仮面ライダーヴァリアブル   作:puls9

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file20 リバーベッド・クリーニング

午前七時。祭波市目蟹区の河川敷。早朝にも関わらずそこには多くの人々が集まっていた。皆、ジャージや作業着など動きやすい服装に身を包み、手にはゴミ袋やトングを持っている。その中には創斗やトワル、そして錬児。エレクトロ伝導のメンバーもいた。

 

「……」

 

創斗は無言のまま、黙々と作業をしていた。しかし、集中しきれていないのか、トングに掴んだゴミを袋に入れようとする度に入りきらず、入れたそばからポロポロと零れ落としていた。

 

「……ソート。集中してください」

 

見かねたトワルが嗜める。その言葉とは裏腹に心配げに眉根を寄せていた。

 

「あ……。悪い……」

 

集中しきれていないのは先日の一件が原因だ。創斗とトワルは確かに聞いたのだ。アクロが父、想助の名前を口にしたのを。やっと見つかった父に関する手がかり。

 

(次は何としても捕まえる)

 

そう心の中で固く誓う。

 

「あー、っと……。なぁ二人とも! オレ向こうの方、行って来ていいか? 良いよな!」

 

その時。錬児が大げさなまでに明るい声を出す。彼が指差す方向は橋の下だ。

 

「……遠くないか?」

 

創斗達がいる場所は河川敷の端っこ。指差す方向とは真逆の位置だ。

 

「大丈夫大丈夫! オレだって鍛えるんだから。んじゃ、行ってきます!!」

「あ、おい」

 

言うやいなや颯爽と駆けていく錬児。若干の困惑とともに見送る二人。錬児は一直線に橋の元へと向かっていく。

だが、彼は内心で物凄く焦っていた。あの橋の茂みには不法投棄された場所があり、そこにエフェクトがいるからだ。もし自分以外の誰かがその存在に気付いてしまえばたちまち騒ぎとなり、創斗達の耳にも入ってしまう。

錬児はエフェクトの存在を創斗達に黙っていた。彼自身としてはエフェクトを助けたい。そう思っている。恐らく正直に打ち明ければ創斗達は多少思う所はあれど手を貸してくれるだろう。しかしそれを他ならぬエフェクトが望まない。差し伸べられた手を彼女はきっと掴まない。エフェクトは既に全てを諦めている。それを分かっているから。

 

「取り敢えず誰も近付けないようにしないと」

 

たとえそうであったとしても錬児は彼女を見殺しにはしたくない。自己満足の類いと呼ばれても、いま彼に出来るのは彼女を生きながらえさせる事だけなのだ。時間経過で解決するとは思えないけれど、せめて話し相手になって生きる理由を生み出せたら良い。そう思う。

 

「……何で助けるの? ワタシはアーシリーコードのエルフ。人類の敵だよ?」

 

ふと彼女の言葉を思い出す。返す言葉は変わらない。助けたいと思ったから助ける。理屈じゃなくて感情で。それが櫂善 錬児に出来る唯一の事なのだから。

 

「あ、すいません! ここオレがやって良いっすか?」

 

掃除をしようとしていた人に声を掛ける。相手は恰幅の良い男と細身の男達の三人組。

 

「ええ、構いませんよ。では我々はあちらの掃除をいたしましょうか」

 

一瞬驚いた表情を浮かべた恰幅の良い男だがすぐに人の良い笑顔を作り了承する。そして細身の男達を伴って移動した。

 

「さぁやるか!!」

 

袖を捲り、自分に喝を入れると錬児は掃除を始める。

 

「……」

 

それを遠くから恰幅の良い男達が見ていた。そしてその視線を周囲を見渡す様に彷徨わせると創斗達の姿を見つけ密かにほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタカタとタイピングの音が部屋の中で唯一の音を奏でている。D.A.T.A基地の部屋の一つ。そこで仁美がパソコンと向き合っていた。映し出されている画面には隊員達の顔写真と彼らに関する情報が記載されている。その中には創斗やトワルの内容もあった。

 

「これで送信っと!」

 

エンターキーが押され、手がキーボードから離れると部屋が静寂に包まれた。メールの送信を終えた仁美は達成感に満ちあふれた笑顔を浮かべる。

 

「あら、望月さん」

 

その時、扉が開いた。入ってきたのは真名子。仁美を見ると驚いたように目を丸くする。

 

「どもっす。お邪魔してますっす」

「大丈夫ですよ。コーヒーいります?」

 

