十年前。
祭波市郊外にある廃工場に二つの人影があった。片や王冠にマントという奇抜な格好の青年。片や小学校高学年くらいの少女。
青年は手や足をしきりに動かしている。まるで体の不備を確認するかのように。
「具合はどうですかアクロ? 違和感は無いと思いますが」
「ふっ。さすがは余の参謀。見事な作りである。褒めて遣わす」
少女に問いかけられ、青年――アクロは笑う。まさしくご満悦の表情だ。対照的に少女の表情は冷たい。眉間に皺が寄っている。
「それで? わざわざ機械の体を用意して何をするつもりだ、アイ?」
「知れたことでしょう。囚われのアンビシャスの奪還ですよ」
少女――アイは足元に置いてあったトランクケースを持ち上げる。中を開けるとそれをアクロに見せた。トランクケースの中には長方形のバックルと丸型のバッジが入っていた。
「これは何だ?」
「人間を消去する為の試作品です。名前はプロトモッドライザーです」
アイが不敵に笑う。それはこれからの未来に期待を膨らませるような笑顔。だが、その表情にはどこか空恐ろしさを感じる。
「これを使ってある人物達を襲ってきて下さい」
アイは鞄からタブレットを取り出すと画面をアクロに向けた。そこには二人の人物のプロフィールが記載されている。
一人は
もう一人は伝導 想助と書かれた眼鏡の男性。
内容を検めたアクロは頬を吊り上げる。
「いいだろう! 余の活躍をその目で見るがいい!!」
アクロが意気揚々と廃工場を出ていく。アイはそんな彼の背中を見つめながら薄く笑う。
「頑張ってくださいね。裸の王様」
<プリミティブドライバー!>
暗がりの中で何かが発光する。それは長方形を横に倒した形のバックル。色はシルバー、真ん中に丸い空洞が空き、こちらから見て左側にグリップが付いている。
バックル――プリミティブドライバーを腰に巻くのは眼鏡をかけた男性。身に纏う白衣から研究者と推測出来る。彼は白衣の胸ポケットからバッジを取り出した。それは飛蝗のレリーフが刻まれたクリアグリーンのメモリアライズバッジ。
<ホッパー!>
起動させたバッジがドライバーのスロットに取り付けられる。すると男性の背後から設計図が現れた。設計図には飛蝗の画が描かれている。
「変身」
グリップが押し込まれる。バッジが真ん中の空洞に収まった。呼応するように男性が黒いアンダースーツに覆われる。
そして、飛蝗の設計図がバラバラになり、男性の急所を守る装甲となって張り付き始めた。
<悪事を阻むストッパァ……papapa……!>
しかし、その途中で動作が止まる。ノイズが走り、プリミティブドライバーの発光が止んだ。装甲が消滅し、アンダースーツも消えた。エラーによる強制終了だ。
途端に照明がついた。男性がいたのは研究施設。彼の周りには無数の機材と白衣を着た研究者の同志達がいる。
そのうちの一人が近寄ってきた。天然パーマの青年だ。
「また失敗ですね、伝導所長」
「そうだね。けど、前よりスムーズに作動出来てる。少しずつ良くなってるよ。この調子で頑張ろう兎羽くん」
所長――伝導 想助がそう笑いかける。釣られて青年――兎羽 雅彦も笑顔になる。
「とは言え、失敗は失敗。改善すべき点の洗い出しを行おう」
二人の元に話しかけたのは白髪交じりの男――鰐淵 公三郎。この研究施設の中でももっとも熟練の研究者だ。
「そうですね」
想助達が頷く。
その時、スピーカーから蛍の光が流れる。午後五時を知らせる合図だ。
「もうこんな時間か……。早いね」
蛍の光を聞いた途端、想助は残念そうに眉根を八の字に曲げる。
「後はこちらでやっておきます」
「いつもすまないね」
「いいですよこれくらい。早く帰ってあげてください」
「それじゃあ、お言葉に甘えて。お先に失礼するよ」
想助が二人に軽く会釈をすると部屋から出ていった。手早く着替えを済ませると帰路につく。
伝導 想助は五年前から極力定時で帰るようにしている。何故なら最愛の一人息子が家で待っているからだ。妻に先立たれてからずっとそうしている。
息子――創斗に会えば研究の疲れや悩みが吹っ飛んでしまう。だからという訳では無いが想助の足取りは軽く、無意識に駆け足になっていた。
「ただいま」
やがて家に辿り着き、玄関の扉を開ける。いつもなら創斗が我先にと駆けつけてくる筈なのだが今日は違った。いつまで経ってもやって来ない。
(寝てるのかな?)
