D.A.T.A基地、会議室の扉が勢い良く開け放たれる。入ってきたのは真名子。よほど急いで来たのか肩で息をしている。
「真名子さん!?」
彼女の姿を見たトワルと心護が慌てて駆け寄って来た。すぐに真名子の体を支える。
「大丈夫ですか!?」
「病み上がりなんだから無理するな」
「ごめんなさい。アーシリーコードの居場所が分かったと聞いて居ても立っても居られず」
申し訳無さそうに苦笑する真名子。心護は難しい顔でため息を吐き、トワルは呆れたように笑う。と、再び会議室の扉が開いた。入室したのは和明。その顔はとても険しい。
「皆、聞いてくれ」
声をかけた和明へ視線が集中する。
「先ほど連絡があった。刑務所で根津、猪原、狐坂の三人が何者かに殺害された」
「!?」
途端にざわめく会議室。創斗が一歩前に出る。
「アーシリーコードによる口封じですか?」
「恐らくはそうだろう。だが、こちらが一手早かったようだ」
和明が改めて周囲を見回す。
「今日の正午。作戦を決行する。各員最終確認を行なってくれ」
「「はい!!」」
沸き立つD.A.T.A隊員達。創斗も深く頷くとバッグに装備を詰めていく。そして、一つのアイテムの前で手が止まった。それは以前から開発していた丸型にグリップとスイッチがついたあの装置だった。
「ソート、どうしました?」
「あぁいや……。これどうしたもんかと思ってな」
装置を手に取り、弄びながら創斗は思案に暮れる。
「それって伝導くんが前々から作ってた装置だよね? 実物を見るのは初めてだね」
会話に割って入ったのは玲。興味深そうに装置を見ている。
「パワーアップスイッチって言います。ただ、テストプレイがまだ終わってなくて実戦に持っていくか悩んでたんです」
「成る程な。俺なら持っていく」
今度は心護が会話に加わってきた。
「実戦は何が起こるか分からない。選択肢は多い程良い」
「まぁ、確かにそうですね」
納得がいった創斗はトワルへと向き直る。
「今のうちにベルトを装着してた方がいいかもな」
「そう思って準備は出来てます。いつでも構いません」
得意満面の顔でトワルは服を捲る。現れたヴァリアブルドライバーを外し、創斗は自分の腰に巻き付ける。そして、パワーアップスイッチを腰のホルダーに接続させた。
「行きましょう」
『はい!』
「あぁ」
創斗達が動き出す。玲と真名子は手を振って見送る。彼らの背中へ向けて真名子がぼそりと呟いた。
「どうかお気をつけて」
意味深な笑みを浮かべて。
祭波市郊外の廃工場。おんぼろのソファーに座り、エフェクトが黄昏れていた。彼女の手にはつい昨日貰ったばかりの遊園地のチケットがある。
「はぁ……」
「どうした、エフェクト?」
奥からアンビシャスがやって来る。途端にエフェクトは勢い良く立ち上がり、チケットを後ろ手に隠す。
「べ、別に何でもないよ!」
誤魔化すように明後日の方向を見る。アンビシャスは訝しげに首をひねるが追及はせずに黙る。
その時、傍らのモニターに電源が入った。映し出されたのはクローズアップされた目の画像。即ち、アイだ。
「緊急事態です。D.A.T.Aにここの場所が割れました」
「何だと? 後始末は済ませたんじゃなかったのか?」
「それが。向こうが一手早かったようです。ごめんなさい」
悪い知らせにアンビシャスは露骨に顔を顰める。
「それで、どうするの? 戦うの?」
エフェクトが尋ねる。現状、こちらの戦力はエルフ三名のみ。恐らく向こうも全戦力を投入してくるだろう。数の差で間違いなく不利だ。
「それなんですが。お詫びの品を持ってきました」
工場の外でブレーキの音がする。窓から見るとそこには複数のトラックが停まっていた。遠隔操作でアイが操ったのだろう。運転席は無人だった。トラックの荷台が独りでに開き、中にある物が露わになった。
「まさか。例のアレか?」
「えぇ。完成品を沢山持ってきました」
「そうか。ならばやりようはある。迎え撃つぞ」
アンビシャスが動き出す。その背中へエフェクトが声をかける。
「ねぇ、本当に」
人間は倒すべき敵なの? 思わず喉元まで出かかった言葉を既の所で飲み込む。それ以上を言うわけにはいかない。言ってしまったらきっとアンビシャスが悲しんでしまう。
「エフェクト?」
アンビシャスの声に我に帰り、エフェクトは誤魔化すように曖昧に笑った。
「ううん。何でもない……。さぁ、行こう!」
