画面の向こうで命を見た。
それは白の中に規則正しく0と1が羅列する世界で佇んでいる。タブレット越しにそれを見つめる少年の目が大きく見開かれる。やがてノイズのかかったシルエットの輪郭は鮮明となり、真っ白なドレスを着た少女の姿が露わになった。背中まで伸びた銀髪を靡かせ、まっすぐにこちらを見ている。
「おまえ、誰?」
無意識に少年が呟く。
「わた……しは、トワ……ル」
その声が届いたのか少女が辿々しく言葉を返す。彼女の顔は全くの無表情。まるで人形のようだった。
「とわる? それがおまえの名前?」
「みたい」
トワルと名乗った少女が小首を傾げる。その態度に少年も疑問符を浮かべた。
「みたいって?」
「それ以外分かんない……」
「きおくそーしつってこと?」
「うん」
トワルが頷く。彼女を見た少年は目をぱちくりさせた後、口元に笑みを作った。
「じゃあさ、おれが手伝ってやるよ。おまえの記憶を取り戻すの」
「何で?」
即座に尋ねるトワル。彼女の表情は無表情から戸惑いへと変化していた。
「だっておれ達、もう友達だろ」
「とも……だち?」
「そう。おれ達は友達!」
少年がタブレットに向かって破顔する。
「おれは
そして額に鈍い痛みがはしり、創斗は目を覚ました。
目を覚ますと目の前に机の白が見える。額の痛みで自分が寝落ちした事を悟った。
「夢か……」
随分と懐かしい夢だった。頭を擦るのは灰色の作業着を着た青年、伝導 創斗。ボサボサの前髪から覗く目の下にはうっすらとクマが出来ている。
「良く眠れましたか?」
創斗が声の方を見る。視線の先には仁王立ちしてこちらを見下ろす少女の姿。銀髪の長い髪にエメラルドグリーンの瞳、白いドレスの上にエプロンを身に着けた彼女は腰に手を当て、こちらにジト目を向けていた。その容姿は夢で見た少女と瓜二つ。同一人物なのだから当然なのだが。
「仕事中に居眠りとは良いご身分ですね、ソート?」
「仕方ねぇだろ、寝不足なんだから……」
創斗がばつが悪そうにそっぽを向く。
「だからあれほど早く寝るように言ったじゃないですか」
「興奮して中々寝付けなかったんだよ。やっと
創斗が少女、トワルの腰に視線を送る。彼女の腰の辺りは盛り上がり、エプロンに影を作っていた。トワルも自らの腰に目を向け、複雑そうな表情を浮かべる。
「それはしょうがないですけど。でも今は業務中です。しっかりしてください。ソートはここの店長なんですから」
創斗は周囲を見渡す。テレビや洗濯機等の家電が並び、モバイルバッテリーやスマホケース等が吊り下がり陳列している。
ここは電気屋。創斗とトワルが切り盛りする生活の拠点、エレクトロ伝導だ。
「業務中って言ったってよ。今日はまだ誰も来てねえぞ」
店内には創斗とトワルの二人だけ。もうすぐ正午になるというのに来店する気配もない。
「たとえそうだとしても、お客様が来店した時にだらしのない格好は良くないと思います」
まごうことなき正論をぶつけられ創斗は押し黙るしかなかった。その時、
「創斗ぉぉぉぉ!! ヘルプミィィィ!!! あだっ!?」
勢い良く誰かが来店してきた。勢いあまりすぎて自動ドアに肩をぶつけて。
「勢い良く入ってくるんじゃねぇ! バ櫂善 連児!!」
創斗が怒号を飛ばす。勢い良く入ってきた人物の正体は金髪の青年だった。年は創斗と同じくらい。整った容姿とぱっと見明るい印象に騙されそうになるが所々に爪の甘さが伺える。金髪に染まった髪は頭頂部に地毛の黒が見えるし、今どきのおしゃれな服もアイロンがしっかりかかっていないのか皺になっている。そんな残念な男こそ、創斗の数少ない友人、
