今回は短めです。
軍用車のベンツが基地の駐車場にたどり着いた。
降りた途端、ヴェルナーは路肩でえずいた挙句に…
「ヴォエエエエエエエ」
と吐いたのだった。
そこにメルケル大尉が駆け寄る。
「閣下ぁ…」
「ん、すまない。車酔いには弱いもんで…。」
「そんなことより、見てくださいよ…後ろ…」
「ん?」
彼がそう言って後ろを見てみると…
出迎えの基地のドイツ兵達が皆こちらを冷ややかに凝視していた
「あっ…」
メルケルは言う
「これ、掃除するの…彼らですよ…」
「あっその…アッハッハッハッハッ。みんな出迎えてくれてありがとう!」
ヴェルナーは試しにそう素っ頓狂な声をあげてみた。
視線は相変わらず冷たく…なんならもっと冷たくなったのであった。
数分後、彼はこの基地の司令官の執務室に通された。
「いかがでしたかな?サロの現状は?」
基地の司令官オットー・クラウゼビッツ少将はそう、ヴェルナーに問いかけた。
「ウム…やはり住民の我々に対する感情は悪いですな…。偶に、ムッソリーニを崇拝してやまないものもいましたが…。」
大佐はそれを聞くと、予想通りといったような感じでコクリコクリと頷くと、こう返した。
「当然でしょう…なんでいったって、ここを支配するイタリア社会共和国は我々が無理矢理作り上げた無機質な国家ですから…。」
イタリア社会共和国…ドイツの意思によって作り上げられたこの国家は、南のイタリア王国がイタリア人自身によって作り上げられた国であるのと対照的に、ドイツのイタリア統治を円滑に実行するためだけの人工的な無機質な国家であった…
「ええ…この国はムッソリーニという象徴とドイツの圧倒的な力によってなんとか成り立ってるような国ですからね…」
「その通り…しかもあのイタリア降伏までの素早さを見るに…イタリアのファシスト党の者どもは皆腐り切っているようですからね…ハッキリ言って…もう未来はありませんよ…。」
オットー少将はそう言いながら席を立つと、物憂げに窓から外を見るのだった。
外では基地のドイツ兵達が吐瀉物を掃除していた。
「あの吐瀉物は…」
そう、オットーが言うとヴェルナーは顔を赤らめた。
「あっ…お恥ずかしながら…私のものです…。車に酔ってしまって…昼食をまるまる…。」
ヴェルナーがそう言うと、オットーはしばらく目をまんまると開けて見たのち、豪快に笑ってこう言った。
「ガッハッハッハ、左様でしたか…。見るにあの軍用車はオンボロですからなぁ…。」
「ハイ…おっしゃる通りで…」
「あっちょっと待ってくださいよ…」
彼はそう言うと執務室の机の引き出しを引いて中をゴソゴソと探した。
「アレェ…ここに入れてたと思うんだがなぁ。」
「何を探してるんです…?」
ヴェルナーは不思議そうに聞いた。
「イエ…帰る時にまた車酔いしそうですから、あなたに飴をあげようと思いましてね…、経験談ですが飴を舐めると車酔いしにくいんです。」
「へー。」
「アレェないなぁ。おーい、マッケンゼン大尉。」
オットーはそう言いながら執務室の外に出た。
「飴玉を知らんか?」
「イエ…?」
「アッレェおかしいなぁ。この方に飴玉をあげようと思ったんだが見つからないんだ。」
「ハァ…。」
「うーむ。」
「あのォ…。」
ヴェルナーが二人の間に割って入る。
「見つからないんであれば別に結構ですが…」
「イエ、そう言うわけにはまいりません。」
オットーはそう言って固く決意した目を向けた。
そして執務室のそばにいた衛兵の方を向いた。
「そこの二等兵!」
呼びかけられたその二等兵は慌てながら答えた。
「は、ハイ!」
その二等兵は自分より身長の高いオットーに向かって上を見上げるように姿勢を正したのであった。
その二等兵の容姿はとても美しく、まるで女のようだった。
「貴官に命じる!近くの大司教の屋敷まで行って、そこで飴玉をもらって来なさい!」
「はっはい…えっ歩いて?!」
「イヤ、自転車で行け!さぁ早く!」
「はっハイイイいい」
そう言いながらその二等兵は走り去っていくのであった。
「ハァ…オットー閣下は人遣いが荒いですなぁ。」
ヴェルナーはそうポツリと言った。
「彼が戻ってくるまで時間がありますね…。ではその間にこの基地の案内と兵の状況の説明等をしましょうか。」
オットーはそう言うとヴェルナーを連れ出して基地の案内を始めたのであった。
「チッキショウ」
ヘルマン・ベーム。
それがこの悪態をつきながら自転車を漕ぐ二等兵の名前であった。
彼は若干19歳にして兵士として送り込まれたのであった。
その容姿に反して、彼の性格は若干粗野であった。
兵士になる前のヒトラーユーゲントの時でもうっかり絶対服従のはずの上官に対して悪態を吐いたことがあるなどの問題児であった。
軍隊に入ってからはそれは改善されつつあったものの、やはりまだその性格の片鱗は残っていた。
「チッキショウ…あのオットー・クソビッチ少将め…こんな暑い日に使い走りに出しやがって…。クッソォ…。」
彼はそう言いながら暑い日の中汗をダラダラ流しながら必死に漕いだのであった。
そうこうしているうちにその館が見えて来た。
彼はやっと着くと安堵の気持ちに包まれたのであった。
そして…一方で館の方でも窓からその来訪者を…まるでワナにかかったウサギのように見る、四つの双眼鏡があった。
「ありゃあいいゾォ。」
双眼鏡を持つ四人の男の一人がそう言うのであった。
「あっ…」
「ん?どうしました?」
「ポケットの中に飴玉が入ってた…。」
「ええ…。」