「余の……名は……アクロ。アーシリーコードに……仕えし……エルフ……。全てはアイの……為に……」
双刀を手に漆黒の戦士、仮面ライダーアクロが動き出す。相対するはヴァリアブルとマルティプル。
<キマイライズ・レオ、ゴート! ブレスト&ライトアーム!!>
バッジを取り替え、マルティプルの右腕に山羊の角が装着される。ヴァリアブルもヴァリアブラスターをブレードモードにして迎撃の構え。
先に動いたのはアクロ。音も無く距離を詰めると両手の剣を振るう。
「くっ!?」
「ちいっ!」
それぞれの得物がぶつかり合い、けたたましい音を響かせる。そして、ヴァリアブルとマルティプルが後方へと押し退けられた。
「なんてパワーだ……!?」
思い浮かべるのはエフェクトとアンビシャス。しかし、目の前の敵はそれ以上の力を誇っている。
「なら!」
近接戦闘は不利と判断して、ヴァリアブルはヴァリアブラスターをガンモードに変形させた。即座に連射。放たれた弾丸がアクロへと迫る。
「……」
無言のままアクロは背中から羽を展開した。そして、迫る弾丸を双刀で弾き飛ばしながら跳躍。空を滑空しながら弾丸を避けていく。そのまま流れるようにに急降下。双刀が振るわれた。
「くっ!」
『ソート、駄目!!』
攻撃を避ける為に電柱へ糸を飛ばすヴァリアブル。巻き取り機能を発揮させたその直後。アクロが双刀の片割れを投げて糸を切断。巻き取り途中で投げ出されヴァリアブルが地面を転がった。そこへアクロの攻撃が炸裂。
「ぐあっ!!」
左肩から胴へ向けて切りつけられ火花が散る。仮面の奥で創斗は苦悶の表情を作った。なおも攻撃せんとアクロが武器を振り上げる。
「させるか!」
すかさずマルティプルが突進。山羊の角を振るう。対するアクロは体をずらして避わすとカウンターを決める。空いた左で胴に拳が叩き込まれた。
「がっ!?」
追撃の蹴りが見舞われ、マルティプルが地面を転がる。
「強ぇ……」
未だ大きなダメージを与えられない。悠然と佇むアクロを見て、歯噛みする。その時、背中から衝撃が襲ってきた。
「がぁっ!?」
振り返るとそこにいたのはラビット・モッドMarkⅡ。
「へへ。コノママ始末シテヤル!」
背後から不意打ちを決め、得意げな声を上げる。
「くっそ……。ただでさえ面倒な時に」
アクロに気を取られて存在が頭から抜け落ちていたのが仇となった。仮面の奥で悪態をつきながらラビット・モッドMarkⅡを睨むマルティプル。
「戎さん。こっちはおれ達に任せてください」
隙をついて体勢を整えたヴァリアブルがアクロと対峙する。
「……分かった。そっちは任せる」
マルティプルは逡巡の後にラビット・モッドMarkⅡに向き直った。
外で絶えず轟音が響く。心護や創斗、トワル達が戦っている事を示す戦闘の音だ。
「……」
卯川の研究室で玲は一人膝を付いて俯いていた。今まで多くの人達がモッドになる光景を見てきた。でも、自分の親しい人がモッドになるのは初めてだった。だからこそ玲の精神的なダメージはとても大きい。ましてそれが共に研究者の道を歩んできた友人なら尚の事。
「はは……。アタシ、卯川くんの事全然分かってなかったんだなぁ……」
ぽつりと弱音が漏れる。
自分と同じでひたすら研究に没頭しているのだと思っていた。まさかあそこまで追い込まれていたなんて予想だにしていなかった。