首を傾げながら家に入る。
廊下を歩き、創斗の部屋の前に立った。中から話し声が聞こえた。楽しげな笑い声だ。
気になった想助は部屋の扉を少しだけ開けて中を覗き込む。そこにはタブレットに向かって話しかけている創斗の姿があった。
「友達と電話中か」
想助が小さく呟く。意気揚々と喋っている創斗を見て、安堵する。最近、学校であまり人と関わらないと担任の先生から相談を受けたからだ。そこで気が緩んだせいか、創斗が視線に気付きこちらを向いた。
「父さん! お帰り!!」
椅子から立ち上がるとタブレットを持ったまま駆け寄ってくる。
「ただいま。友達と通話中か?」
「あ、そうだった!!」
創斗はタブレットを想助に見せた。画面には女の子が映っている。真っ白なドレスを着た、銀髪の少女だ。
「じゃじゃ~ん! おれの友達!! トワルって言うんだ!」
そう言って笑顔を向ける創斗。
想助は画面をまじまじと見つめる。そこに映っている少女はあまりにも人間離れした雰囲気を纏っている。
トワルと呼ばれた画面の中の少女はきょとんとした顔で小首を傾げている。
「トワル。こっちはおれの父さん」
『父……さん? ソート、それは何?』
「え? 何って……父さんは家族だよ」
『家族って何?』
疑問がさらなる疑問を生み出していた。トワルの追求に創斗は眉根を寄せる。
「あー、えっと……家族って言うのは……。うーん、何だろ? 説明が難しいな……」
とうとう耐えかねて彼は頭を抱える。
『そっか。じゃあ、こっちで調べる』
トワルが手を翳す。すると画面が勝手に切り替わる。ネットに接続され、家族や父に関する情報が次々に開かれていく。
その様子に想助は目を見開いた。
「何だ……これは」
『検索終了。家族とは、血縁関係等を中心とした相互の感情的きずなに基づいた日常生活を共にする小規模共同体の事。
父さんとは、血縁関係のある男性の親の事。インプット完了』
「すっげぇー! トワルすっげぇ!!」
驚く想助とは対照的に創斗は目を輝かせて手を叩いている。
「君はいったい……」
『Electronics Life。エルフ。覚えてるのはそれだけ』
「どういう事だい?」
想助の疑問に創斗が代わりに答えた。
「なんかこいつ記憶喪失なんだって」
「記憶喪失?」
「なぁ父さん。トワルの記憶、取り戻してやれないかな? 何も分からないままなんて可哀想だよ」
そう訴える創斗。心から彼女の事を想っているのだろうとても真剣だ。想助の口元が弧を描く。
「そうだね。分かった。父さんも協力するよ」
「本当!」
「そのかわり条件がある。トワルちゃんの事は他の人には内緒にする事」
「どうして?」
「創斗が吹聴する事で彼女が不利益を被るかもしれない。だから僕の調査が終わるまでこの事は僕らだけの秘密だ」
「分かった!」
創斗が元気良く頷く。
想助はタブレットの中のトワルに目線を合わせる。
「はじめまして。僕は伝導 想助。創斗のお父さんだ。よろしくね」
『うん。よろしくソースケ』
彼女も頷く。表情は変わっていないがどことなく嬉しそうに見える。
かくして、想助による調査が始まった。
調査と言ったら何をするべきか。科学技術の発達した現代で最初に行う事と言えば検索だ。想助は研究所の自分のデスクにてElectronics Lifeと検索する。
「やっぱり出てこないか……」
やはりというべきか結果は振るわなかった。想定の範囲内だ。次はどうするべきかと想助は頭を悩ませる。
「どうしたのかね? ため息なんかついては幸せが逃げてしまうぞ」
声をかけてきたのは公三郎。
