D.A.T.A基地の研究室。創斗と玲、研究室のメンバー達がしきりにパソコンを操作している。傍らでは心護と錬児がその様子を見守っていた。彼らの視線の先には二つの装置が置かれている。それはMRIに似た装置だった。やがて装置の稼働音が止む。ゆっくりと中から引き出されてきたのはトワルとエフェクト。2人とも仰向けに横たわっている。
「どうだった?」
上体を起こしながら問いかけるエフェクト。答えたのは玲だった。
「うん。問題無し! エフェクトちゃんは大丈夫だよ」
「"は"って事はわたしには異常があったって事ですか?」
同じく体を起こしたトワルが聞く。その表現はとても不安気だ。
「そうなるな」
創斗が画面を見せる。そこにはトワルのシルエットが映し出されていた。そして、その頭部に四角いマークが点滅していた。
「これは?」
「お前に関するデータだと思う。……ただ、かなり厳重にロックされていて、特定のワードでのみ開くようプログラムされてた」
「つまり、開けられないって事?」
「無理矢理開けたら中身が無事かは保証出来ないからな。時間をかけてワードを特定した方が良いだろ」
「そう……ですね」
説明を受けて納得はしたが彼女の表情は固いままだ。やっと見つかった記憶への手がかりだ。焦りが募っているのだろう。
「心配すんな。必ず開けてみせるから」
「はい」
そんなトワルを元気付けるように創斗が言った。思いが通じたのかトワルは笑顔を作ってみせた。
「さてと、それじゃワタシは出てくるね」
エフェクトがそう言って歩き出そうとした。そこにトワルが待ったをかけた。
「待ってください。また謝罪行脚ですか?」
「あー……うん、そう」
彼女は気まずそうに曖昧な表情をした。あの後、エフェクトの行っていた事は心護によって創斗達へと伝えられた。その行動にトワルが怒り、エフェクトはその場で正座させられていた。
「"一人で"ですか?」
そんな経緯があったからか、トワルが目敏く聞き返す。顔は笑顔なのに圧が凄い。途端に苦虫を噛みつぶしたような表情のエフェクト。
「だれかいっしょについてきてください。おねがいします」
それでも言いつけはしっかりと守るらしい。まるでロボのように片言でお願いした。最終的な話し合いの結果、謝罪行脚の際は誰かに付いてきてもらう事で決まったのである。
「んじゃ、オレが一緒に行くよ」
苦笑しながら錬児が手を挙げる。
「錬児! よろしくね!!」
現金な彼女は直ぐに元気を取り戻した。そして錬児の手を取ると引っ張っていった。
「ふぅ」
創斗がなんとなしにため息を吐く。そして静かに辺りを見回し始める。
「あまり挙動不審になるな。相手にバレる可能性があるぞ」
そんな彼をたしなめたのは心護だった。
「……そう、ですよね」
言葉とは裏腹に創斗の目はやはり周囲を気にしてしまう。それは先日の心護の言葉が原因だ。彼の脳裏にその時の光景が甦った。
「D.A.T.Aの中に内通者がいる」
エレクトロ伝導の店内でその言葉を聞いた一同に衝撃が走る。
「D.A.T.Aに内通者が……。確証はあるんですか?」
「うん。あるよ」
答えたのは玲だった。ノートパソコンの画面を見せてくる。
「メモリアライズバッジやワークライザー。D.A.T.Aの装備は基地の地下に厳重に保管してあるから盗み出すのはかなり至難の技。仮に所持している隊員を襲って奪ったのだとしても直ぐに気付くし、足がつくと思う」
「今の所、隊員の中に紛失したと言う者はいない。念のために所持品も確認したが全員が持っていた」
心護が話を引き継ぐ。
「この事から外部の犯行は不可能だと考えられる」
であるならば考えられるのは内からの犯行。
「確かにD.A.T.Aの人間なら怪しまれる可能性は少ない」