沈痛な面持ちの彼女の耳にひときわ大きい轟音が響く。戦闘による衝撃か、部屋全体が揺れる。その拍子に兎のロボットが棚から落下した。
「危ない!!」
声を出すよりも早く体が動いていた。地面を蹴ってダイブ。ロボットをしっかりと両手で受け止める。しかし、勢い余ってそのままテーブルの足に額を打ち付けてしまった。
「ぎゃん!?」
おでこを抑えながら悶え苦しむ玲。やがて痛みが引いてくると、彼女の顔に自然と笑みが溢れた。
「良かった。……あ、」
その時、玲はふとあの時の事を思い出した。
小さい頃から物を作るのが好きだった。より正確に言うならば自分の作った物で誰かが笑顔になるのが好きだった。だから夢崎 玲にとって工学系の道を歩むのは自然な流れであり、彼女本人もそのまま数多の研究に携わる研究者の道に向かうと信じて疑わなかった。そこに転機が訪れたのは大学卒業を意識し始めた時期のある日の事。
その日は大学の文化祭だった。大学の学生達は皆、日々の成果を見せるべく様々な展示物や催し物を用意していた。
玲は高行と共に開発した兎のロボットを展示した。テーブルの上には兎のロボットの他、同じ工学部のメンバーが作った発明品も置かれている。
「設営完了! 準備万端だね!!」
額の汗を拭いながら満足気に笑う。展示物の最終チェックを終え、もう間もなく文化祭が始まる。実行委員による点呼が終わればそこからは怒涛の連続。来場者達に展示物の説明をしたり、実際に動かして見せたり等、気が付けば昼が来て、三時を過ぎていた。来場数がまばらになり落ち着いてきた頃、事件は起きた。
「危ない!!」
いち早く気付いた玲が叫ぶ。来場者の一人が展示物の一つにぶつかったのだ。そしてそれは彫像を模した大きな展示物。その展示物がゆっくりと傾き、近くにいた男の子の方へと倒れ始めた。
(まずい!?)
玲は目を大きく見開く。頭の中でこれから起こる予測が脳裏を駆け巡る。
(どうする?)
距離的に間に合わない。そもそも間に合っても、巻き添えを食らって事態を悪化させるのが目に見えている。そしてそれ以上に、恐怖が彼女の足を竦ませた。
(そっか、アタシには何も出来ないんだ)
そうこうしている間に彫像と男の子の差は縮まっていた。もう駄目だ。そう思った時、玲の横を一陣の風が抜けていく。それは人だ。自分と同年代くらいの青年。彼は勢い良くダイブすると。男の子を庇うように抱き止める。
「ぐあっ!!」
彫像が背中に当たり鈍い音が響く。青年が苦悶の声を上げた。
「大丈夫ですか!?」
「あぁ、大丈夫だ。ちょっと痛むが鍛えてるからこれぐらいなら問題ない」
すぐに生徒達が駆け付け、彫像を退かす。青年はまだ痛みが残る背中を擦りながら起き上がる。そして、自分が助けたい男の子に優しく声をかけた。
「あっと。君は大丈夫か?」
「うん。助けてくれてありがとう! おじさんこそ大丈夫?」
「ああ。お兄さんは大丈夫だ」
幸い男の子には傷一つ無いようだった。青年が男の子の頭を撫でながら笑いかける。
玲はその光景を見てある一つの感情が芽生えた。それは、
(悔しい)
だった。
もし自分が誰よりも早く動けたらのなら。もし自分が倒れてくる彫像を支えられる力があったなら。あの青年が背中を怪我する事は無かっただろう。そしてなにより自分にもっと勇気があったなら、自分があの子を助ける未来もあったのかもしれない。
そう思い至ると無意識に固く拳を握りしめていた。
(だったらアタシのやるべき事は、一つ!)
