「ぐっ」
床に降ろされたアンビシャスが苦悶の声を上げる。場所はとある場所にあるアーシリーコードの拠点。
「大丈夫ですか、アンビシャス様?」
「触るな!!」
カソックを来た男がアンビシャスを支えようと駆け寄る。彼は差し出された手を払い除けた。そして、嫌悪を隠さない険しい顔で睨みつける。
『アンビシャス。そのような言い方はいけませんよ?』
アンビシャスが顔を上げる。目の前にはタブレット端末の置かれた祭壇。そこからアイがアンビシャスをたしなめる。祭壇の前には跪く三人の信者の姿が。アンビシャスより先に助けられた大神一家だ。
「あぁ。ありがとうございます! ありがとうございます!」
「エルフ様万歳! アイ様万歳!!」
そう、賛美の声を上げている。
『ご苦労さま、アクロ。よくやってくれました』
その言葉にアンビシャスが目だけを後ろへ向ける。彼の背後には黒色の長く流れるようなマントを羽織り、王冠を身に着けた無愛想な男が立っていた。アクロと呼ばれたその男が口を開く。
「あぁ。全てはアイの為に」
抑揚も声色も無い冷たい声で彼は簡潔にそう答える。
「さて。大神 当郎とその家族の皆様。貴方達を助けたのには訳があります」
「なんでございましょう? 私共にできることでしたらなんでもいたします!」
言われれば命でさえ差し出しそうな勢いで大神が言う。両隣にいる母と息子も同調して頷く。そんな彼らを見てアイは嬉しそうに笑う。
「
「はっ」
カソックを身に着けた男、毒島がアッシュケースを持って戻って来た。毒島はそれを手に取ると大神の前で開いてみせる。中に入っていたのはこれまでと異なる色をしたモッドライザー。
「これは……?」
「これは従来のモッドライザーを改良した強化兵器です。この力を仮面ライダー相手に試してきてください」
「お任せください! アイ様より賜ったこの力で必ずや! かの異端者共を血祭りにあげてみせましょう!!」
大神はそれを手に取ると歓喜の声を上げた。
「はい。今のところ問題ありません」
線路沿いの道。フェンスと街路樹が設置された箇所の片隅で仁美が電話をかけていた。その声色は真剣そのもので明るく朗らかな印象は消え失せている。
「引き続き任務を遂行いたします。全ては■■の為に」
その時、電車が彼女の前を横切った。その音にかき消され大事な部分は電話の相手にしか聞こえない。
「さて行きますか!」
通話を終え、携帯をポケットにしまい込むと仁美はいつもの明るい表情に戻ると歩き始めた。
一方その頃。創斗達はD.A.T.A基地に戻っていた。四人がいるのは研究室。テーブルを中心に四人で囲んでいる。
「はぇ〜。てことはやっぱりアーシリーコードはアーシリーコードだったのか」
「言いたい事は分かるがなんかややこしいな」
向こうでの経緯を聞き終えし納得している玲。右隣に座った心護が缶コーヒーを飲みながら呟く。
「それはそれとしてキマイライザーの使い心地はどうだった?」
「あぁ、予想以上だ。モッド複数とも渡り合えた。流石は夢崎だな」
「へへん。そうでしょ!」
玲が得意げに胸を張る。
「おかげでおれ達も助かりました」
「ヴァリアブルに勝るとも劣らない性能でしたね」
創斗とトワルも褒め称える。皆の称賛を聞き、玲の笑みはいっそう深くなった。そして、懐から新しいメモリアライズバッジを取り出した。
「ほい。新しいバッジ。使ってみて」
「あぁ、助かる」
心護がバッジを受け取る。
その時、研究室の扉が開く。入室してきたのは真名子。彼女はゆっくりと近付いてくる。
「兄さん。皆さん。つい先程、大神一家の指名手配が完了しました」
「そうか。分かった」
心護の報告を受けて、和明はすぐさま指名手配の準備を始めた。それがさっき成されたのだ。真名子の言葉を聞いた心護が立ち上がる。
「俺はパトロールに向かう。お前達はどうする?」
「創斗。わたし達も行きましょう」
「だな」
創斗とトワルも立ち上がった。三人は共に研究室を後にする。
「真名子ちゃん久しぶり〜。最近中々会えなかったけど、元気にしてた?」
「はい。部署が違うと中々会えませんからね」
真名子を呼び止め、玲が座るように促した。彼女が椅子に座るとカップにコーヒーを淹れて渡す。
「ふふ、美味しい」
真名子はコーヒーを口に付ける。そして、玲の方を見た。