「いやいや、悪い悪い」
彼は頭を掻きながら快活と笑ってみせる。
「大丈夫ですか、連児さん?」
「大丈夫大丈夫。心配してくれてありがとう、トワルちゃん」
連児がウインクを決める。そのキザな振る舞いにトワルは思わず苦笑い。何やってるんだお前は、とその背後で創斗は睥睨していた。
「で? 今日は何を壊したんだ?」
「壊した前提で進めないでくんない!」
「壊してないのか?」
「……壊しました」
連児が身に着けていたスマートウォッチを差し出す。何かと落ち着きの無い彼はよく物を壊す。その度に創斗が修理している。ある意味で言えば、彼は間違いなくエレクトロ伝導の常連客、お得意様だ。
「ふむ」
創斗は渡されたスマートウォッチを弄る。電源ボタンを押すがうんともすんとも動かない。
「こういうのって普通メーカーに頼まないか?」
「いやだってお前の方が早いだろ? それに完璧に直してくれるし」
連児が当たり前のように即答する。途端に創斗の顔は熱を帯び始めた。照れを隠すようにそっぽを向きぶっきらぼうに言葉を紡ぐ。
「……直ったら連絡する。金額もその時に請求するから金の用意はしておけよ」
「おう、頼むぜ!!」
連児はそう言うと店から飛び出していった。店内は嵐が過ぎ去ったかのように静まりかえる。
「ソート、照れてます? 顔赤いですよ」
「余計なお世話だ。……トワル、サーチ頼む」
「ふふふ。了解です」
スマートウォッチを受け取ったトワルは服の中から端子を取り出し接続する。するとトワルのエメラルドグリーンの瞳が輝いた。
「……パーツの一部が破損していますね。これとこれです」
瞳からスクリーンが展開し、パーツの画像が表示された。
「そのパーツなら確かあったな。……さてと、直しますか」
付近の棚からパーツを取り出すと気合を入れるように創斗は腕を捲る。そして作業を開始した。
祭波市都心部の道をスーツ姿の男が歩いていた。背中を丸めトボトボと覚束ない足取りで歩くその姿は体全体で落ち込んでいるのを表しているかのよう。歩く度に赤いネクタイがぶらぶらと揺れ動く。
「はぁ……」
ため息を吐く男。やがて公園にやってくるとベンチに腰掛けた。彼はスマホを取り出し、画面を見る。そこには不採用の通知が写っていた。じっと見つめるがその内容が変わることは無い。
「はぁ……、また駄目だった……」
再び男はため息を吐いた。何故こんな事になっているのか。彼は改めて自分の過去を見つめ直す。
男の名は
その時、スマホにノイズが掛かった。画面が変わり、元気いっぱいな明るい声が響く。
『ハロー! おはよう! こんばんは! みんな大好き、エフェクちゃんねるの時間だよ〜!!』
紫のラインが入った黒いゴシックドレスに身を包んだ少女が右目の横にピースサインを置きながら出現した。
驚く智雄をよそに少女は言葉を紡ぐ。
『就活大変だね、
「!? 何で俺の名前を!?」
その目がさらに見開かれた。
『そりゃあ、調べたからね〜♪ い・ろ・い・ろと、ね♪』
「お前、何なんだ!?」
『ワタシはエフェクト。アーシリーコードのエフェクト。そして、迷える蛹を羽化させるデジタルアドバイザー。よろしくね♪』
エフェクトと名乗ったその少女に智雄は慄く。
『ねぇ、復讐したくない?』
「え?」
『アナタを切り捨てたあの会社にさ』
それはまさしく悪魔のささやき。悪い笑みを浮かべ、エフェクトが言う。
「そ、そんな事出来る訳が無いだろ!!」
『それが出来るんだよね~。力さえあれば』
「力?」
『そう。隣のベンチを見てみて』
