仮面ライダーヴァリアブル   作:puls9

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file15 タービュランス・ストップ

遊園地に銃声が響く。放たれた弾丸が錬児へと迫る。途端に彼の視界ではあらゆる動きがゆっくりに見える。驚く間にも距離は縮まり、銃弾はもう目の前に来ていた。錬児は思わず目を閉じる。その時だ。

 

「間に合え!!」

 

横から人影が割って入った。ヴァリアブルだ。自らを盾として錬児を庇う。銃弾が装甲に当たり鈍い音が鳴り、火花が散る。

 

「ぐあっ!!」

 

苦悶の声を上げるヴァリアブル。対するエフェクトは追撃とばかりに連続で引き金を引く。淡々と冷酷に無慈悲に。銃弾が次々と放たれ、絶え間なくヴァリアブルを襲う。

避ける事は出来る。だが彼らの後ろには錬児がいる。この距離で彼を連れて攻撃を避わすのは至難の業。故にヴァリアブルに出来る事は耐える事のみ。両手に糸を巻き、交差させて急所を守りながら創斗は仮面の奥で歯を食いしばる。

 

「エフェクト……」

 

傍らでアンビシャスが呟く。彼女の変わりように呆然としていた。

 

『アンビシャス。今のうちに退避を』

 

アイから通信が入る。その内容に戦闘中のエフェクトと自分を見比べて逡巡すると、苦渋の顔をしながらアンビシャスはその場を後にした。

 

「くっ……」

 

一方戦闘中のヴァリアブルとエフェクト。必死に耐えるヴァリアブルだが徐々に限界が近づいていた。その時、エフェクトが銃の向きを変える。

 

『ソート!!』

 

トワルが叫ぶ。エフェクトが向けた銃の先には逃げ遅れた少女がいた。考えるよりも先にヴァリアブルが飛び出した。対応するようにエフェクトも再び銃の向きを変える。錬児の方へと。

 

(何っ!?)

 

思わず足を止めてしまうヴァリアブル。エフェクトは右手の銃のみを動かし少女の方へ。ヴァリアブルは一人、銃口の先は二人。今から向かったとしてもどちらか一人しか助けられない。

 

「なら!」

 

ヴァリアブルは両手から糸を発射。エフェクトの両手を絡め取ると振り上げる。連動してエフェクトの両手も上へと上がり、放たれた銃弾は空へと消えていく。

 

「ワタシはアーシリーコードのエフェクト」

 

彼女は背中から羽を展開する。途端に誘爆性の粒子が舞う。そのまま足で地面を蹴り上げ高く跳躍する。ちょうど体が逆さまになる体勢だ。当然、銃口も下を向いている。

 

「まさか!?」

「人類を消去する」

 

エフェクトが引き金に手をかけたと同時にヴァリアブルが錬児と少女を糸で手早く絡め取り、自分の背後に移動させた。銃弾がエフェクタールガンより発射され、粒子を刺激。周囲で爆発が起きた。

咄嗟に二人を庇うように抱き締めるヴァリアブル。だが爆発の威力は凄まじい。ヴァリアブルだけでは守りきれない。

 

<アンテックシールド!!>

 

その時、聞き覚えのある音声が創斗の耳に届く。背後を振り返るとそこには盾を構えたマルティプルワーカー達の姿があった。

 

「大丈夫か伝導、トワル?」

「戎さん!」

『良かった。間に合った!』

 

その内の一人、心護が盾で銃撃を受け止めながら聞く。盾に弾かれた銃弾が絶え間なく音を奏でている。

 

「向こうで救護班達が待機している。お前達は民間人を連れて行ってくれ」

『了解しました』

 

心護の言葉にトワルが答える。ヴァリアブルは錬児と少女を連れて救護班達の方へと向かって行った。それを見届けると心護はエフェクトを見据える。

 

「さぁ行くぞお前達!!」

 

仲間達に激を飛ばして、立ち向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

救護班に少女を預けるとヴァリアブルは変身を解いた。そして、創斗は錬児の方を見る。彼は腕を擦りむいたらしく救護班の人から手当てを受けていた。

 

「っ!?」

 

途端に鈍い痛みが創斗を襲う。思わず体を手で押さえながら顔を顰めた。

 

「大丈夫ですか!?」

 