彼は想助より年上で長くこの界隈を生きている。彼ならば何か知っているかもしれない。そう考え、想助は聞いてみることにした。
「鰐淵さんはElectronics Lifeってご存じですか?」
想助の言葉を聞いた公三郎の顔がみるみる青褪めていく。ふらふらとよろめきながら後退り。
「……すまないが今日限りでここをやめさせてもらうよ。今まで世話になったね」
そう言い残すと逃げるように足早に去っていく。
「ちょっと待ってください!!」
慌てて追いかける想助。研究所の外で公三郎に追いついた。
「急に辞めるってどういう事ですか? もしかしてエルフについて何か知ってるんですか?」
「……知らない。私はエルフなんて知らない。だからここを通してくれ!!」
明らかに何かを隠している。公三郎の動きは挙動不審だ。
「ふっ。見つけたぞ、
その時、二人に声をかける人影があった。王冠にマントという奇抜な格好の男。不敵な笑みを浮かべながら想助達を見ている。
「誰だ!?」
「余はアクロ。エルフの王である!!」
公三郎の問いにアクロが答える。彼の返答に想助達は驚きに目を見開く。
「エルフだと!?」
「エルフ……」
二人の驚き様にアクロは満足そうに嘲笑した。そして腰にバックルを巻き付けた。
<プロトモッドライザー!>
「返してもらおう。我が同胞を」
アクロがメモリアライズバッジを取り出す。
「あれは! メモリアライズバッジ!? どうして!?」
想助がさらなる驚きを露わにする。
メモリアライズバッジは想助が開発した物。そしてそれはまだ世に公開していない。本来であれば想助や研究所の仲間しか手に出来ない代物なのだ。
それを見知らぬ人物が持っている。彼の受けた衝撃は計り知れない。
<バット!>
そんな事はつゆ知らず。アクロはメモリアライズバッジを起動させるとプロトモッドライザーに装填。
途端にノイズの奔った蝙蝠が出現。アクロの後方で羽ばたいている。
そしてベルトを操作しながら意気揚々と叫ぶ。
「電令!」
<ハック! クラック! バーサーク!!>
<アーマーコード:バット!!>
蝙蝠がバラバラになると装甲となってアクロに張り付いた。腰の鞘から双刀を引き抜く。目付きは鋭く、それはまるで獲物を前にした獣のよう。
「せめてもの慈悲だ。痛みもなく、くたばるがいい!」
双刀が振るわれる。斬撃が想助達を襲う。
「危ない!」
咄嗟に公三郎を突き飛ばす想助。その反動を利用して自身は反対方向に飛ぶ。尻もちをついたと同時に斬撃が地面に着弾。先程までいた場所のアスファルトが抉られている。その光景が攻撃の凄まじさを物語っている。
「まずは貴様からだ」
アクロが公三郎へと向かっていく。公三郎も尻もちをついている。彼は恐怖に慄き、動けないでいる。このままでは命が危ない。
想助は近くにあった消火器を手に取るとアクロへ向けて噴射。白い粉末が彼の視界を塞ぐ。
「小癪な真似を」
双刀で一閃。ただそれだけで粉塵が掻き消された。そのまま距離が詰められ、剣が振り下ろされる。
消火器が斬られ、真っ二つに分かたれた。
「そんなに死にたければ先に殺してやろう」
『そこまでです。彼らを殺してはいけません。まだ利用価値があるのですから』
アクロの元に通信が入る。アイからだ。しかし、アクロは彼女の指示を無視して双刀を振り上げた。
『アクロやめなさい。私の指示を聞きなさい』
「だが断る! 余はエルフの王。余の選択を決めるのは余! 貴様ではない。人間は残らず殲滅する」
双刀が振り下ろされた。
その刹那。アクロの変身が解ける。振り下ろされた双刀も想助に触れる直前で消滅した。