そう聞きながら真名子はポットの前に向かっていく。

 

「はいどうぞ」

「ありがとうございます」

 

程なくして仁美の前にコーヒーの入ったマグカップが置かれた。真名子はそのまま自分のデスクに座ると持ってきたコーヒーを飲む。そしてパソコンを立ち上げながら話しかける。

 

「今日は非番ではありませんでしたか?」

「そうだったんすけど報告書の作成が終わってなかったのでこっそりと。黙っててもらえると助かるっす」

「ふふふ。分かりました。二人だけの秘密にしておきます」

 

人差し指を口元に当てて真名子はいたずらっぽく微笑んだ。

 

「真名子……さんは今日は普通に仕事でしたっけ?」

 

仁美がコーヒーに口を付けながら尋ねる。

 

「えぇ。そんな所です。少し大事なお仕事がありまして……」

 

真名子のパソコンの画面にはD.A.T.A基地の見取り図が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴミ拾い開始から約一時間。周囲のゴミはほとんど拾われ綺麗になっていた。もうここら一帯では必要無いだろう。創斗とトワルは橋の下で一人頑張っているであろう錬児を手伝うべく向かっていた。

 

「おーい! 調子はどうだ?」

 

そう錬児に呼びかける。すると彼は驚いたように体をビクリと震わせ、ぎこちない動きで振り返る。

 

「お、おう! 問題無いぜ!!」

「そうか。向こうが終わったから手伝う」

「三人で頑張りましょう!」

 

創斗とトワルが近付いていく。それを錬児が慌てたように制した。

 

「大丈夫大丈夫! こ、ここはオレに任せとけ!! なっ!」

「大丈夫って言うけどよぉ……」

 

創斗が周囲を見回す。橋の下は散らかっていた。空き缶や新聞紙、段ボール等が散乱している。とても一人でやりきれる量とは思えない。

 

「ならば我々が手伝って差し上げましょう」

 

現れたのはあの恰幅の良い男とその取り巻き達。ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべている。その様子に創斗は警戒の色を強めた。

 

「どちら様でしょう?」

 

トワルも不快感を露わにした表情で問いかける。

 

「信者ですよ。アーシリーコードのね」

 

彼らは懐からバックルを取り出した。恰幅の良い男はモッドライザーMarkⅡを、取り巻き二人は通常のモッドライザーを腰に巻く。

 

<モッドライザーMarkⅡ!>

<<モッドライザー!>>

 

呆気にとられる創斗達。その間にも彼らの動きは続く。今度はメモリアライズバッジを取り出し起動させた。

 

<フロッグ!>

<<アント!>>

「何!?」

 

アントメモリアライズバッジの起動を認識し、目を見開いていて驚愕する。あればD.A.T.Aが開発したメモリアライズバッジ。アーシリーコードが所有している事などあり得ない。

 

「「「電令!!」」」

<ハック! クラック! バーサーク!!>

<アーシリーコード:アント! ダウンロード!!>

 

細身の二人が蟻の装甲を纏いしモッド、アント・モッドへと変わる。その手には丸型の小さな盾とダガーが握られている。

 

<ハック! クラック! バーサーク!!>

<アーシリーコード:フロッグ! アップロード!!>

 

そして恰幅の良い男も蛙の装甲を纏った姿、フロッグ・モッドMarkⅡへと変貌した。両肩が盛り上がっており、そこからノズルの口が覗いている。

 

「サァ掃除ノ時間ダァ。今コソアイ様二仇ナス者ヲ始末シ、裏切リ者ヲ捕ラエ、アーシリーコードノ上ヘト成リ上ガル時!!」

 

仰々しく両手を広げてみせるフロッグ・モッドMarkⅡ。見るからにアイに心酔しているようだ。意気揚々としている彼らとは対照的に創斗とトワルは哀しい顔をする。アーシリーコードの実態を知っているが故に。

 

「……行くぞトワル」

「えぇ。勝ちましょう」

 

創斗の呼びかけに頷くトワル。創斗は彼女の腰からヴァリアブルドライバーを外すと自らの腰に巻く。

 

<ヴァリアブルドライバー!>

<スパイダー! パワーアップ!!>

 

矢継ぎ早にスパイダーメモリアライズバッジをセットしたパワーアップスイッチを起動させる。すぐさまドライバーに装填した。

 

<パワーアップ・ローディング! パワーアップ・ローディング!>

「『変身!!」』

 