智雄が視線を向けると隣のベンチの下にアタッシュケースが置いてあった。
『開けてごらん。そこに力が入ってるから♪』
アタッシュケースを手に取り、恐る恐る開ける。中には銀色を基調とし、紫色のラインの入ったバックル<モッドライザー>と丸型のバッジ<メモリアライズバッジ>が入っていた。バッジはイエローグリーンの色をしており、カマキリのレリーフが刻まれている。
「これが力……!?」
『そうだよ。これがあればなぁんにも怖くない!』
「でも……」
智雄は手を下ろし、俯いた。急な展開に怖気づいたのだ。
『ふ~ん。それでいいんだぁ? ほら、前を見てごらん』
智雄が顔を上げる。目の前には公園で遊ぶ子供やそれを見守る親の姿があった。皆一様に幸せそうだ。そこで彼は思い出した。今日は休日だという事に。だというのに何故自分はこんなにも苦しんでいるのだろうか? そんな疑問が湧き、ふつふつと怒りが込み上げてくる。
『本当なら今頃アナタも幸せに笑っていたかもしれないよね? でもそうならなかった。それはナゼかな〜?』
「あいつらが俺をリストラしたから……」
『ならどうするべきか分かるよね? アナタを切り捨てたヤツラに目にものを見せてやろうよ!』
智雄はバックルとバッジを取り出す。そして、バックルを腰に当てた。瞬間、バックルからベルトが現れ、智雄の腰に巻き付く。
<モッドライザー!>
続けてバッジの上部のボタンを押す。
<マンティス!>
マンティスメモリアライズバッジをモッドライザーにセット。智雄はモッドライザーの横のボタンを押し込んだ。
途端に智雄の姿が黒いアンダースーツとヘルメットに包まれる。ベルトから赤いチューブが伸び、ヘルメットと接続。チューブから怪しいエネルギーが次々とヘルメットへと流れていく。その度に智雄の顔が歪み、苦悶の声が上がる。そして背後に巨大な蟷螂が出現。両手の鎌を振り上げ、威嚇のポーズを取る。
それを見ながらエフェクトは楽しそうに笑いながら高らかに言う。
『電令!』
<ハック! クラック! バーサーク!!>
<アーシリーコード:マンティス! ダウンロード!!>
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
背後の蟷螂は分割され、装甲となって智雄に張り付く。悲鳴を上げながら智雄は変貌を遂げた。イエローグリーンの装甲を纏い、両手には大きな鎌を武装した怪人、マンティスモッドへと。
「ハアッ……ハアッ……。ナンダコレハ!? チカラガミナギル!?」
手の平を見つめマンティスモッドは驚愕を顕にする。
『ふふん。そうだろうそうだろう。モッドシステムには装着者の闘争本能を引き上げる装置が組み込まれているからね』
マンティスモッドの脳内にエフェクトの得意気な声が響く。
『ここからはワタシがナビゲートしてあげる。一緒に頑張ろうね〜♪』
「アァ! コノチカラガアレバ、アイツラニフクシュウデキル!! イクゾ!!」
目指すはかつての職場。マンティスモッドが意気揚々と飛び出した。
「これで……よしっ!」
ドライバーで最後のネジを閉め、創斗が軽く伸びをする。
「さてと。付くかな?っと」
スマートウォッチの電源を入れると画面が点灯。修理が完了した。それを確認すると創斗は満足気に笑みを浮かべる。
その時、
『たった今、入ったニュースです』
店に置かれているテレビでニュースキャスターの女性が深刻な顔で原稿を読み上げていた。
