アーシリーコードのアジトに足音が響く。現れたのはアイ。祭壇の椅子に倒れ込むように深く腰掛けると、毒島が飛んできた。
「ご無事ですか、アイ様?」
「ええ、何とか」
「そうですか、それは良かった。それにしても、」
胸をなで下ろしながら毒島が感嘆の声を上げる。
「ようやくあなた様の姿を拝見出来ました。この毒島、感激の一言です」
そう言って涙を流す。
「……駅の方はどうですか?」
彼の言葉を無視してアイはそう尋ねる。毒島は特に気を悪くした風でもなく手元のタブレットを開き、確認した。タブレットに映っているのは監視カメラの映像だ。そこではアーシリーコードの信者達が駅を占拠している様子が映されている。
「今のところ問題はございません」
「そうですか。今のうちに人員を増やしておいてください。恐らく攻めてきます」
「!? かしこまりました!」
血相を変えて毒島が通信をしようとタブレットを動かす。ふと思い出したようにアイが声をかける。
「アクロを知りませんか?」
「アクロ様……ですか? アイ様とご一緒だったのでは?」
どうやら知らない様子のようだ。
アイは即座に居所を探る。彼に仕掛けてある信号を探した。
(信号が検知出来ない? ……あの時の戦闘で破損した?)
「ちっ」
思わず舌打ちが出た。
「命令の追加です。アクロの行方も探しなさい」
苛立たしげにアイはそう告げるのだった。
高層ビルの屋上。そこから眼下を見下ろす人影があった。マントに王冠という奇抜な出で立ちの男。アーシリーコードのエルフが一人、アクロだ。視界の先では行き交う人々や絶え間なく動く自動車が映っている。
「フッ」
彼は口角を釣り上げ、両手を仰々しく広げる。
「フフフ、フッハハハ!!」
笑うたびに頭部の破損した箇所から火花が散る。しかし、そんな事を気にする様子も無くアクロは笑い続ける。
「歓喜せよ! 余の復活である!!」
そして高らかにそう告げるのだった。
「という訳なんです」
少し俯きがちになりながらトワルが話し終える。彼女の隣には創斗が、二人の前にはエフェクトと心護、複数のD.A.T.A隊員達がいる。
「だから……その、ごめんなさい!」
そう言って彼女は頭を下げる。
トワルが語ったのは自分の記憶の真実。アーシリーコードのエルフであった事や人類消去に加担しようとしていた事等を洗いざらいだ。
それに対する皆の反応はというと、
「まぁ、エルフって事を考えると薄々そうじゃないかとは思ってたな。」
と心護。特に驚いた様子は無い。
「でも今は味方なんすよね。なら問題ないっす。なんならうちも騙してた側なんで……」
と仁美が苦笑いをする。他の隊員達も友好的な反応を示す。その様子にトワルの顔は安堵の表情に変わる。
「そう言えば結局、お前は何をしてたんだ?」
アイの正体が判明した時、仁美は長官である和明と共にいた。直後のごたごたで聞きそびれていたのを思い出し、心護が尋ねる。
「おほん! 実はっすね、うちは平長官とは親戚同士の間柄なんすよ。そんで頼まれたんす。D.A.T.A内に内通者がいるかもしれないから調査をしてほしいって」
「そうだったのか……」
心護が驚きを露わにする。自分達が内通者の存在に気付く前に和明は気付いていたのだ。改めて上司の存在に畏敬の念を抱く。
「調査は終わったっすけど、うちはこれからもD.A.T.Aの隊員として頑張りたいので改めてよろしくお願いしますっす!」
仁美はそう言って頭を下げる。
「あぁ、よろしくな」
心護が手を差し出す。そして二人は固い握手を交わした。
「それにしても」
話を戻すように口を開いたのはエフェクト。
「まさかワタシよりも先にアーシリーコードから寝返ってたなんて。ワタシの個性が減っちゃったなぁ〜」
茶化すようにオーバーリアクションで嘆き始めた。
「ていうかさ。トワルって第一世代なんでしょ?」
「そうなりますね。わたしがソートの元に向かった頃にはエフェクトはいませんでしたし」
「ふむふむ。ワタシを作ったのはアイで、トワルはアイ達の末っ子。という事は、トワルってワタシからしてみれば叔母s……」
エフェクトの頬をトワルの拳が掠めた。それは鈍い音を立て、壁にへこみを作る。
「お姉さん」
トワルが笑顔で言う。沸き立つオーラは黒く、凄まじいプレッシャーを放っている。
「え?」