その様子にアクロは悪態をつく。不快感を隠そうともせず通信返す。
「何のつもりだアイ」
『そちらが私の指示に従わなかったたので強硬手段に出たまでです』
「ちっ! 命びろしたな
そう言い残しアクロは踵を返し去っていく。
その後ろ姿を呆然と見送る想助。やがて彼の姿が見えなくなると我に返った。
視界の端に未だ起き上がれないでいる公三郎の姿が見える。
「鰐淵さん。大丈夫ですか?」
そう言いながら想助は公三郎に駆け寄っていった。
「ふぅ」
公三郎を助け起こした想助。二人は公園に移動していた。時間帯故なのか公園に人の姿は無い。
ベンチに座り、自販機にて購入したお茶を飲む。その素朴な味わいが想助に冷静さを与えてくれた。
ちらりと横を見ると公三郎も落ち着きを取り戻したらしい。先程より顔色が良くなっている。
「それでElectronics Lifeを、エルフを本気でご存じないんですか?」
「……あぁ、知っているとも」
最早観念したのか、公三郎はあっさりと認めた。
「いったい何があったのですか?」
「私は……いや我々は罪を犯したのだ」
深刻な表情で彼は言う。
「罪?」
「そうだ。そのせいでElectronics Lifeは人間に敵意を抱いている」
「その罪とは何ですか?」
「以前私が勤めていたのは政府公認の組織。そこでElectronics Lifeが生まれる事となった。そして、世界で最初に生まれたファーストエルフが誘拐された」
「誘拐!?」
剣呑な内容に想助は戦慄を隠せないでいる。
「彼はその同胞を見つける為に襲ってきた」
「そのエルフの所在は?」
「分からない。だが誰がファーストエルフを誘拐したのかは知っている。
「鰐淵さんはこれからどうするつもりですか?」
「このままここにいては私は殺されてしまう。どこか遠くに逃げる他無いだろう」
「なら、エルフの件、僕に任せてもらえませんか?」
想助の言葉に公三郎は驚く。目を見開きながら彼を見つめる。
想助は笑顔で続ける。
「恐らく
「何故……そこまで?」
「それは、」
その時頭上を飛行機が通過する。その音に掻き消され、想助の言葉は公三郎のみが知る事となった。
「そうか。ならば君に後を託そう。すまない」
「いえ。乗りかかった船です。任せてください」
二人は立ち上がると笑顔で向かい合う。そしてほぼ同時に踵を返した。両者は互いに反対方向へと去っていった。
「ただいま」
仕事を終えた想助が家に帰ってくる。
「お帰りなさい!」
『お帰りなさい』
さっそく創斗とトワルが出迎えてくれた。
「どうだった? 何か分かった」
「いや、まだだよ。流石に昨日の今日だと中々分からない」
想助はそう言って誤魔化す。今日の出来事は秘密にしておくべきだろう。下手に話して危険な目に合わせるわけにはいかない。
「そっか。残念」
「そっちはどうだった? 今日は何をしたんだい?」
『今日はソートから新しい事を教えてもらった。アニメなるものを一緒に見た』
「面白かったかい?」
『よくわからなかった。けど、ソートが頑張って教えてくれるからとても楽しかった』
トワルが小さく笑みを作る。
「トワルが笑った!? 初めて見た!」
『笑って……た?』
無意識だったようで彼女はびっくりしている。創斗はとても嬉しそうだ。
「さてそろそろご飯にしようか」
「うん!」
想助達はリビングへと足を運んだ。
それから数時間後。夕食を取り、風呂を済ませた想助は自室である書斎へ入る。
備え付けられているパソコンを開くと一通のメールが届いていた。差出人は、
「アーシリーコード?」
