「アクロが……死んだ……!?」
信じられないと目を見開くのはアンビシャス。
「えぇ、残念な事ですが。私が駆けつけた時には、もう……」
そう答えたのはアイ。悲しげな表情で目を伏せる。彼女の態度にアンビシャスは拳を握り締める。体を怒りに震わせながら。
「これをあなたに託します」
アイが手に持っていたシグナライザーMarkⅡを差し出す。それはアクロが使っていたもの。
「これを使って彼の仇を取ってください」
神妙な顔でアンビシャスを見つめるアイ。対するアンビシャスはというと、静かにぽつりと呟く。
「どうやら俺は甘かったようだ。エフェクトが向こうに着き、そちらばかりにかまけてしまった。その結果がこれか……」
彼は一度目を閉じる。そして、しばしの静寂の後に目を開いた。その瞳にもはや迷いは無い。アンビシャスがシグナライザーMarkⅡを手に取った。
「俺はもう迷わない。相手が誰であろうと人類削除の為に戦う」
その姿を見て、アイは笑う。
「ならば削除して欲しい人物がいます。お願いできますか?」
「誰だ? 誰を削除すればいい?」
食い気味に聞くアンビシャス。
アイがタブレットの画面を見せた。画面にはマップが表示されており、そのうちの一つに赤丸が点滅していた。
「鰐淵 公三郎です。ついこの間やっと見つけたんですよ。お願いしますねアンビシャス」
「あぁ任せろ」
アンビシャスは頷くと踵を返す。そしてアジトを後にした。
「鰐淵 公三郎さんが見つかった!?」
D.A.T.A基地にて創斗が声を上げる。隣にいるトワルも驚いた表情をしていた。
彼らにその事を伝えたのは玲。彼女がパソコンを操作すると、連動してプロジェクターの画面も切り替わる。画面に映し出されているのは鰐淵 公三郎を映した無数の写真。
「アクロの話を聞いた後、D.A.T.Aの総力をあげて捜索したんだ。そしたら祭波市から離れた山奥で目撃情報があって、山の近くの監視カメラで捉えたってわけ」
「なるほど……山奥ですか。それなら例えアイであっても見つけるのは困難でしょうね」
当然だが山奥には電気が通っていない事が多い。仮に通っていたとしても探索には不向き。現地に赴かなければ流石のエルフでも難しいだろう。
「けどD.A.T.Aが発見出来たって事は」
「うん。アーシリーコードも見つけてる可能性は高いと思う。そこで、伝導くん達に彼を大至急保護して欲しいってわけ」
「分かりました」
拒否する理由は無い。創斗とトワルは二返事で了承する。
「ふふふ。話は聞かせてもらったよ」
後方で声がした。振り返ると壁にもたれかかり得意気に腕を組むエフェクトがいた。
「ワタシ達も同行しよう! ね、錬児?」
「あはは……」
傍らには気まずそうに笑う錬児もいる。
何故か張り切っているエフェクト。見かねた創斗は錬児に尋ねる。
「どうしたんだこいつ?」
「いや、こないだ見せた山登りのアニメ見せたらハマったみたい」
「なんだそりゃ」
創斗は呆れた顔になった。
「登山かぁ。やっぱり虫取り網とかいるかな?」
「何をしようとしてるんです?」
「カブトムシとか捕まえられるかなって」
両手で架空の虫取り網を持ち、フルスイングするエフェクト。
「欲しいんですか?」
「欲しい!」
トワルは想像する。森の中。木の幹にいるカブトムシ。そっと木に登り、虫取り網を振るうエフェクト。そして、捕まえたカブトムシを天に掲げる姿を。
「意外と……似合ってる……?」
「しっかりしろ。目的が変わってるぞ」
ジト目で告げる創斗。苦笑しながら錬児が創斗の肩に手を置く。
「まぁともかく。その鰐淵さんって人を探すんだろ? なら人手は多いに越したことは無いだろうし、手伝うぜ」
「そうだな。頼む」
こうして創斗とトワル、エフェクトと錬児の四人で山へ向かう運びと相成った。
祭波市から二つ隣の町、田把町。そこにそびえ立つのは布衣馬山と呼ばれる山がある。鰐淵 公三郎の姿が発見されたのはその山に設置されたカメラからだ。
動きやすい服装に着替えた創斗達は布衣馬山の麓から頂上を見上げる。たどり着くまで半日はかかるらしい。とは言え恐らく頂上に行く必要はないだろう。