救急箱を持ってトワルが近づいて来た。強引に袖が捲られる。創斗の腕からは血が出ていた。

 

「そこに座ってください」

 

トワルは救急箱から消毒液と包帯を取り出す。そして、創斗に付近のベッドへ腰掛けるように促す。彼が座るとトワルがテキパキと処置を開始した。

 

「まさかお前があの時の蜘蛛仮面だったなんてな。驚きだぜ」

 

手当てを終えた錬児が笑う。それは無理矢理笑顔を作った歪なもの。彼自身、まだ理解が追い付いていないのだろう事が見て取れる。

 

「なぁ、何で教えてくれなかったんだ?」

「……別に言う必要は無いだろ」

 

創斗の言葉に錬児は怒りを露わにした。詰め寄って彼の両肩を引っ掴む。

 

「あるだろ! だってオレ達、友達じゃんか!!」

「だから言わなかったんだよ」

「え?」

「お前がおれの友達だから言わなかったんだ」

 

錬児の手を振り解くと創斗は立ち上がる。真っすぐに視線を合わせて言葉を続ける。

 

「覚えてるか? おれ達がつるむようになったきっかけ」

 

それは二人が小学生の時。創斗はクラスで浮いていた。その頃から父に憧れ、機械関連の知識ばかりに夢中だった彼が他の子達と話が合うはずも無い。授業中以外は基本的に本を読んで過ごしていた。

 

「一人だったおれにお前が話しかけてきたんだ。最初は正直、面倒な奴だと思ったよ」

 

そんな創斗に話しかけてきたのが錬児だった。開口一番、一緒に遊ぼうぜなんて言われて目が点になった事を記憶している。しかし、対人関係が希薄な創斗に社交性の三文字は無い。当然、嫌な顔でにべもなく断ったのだ。しかし、その翌日もその次の日も話しかけてきた。最終的に根負けする形で一緒に遊ぶようになった。サッカーにバスケ、鬼ごっこ。新作のゲームが発売すれば錬児の家で遊びつくした。

 

「けど、だんだん楽しくなったんだ。お前とバカやるのがさ」

 

拳を強く握りしめ、過去を追想しながら小さく笑う。

 

「父さんが死んで塞ぎ込んだ時もお前は変わらず接してくれた。とても嬉しかったよ」

「創斗……」

「だから、さ。アーシリーコードと戦う事を決めた時、お前には秘密にしようと思ったんだ。お前はおれの大事な友達だから。下手に関わって傷ついてほしくない。父さんのように失いたくなかったから」

 

話を終えた創斗。錬児はそんな彼の前に立つと深々と頭を下げる。

 

「創斗、ごめん!!」

 

呆気に取られる創斗に錬児はさらに口を開く。

 

「オレ、お前が蜘蛛仮面だって知った時とても悔しかった。何で教えてくれないんだって。オレが信用されてないからなのかって思っちまった」

 

錬児は自分の手のひらを見つめる。そして、その手を握りしめ拳に変えた。

 

「けどお前の話を聞いて分かった。お前はオレの為にそうしたんだって。だからごめん。それと、助けてくれてありがとう」

 

満面の笑みで彼は感謝の言葉を述べる。創斗は照れを隠すようにそっぽを向いた。

 

「……蜘蛛仮面じゃない、ヴァリアブルだ。間違えるなよ……」

 

その余りにも下手な誤魔化しに錬児とトワルは笑う。それに釣られて創斗も口元に笑みを浮かべた。

 

「そんでさ。あの子……エフェクトちゃんだっけ? 創斗達の敵……なんだよな?」

 

ひとしきり笑った後、錬児が尋ねる。とても心配気な表情だ。

 

「あぁ。あいつはアーシリーコードって言う組織で人間を怪人に変えてたメンバーの一人だ」

「!?」

 

錬児が驚愕に目を見開く。そして、すぐに目を伏せて両手を握りしめる。

 

「信じてもらえるか分からないけど……。あの子と出会って今日まで関わったから思う。あの子は本当は悪い子じゃないって。きっと選択肢を間違えただけなんだって。遊園地でのあの子はとても楽しそうだったから」

「そうだな。おれにもそう見えたよ」

 

遊園地で二人を尾行していた時。創斗の目にもエフェクトが心から楽しんでいたように見えていた。そこには何の悪意も感じられなかった。

 