彼女の心は決まった。
誰かを守れる発明を。誰かを守ろうとする人を守れる発明を。誰かを笑顔にするだけじゃない。誰かを笑顔にする人さえも助けられる物を作る。
それが夢崎 玲がD.A.T.Aに入ったきっかけであり、初めて心護と出会った一件であった。
「ぐっ!」
マルティプルが再び地面を転がった。ダメージは大きく、中々立ち上がれないでいる。仮面の奥で苦虫を噛みつぶしたような顔で前を見ると、ラビット・モッドMarkⅡが迫って来ていた。
その時だ。両者の間に兎のロボットが割って入る。
「!?」
驚く二人。マルティプルの後ろから人影が現れる、彼の手に付けてあるワークライザーを操作する。
<アンテックライフル!>
人影は銃を喚び出し手に取った。そして銃口をラビット・モッドMarkⅡに向けた。
「夢崎!」
「玲……」
銃を手にしたのは玲。緊張した面持ちで構えている。
「何やってる! 危ないぞ!」
「知ってる。それでもアタシがやらないといけない」
マルティプルに対して彼女は毅然とそう答えた。
「ねぇ。卯川くん。もう辞めよう。これ以上戦っても意味無いよ」
「ソンナ事ハ無イ! 俺ニハアーシリーコードガ必要ナンダ!!」
「……本当にそう思う?」
「何?」
玲の言葉にラビット・モッドMarkⅡは訝しむ。
「アタシは知ってるよ。卯川くんが本当にやりたい発明がどんなのかを」
「!?」
「卯川くんは皆を笑顔にする発明がしたいんだよね」
そこで言葉を区切ると一度目を閉じた。そして覚悟を決めた顔でラビット・モッドMarkⅡを見据える。
「だからアタシは卯川くんを助ける」
「何ダト?」
「アタシはね。誰かを守れる発明がしたい。誰かを笑顔にする発明が出来る人を助ける発明が。その中には卯川くんもいるんだよ」
「……!?」
彼女の言葉に動揺してラビット・モッドMarkⅡが後退る。
「無理ダ。今更、戻レナイ……」
「大丈夫だよ。どんな研究も一人じゃ出来ない。どんな発明も歯車一個、ねじ一本じゃ出来ない。だからアタシ達は力を合わせていくんだよ」
「玲」
玲が優しく微笑む。
「だったら……こんなところで寝てるわけには行かねぇだろ!」
彼女の言葉にマルティプルが奮起する。よろよろと立ち上がると隣へ並ぶ。
「助けるぞ! お前が作ってくれた発明で! 卯川 高行を!」
「心護!」
二人は頷きあうとラビット・モッドMarkⅡへと向き合った。
「行くぞ!」
「うん!」
マルティプルが駆ける。そして、勢い良く山羊の角を振るう。
ラビット・モッドMarkⅡもチェンソーで応戦。互いの武器が激しくぶつかり合う。
「ハァッ!」
だが、マルティプルの武器は一つなのに対し、ラビット・モッドMarkⅡの武器は二つ。もう片腕のチェンソーがマルティプルへと迫る。
「今だ、夢崎!」
「任せて!」
真横から玲がアンテックライフルの引き金を引いた。その反動で彼女はバランスを崩して尻もちをつく。されど放たれた弾丸は真っ直ぐにチェンソーに着弾。ラビット・モッドMarkⅡの腕を弾いた。その隙をマルティプルが突く。胴を蹴り飛ばされ、ラビット・モッドMarkⅡが地面を転がる。
「心護。お願い」
「ああ。これで決める」
マルティプルがメモリアライズバッジをキマイライザーに取り付ける。
<キマイライズ・レオ、ゴート、スネーク! ブレスト&ライトアーム&レフトレッグ!!>
マルティプルの左足に蛇の装甲が装着された。
<デリート!>
さらにキマイライザーを操作して必殺技のシークエンスに入った。エネルギーが体全体を満たしていく。左足を振るい、倒れているラビット・モッドMarkⅡの足に蛇を巻きつけると高く跳躍。空中で一回転しながら地面に叩きつけた。
<レオ! ゴート! スネーク!>
<エリミネーションファング・トリプル!!>
重力を伴いながら急降下。山羊の角を食らわせる。
「ウワァァァァッ!!!」
悲鳴を上げてラビット・モッドMarkⅡが爆発を起こした。爆煙が晴れるとそこに入る生身の高行の姿。朧気ながらまだ意識はあるようだ。