「大丈夫ですよ。私もちゃんとやってますから」
そう言って微笑んだ。
「お待たせしましたっす!」
台並区の広場に創斗とトワル、心護と複数のD.A.T.A隊員達が集っていた。そこへ仁美が合流する。
「ああ。それとこれを」
心護が手渡したのはワークライザー。
「本日より君をマルティプルワーカー部隊に配属する事となった。頼むぞ」
「了解!」
仁美が敬礼する。
「よし、これより大神 当郎およびその妻子の捜索に当たる。彼らはアーシリーコードと繋がっている。気を引き締めて行動せよ」
心護の言葉に頷き、隊員達が一斉に行動を開始した。
その時だ。背後より声が掛かる。
「その必要はありませんよ」
振り返るとそこには大神一家が立っていた。三人は自信満々に不敵な笑みを浮かべている。
「大神 当郎!!」
創斗はトワルの腰からヴァリアブルドライバーを外して手に取った。心護や仁美達D.A.T.Aの隊員も各々の武装へ手を掛けている。
「アイ様の命により貴様らを血祭りに上げて見せましょう」
大神が指を弾くと彼らを囲むように円柱型のロボットが出現した。ロボット達の腕には機関銃やらが装備されている。その銃口は既に創斗達の方を向いていた。
「あれはアーシリーコードの拠点で見た奴ら!?」
「そうこれこそアーシリーコードが誇る自動戦闘兵器、ピクシー! そして、」
<モッドライザー!>
「「電令!」」
能真と蛙子が腰にモッドライザーを巻く。すぐさまメモリアライズバッジを起動させてホース・モッドとフロッグ・モッドへと変身を遂げた。二人の変身を見届けると大神がバックルを取り出す。そのバックルを見て一同は目を見張った。
「モッド……ライザー……なのか?」
彼の手に握られていたのは従来の物よりサイケデリックな色合いをしたモッドライザー。これを腰に巻く。
<モッドライザーMarkⅡ!>
<マンティス!>
「電令」
モッドライザーMarkⅡへバッジを取り付けて高らかに宣言する。
<ハック! クラック! バーサーク!!>
<アーシリーコード:マンティス! アップロード!!>
大神の体が紫色のアンダースーツに包まれる。そして現れた蟷螂が装甲となって彼の体に装着された。両手の他に背中から伸びた二本の腕には鋭い鎌が付いている。まさしく人型の異形と呼ぶに相応しいその姿こそ、アーシリーコードの新たな尖兵、マンティス・モッドMarkⅡ。
「サァ、覚悟シロ」
四つの腕を構え刃先を創斗達へ向ける。大神――マンティス・モッドMarkⅡは臨戦体勢を取った。
「やるぞ、皆!」
<キマイライザー!>
心護が声を上げて鼓舞する。彼の言葉に頷き、創斗もヴァリアブルドライバーを腰に巻いた。
<ヴァリアブルドライバー!>
<スパイダー!>
<レオ!>
メモリアライズバッジを起動させて各々のアイテムにセットする。
<スタートアップ・ローディング!>
<スタートアップ・ローディング!>
彼らの周囲を蜘蛛と獅子が動き回る。
「「変身!!」」
<世界を守るライダー! 我らを繋げるスパイダー!!>
<メモリアライズ! バッチグー!>
<覇王! 魔王! 百獣の王!!>
<データベース:レオ! ガオー!!>
装甲を纏い、二人が変身を果たした。傍らではD.A.T.A隊員達がマルティプルワーカーへと姿を変える。
「マルティプルワーカー部隊はピクシーを、伝導は二体のモッドを頼む。俺は大神の相手をする。」
「了解です」
「行くぞ!!」
その言葉を合図に両者が一斉に駆ける。
先手を取ったのはピクシー。射撃武器を掃射する。
<アンテックシールド!>
銃撃を阻んだのはマルティプルワーカー部隊。盾を構えて攻撃を防ぐ。その脇を仁美が変身したマルティプルワーカーが抜けていく。
<アンテックバトン!>
素早い身のこなしで銃弾を躱しながら距離を詰める。
「ハァッ!!」
渾身の力でアンテックバトンを振り下ろした。鈍い音を立ててピクシーの一体が吹っ飛ぶ。地面を転がったそれは所々が破壊され、動きが慢性になった。
<アンテックライフル!>
トドメの一撃が放たれ、ピクシーが爆散した。
「うっし! ドンドンいくっすよ!!」
片手に警棒を、もう片手に銃を持ちながら仁美――マルティプルワーカーが次の標的へと向かっていった。
「フッ!」