『祭波市の都心部で怪人が出現したもようです。周囲の建物が破壊される被害も出ています。現在、怪人はアナリシスカンパニー方面へ移動中と情報が入っており、周辺の市民の皆様は建物内へと避難し、警察による避難誘導に従い冷静な行動をしてください』
「トワル!」
創斗が勢い良く立ち上がるとトワルを呼んだ。トワルはすぐにやって来た。
「閉店準備は終わっています。行きましょう!」
二人は頷き合うと店の奥へと駆けていく。そして地下へ続く階段を降りると扉を開けた。そこは一面真っ白な広い空間。トワルは身につけていたエプロンを外すと近くのハンガーに掛ける。
露わになるのは彼女の腰に巻かれた装置。それは長方形を横に倒した形で真ん中に丸い空洞が空き、こちらから見て左側にグリップが付いていた。それを創斗が外す。途端にトワルの瞳から光が消え、俯いた体勢で動かなくなる。創斗が装置を腰に当てるとベルトが展開し巻き付いた。
<ヴァリアブルドライバー!>
『ソート、始めましょう』
トワルの声がベルトから聞こえると、創斗が頷く。グリップを展開すると何かを取り付けるスロット出現した。創斗はベルトの左側にあるホルダーから丸型のアイテムを取り出す。それはクリアグリーンのカラーに蜘蛛のレリーフが刻まれたメモリアライズバッジ。その上部のスイッチを押す。
<スパイダー!>
バッジをスロットへセット。創斗は構えをとる。すると背後からエネルギーで出来た設計図が出現した。
<スタートアップ・ローディング! スタートアップ・ローディング!>
「『変身!!」』
創斗とトワルの声が重なる。勢い良くグリップを押し込むとバッジがヴァリアブルドライバーの中心へと移動した。設計図がバラバラになり蜘蛛の姿へと組み替わる。そして黒いアンダースーツを纏った創斗の前に回り込むと再びバラバラとなって創斗の体を覆う。顔以外にエメラルドグリーンの装甲が装着されると胸の装甲、蜘蛛の頭部を象った装甲が何かを吐き出した。それは蜘蛛の巣の仮面。顔に張り付くと複眼が赤く発光する。
<世界を守るライダー! 我らを繋げるスパイダー!!>
<メモリアライズ! バッチグー!>
そこに立っているのは仮面の戦士、仮面ライダーヴァリアブル。壁のボタンを押すと床が空き、そこから一台のバイクが迫り上がってくる。銀色のボディにグリーンのフレームが光るそれはヴァリアブル専用のバイク、ヴァリアルストライカー。それにまたがるとハンドルを握る。
「トワル、道案内頼む!」
『了解です』
壁が開き、外へと続く道が現れる。ヴァリアブルはバイクを発進させた。そしてエンジン音を轟かせながら外へ飛び出していった。
智雄がかつて勤めていたアナリシスカンパニーは凄惨な状況になっていた。逃げ惑う人。運悪く攻撃を食らいうずくまる人。果敢に立ち向かい犠牲となって倒れ伏す人。そしてそんな人達の中心で暴れるマンティス・モッド。両手の鎌から斬撃を飛ばし、周囲を破壊していく。
「ヒャハハハハ!!! イイゾ! モットニゲマドエ!!」
『そうだそうだ! 殺っちゃえ殺っちゃえ!!』
興奮した様子のマンティス・モッド。そんな彼を楽しげに煽るエフェクト。そんな彼ら目掛けてエンジン音が近づいてくる。入り口のガラスが割れ、外からヴァリアルストライカーに乗ったヴァリアブルが現れた。アクセル全開でマンティス・モッドへと突っ込む。
「ウォッ!?」
咄嗟に回避するマンティス・モッド。ヴァリアルストライカーから降り、ヴァリアブルは周囲を見渡すとその凄惨さに仮面の奥で顔を顰める。
「ダレダ、キサマ!?」
『……誰? 初めて見るんだけど……』