「お姉さん。いいですね?」
「あ、はい……」
絶対にトワルを怒らせないようにしよう。エフェクトは心の中でそう誓った。
「お前達。そろそろ到着だ」
心護の言葉に全員の表情が真剣なものに変わった。直後にブレーキの音が鳴り、停車した。そう、彼らがいたのはトラックの中。全員が外に出る。辿り着いた場所はアーシリーコードに占拠された駅前。アクロとアイを下した勢いに乗って彼らは奪還を目指す。
<ヴァリアブルドライバーV2!>
<シグナライザー改!>
<キマイライザー!>
創斗、エフェクト、心護がベルトを腰に巻きメモリアライズバッジを取り出す。仁美達D.A.T.A隊員もワークライザーを構えている。
「「「『変身!!」」」』
「「「号令!」」」
彼らが一斉に叫ぶ。
<世界を守るライダー! 我らを繋げるスパイダー!!>
<スーパー・メモリアライズ! ウルトラ・バッチグー!!>
ヴァリアブルを筆頭にその場の全員が姿を変える。迎え撃つはアーシリーコードの信者達。アント・モッドの他、マンティス・モッドMarkⅡにホース・モッドMarkⅡ等、多種多様なモッドに変身した。
「行くぞ!」
先陣を切ったのはマルティプル。マルティプルワーカー達が後に続く。駅前にて激しい戦闘が始まった。
「トワル、頼む」
『了解です。ルートを展開します!』
ヴァリアブルの視界に無数のルートが示される。その数、五つ。選び取ったのは、
「ルート二番だ。合わせてくれ!」
『はい!』
ヴァリアブルが足を踏み出した。途端にシンクロシステムが作動する。ベルトからエネルギーが両足に流れ込み、速度が上がった。ヴァリアブルがアント・モッドの懐に素早く潜り込む。
「『はぁっ!!」』
創斗とトワルの声が重なる。突き出した右拳にエネルギーが宿った。アント・モッドは体をくの字に曲げて吹っ飛ぶ。
「やっぱ、声を出すと発動しやすいな」
『コミュニケーションの偉大さが身に沁みますね』
拳を見ながらヴァリアブルが呟く。傍らではエフェクト改が、マルティプルが、マルティプルワーカー達が次々とモッドを蹴散らしていく。だが、
「マケルカァ!!」
アーシリーコードの信者達も負けてはいない。マンティス・モッドMarkⅡが吠える。四つの腕から斬撃を飛ばす。
「おっと」
横っ飛びで避わすヴァリアブル。着地と同時にトワルが叫んだ。
『ソート、右!』
「セヤァ!!」
死角から突進してきたのはホース・モッドMarkⅡ。後ろ足で立ち上がると、全体重を乗せたのしかかりが襲いくる。
「やべっ!」
後方に糸を飛ばす。街灯に絡みつけると巻き取る。のしかかり攻撃を既のところで回避。ヴァリアブルは胸をなで下ろした。
「あぶねー」
眼前ではマンティス・モッドMarkⅡとホース・モッドMarkⅡがいる。その後方には無数のアント・モッド達も。
「数が多い……」
皆が戦っている筈なのに中々減らない。それどころか徐々に押され始めている。さらに間の悪い事に、後ろから気配を感じとり、振り返るとアクロがいた。
「アクロまで……」
流石の創斗も仮面の奥で険しい顔をする。
アクロはゆっくりとシグナライザーMarkⅡを腰に巻くと、メモリアライズバッジを取り出した。
<バット!>
無数の蝙蝠が周囲を旋回する。ベルトを操作しながらアクロが告げる。
「変身」
<Skill Up! Show Down! アクロ・バット!!>
<アーシリーコード、アップグレード!!>
変身を遂げたアクロが双刀を構える。ヴァリアブルもヴァリアブラスターを手に応戦の構え。睨み合う二人。しばしの静寂。沈黙を打ち破ったのはアクロ。迷いのない素早い動き。
「くっ!」
想定以上の速さに動揺し、ヴァリアブルの動きがワンテンポ遅れた。おかげで間に合わない。ヴァリアブルは被弾を覚悟する。そして、アクロはヴァリアブルの
「え?」
そのまま双刀を振り抜く。鋭い攻撃がヴァリアブルを背後から狙ったマンティス・モッドMarkⅡに直撃。一撃でノックアウト。地面を転がりながら変身が解けた。
「ナ!?」
「何!?」
驚いたのはヴァリアブルだけではない。アーシリーコードの信者達もだ。味方だと思っていたアクロからの攻撃に彼らは混乱している。その隙にアクロはさらなる攻撃を食らわせる。
「ぐあっ!?」