その頃、ヴァリアブルは心護の指示通り、ホース・モッドとフロッグ・モッドと激しい戦闘を繰り広げていた。
素早く死角へ回り込んで来るホース・モッドと遠距離からビーム状の舌を振り回すフロッグ・モッド。その波状攻撃をヴァリアブルは次々と躱していく。
「ナゼダ!? ナゼ、アタラナイ!!」
「決まってんだろ? その動きはもう見てる」
ヴァリアブルもだがマルティプルの視界にもカメラ機能が付いている。つまり彼らの戦闘シーンは既にヴァリアブルも見ており、トワルが解析を済ませている。
「だからもう当たらねぇよ!」
死角から振るわれたホース・モッドの拳を掴むと一本背負いで投げ飛ばす。続け様に蹴り飛ばしてフロッグ・モッドへぶつけた。二体は仲良く地面を転がった。
「ナラバ!」
「「アンインストールモード!!」」
立ち上がりながら二体が叫ぶ。呼応するように複眼が赤く輝き、繋がったチューブからエネルギーが勢いを増して流れ込む。
「「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」」
咆哮を轟かせ二体が駆ける。
「コロス!」
「コロス!」
「「コロスゥゥゥ!!」」
動きはめちゃくちゃで不規則。ただ破壊衝動に身を任せた攻撃だ。一体だけならばそこまでだが、二体が相手だと流石のヴァリアブルも躱しきれなかった。ホース・モッドの蹴りとフロッグ・モッドの舌が左肩と脇腹を直撃する。
「ぐあっ!?」
『ソート!?』
「ニガスカ!!」
地面を転がるヴァリアブル。すかさず追撃が迫る。ヴァリアブルは近くの枝に糸を発射して、距離を取る。
「流石に分が悪いな。ここからは出し惜しみ無しで行くか。トワル、相手の動きを予測してくれ」
『えぇ、任せてください』
<モール! パワーアップ!!>
モールメモリアライズバッジを取り付けたパワーアップスイッチを起動させ、ベルトにセット。
<パワーアップ・ローディング! パワーアップ・ローディング!>
装甲が外れたヴァリアブルの背後から二枚の設計図が出現。設計図が二体の土竜の姿を形成して、ヴァリアブルを守るように周囲を動き回る。そのままグリップを押し込んだ。
<下から放つアンブロッカブル! 地面を進むモール!!>
<メモリアライズ! スーパー・バッチグー!>
二体の土竜が装甲となって纏わりつき、腕だけでなく足にもシャベルのような鉤爪が装備される。仮面ライダーヴァリアブル スーパーモールの誕生だ。
「『たった今、勝利の道は繋がった!!」』
「コンノォ!!」
そんな事は関係ないとホース・モッドが突進してくる。ヴァリアブルは慌てる事なく地面へと潜り込んで避わす。
「ワタシニマカセナサイ!!」
フロッグ・モッドが舌を振り回して地面を叩く。たちまち亀裂が入り、至る所で破壊の後が生まれる。しかし、そこにヴァリアブルの姿は無い。
「甘いぜ」
「キャアアア!!」
背後からヴァリアブルが飛び出して鉤爪を振るう。装甲が火花を散らしてフロッグ・モッドが仰け反った。
「カアサン!!」
『よそ見は厳禁ですよ』
母が攻撃を受け、ホース・モッドの動きが止まる。彼の死角からヴァリアブルがラリアットを仕掛けた。二体が同じ場所に集められる。
<アクセス! 倍プッシュ!!>
ベルトを操作したヴァリアブルが構えを取る。しっかりと助走をつけて二体の元へと飛び込んだ。
<モール!>
<スーパーヴァリアビリティストライク!!>
体を横回転させながら攻撃が二体を直撃。爆発が晴れると二人が気を失いながら地面に倒れていた。
「戦闘終了」
そう言いながらヴァリアブルがスパイダーの姿へ戻る。糸を発射して二人を拘束したのだった。
「クックック。コノ力ヲ見セテヤル」
マルティプルもマンティス・モッドMarkⅡと対峙していた。四つの鎌を振り回しながら攻撃を仕掛ける。振り下ろされた両腕を抑えるも背中から伸びた鎌がマルティプルを抉った。ギャリギャリと音を立てて両肩の装甲が削り取られ、マルティプルが後退る。
「くっ!」
マンティス・モッドMarkⅡの腕は四本。単純に手数が増えた事で対応しきれない。
「なら!」
マルティプルがメモリアライズバッジを取り出してキマイライザーにセットする。取り付け場所は右のスロット。
<キマイライズ・レオ、スネーク! ブレスト&ライトアーム!!>