「卯川くん。アタシ待ってるから。卯川くんが罪を償って戻って来るの。その時はまた一緒に発明を作ろう。皆が笑顔になれるとびっきりの発明を」
彼女の言葉に高行は力無く笑う。その表情は憑き物が落ちたようにどことなく晴れやかだ。
「は、はは……。そうだな。そんな発明が出来たらいいなぁ……」
そう言って目を閉じると彼は意識を手放した。
「よし! 心護、ここはアタシが引き受けるから伝導くん達の方に行ってあげて」
「分かった。頼むぞ」
マルティプルは頷くと駆け出した。
同じ頃。ヴァリアブルとアクロの戦いも佳境を迎えていた。ヴァリアブルが徐々にアクロの攻撃に対応しつつあった。双刀を躱して拳を叩き込むと蹴りで追撃。されどアクロも負けてはいない。羽を広げて綺麗に着地するとすぐさま攻撃を仕掛ける。少しでも対応を間違えると致命的。創斗は仮面の奥で必死な顔をしていた。
『ルートを展開します』
ヴァリアブルの視界に複数の道筋が示される。
「そこだ!」
前転で双刀の隙間を抜け背後を取った。振り向きざまに回し蹴り。アクロが後退する。
「今だ!」
<アクセス! 倍プッシュ!!>
すかさずヴァリアブルドライバーを操作。周囲に糸を張り巡らせて跳躍。蜘蛛の巣から蜘蛛の巣へと飛び移り加速していく。だが、
「……」
アクロが双刀を投げる。二振りの刀はまるでブーメランのように周囲を舞い、蜘蛛の巣を次々と切断していく。
「何!?」
着地地点の蜘蛛の巣が切断され必殺技が中断。そのまま地面に勢い良く激突してしまった。その隙にアクロがシグナライザーMarkⅡを操作する。
<ファイナル!>
羽を広げ、体勢を低くして構えを取る。彼の右足にエネルギーが集約されていく。そして、飛び上がると真横にスピンしながらヴァリアブルの元へ。
<バット!>
<データクラッシュシグナル!!>
強烈な回し蹴りが炸裂。
「うわぁぁぁぁっ!!!」
地面に叩きつけられヴァリアブルの変身が解けた。
「う……あ……」
倒れ伏す創斗。霞む目で前を見る。そこにはとどめを刺すべく双刀を拾い上げたアクロが迫っていた。
その時、後方からマルティプルが駆けてくる。変身の解けた創斗を見て状況を察したものの。まだ距離がある。このままでは間に合わない。
「逃げろ! 伝導!!」
彼の言葉を聞いたアクロに異変が起きた。カランと音を立て双刀を地面に取り落とすと、両手で頭を抑え始めたのだ。
「で! デdeででで……ででんデン! でんd……でんどうデンドウ!デンドウ伝導!! ソウスケ……」
「え?」
思いがけない言葉に創斗が目を丸くする。
刹那。創斗とアクロの間に連射されたニードルが突き刺さった。空から現れたのはアンビシャス。
「アクロ大丈夫か!」
「デンドウ! デンドウ ソウスケ!! 伝導 想助!!」
「しっかりしろ!」
苦しんでいる彼に必死に呼びかけるアンビシャス。だがこのままではまずいと判断してか、彼はアクロを抱えると飛んだ。そして、遠くへと逃げていく。
「あ、おい待て!」
慌てて手を伸ばすも今の状況では追いかけるのもままならない。創斗は消えていく二人を見ているしか無かったのだった。
アーシリーコードの拠点。その部屋の中央にはには手術台が置かれており、そこにアクロが寝かされている。
「……」
彼を心配そうに見つめるのはアンビシャス。そこへタブレットに入ったアイが毒島を伴って現れる。
「心配はご無用ですよ。私がすぐに直しますから」
ケーブルでタブレットとアクロの体が繋がれる。アイが彼の体に入る前にアンビシャスが呼び止めた。
「アイ、待て」
「なんでしょう?」
「伝導 想助。アクロはずっとそう言っていた。そいつはヴァリアブルの父親だった筈だ」
「ええ。そうですね」
「何故アクロはその名前を口にしている? なんの関係がある?」
その問いかけにアイは少し考え込むとやがて皮肉交じりにこう言った。
「因縁の宿敵、ですよ。彼にとっても、アーシリーコードにとってもね」
その言葉を最後にアイはアクロの調整を開始した。