D.A.T.Aの隊員がD.A.T.Aの基地にいるのは自然の事。疑いの目は掛けづらいだろう。だからこそ創斗は疑問を覚えた。
「……でもなんでこの話をおれ達に?」
「お前達がシロだからだ」
「ワタシも?」
自分を指差してエフェクトはきょとんとしている。
「自分で言うのもなんだけどワタシ、元アーシリーコードだよ?」
「それは簡単だ。時期的に無理だからだ」
創斗とトワルがエフェクトと再会する前に二人はアント・モッドと交戦している。その頃のエフェクトはボロボロの状態であったので、彼女にはまず不可能。
「もちろん、演技の可能性もあるが。だとするならばもっと早くに裏切る機会はあった。それに、」
ここからが重要だとばかりに心護が言葉を切った。エフェクトが引き込まれるように重心を前にして首を傾げる。
「それに?」
「お前に迫真の演技が出来るわけなさそうだしな」
「な、何だとぉ~!」
途端に彼女はぷんすこ怒り出す。今にも殴りかかりそうな勢いだ。慌ててトワルと錬児が抑える。
今にして思えば恐らく互いに本心からでは無かったのだろう。怒っている筈なのに簡単に抑え込まれるエフェクト。苦笑いで抑え込むトワルと錬児。ニヤニヤしながら謝りなよと軽く肘でつつく玲。渋々謝る心護。
そんな光景に重い空気がほんの少しだけ和らいだ気がしたのだ。
「この事を伝えたのはあくまでも頭の片隅に置いておいてほしいからだ。些細なことでもいい、何か違和感を覚えたら教えてくれ」
心護はそう締めくくった。
「とはいえ難しいですね」
現実に意識を引き戻しながら創斗はごちる。人の心とは現金なもので一度気になってしまえば端から見たら何でもない事でも怪しく見えてしまう。
「きっかけを作った身ではあるが、考えすぎるな。向こうが簡単に尻尾を出してくるとは思っていない。本格的な調査は俺の方でやっておく」
「分かりました」
話が終わると心護も退出した。部屋の中には創斗とトワル、玲の三人が残される。
「さてと。それじゃ、今のうちにこっちを進めておくか」
創斗が手にしているのはエメラルドグリーンのクリアパーツ。新たに開発した新兵器。
「トワル。テストプレイを始めようぜ」
「了解です」
創斗とトワルは伴って地下三階へと向かっていった。
同時刻。D.A.T.A基地の前に銀色のバンが止まる。中から現れたのは三人の清掃員の男達。一人はとても猫背な男、もう一人はガタイの良い大柄な男、最後の一人は眼鏡をかけた神経質そうな男だった。三人は基地の前で頷き合うと行動を開始した。眼鏡の男を残し、猫背と大柄の二人が基地の中に入っていく。
「すいませ〜ん。清掃業者です」
猫背の男が受付で声を掛ける。提出したのは自らの身分を示す社員証。受け取った女性がリストを確認するとカードに書かれた社名が載っている。
「お待ちしておりました。どうぞよろしくお願いします」
故に女性はなんの疑いも持たず彼らを送り出した。男達はエレベーターのボタンを押す。向かうのは地下。やがて扉が開き、二人が乗り込むと入れ違いになるようにエフェクトと錬児が地上に現れる。
「え、る、る、る、る〜?」
「ふふん。どうだ! これがトワルから習ったしりとり必勝法。る攻めだ!!」
「トワルちゃん、容赦なさすぎじゃない?」
何故かしりとりをしているエフェクトと錬児。出口の辺りに差し掛かるとエフェクトが足を止め、手で錬児を制した。
「エフェクトちゃん?」
「錬児、下がって」
彼らの前に眼鏡の清掃員が立っていた。
その頃、エレベーターの扉が開く。猫背の男が地下一階に降り立つと、もう一人はそのまま下の階へと向かう。
その時。書類を手にした心護が猫背の男とすれ違った。そして彼は足を止める。振り返りながら男を呼び止めた。
「すまないが少し待ってもらっていいか?」