マルティプルの右手に蛇の装甲が纏わりつく。すかさず攻撃。蛇の装甲が鞭のように撓りながら迫った。
「効キマセンヨ!」
だが、その攻撃は四本の腕が難なく阻む。
「遠距離ハソチラノ専売特許デハアリマセン」
マンティス・モッドMarkⅡの背中の腕が伸びる。よく見ると腕はワイヤーで接続されていた。それはまるで鎖鎌のように自由自在に動き回りマルティプルの装甲に次々と傷を入れていく。そして、トドメとばかりに左右から挟み込む形で迫る。
「シネ!!」
二本の鎌がマルティプルに直撃した。だが、
「おらぁぁ!!」
次の瞬間、渾身の力で弾き飛ばされた。
<キマイライズ・レオ、ゴート! ライトアーム&レフトアーム!!>
「何ィ!?」
マンティス・モッドMarkⅡが驚愕に目を見開く。マルティプルの両腕には二体のバッジの装甲が装着されている。右手には獅子のガントレット、左手には山羊の角を模した二本のドリルが鎌を弾き飛ばしたのだ。
「はああっ!」
動きが止まったマンティス・モッドMarkⅡの元へ素早く辿り着くと両手の武器を交互に操り連撃を繰り出した。その全てが胴を捉える。
「グワァーッ!?!!」
マンティス・モッドMarkⅡが片膝をつく。もはや満身創痍の状態だ。
<デリート!>
ベルトのボタンを押してマルティプルがマンティス・モッドMarkⅡを見据える。エネルギーが両腕に流れ込んでいく。
<レオ! ゴート!>
<エリミネーションファング・デュアル!!>
マルティプルが両腕を振るうと獅子と山羊を象ったエネルギーが放たれた。そしてマンティス・モッドMarkⅡを必殺の一撃が飲み込む。
「ギャァァァッ!!!!」
爆発を起こし、マンティス・モッドMarkⅡが倒された。爆発が晴れるとそこには気絶した大神の姿があった。
周囲を見渡すとピクシーの残骸が転がっている。マルティプルワーカー部隊が鎮圧に成功したようだった。
「心護さん!」
そこへヴァリアブルが駆け寄ってくる。彼らの足元には拘束された能真と蛙子が座り込んでいる。
「そっちも終わったようだな」
「はい。この人達はどうするんですか?」
「基地に連行する。アーシリーコードの情報を吐かせるためにな。お前達、運ぶぞ。手伝ってくれ」
マルティプルの指示を受け、隊員達が向かってくる。
「…………」
そんな光景を見つめる人影があった。マントを羽織り、王冠を身に着けた男、アクロだ。
『残念。倒されてしまいましたか』
彼を通じて拠点からアイが様子を伺っている。残念という割には余り悲しんではいない態度だ。
『とは言え、初陣としては上々です。D.A.T.Aの最新テクノロジーを追い詰められましたから。アクロ、戻って来て下さい』
「了解」
アクロが踵を返す。
その時、気配に気付いたヴァリアブルが振り返る。だが、時すでに遅し。彼の姿は見えなくなっていた。
「ふんふんふ〜ん」
夕暮れ時の河川敷。そこに設置されたベンチに座り、錬児はパンの包みを開ける。買ってきたのはカレーパン。香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。錬児は勢い良くかぶりついた。
「うんめぇ~! やっぱ、仕事終わりの食いもんは格別だな!!」
エレクトロ伝導での業務を終えた錬児。現時刻は十七時。夕飯には早いがお腹は空く。その為、コンビニで温めたカレーパンに舌鼓を打つ事にしたのだ。
「にゃーん」
匂いに釣られたのか黒猫が錬児の足元にいた。
「おー、よしよし」
パンをベンチの上に置くと錬児は黒猫の前に屈む。そして手を伸ばしてあやそうとした。しかし、黒猫は彼を無視すると素早くパンを咥えて逃げ出した。
「ド、ドロボー!!」
慌てて追いかける錬児。一匹と一人の距離は中々縮まらない。それでも錬児は諦めずに追いかける。いつの間にか橋の真下まで来ていた。その中の茂みに飛び込む黒猫。錬児も続く。
「うわぁぁぁぁっ!?」
茂みの向こうは坂道になっていた。ごろごろと転がりやがて広い場所に出る。
「痛てて……」
服の汚れを払いながら立ち上がった錬児は目を見開く。目の前には不法投棄されたごみの山。そこに倒れていたのはボロボロになったゴシックドレスを身に付けた少女。弱々しい眼差しでこちらを見つめている。
「エフェクト……ちゃん……?」
錬児が呆然と呟いた。