突然の闖入者にマンティス・モッドは驚く。エフェクトも驚いてはいるがどこかの他人事のよう。
「おれ
ヴァリアブルがファイティングポーズを取った。
「ナメルナァ!!」
マンティス・モッドが鎌を振り回し、斬撃を飛ばした。対するヴァリアブルは両手を広げるとその攻撃を諸に食らう。装甲が火花散り、背中から床に倒れる。
「ハハァ! ドウダ!!」
攻撃がヒットし喜ぶマンティス・モッド。ところがヴァリアブルは難なく立ち上がった。
「うーん、なるほど。体感的にだけど損傷5%ってところか?」
『いいえ。損傷率7%です』
「マジか。こないだオイルですっ転んだ時よりは痛くないぞ?」
『それだけ装甲の強度が高いといったところでしょう。……検証の為とはいえあまり無茶はしてほしくないんですが』
創斗は装甲の埃を払いながらトワルと会話を交わす。
「強度の確認は大事だろ? で、異常な箇所はあったか?」
『調べましたが今のところ発見には至ってません。そちらはどうですか? 体感的におかしな点は?』
「問題なし。耐久テスト終了」
手足をぶらぶらさせたり、肩を回したりして異変を調べる二人。マンティス・モッドはすっかり蚊帳の外だ。
「バカ二スルナァ!!」
マンティス・モッドが激高。再び斬撃を繰り出す。
<ヴァリアブラスター!>
ヴァリアブルは右のホルスターからメカニカルな銃、ヴァリアブラスターを取り出した。銃口を合わせ引き金を引く。その回数三回。一発目は斬撃を相殺。
『来てるよ! 全部斬れ!!』
エフェクトが警告する。マンティス・モッドが鎌を使い二発目を斬る。そして三発目。
「ハハハ。ドコヲネラッテル!」
マンティス・モッドが嘲け笑いながら避わす。
『ちょっ、バカ!!』
エフェクトがマンティス・モッドを罵った。三発目の弾丸は彼の背後の柱に当たり、跳ね返るとその背中に直撃した。
「グァッ!?」
背中の装甲がへこみ硝煙を上げる。
『なにやってんの! このアホ、マヌケ!! 全部斬れって言ったじゃん!!』
「ウ、ウルサイ!!」
遠距離戦では分が悪いと判断したのだろう、マンティス・モッドが駆け出す。懐へ潜り込むと鎌で切りつける。
<ブレードモード!>
即座にヴァリアブラスターを変形。刀身が現れ、マンティス・モッドの鎌を受け止めた。金属音を鳴らしながらも折れる様子は無い。
「刃こぼれ無し」
『武器の耐久性も充分ですね』
「ならお次は拳だ」
渾身の力で鎌を弾くと左拳で殴りつける。その一撃はマンティス・モッドの顎を直撃。マンティス・モッドは後ろに後退し、手で顎を押さえる。
「グアアッ!!」
「手もそんな痛くない。拳に異常は無いな」
「クソッ! オイ! ナニカ、サクヲダセ!!」
余裕綽々なヴァリアブルを忌々しげに見ながらマンティス・モッドが言う。
『はぁ……しょうがないなぁ〜。いい? 良く聞いてよ』
面倒くさそうな態度でエフェクトが案を出す。それを聞いたマンティス・モッドの態度は明るくなり、最後は力強く頷いた。
「ワカッタ! ヤッテヤル!!」
マンティス・モッドが斬撃を飛ばす。しかし、その方向はヴァリアブルのいない場所。そこにあったのは消火栓。斬撃で切断された消火栓から粉が空気中に舞い、白い煙となってヴァリアブルの視界を妨げる。
「煙幕……」
そして床を蹴り、駆ける足音。マンティス・モッドが隙を狙う。
「モラッタァ!!」
背後からマンティス・モッドが飛びかかる。刃がヴァリアブルに触れる直前、マンティス・モッドの体が何かに阻まれた。大きく撓ると後方へ弾かれる。
「ナンダ!?」