「はい? 何でしょう?」
男も立ち止まり振り返る。その間に心護は男との距離を詰めた。
「今日、外部からお客様が来るとは伺っていなくてな。すまないが所属を教えてもらえるだろうか?」
心護の表情はとても険しい。男を警戒の眼差しで見ていた。
「はぁ……。そろそろ頃合いか。二人共、作戦開始です」
男は耳に取り付けてある通信機に向かってそう小さく呟くとにんまりと笑う。そして、作業着のチャックを勢い良く下ろした。それを見て心護は目を見開く。彼の腰にはモッドライザーMarkⅡが巻かれていた。
「申し遅れました。私、アーシリーコードの
<フォックス!>
男がメモリアライズバッジをモッドライザーMarkⅡにセット。背後にエネルギー状の狐が出現した。
「これよりゴミ共のお片付けをさせていただきます。……電令!」
<ハック! クラック! バーサーク!!>
<アーシリーコード:フォックス! アップロード!!>
狐がバラバラに、装甲となって男が纏う。背後の九つの尻尾と衛星軌道を描いて漂う七つの球体はそのままに体の至る所に頭部に張り付いたのと同じ狐の面が付いている。男がフォックス・モッドMarkⅡへと変貌した。
「フッ」
不敵に笑うと手を翳す。途端に七つの球体が発光し、D.A.T.A基地の地下二階が眩い閃光に包まれた。
「ふふふ。さぁ始めましょう!」
彼女の耳と足に下から響く振動と爆発音がしっかりと届く。しかし、この場を離れるわけにはいかない。目の前にも敵がいるからだ。
「今こそD.A.T.A最後の時!!」
<ヘッジホッグ!>
「電令」
<ハック! クラック! バーサーク!!>
<アーシリーコード:ヘッジホッグ! アップロード!!>
エネルギー状の針鼠を纏い、背中だけでなく両腕にもトゲトゲの針を武装したヘッジホッグ・モッドMarkⅡが誕生した。
「喰ラエ!!」
意気揚々と叫ぶヘッジホッグ・モッドMarkⅡ。背中と両腕の針が放射された。
「何だ!?」
D.A.T.A基地の地下二階。三階に降りようとしていた創斗とトワルだったが、相次ぐ爆発音と悲鳴により急遽地下二階に降り立った。そこには清掃員の格好をした大柄の男がいた。男の拳を叩き込まれ、D.A.T.A隊員が一人床を転がった。
「大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄る創斗とトワル。異様な雰囲気に二人は隊員を庇うように前に出た。
「お前は誰だ?」
それを聞いた男は仰々しく両手を掲げる。
「俺様は啓蒙なるアーシリーコードの信徒! この場を破壊する!!」
そしてメモリアライズバッジを取り出し起動させた。
<ボア!>
「電令!!」
<ハック! クラック! バーサーク!!>
<アーシリーコード:ヘッジホッグ! アップロード!!>
エネルギー状の猪を纏い、両肩、両腕、両膝から猪の牙を生やした異形の姿、ボア・モッドMarkⅡへと成る。双刀を手に振り回す。無数の斬撃が廊下に放たれた。
「くっ……」
既のところで攻撃を躱し、心護はフォックス・モッドMarkⅡを睨みつける。そして、インカムの電源を入れると全員に指示を送った。
「こちら心護。アーシリーコードの構成員が基地内に侵入。これより交戦を開始する」
<キマイライザー!>
ベルトを巻いた彼の元にエフェクトからの通信が届く。
「こちらエフェクトちゃん。地上にも敵がいるよ。こっちはワタシが受け持つね」
<シグナライザー改!>
彼女は基地を庇うように出入り口の前に立っている。目の前にはヘッジホッグ・モッドMarkⅡ。背後には物陰に隠れる錬児や受付嬢達の姿がある。
「創斗です。地下二階にもモッドがいます。こいつは任せてください」
<ヴァリアブルドライバー!>