二人の声が重なる。呼応するように背後の蜘蛛が彼らを守る装甲として纏わりつく。ヴァリアブルへと変身を遂げた彼らは構えを取って、モッドを見据える。モッド達もまたファイティングポーズで迎え撃つ。

 

『ルート、展開!!』

「おう!!」

 

先に動いたのはヴァリアブル。トワルが示した道筋の一つを辿って間に糸を放つ。放たれた糸はフェンスに巻き付く。すぐさま巻き取り機能が作動して高速で移動する。大きく弧を描くと側面からフロッグ・モッドMarkⅡへ蹴りを放つ。

 

「おらぁ!」

 

だがその攻撃はアント・モッドの一体が間に入る。ヴァリアブルの蹴りは彼の盾に阻まれた。すかさずもう片割れのアント・モッドがダガーを振るう。

 

「ちっ」

 

空中で体を巧みに動かして体勢を変えると足から発射した糸を使って回避。橋の壁へと距離を取る。

そして向こうのターンが始まった。フロッグ・モッドMarkⅡが動く。顔の口が開くと同時に両肩のノズルも開いた。すると三つの口から鞭のように撓るビームが出現した。

 

「死ネェ!!」

 

三方向から放たれたビームはヴァリアブルを取り囲むように振るわれる。背後は壁。逃げ場は無し。されど彼らは多くの戦いを乗り越えてきた。この程度、窮地にも入らない。

 

『ルート展開。決めてソート!』

 

ヴァリアブルが前方へ足を踏み出す。地面に蜘蛛の巣を展開させると、上に飛び乗り斜め方向に跳躍。ビームの隙間を抜ける。

 

「あぁ。これで決める!」

 

さらに糸を使って後方に移動するとベルトを操作。

 

<アクセス! 倍プッシュ!!>

 

ヴァリアブルの右足にエネルギーが集約されていく。慌てて振り返った三体だったがもう遅い。

 

<スパイダー!>

<スーパーヴァリアビリティストライク!!>

 

手早く糸で三体を絡め取ると、強力な回し蹴りを炸裂させる。一塊になった彼らが壁に叩きつけられた。

 

「グアッ!」

 

変身解除には至っていないもののダメージは大きいようで中々地面から起き上がれないでいる。

 

「よし」

 

勝ちを確信してヴァリアブルはゆっくりと彼らへ向き直った。その時、

 

「動クナァ!!」

 

フロッグ・モッドMarkⅡがビームを伸ばして錬児を拘束する。

 

「なっ!?」

『錬児さん!?』

 

驚く創斗とトワル。

 

「うわぁっ!? 痛っ!?」

 

錬児もまた驚いた顔をしていたが、ビームが肌に触れジュッという焼ける音と同時にしかめっ面に表情を変える。

 

「オ前達、ココハ一旦引クゾ」

 

そう言ってフロッグ・モッドMarkⅡはアント・モッド達を伴って逃げていく。させまいとヴァリアブルが足を踏み出す。

 

「待て!!」

「オット、動イタラコノ男丿命ハナイゾ」

 

しかし、そう言われては動けない。創斗は仮面の奥で苦虫を噛みつぶしたよう表情を作る。

 

「創斗……トワルちゃん」

 

拘束されている錬児が苦しげな声で二人に呼びかける。彼の表情はどこか思い詰めたような、されど覚悟を決めたような、そんな表情だった。

 

「絶対に……茂みには近づくなよ! 絶対だぞ!!」

「……は?」

 

その言葉を最後に錬児はフロッグ・モッドMarkⅡ達に連れられて河川敷を後にする。この状況とは場違いな錬児の言葉に創斗は思わず間の抜けた声を出していた。

 

「錬児。どういう意味だよ……それ」

 

変身を解き、創斗は彼の言葉の意味を考える。トワルもまた同じように考え込み、そして茂みの方を向く。目から光を放ち向こう側をスキャンした。

 

「え?」

 

そこで見たものを受けてトワルは茂みの方へと駆け出していた。

 

「おい!」

 

創斗も後に続く。

茂みの向こうには潰れたタイヤやひび割れたテレビ等の廃材が散乱していた。そんなゴミが山積みの中に人型のナニカが倒れている。それはボロボロのゴシックドレスを着た人型。

 

「お前は……」

「エフェクト……」

 

創斗とトワルは今日何度目か分からない驚愕を迎える。ゴミ山の上にいたのはかつて二人が倒した筈の少女。アーシリーコードのエルフの一人。エフェクトがそこにいたのだった。

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