目を剥き、顔を上げるマンティス・モッド。そこにはヴァリアブルを守るように展開された蜘蛛の巣があった。
「悪いな。一応、蜘蛛の力を使ってるもんでね」
ヴァリアブルが手を向けると、彼らの手の平の真ん中にはノズルが付いている。刹那、ノズルから糸が発射。マンティス・モッドの腕に絡みついた。
「よっと!」
ヴァリアブルが腕を振るうと連動してマンティス・モッドが引っ張られる。その脇腹に蹴りを叩き込んだ。
「グハッ!?」
のたうち回るマンティス・モッド。
「蹴りの威力も申し分無し。これにて実戦検証終了」
『敵の攻撃パターンも解析済みです。勝率は100%になりました』
「『たった今、勝利の道は繋がった!」』
創斗とトワルの声が重なる。改めてファイティングポーズを取り、ヴァリアブルはマンティス・モッドを見据える。
「コノヤロウ!!」
怒りに燃えるマンティス・モッドが鎌で攻撃。攻撃と言ってもただがむしゃらに振り回すだけだったが。
『ルート展開。避けて反撃です』
「おう。任せろ」
ヴァリアブルの視界に複数の回避ルートが表示される。そのうちの一つを選び、ヴァリアブルは攻撃を難なく回避。お返しとばかりにクロスカウンター。マンティス・モッドを後退させる。
「ナラバ!!」
マンティス・モッドがモッドライザーを操作。メモリアライズバッジのスイッチを押し、続けてモッドライザーのボタンを押し込む。
<マンティス!>
<セキュリティブレイク!!>
黄緑色の禍々しいエネルギーがマンティス・モッドの鎌に集約される。渾身の力を込めて今まで以上の威力を誇る斬撃を放つ。そして彼は見た。ヴァリアブルが飛んでいるのを。空中で体を捻り身を投げ出す姿を。斬撃はそんなヴァリアブルの横を掠ることなく通り過ぎ、後方で爆発した。マンティス・モッドは思わず後退る。着地を決めるヴァリアブルに傷一つ付いていない。
「ソンナ……」
「必殺技の使い方。教えてやるよ」
ヴァリアブルがグリップを引き出すとメモリアライズバッジのスイッチを押す。
<アクセス!>
そして、グリップを勢い良く押し込んだ。ベルトからエネルギーがヴァリアブルの体全体に広がっていく。
「ふっ!」
両手を掲げ、蜘蛛の巣を連射。マンティス・モッドを囲むように展開される。ヴァリアブルはその内の一つに飛び乗る。すると蜘蛛の巣は撓り弾む。まるでトランポリンのように。ヴァリアブルは蜘蛛の巣から蜘蛛の巣へと飛び移りながらすれ違いざまにマンティス・モッドを攻撃していく。その速度と威力は飛び移る度に速く、強くなっている。
「ウゴケナイ!」
しまったと思った時には既に遅かった。絶え間なく次々と襲いかかる攻撃にマンティス・モッドは身動きが取れない。
「オイ! ナントカシロ!!」
エフェクトに助けを求める。しかし返ってきのは、
「あ~。これはもう無理だね」
と言う諦めの一言だった。
「ナンダト!?」
「まぁ。後は一人で頑張ってよ。じゃ〜ね〜」
その言葉を最後にマンティス・モッドの中からエフェクトの気配が消えた。
<スパイダー!>
<ヴァリアビリティストライク!!>
ハッとマンティス・モッドが顔を上げる。目の前にはヴァリアブルの足の裏。必殺の一撃がマンティス・モッドの胴に突き刺さった。
「ギャアアアアア!!!」
マンティス・モッドが爆発。着地を決めたヴァリアブルが静かに振り返る。煙が晴れるとそこにはスーツ姿の男性が倒れていた。傍らには粉々に砕け散ったモッドライザーが転がっている。
「戦闘終了」
倒れている男性は気絶はしているものの呼吸はしている。命に別状はなさそうだ。
『!? ソート、D.A.T.Aが来ます。行きましょう!』