相次いで創斗達が答える。彼らの立つ廊下には無数の切り裂かれた跡が残っていた。二人の後ろには攻撃に巻き込まれ、負傷した隊員が倒れている。眼前ではボア・モッドMarkⅡが余裕綽々といった様子だ。
そして、三つの場所で三つのメモリアライズバッジが起動する。
<スパイダー! パワーアップ!!>
<バタフライ!>
<レオ!>
「『「「変身!!」」』」
偶然か、必然か。全員がほぼ同時に叫ぶ。
<メモリアライズ! スーパー・バッチグー!!>
<シグナライザー、カスタマイズ!>
<データベース:レオ! ガオー!!>
D.A.T.A基地にて創斗達がヴァリアブル、エフェクト改、マルティプルへの変身を遂げた。
「はあっ!!」
「やあっ!」
「ふっ!」
それそれがモッドへと向かっていった。
地下二階。ヴァリアブルはボア・モッドMarkⅡと対峙する。ヴァリアブラスターをブレードモードにして向かってくる斬撃をいなしていく。
「ハハハ! ドウダドウダ!!」
「くっ!」
彼らが戦っている場所は狭い通路。絶え間なく放たれる斬撃をいなす事は出来ているがそれにも限界はある。ヴァリアブラスターに少しずつ傷が付いていく。このままではジリ貧だ。
「何とか状況を打開しないと」
『任せてください。ルート展開!』
ヴァリアブルの視界に無数のルートが展開される。その中から彼らが選んだのは、
「これだ!!」
ヴァリアブルが素早く距離を詰めると床に向けてヴァリアブラスターを振るう。床が切り刻まれ、ボア・モッドMarkⅡが地下三階へと落下していく。地下三階にあるのは訓練用のフロア。
「ナアッ!?」
「今だ!」
<ホーク! パワーアップ!!>
ヴァリアブル スーパーホークへとフォームを変える。四つの機械翻し、地下三階に降り立つ。
「ここでなら気兼ねなく戦えるな」
「コノ、舐メルナ!!」
両肩、両腕、両膝の牙を鋭く伸ばすボア・モッドMarkⅡ。
「オラァァァァ!!」
咆哮をあげて突進。床を踏み締める度に亀裂が走っていく。受けたらひとたまりもない。そんな攻撃がヴァリアブルに迫る。
『ルート展開。ソートお願いします』
「おう。任せろ」
体勢低くすると素早く足を振り回す。ヴァリアブルの蹴りがボア・モッドMarkⅡの足を払う。体勢を崩したボア・モッドMarkⅡが勢いそのままに床を転がり、壁に激突。
「ガハァ!!」
自らの攻撃で大ダメージを受けた。しかもそれだけではない。
「ナッ!? 抜ケナイ!?」
牙が壁に深く突き刺さり、身動きが取れなくなった。
「『たった今、勝利の道は繋がった」』
<アクセス!>
ヴァリアブラスターをガンモードに変形させ、モールメモリアライズバッジを取り付ける。ゆっくりと構えを取ると銃口をボア・モッドMarkⅡへと向けた。白亜のエネルギーが収束していき、チャージが完了。引き金に手をかける。
<モール!>
<ヴァリアビリティショット!!>
エネルギー状の土竜が弾丸として放たれる。その一撃は一直線にボア・モッドMarkⅡを貫いた。
「ギャァァァ!!」
悲鳴をあげてボア・モッドMarkⅡが爆発。黒煙が晴れると大柄の男が気絶していた。
「戦闘終了。トワル、他の応援に行くぞ」
『!? いえ、待ってください! 上から来ます!!』
D.A.T.A基地の上空。黒い影が真っ直ぐに急降下。そのスピードは凄まじく、基地の天井から各階の床を破壊しながら瞬く間に地下三階へと辿り着いた。着地を決めたそれはゆっくりと起き上がる。
「よお、待ってたぜ」
仮面の奥で今まで以上に真剣な表情をする創斗。彼らの目に映るのは因縁の敵。現れたのは仮面ライダーアクロだった。
「……」
アクロは無言で双刀を手に持ち、構えを取った。その間にも基地のあちこちで破壊音が響いている。
激闘はまだ終わりそうにない。