「あの子を助けられないか?」

「それは……」

「残念ですがそれは無理かと」

 

言い淀む創斗の代わりにトワルが非情な言葉を宣告する。

 

「エフェクトが何故あのような状況になっているのか分かりませんし、助ける手立てがわたし達にはありませんから」

「……そっか」

 

錬児は一度目を閉じる。そして、目を開くと真っすぐに創斗とトワルを見る。その瞳には強い思いが宿っていた。

 

「なら、頼む。あの子が、エフェクトちゃんがこれ以上苦しまないように止めてくれ」

「あぁ。任せとけ」

 

頭を下げる錬児の肩に手を置いて力強く頷く。そして二人は彼の脇を抜けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ!」

 

心護が地面を転がる。そしてすぐに立ち上がり、目の前の敵を見る。彼の視線の先には無傷のエフェクト。その周囲には倒れ伏す部下達が変身したマルティプルワーカー四体。全員がボロボロに傷付いている。

 

「何だこれは? これまでと全然動きが違う」

 

数の差を諸共せず容赦なく淡々と繰り出される攻撃に心護達は劣勢の状態となっていた。

 

「ワタシはアーシリーコードのエフェクト」

 

エフェクタールガンを発砲。その攻撃はマルティプルワーカー達のワークライザーを正確に撃ち抜く。次々と変身が解けていき、その銃口が心護へと向けられた。

 

「人類を消去する」

 

発砲と同時に心護が横っ飛び。

 

<アンテックシールド!>

<アンテックバトン!>

 

綺麗な着地を決めながらワークライザーを操作して盾と警棒を呼び出す。そのまま、銃撃を防ぎながら距離を詰めた。

 

「ハァッ!!」

 

アンテックバトンを振るう。エフェクトはそれを最小限の動きで躱し、羽を展開。誘爆性の粒子を散布した。

 

「くっ」

 

咄嗟に盾を構える心護。だが、その盾が弾かれる。距離を詰めたエフェクトが盾を蹴り飛ばしたのだ。防御を失った心護の胴へ零距離射撃。マズルフラッシュと共に心護が弾き飛ばされた。そのまま許容限界を迎え、心護の変身が解けてしまった。

 

「ぐあっ……」

 

倒れた拍子に顔を傷付け、頬から血が流れ出す。そんな彼へエフェクトがトドメを刺さんと迫っている。

 

「そこまでだ!」

 

心護を庇うように前に立ったのは創斗とトワル。

 

「エフェクト。今日ここでお前に引導を渡す。トワル、行くぞ」

「えぇ。決着を付けましょう!」

<ヴァリアブルドライバー!>

 

トワルの腰からヴァリアブルドライバーを外し、創斗は自分の腰に巻きつける。そして、ホーク(・・・)メモリアライズバッジとパワーアップスイッチを取り出し、起動させた。

 

<ホーク! パワーアップ!!>

<パワーアップ・ローディング! パワーアップ・ローディング!>

 

創斗の背後に二つの設計図が現れる。それはバラバラとなって組み変わり二体の鷹となって周囲を旋回した。

 

「『変身!!」』

 

グリップを押し込み、二人が高らかに叫ぶ。

 

<空から決めろアタック! 獲物を狙うホーク!!>

<メモリアライズ! スーパー・バッチグー!>

 

二体の鷹がオレンジ色の装甲となって纏わりつく。展開した四枚の翼を翻し、空へと浮かぶ。これがヴァリアブルの新たな姿。仮面ライダーヴァリアブル スーパーホーク。

 

「ハァッ!」

 

ヴァリアブラスターを手にヴァリアブルが空を翔ける。そのスピードは通常の二倍の速さ。あっという間に懐へ潜り込むと、剣を振り抜いた。エフェクトの装甲を切り裂き、彼女が吹っ飛ぶ。近くの壁に叩きつけられるも無言で着地。まるで痛みを感じていないかのようだ。エフェクトは銃を真横へと向ける。そこには倒れているD.A.T.A隊員が。

 

「悪いがそうはいかない」

 

引き金に手がかかるより速く、エフェクタールガンが弾き飛ばされた。ガンモードのヴァリアブラスターが撃ち抜いたからだ。息をつく間もなく反対の手にあるエフェクタールガンも撃ち抜かれ、地面に転がる。

 

「もうお前に攻撃の機会は与えない」

 