「分かった!」
トワルが何かを察知。創斗は頷くとヴァリアルストライカーに乗り、アクセル全開。エンジン音を響かせその場を走り去る。
そして。入れ違いになるように黒い軍用のバンが入り口で勢い良く停車。中から戦闘服を纏ったフルフェイスの兵士達がなだれ込んできた。手には銃が握られている。
「動くな! D.A.T.Aだ!!」
兵士達が一斉に銃を構える。だがそこには倒れている男性とボロボロになったオフィスビルのエントランスが広がっているだけだった。
「これは……もう終わってる……のか?」
その内の一人。左肩に赤いバンドを付けた隊長らしい兵士がヘルメットのバイザーを上げる。その目は驚愕に見開かれていた。
「A隊、B隊は俺と一緒に付近を捜索。C隊は救急車を呼べ。応急処置をして待機だ」
「「了解!」」
隊長の指示に兵士達が動き出す。それを尻目に隊長の兵士は小さく呟いた。
「一体何があったんだ……」
紫色の数字が乱雑に漂う黒の世界。そこでエフェクトが地団駄踏んでいた。
「悔し〜い〜。なんだよあれ!! 突然出てきちゃってさぁ〜!!」
手足をバタつかせて体全体で悔しがっている。そこに足音が近づいて来た。
「エフェクト。はしたない真似はよせ」
落ち着いた男性の声。勢い良く起き上がると、その声の方を振り向く。そこには赤と黒のツギハギの服を纏った男性がいた。その左目には眼帯が付いている。
「アンビシャス!」
エフェクトは立ち上がるとアンビシャスに近づく。ぷくっ頬を膨らませ、不機嫌さを隠そうともしていない。
「怪我は無いようだな。無事で何よりだ、エフェクト」
「うん! 大丈夫だよ!!」
アンビシャスがエフェクトの頭を撫でる。その手つきは優しく、慈愛の眼差しをエフェクトへ向けていた。くすぐったそうにはにかむ。
「……それであいつ、ヴァリアブルだっけ? はどうするの?」
「今は無視だ。情報が少ないからな。お前はモッド作戦に注力してくれ」
「りょうか〜い!」
すっかり機嫌が直ったらエフェクトがくるりと一回転して決めポーズ。それを尻目にアンビシャスが顔を上げ、右手を掲げる。するとホログラムの地球が出現した。
「何があろうと必ず人類を削除してみせる」
アンビシャスが手を伸ばし、地球を掴む様に拳を握りしめる。
「全ては我ら
カウンターの席にドカリと座り、創斗は手の平を見つめる。
「おつかれさまです。ソート」
エレクトロ伝導の店内に戻ってきた二人。トワルがカフェオレの入ったマグカップをカウンターに置きながら声をかける。
「ああ」
「体調はどうですか?」
「問題無し。むしろ調子が良い」
そう言って創斗が笑う。無愛想とはいかないまでもあまり顔に態度を出さない彼にしては珍しく嬉しそうだ。
「……ご機嫌ですね」
「そりゃあそうだろ。今日は記念すべき日だからな」
「……」
トワルの表情に少し影が差す。しかしすぐに表情を喜色に変える。だから、創斗はそれに気づかなかった。
「戦闘中、怪人の状態をスキャンしたのですが。やはりわたしと同じようにエルフの反応がありました」
「そっか。お前の目的にも一歩前進したな」
「そうですね」
創斗がカウンターに置かれている写真立てを手に取った。そこには幼い頃の創斗が手を振り上げ笑っている。その隣には彼の頭の上に手を乗せ微笑む男性の姿が。
そう。二人には目的が二つある。一つはトワルの記憶を取り戻す事。そしてもう一つは、
「十年前、父さんを殺した犯人を必ず見つけ出す。何があろうと絶対に」
創斗の目には復讐の炎が燃え上がっていた。