「麓のカメラで発見されたとの事なので、恐らくは山の周辺で暮らしている可能性は高いと思われます」
「まぁ、現代で山の中生活って厳しいだろうからな」
想像しただけで恐怖を感じる。創斗は思わず両腕を擦る。
「ふふん。腕がなるね!」
虫取り網で素振りしながらエフェクトが言う。
「マジで持ってきやがったよこいつ……」
創斗は信じられないものを見る目をする。
「そろそろ出発しようぜ? 日が暮れたら大変だし」
「そうでだな。早く見つかるといいけ……ど……」
錬児の提案に頷くと創斗。山への入り口に目を向けるとそこには白髪交じりの男性が立っていた。髭はぼうぼうに生え、着ている服も汚れている。まるで浮浪者の様な風体だ。
「……」
創斗はそっと携帯を取り出し、鰐淵 公三郎の写真を映す。そして、目の前の男性と見比べた。
「トワル」
「検証は済ませてあります。写真と多少の違いはありますが97%の確率で一致しています」
他ならぬトワルのお墨付き。迷う理由はない。
「総員、確保!!」
「「おう!」」
創斗の号令にエフェクトと錬児が駆ける。
一方、男性――鰐淵 公三郎は突如襲いかかる二人に驚き、山の中へと駆け出した。
「待てぇ〜!」
追いかけるエフェクトと錬児。しかし、山中は入り組み、生い茂った木々が邪魔で中々進めない。
対照的に公三郎はするすると木々の間を抜けていく。
「くそっ! 経験の差ってやつか……うぉっ!?」
後に続く創斗。遥か先を行く公三郎に悪態をつくも、足を滑らせ転んだ。ごろごろと斜面を落ちていく。
「ソート!?」
慌てて駆け寄るトワル。エフェクトと錬児も動きを止めた。
「おれは大丈夫だ。気にせず進め!!」
「ソートにはわたしがついてますので!」
創斗とトワルの指示に頷き、二人は再び駆ける。
やがて開けた場所にたどり着くと公三郎が肩で息をして止まっていた。体力勝負なら若い二人の勝ちだ。
「や……やっと……はぁはぁ……おい、追いついたぁ……はぁはぁ」
切らした息を整えながら錬児が言う。エフェクトは素早く回り込み虫取り網を構えている。
「確保ー!!」
「き、君達は一体なんなんだ!」
警戒心を剥き出しにしながら公三郎が尋ねる。
「よくぞ聞いてくれました! ワタシ達は、」
「見つけたぞ、鰐淵 公三郎」
意気揚々と答えようとしたエフェクトの言葉が遮られる。茂みから現れたのはアンビシャスだった。
「アンビシャス!?」
エフェクトが公三郎を守るように移動。すぐさまシグナライザー改を取り出した。
「何しに来たの?」
「決まっている。あの施設にいた者を抹殺しに来た」
「あの施設……。まさか君はエルフ!?」
彼の言葉に合点がいった公三郎は青褪めた顔で後退りを始めた。
「その通りだ」
「それは私怨からの行動?」
一歩足を踏み出すアンビシャス。エフェクトが真剣な表情で問いかける。
「違う。全てはエルフの為。あの施設にいた者は全て削除しなくてはならない」
「そんな事はさせない。怖がってる人をこれ以上怖がらせたってしょうがないでしょ!」
アンビシャスがため息をつく。そして鋭い瞳でエフェクトを見据える。それはこれまで彼女に向けたことのない敵意を孕んだ視線だった。
エフェクトは思わず身震いする。
「これが最終通告だ。そこを退け。出来ないなら、」
「出来ないなら?」
「お前を倒す。例え同胞であったとしても俺はもう容赦はしない」
そう言って、懐よりシグナライザーMarkⅡを取り出した。
「!?」
驚くエフェクト。傍らの錬児も冷や汗をかいている。
アンビシャスがシグナライザーMarkⅡを腰に巻く。
<シグナライザーMarkⅡ!>
続けてメモリアライズバッジを取り出し、起動させる。
<ビー!>
メモリアライズバッジがドライバーにセットされる。無数の蜂が出現し、アンビシャスの周囲を飛び回る。
「変身」
<Burn up! Cool down! ビー ・アンビシャス!!>
<アーシリーコード、アップグレード!!>