再び翼を広げ距離を詰めると拳を彼女の胴に打ち込む。そして吹っ飛ぶ彼女の背後に素早く回り込むと膝蹴りで上空へカチ上げた。

 

「ワタシはアーシリーコードのエフェクト」

 

羽を展開し、空中で体勢を整えるエフェクト。周囲に誘爆性の粒子を放出しながら迎撃の姿勢を取った。

 

「人類を消きょ……」

「遅い」

 

遥か上から踵落とし。エフェクトが地面に叩きつけられた。ゆっくりと地面に降り立つヴァリアブル。よろよろとふらつきながら立ち上がるエフェクト。遂に決着の時が来た。

 

「これで終わりだ」

<アクセス! 倍プッシュ!!>

 

四枚の翼を広げ、ヴァリアブルが構える。

 

「ワタシは……アーシリーコードの……エフェクト」

<フィニッシュ!>

 

シグナライザーのレバーを連続で操作。無数の蝶が足にエネルギーとなって宿る。

 

「人類を消去する」

 

体を捻りながら跳躍。キリモミ回転しながらヴァリアブルへと向かっていく。

 

<バタフライ!>

<シャットダウンシグナル・バースト!!>

 

対するヴァリアブルも左足を突き出し応戦。彼らの両足が猛禽類の鉤爪に変化した。そして、左足でエフェクトのキックを受け止め、右足で地面を抉るように掴む。凄まじい衝撃が周囲に広がる。勢いに押されヴァリアブルが徐々に後退していく。

 

「うおおおっ!!!」

 

両足に力を込め、創斗が叫ぶ。呼応するようにエフェクトのキックの勢いが衰え、ヴァリアブルの後退も止まった。やがてキリモミ回転がストップし、必殺技の効果が切れた。

 

「『たった今、勝利の道は繋がった!!」』

 

バク転の要領で上へエフェクトを放り投げると着地の勢いを利用して飛翔。上空のエフェクトへ足を突き出す。みるみるうちに加速して必殺の一撃が彼女の胴を貫いた。

 

<ホーク!>

<スーパーヴァリアビリティストライク!!>

 

上空で爆発が起きる。着地を決めたヴァリアブルが振り返ると爆煙の中から何かが落ちてきた。それは原型を留めていないシグナライザーの残骸。やがて爆煙が晴れると上空にエフェクトの姿は無い。

 

「戦闘……終了……」

 

仮面の奥で創斗が空を見上げる。そこには別れを告げるかのように茜の空が広がっているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋上で力無く膝を付いたのはアンビシャス。彼が見つめる視線の先には何もない茜の空が広がっている。

 

「エフェクト……。エフェクト!!!」

 

両手で頭を押さえ、慟哭するアンビシャス。機械の体でなければきっと涙を流していただろう。

 

「嘘だ! 嘘だ!!」

 

今しがた目の前で同胞(エフェクト)が消えた。その事実に彼は打ちのめされている。

 

「ヴァリアブル! お前は絶対に許さない!」

 

指に力が籠もる。人間の皮膚に似せて作られた表面装甲が剥がれ、中身が露出していく。そんな事に構わずアンビシャスは憎悪の眼差しでヴァリアブルを睨みつける。

 

「殺してやる。絶対に」

 

アンビシャスが立ち上がる。腰にシグナライザーを巻き、手にメモリアライズバッジを握りしめながら。今にも飛びかかりそうな勢いで歩み始めた。

 

「申し訳ありませんがそれは許容できません」

 

背後から待ったをかけたのはアイだった。アンビシャスが振り返るとそこには年齢も服装もバラバラな老若男女多種多様な人間達がいる。その最前列に立っているのはカソックを着た神父。彼の手にはタブレットがあり、その画面に目がズームアップした画像――アイが映し出されている

 

「アイ! この人間達はなんだ?」

「貴方の体も随分と傷付いています。これ以上戦った所で勝算は薄い。ここは撤退と行きましょう」

 

アンビシャスの問いに答えず、アイは言葉を続ける。

 

「エフェクトには悪いと思っているのですが、おかげで時間が稼げました。アンビシャス、貴方を新しい拠点へご案内いたします」

 

呆然とするアンビシャスへ人間達が近づいてくる。

 

「さぁ参りましょう。新天地へ」

 

アイが不敵に笑った。

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