」

 

彼はそう言うとメルケルの肩に手をポンと載せるとこう言った。

 

「きっと生き残っていてくれよ!」

 

彼のその言葉で、メルケルの心中ではなんともいえない感情が込み上げてきた。

 

彼は…ここに戦争の不条理を見た…こんなにも心根がしっかりとしていて優秀な人間までもが罪に手を染めなくてはいけないのかと…。彼はそう思うと、手を汚していない自分の幸運さに感謝すると共にヴェルナーの運命に悲哀の感情を抱いたのだった。

 

そんな思いなど露知らず、ヴェルナーはメルケルに問いかけた。

 

「君はどうだね?戦後はどうしたい?」

 

彼は声を詰まらせた。微笑を浮かべながら接してくる目の前の自分の上官の運命を考えれば自分の戦後などいかほどのものか!彼は搾り出すような声でこう答えた。

 

「イエ…何をしようか…何も…」

 

ヴェルナーはそれを聞くと、素っ頓狂な声でこう言った。

 

「何も決まってないか!それもそうか、今は戦争真っ最中でそんなことなど考えてる暇などないしな…。ところで君は女房か何かはいるかね?」

 

「えっ…イエ…。今まであまり女に触れたことはなくて…。」

 

「おっとそうか…ならば君には恋をする事をお勧めするよ。」

 

「恋…?」

 

「ああ…。私も若い頃は恋にすっかりと心を取られていたものだ。やはり恋というのは人生で一回は経験すべきだよ、そしてその恋が成就した時のあの感動!あれは忘れられるものではないね!」

 

「はぁ…なるほど…。」

 

「だから君!君の人生はここからなんだ。きっと…きっと戦後も生き残ってくれよ!」

 

「ハ…ハイ。」

 

彼はヴェルナーの瞳を見た。その瞳の中に若者への期待の念が込められているのを見たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして車は郊外にある湖の傍を走行していた、

 

彼らは未舗装の道をガタガタと揺らされながらも基地に向かっていた。

 

そんな中、ヴェルナーは車窓からあるものを見た。

 

「通訳!」

 

そう呼びかけられた前の席で座っていた口髭の年配のイタリア人の男は直ちに後ろを振り返った。

 

「ハ、ハイ。」

 

彼は急に呼び止められたもんだから慌てていた。

 

「あれはなんだね?」

 

彼が指差す先の湖の対岸には館があった。

 

壮麗な館である。なんら変哲なところもなかった。

 

「あ…あれは…大司教様の館です。」

 

「大司教?」

 

「ヘイ…ここ一帯はあの館を持つ大司教様の管区なんです。」

 

「へぇ…知らなかったな。それじゃいつか挨拶でもしようかな…。」

 

 

彼が何気なしにそう言うと、イタリア人通訳はブルブルと震え出した。

 

「そ、それは…やめといた方が…。」

 

「えっ…そりゃまたどうして?」

 

彼はそう問いかけた。イタリア人はますますブルブルと震える。

 

「あ、あの館では…その…」

 

「なんだね?一体あの館で何があると言うのだね?」

 

イタリア人通訳はしばらく声を出せずに黙り込んだ…しかし意を決したように続けてこう言った。

 

「これは…これはあくまで噂なんですが…。恐ろしい噂があの館にあるんです。なんでも…あの館では、お偉いさん方が集まって美少年、美少女をいたぶって楽しんでいると言われているのです…。」

 

彼はそう言うと、息も絶え絶えに汗を滝のように噴き出したのだった。

 

ヴェルナーはしばらく黙り込んだが、その沈黙は彼の笑い声で破られた。

 

「アッハッハッハッハッ」

 

「へ…?」

 

「君、そんな噂を信じているのかね?」

 

「イ、イエ…」

 

彼はそう言いつつも不安気だった。

 

「何、君。そんな噂は大抵共産ゲリラが流すデマさ。そこらの犯罪者ならともかく、お偉方がそんなことするわけないさ。」

 

「ハ、ハァ…」

 

「なぁに、噂は噂さ…。」

 

彼はそう言ってなんでもないようにその話を流したのであった。

 

 

しかし、そう軽く受け流したはずの彼の心の中では何故か、心に引っかかるものがあった。

 

軍用車は進んでいく。

 

その先にはまだまだ未舗装の道が続いているのであった。

 

 

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