黒に紫のラインが入ったアンダースーツに身を包むアンビシャス。その上から無数の蜂が纏わりつき、赤の装甲となって装着された。
息を呑むエフェクトと錬児。彼らの前でアンビシャスが新たな姿へ変わった。亡き同胞の力を受け継ぎし、復讐の戦士。その名は仮面ライダーアンビシャスMarkⅡ。
「これはちょっと、いやかなりまずいかも……」
放たれるプレッシャーは凄まじい。さしものエフェクトも小さく弱音を吐く。
目だけを動かし、公三郎に告げる。
「逃げて。足止めはするから」
「あ、あぁ」
勢い良く頷くと公三郎は立ち上がり、背を向けて駆け出した。
逃がすまいとアンビシャスMarkⅡがガントレットを向ける。ニードルが発射された。
「させない!」
<バタフライ!>
メモリアライズバッジをシグナライザー改に装填。出現した大きな蝶がニードルを撃ち落とした。
「変身!!」
<Wake Up Date! バタフライ・エフェクト!!>
<シグナライザー、カスタマイズ!>
エフェクト改へと変身を遂げ、アンビシャスMarkⅡと対峙する。
錬児が見守る中、両者同時に動く。
素早くホルスターからエフェクタールガン改を抜く。
「はぁっ!」
先手はエフェクト改。
ではなかった。引き金に手をかけた瞬間、二丁の拳銃が弾かれる。
「!?」
弾き飛ばしたのはアンビシャスMarkⅡが放ったニードル。動きが止まり、無防備になったエフェクト改。その懐へ手早く潜り込むんだ彼の右拳が唸る。
「うわぁっ!!」
胴に衝撃が奔る。重い一撃が炸裂。エフェクト改が地面を転がった。
「このっ……」
立ち上がろうとした彼女の膝にニードルが突き刺さる。スタンが発動する。途端に力が抜け、エフェクト改は立てない。
そこにさらなる追撃。アンビシャスMarkⅡの回し蹴りが迫る。
「くぅっ!」
羽を展開し、エフェクト改が飛翔。既のところで回避に成功した。
「はぁ……はぁ……」
エフェクトは前を見る。彼女は初めて思い知った。彼が今まで本気で無かった事。そして、その敵意と殺意がどれほどのものなのかを。
「こんな怖いんだね……」
隣にいた時は気付かなかった。対峙して目の当たりにする現実。彼女の体は無意識に震えていた。
「でも、負けられない」
エフェクトには守るべきものがある。震える体に鞭を打ち、恐怖を抑え込む。
こちらに迫るアンビシャスを見据えながらエフェクトは構え直す。
「いっくぞぉ!!」
彼女が駆け出す。勝つために。
「どこだ。どこにいるんだ?」
一方、創斗とトワルは山の中を探索していた。追い求めるは公三郎。二人は周囲を見回しながら歩く。そして、視界の端に動く影を見つける。
「鰐淵さん!」
創斗の声に公三郎が振り向く。そして、また逃げ出そうとする。その背中へ慌てて声をかける。
「待ってください! おれは伝導 創斗って言います!」
「伝導……!?」
彼の言葉に公三郎が立ち止まる。目を見開きながら、創斗の方を振り返った。
「はい。父さんの名前は想助です」
「そうか。君は想助くんの! ……大きくなったね」
そう言いながら近寄ってくる。言葉とは裏腹に公三郎の表情は曇っている。とても気まずそうな顔だ。
「そしてこっちはトワル。おれの友達のエルフです」
「エルフ……友達。……あぁ。だから彼はあの時そんな事を言ったのか」
公三郎の脳裏に浮かぶのは想助との別れ際の会話。
あの時、エルフの件を任せてほしいと告げる想助に公三郎は尋ねたのだ。
「何故……そこまで?」
彼は優しく微笑みながら答えた。
「それはいつか手を取り合えたらきっと良い日になると思っているからです」
そうして二人は別れた。二度と会えないかもしれないと思いながら。公三郎は山の中へ。想助はエルフの奪還へ。
「初めまして、トワルと言います」
「あぁ。よろしく」
「おれ達は今、D.A.T.Aと協力体勢を取っています。アーシリーコードって言うエルフの組織があなたを狙っている可能性が高いんです。なのでこちらで保護させてください」
創斗が言う。
公三郎は彼の言葉に思い出したように焦った表情に変わる。