見覚えのない差出人に首を傾げる。
中を改めるとそこには設計図と座標の示されたマップが添付されていた。
「これは!?」
設計図に描かれていたのはモッドライザーと呼ばれる装置。その内容は画期的でこの技術を上手く活用すればプリミティブドライバーを完成させる事が出来る。その事実に想助の心が沸き立つ。
「これならアクロに対抗出来る」
そしてマップに示されていた座標は祭波市郊外の山奥。謎の人工施設の写真も映されていた。写真には人の姿もある。その人物に見覚えがあった。公三郎と別れた後に調べた扇堂 宗十郎その人だ。
「アーシリーコード。いったい何者なんだ……」
罠かもしれない。あまりにも都合の良い内容にそんな不安がよぎる。
それでも使わない手はない。今出来る事はこれしかないのだから。
覚悟を決めた想助はさっそく行動を開始する。プリミティブドライバーと工具箱を取り出し、机の上に置く。そして設計図を見比べながら改良を始めた。
プリミティブドライバーが完成した頃には既に夜が明けていた。少しずつ外が明るくなってきている。想助はバックの中にドライバーをしまい込む。今日は休む事を職場にメールすると部屋を出た。
『おはよう、ソースケ』
玄関から外へ出ていこうとした彼の元へトワルが声をかけてきた。
「あぁ、おはよう」
『どこかに行くの?』
「うん。ちょっとね」
想助がそう曖昧に笑う。
「……ねぇ、トワルちゃん。君にとって人間ってなんだい?」
アクロの事を思い出しながら想助はトワルに問いかける。彼女はぱちくり目を瞬かせる。
『人間の事は分からない。けど、ソートの事は分かる。わたしの友達』
「そっか。トワルちゃん、創斗の事任せたよ」
そう言い残すと想助は家から出ていく。
それを遠くから見つめる影二つ。アクロとアイ。
「なるほどな。やつを泳がせて、アンビシャスの居場所を見つける策か。アイ。貴様を褒めて遣わす」
「はいはい。ありがたき幸せ」
不敵に笑うアクロ。アイは嫌そうに返事をする。
(まぁ、前々から知っていたんですけどね)
そう。アイはとっくの昔にアンビシャスの居場所を突き止めていた。しかしその事をアクロに共有しないばかりか、救出に向けての行動も起こさないでいた。
そこには狙いがある。その狙いとは――
「突然すみません。アポイントメントも取らずに」
「いやいや。構いませんよ。まさかかの有名な伝導 想助さんからお声をいただけるとは光栄です」
郊外の研究施設にて。想助は扇堂 宗十郎と対面していた。応接室にて向かい合う二人。営業スマイルで腹を探る想助。それとは対照的に宗十郎はとてもにこやかだ。
「それでお話というのは?」
「実はここに電脳生命体がいるという話を小耳に挟みましてね」
「おやおや。いったいどこからそんな話が?」
怪訝そうに笑顔を曇らせる宗十郎。
「鰐淵 公三郎さんからです。彼は数日前まで僕の研究所にいたんですよ。別れ際にその話を打ち明けられたものでして」
「なるほど、そうでしたか」
「こちらとしても電脳生命体となれば興味は尽きません。それに僕の研究に役立てるかもしれませんし。贅沢を言えばそちらと共同開発なんて出来たら良いなと思ったり」
想助の言葉に宗十郎の表情に明るさが戻ってくる。彼はお金に汚い利益主義者だ。どうやら共同開発の単語に食いついたようだ。
「それでしたら隠す必要はありませんね。ついてきてください」
案内されたのは地下施設。そこには地上で目撃した以上の規模を誇る設備があった。