彼の手を引き、エフェクトは部屋から出ていく。その姿をアイが意味ありげに見送った。
「ここか」
創斗達が見上げるのは郊外にある廃工場。アーシリーコードのアジトとされる場所。事前情報によれば二階建てで鳥瞰図で見るとL字の形をしている。
「行くぞ」
彼らは工場へ向けて歩き出す。周囲を警戒しながら慎重に入り口のドアを開ける。
工場の中は真っ暗だった。遠くを見るのは困難に近い。そこでD.A.T.A隊員達がヘルメットのライトを付けた。少しばかり視界が拓ける。
創斗達が入ったのは長らく誰にも使われていない廃工場の筈だ。だが、その割には掃除が行き届いているのか床に埃一つ見当たらない。
玄関を土足で乗り越え進む。受け付けカウンターらしき部屋を通り抜けて、次の部屋へ。そこはかなり広いフロアだった。
「なんだあれは?」
フロアには沢山の円柱状の物体が綺麗に並んでいた。訝しみながらも部屋へ足を一歩踏み出す。その瞬間、円柱状の物体が起動した。
『侵入者ヲ検知シマシタ。排除シマス』
無数の手足が一斉に展開する。表れたるは厳ついの銃の数々。その全てがこちらへと銃口が向いている。
「総員、変身しろ!!」
メモリアライズバッジを取り出し、心護が叫ぶ。
「号令!!」
<シャット! ガード! ファイト!!>
<データベース:アント! ロールアウト!!>
心護達がマルティプルワーカーへと変身。すぐさまアンテックシールドを呼び出した。同時に銃弾が彼らへと降り注ぐ。それはまるで横殴りの大雨のように激しい。絶え間なく続く攻撃に反撃の隙がない。
「ぐっ!」
「おれに任せて下さい!」
創斗がメモリアライズバッジを取り出す。
<モール!>
「変身!!」
<下から放つアンブロッカブル! 地面を進むモール!!>
<メモリアライズ! バッチグー!>
ヴァリアブル モールへと変わる創斗。そのまま、地面へ潜った。
「そうか!? 下なら!」
弾丸は地面には届かない。ヴァリアブルが物体達の真下から飛び出す。
「そこだ!」
<モール!>
<ヴァリアビリティストライク!!>
両腕を広げ大回転。次々と物体を薙ぎ払っていく。やがて全ての物体が沈黙した。
「よし。これで全部!」
『いえ、待ってください! 何か来ます!!』
轟音を立て、壁が破壊される。現れたのは人形のナニカ。それは勢い良くヴァリアブルへと激突。そのまま彼らを連れて部屋から出ていった。
「伝導!?」
心護が後を追おうと足を踏み出した。だがその歩みはすぐに止まった。人影が二つ目の前に現れたからだ。
「お前らは……」
人影の正体はアンビシャスとエフェクト。
「まさかここまで来るとはな。良いだろう。今日をお前達の命日にしてやる」
そして、二人はシグナライザーを腰に巻いた。
突然飛び込んできたナニカに激突されてヴァリアブルは廃工場の外に放り出された。
「ゲホッゲホッ!」
『ソート、大丈夫ですか!?』
咳き込みながら立ち上がるヴァリアブル。彼らの目の前でナニカが降り立つ。それは人型の機械だった。左手にガトリング、背中には無数のバーニア、そして顔には一つ目が液晶画面に映し出されている。
『まさかピクシーがあっさりと倒されるとは思いませんでした。ふふふ。流石は仮面ライダーヴァリアブルと言った所でしょうか?』
人型の機械はその出で立ちに似合わず流暢な言葉で話す。何処か掴み所の無い得体の知れない女性の声で。
「お前は何者だ?」
『あぁ、これは失礼しました。初めまして。私はアイ。アーシリーコードのアイです。どうぞお見知りおきを』
人型の機械が恭しくお辞儀する。
「アーシリーコード、第三のメンバー……」
仮面の奥で創斗は警戒心を跳ね上げる。
『ちなみにこの体は私の本体ではありません。少し諸事情がありまして、今は遠隔用戦闘機体コボルトを操っています。その事をどうかご了承くださいね』
人型の機械、コボルトが左手を前に出す。途端にガトリングが動き出す。
「マズっ!?」
慌ててヴァリアブルが地面に潜る。銃弾が地面に当たるもののヴァリアブルには届かず土を少し抉るに留まった。
『非常に残念ですが。その動きは先程拝見させて貰いました』
コボルトの目が赤く変わる。熱源反応を感知するサーモグラフィーモードだ。
『サーチ完了』
右手が変形してドリルに変わる。そして、地面に突き立てた。
「ぐあっ!?」
完璧なタイミングでヴァリアブルにドリルが到達する。ギャリギャリと装甲が削られていく。