ホース・モッドMarkⅡが双刀に斬られる。痛みに悶えながら起き上がろうとする。
「何故ダ!? 何故、我々ヲ攻撃スルノデスカ! 味方ノ筈ダロ!!」
「黙れ、頭が高いぞ。余を誰と心得る」
ホース・モッドMarkⅡの背中を踏みつけながらアクロは高らかに宣言する。
「余はアクロ! エルフの王である!! 故に貴様ら人間の指図を受ける理由は無い!」
双刀が振り下ろされ、ホース・モッドMarkⅡの変身が解かれた。
「コ、コノ!!」
アント・モッド達がアクロを完全に敵と認識した。銃口を向けながら迫る。されどその程度のモッドなぞアクロの敵ではない。弾幕を躱しながら次々と蹴散らしていく。
<フィニッシュ!>
シグナライザーMarkⅡを操作する。エネルギーが両足に充填していく。
<バット!>
<データクラッシュシグナル!!>
必殺の回し蹴りが最後のアント・モッドに突き刺さる。アクロが着地を決めると、周囲には変身が解かれ、気絶している信者達が倒れ伏している。
「さて」
アクロは振り返るとおもむろにベルトを外した。変身が解かれる。アクロは不敵に笑いながら、シグナライザーMarkⅡをヴァリアブルへと投げ渡した。
「うおっ!?」
ヴァリアブルが慌ててキャッチする。そして、受け取ったベルトとアクロを交互に見る。いったいどういうつもりなのかと訝しむヴァリアブル。
対するアクロは不遜な態度で腕を組み、言った。
「余を貴様らの根城へと案内する権利をやろう! 嬉しいだろう? 喜ぶがいい! アッハッハッハッハ!!!」
「『え? ……えぇ!?」』
呆気に取られる創斗とトワル。二人の反応にシンクロシステムが作動した。
D.A.T.A基地。アーシリーコードの襲撃から数日が経過した現在では徐々に復旧が完了しつつあった。電気が通るようになり、エレベーターも動くようになった。
「なるほど。そういう訳か」
地下二階の会議室。事の経緯を聞いた和明が目だけを動かす。視線の先には丸椅子に座り、ふんぞり返っているアクロの姿。不敵な態度でくるくると回転している。
戦いは創斗達の勝利に終わった。気絶した信者達を全員拘束した事で駅の奪還は果たされた。そして彼らはアクロを伴って帰還したのだ。なし崩しに協力してくれたとはいえ警戒心は解かない。創斗やトワル、エフェクトに心護、仁美も違和感を逃すまいと見つめている。
「まず、駅奪還に協力してくれた事、感謝する」
「ふん。貴様らに感謝される筋合いはない。ただ借りを返したに過ぎん」
不遜な態度で返答するアクロ。腕を組み、小馬鹿にしたように笑っている。
「借り?」
「そうだ。ヴァリアブル。貴様らが放った一撃のお陰で、余はアイめの傀儡から解放されたのだ」
アクロがこめかみに指を当てる。その箇所は砕けており、配線が飛び出していた。指を当てた拍子に小さな火花が散った。
「そうだったのか……」
「でしたらもう借りは返し終わった筈ですよね? ここに来た理由は何ですか?」
新たに生まれた疑問。トワルが尋ねる。
「もう一つ借りがあるからだ。我が友、伝導 想助にな」
「父さんに!?」
「知りたいか? あの男に何が起きたのかを?」
それは当然知りたいに決まっている。創斗は神妙に頷く。
「ああ」
「そうか。……所でトワルよ。知ってるか?」
「何をですか?」
「第一世代に生まれたエルフは四体。順番はアンビシャス、アイ、余、そしてお前だ」
アクロが真剣な表情を浮かべる。何故急にそんな話をしたのかとトワルが首を傾げた。
「故に! 余をオニイチャンと呼ぶ事を許そう!!」
「はい?」
トワルの目が思わず点になる。
「ふっ。そう照れるな。遠慮する事は無い。さぁ! さぁ!!」
「えぇ……」
露骨に嫌そうな顔をするトワル。彼女の態度にアクロは頬を膨らませた。
「言わないのなら、こちらも話さんぞ」
「ちょ!?」
それは非常に困る。父に関する出来事は何があっても知りたい。
「トワル、言え。言ってくれ」
なので創斗はトワルに言うように促す。トワルも想助に起きた事は知りたい。しばし葛藤の後、彼女は見事な棒読みを披露する。
「わー、オニイチャン。わたし早くお話聞きたいなー」
「ふふふ。いいだろう! では語るとしよう! 余と想助との熱き友情の物語を!!」
これより語られるのはある男のお話。人とエルフが手を取り合う夢を見た、最初の仮面ライダーの物語だ。