廊下を研究者達が忙しなく動き回っている。彼らの間をすり抜けて、想助は一つの部屋の前に到着する。そこは厳重なセキュリティが施されており、生体認証が付いていた。宗十郎の顔がスキャンされると扉が開く。
中に入ると目の前には培養槽を思わせる装置が部屋の中央に設置されている。その中を漂うシルエットが映し出されていた。
「これが……」
「えぇこれがエルフです」
にやりと宗十郎が笑う。恐らく呆気に取られる想助の様子を初めてエルフを見たがゆえの反応だと誤解しているようだ。
しかし、想助が呆気に取られているのはそれが理由ではない。
そのエルフの状態が想像より酷いものだったからだ。体のいたるところからノイズが奔り、左目は原型を留めていない程歪んでいる。まるでブラックホールの様に真っ黒だ。
「くっ……」
見ただけでここでどんな扱いを受けていたかが分かる。想助は唇を噛みしめる。手にも力が入り、いつの間にか拳を握っていた。腸は煮えくり返っている。気を抜くと今にも宗十郎を殴ってしまいそうな程だ。
だが今はまだその時ではない。何とか彼の信頼を得て隙を作る。そしてエルフを取り戻す。それが想助の計画だった。
「見せていただき感謝します。それでは共同開発の件なのですが」
その時、地下施設の入り口が開いた。入ってきたのは二人。アクロとアイ。アクロの腰には既にプロトモッドライザーが巻かれている。
「それでは始めましょう」
「跪け者共。その素っ首叩き切ってくれる」
メモリアライズバッジを起動してセット。ベルトを操作する。
<バット!>
<ハック! クラック! バーサーク!!>
<アーマーコード:バット!!>
装甲を纏い、双刀を構え、アクロが戦闘態勢に入った。双刀が振るわれ無数の斬撃が人々を切り裂き、設備を破壊していく。
危険を知らせるサイレンがけたたましく鳴り響く。赤いランプが施設を染め上げている。
「な、何があった?」
「侵入者です! 地下施設の中で暴れています!!」
「すぐに対処せよ!」
泡を食った様に慌てる宗十郎とその部下達。
次の瞬間。斬撃が扉を突き破り、彼らを捉えた。鮮血が飛び散り崩れ落ちる。
扉から現れたのはアクロ。彼の体は返り血で赤く染まっていた。
「久しいな、
「アクロ……!」
想助はバッグを握りしめる。
「そこをどけ。我が同胞を返してもらうぞ」
「それは構わない。代わりにこちらの話を聞いてくれないか?」
「断る。
アクロが剣の切っ先を突きつける。
想助はバッグからドライバーを取り出した。それは全身がシルバーに彩られたバックル。それすなわち、
<プリミティブドライバー!>
想助が腰に巻き付ける。
その様子にアクロも警戒心を強めた。
「分かった。そうさせてもらう」
懐からクリアグリーンのメモリアライズバッジを取り出し起動させる。
<ホッパー!>
メモリアライズバッジをドライバーにセット。想助の背後に飛蝗の設計図が出現。
想助がグリップに手をかける。そして、押し込みながら高らかに宣言する。
「変身」
<悪事を阻むストッパー! 空へ翔び立つホッパー!>
<メモリアライズバッジ、バッチゴー!>
想助が黒のアンダースーツを纏う。設計図から緑の装甲が現れるとその体に装着されていく。最後に飛蝗を思わせる仮面が頭部に張り付き変身が完了した。
シルバーのマフラーを靡かせて想助が構えを取る。
「なんだこれは!?」
「ライダーシステム。僕が開発した誰かを助けるための装置。そしてこの姿の名をこう呼ぼう。仮面ライダー。仮面ライダープリミティブと」
想助――仮面ライダープリミティブがアクロと対峙する。
これより始まるのは死闘。今こそ原初のライダーシステムが初陣する。