『せーのっ!』
鋭いアッパーカット。ヴァリアブルが地面から投げ出された。痛む個所を押さえ、彼らは立ち上がる。しかし、傷付いた装甲から黒煙が立ち昇る。
『ソート。パワーアップスイッチを使いましょう』
「!?」
『あれならきっと勝てます』
「それは……」
トワルの提案に創斗が固まった。ホルダーからパワーアップスイッチを取り出すものの何やら煮え切らない様子。そしてそれは決定的な隙。
『油断大敵ですね』
バーニアを吹かしてコボルトがかっ飛ぶ。鋭い回し蹴りを放つ。ヴァリアブルは、創斗は巧みに体を捻り、その一撃を綺麗に躱した。
『何!?』
「トワル。パワーアップスイッチは使わない」
パワーアップスイッチをホルダーにしまう。そして、コボルトを見据えて、仮面の奥で覚悟を決めて、創斗が言う。
「あれは切り札だ。そして、おれ達はまだ追い詰められてない。勝ち筋は残ってる」
『ソート……。……分かりました。わたしも今出来る最善を尽くします。ルート展開!』
ヴァリアブルの視界に複数の道筋が浮かぶ。彼らはホークのメモリアライズバッジを起動させた。
<空から決めろアタック! 獲物を狙うホーク!!>
<メモリアライズ! バッチグー!>
ヴァリアブル ホークにフォームチェンジ。翼を広げ、空へ舞う。コボルトもバーニアを全開にして追った。
空中を二つの人型が飛び交う。片やガトリングを連射して。片やヴァリアブラスターで銃弾を撃ち落としながら。だが、少しずつヴァリアブルに銃弾がヒットしていく。まだ致命傷にはなっていないもののこのままではジリ貧だ。
『速射性、連射性。どちらもこちらが上手ですね』
「んな事は知ってる。それでもこうしたのは勝つ為だ」
出来る限りを躱し、時に腕を交差させて耐える。そして、その時は来た。
『解析完了。ガトリングの性能及びバーニアの性能を把握しました』
「よし、反撃開始だ」
「『たった今、勝利の道は繋がった!!」』
空中で体を反転。ヴァリアブルがコボルトへと向かっていく。上から急降下する形で。
『確かにガトリングの速射性、連射性は脅威ですが。重量がかなりあります。その為、同じ体勢を維持出来る時間は少なく、また重量に重力が加わる為、上からの攻撃ではバーニアの推進力だけではカバー出来ません』
「成る程、な!!」
銃弾をまるで見えているかのように易易と躱し、ブレードモードにしたヴァリアブラスターで斬りつける。コボルトはいとも簡単に地面へと叩きつけられた。途端に舞い上がる土煙。
『くっ』
<ドルフィン!>
<電子の海をサーフィン! 音波で探るドルフィン!!>
<メモリアライズ! バッチグー!>
煙で視界が遮られる中、ヴァリアブル ドルフィンへ姿を変えたヴァリアブルが追撃する。エコーロケーションによる視界外からの正確な射撃。次々とコボルトの左手に着弾していく。
<ドルフィン!>
<ヴァリアビリティショット!!>
イルカの形をしたエネルギー弾がガトリングを破壊した。ガシャンと音を立てて、コボルトの左手が動かなくなる。
「さぁ、これでフィニッシュだ」
<スパイダー!>
ヴァリアブル スパイダーに変わる創斗とトワル。土煙が晴れ、視界が良好となる中、彼らは駆け出した。
『私にはまだ攻撃手段が残っているんですよ?』
ドリルを振り回すコボルト。攻撃をするりと避け、懐に潜り込むヴァリアブル。糸を発射して右腕の第二関節と右足の太ももを縛る。手と足が繋がれ、回転しているドリルが太ももよりしたを巻き込んで破壊していく。
『これは……やられましたね』
右足を失い、バランスが崩れてコボルトが地面に倒れる。
『敵ながら天晴と言っておきましょう』
<アクセス!>
コボルトが、アイが見つめる先ではヴァリアブルが空高くジャンプ。こちらへ向けて足を突き出していた。
<スパイダー!>
<ヴァリアビリティストライク!!>
今のコボルトに避けるだけの力も無い。アイはコボルトの体から抜け出した。ヴァリアブルの一撃がコボルトを貫く。たちまち破裂音と共に大爆発。
ヴァリアブルが着地を決める。
「ふぅ~。勝ったな」
『えぇ。わたし達の勝利です!』
肩をぐるぐる回しながら創斗が一息つく。その時、工場内から轟音が響く。
「こちら伝導! 中の状況を教えてください!!」
『伝導くん、早く向かって! 心護が! 皆が!!』
玲の悲痛な声が響く。
ヴァリアブルがすぐさま工場の中へと駆け出して行った。