「そうだった! ついさっき、私を狙う男が現れたんだ」
「!? その男はどこへ?」
「あっちだ。君達の仲間が私を逃がしてくれた。男の名前は確か……アンビシャスと言っていた」
公三郎が奥の方を指さす。創斗とトワルは顔を見合わせる。
「分かりました。すいません。先に麓で待っていてください。後で合流しましょう!」
二人は弾かれたように駆け出した。
「きゃあ!!」
アンビシャスMarkⅡとエフェクト改の戦いも佳境を迎えていた。アンビシャスMarkⅡの痛烈な攻撃に防戦一方のエフェクト改。
アッパーカットが決まり、エフェクト改は地面を転がる。
「ぐうっ……」
よろよろと立ち上がる。そこにニードルが突き刺さる。またしても力が抜け、体勢を崩す。
先程からまともに戦わせてもらえない。攻撃を食らっては、スタンさせられ、また攻撃を食らう。堂々巡りだ。
「エフェクト、終わりにしよう」
<ファイナル!>
ベルトを操作するアンビシャスMarkⅡ。エネルギーが体全体に充満していく。
エネルギー状の羽を展開し、空を飛ぶ。空中で錐揉み回転しながら右手を突き出す。そのままエフェクトの元へ一直線に突き進む。
「エフェクトちゃん!」
思わず錬児が叫ぶ。
<ビー!>
<データクラッシュシグナル!!>
必殺の一撃がエフェクト改へ突き刺ささった。
「うわぁぁぁっ!!!」
エフェクトの変身が解ける。そのまま地面へ倒れる。衝撃で右手と左足はひしゃげ、破損した。
「うぅ……」
完全に動けない。そこへとどめを刺すべくアンビシャスが迫る。立ちはだかったのは錬児。虫取り網を武器に構える。
「駄目……だよ。錬児、逃げ……て……」
無事な左手を伸ばすエフェクト。
錬児はというと戦いを目の当たりにしているからか、体は恐怖に震え、歯の根は合わず、目尻には涙が溜まって今にもこぼれ落ちそうになっている。
「そ、そんな事。で、出来るかよ」
キッと目を細め、アンビシャスを睨みつける錬児。
「エフェクトちゃんは絶対にやらせない!!」
恐怖を押し殺し啖呵を切る。
対するアンビシャスは無言。仮面の奥の表情は計り知れない。それでも彼の拳に力が籠る。完全に臨戦態勢だ。
アンビシャスMarkⅡが拳を振るう。
「ひいっ!?」
錬児が思わず目を瞑る。拳が彼へ迫る。
「『させない!!」』
その時。真下から人影が飛び出した。姿を現したのはヴァリアブル ウルトラモール。鉤爪で拳を弾く。
「くっ」
後退るアンビシャスMarkⅡ。ヴァリアブルはすかさず腕を振り下ろす。
「!?」
途端に足場が陥没。アンビシャスが底へと落ちていく。
事前に周囲を掘り進めていたのだ。
穴の底は深い。だがアンビシャスには羽がある。このままではすぐに抜け出されてしまう。
<ドルフィン!>
<ヴァリアビリティショット!!>
穴の周囲を銃撃。砕けた岩や土が穴の底を埋めていく。これでアンビシャスはそう簡単には抜け出せない。
「今のうちに逃げるぞ!」
メモリアライズバッジを切り替え、ウルトラホークにフォームチェンジ。エフェクトと錬児を抱えると飛翔。山の麓まで飛んでいく。
<ビー!>
<データクラッシュシグナル!!>
やがてヴァリアブルの姿が見えなくなった頃、穴の底から柱が立ち昇る。
「逃げられたか」
アンビシャスが穴の底から戻ってくる。彼の視線の先には人影は見当たらなかった。
麓に着地するヴァリアブル。エフェクトと錬児を地面に下ろす。
麓には約束通り、公三郎が待っていた。事前に呼んでおいたD.A.T.Aの隊員達もいる。
「創斗くん!」
彼らの姿を見るなり、公三郎が駆け寄ってきた。そしてヴァリアブルの姿をまじまじと見つめる。
「これが完成したライダーシステム」
「はい。父さんの設計したものの改良品です!」
変身を解き、誇らしげに創斗が答える。トワルも創斗の隣に並び笑顔を見せる。
彼らの顔を見て公三郎も嬉しそうに微笑んだ。だが、すぐに表情を真剣なものに変える。
「創斗くん。私も覚悟が決まったよ。君達に話そうと思う。私達が犯したの罪を。エルフが生まれたきっかけを」
公三郎の発言に創斗達は息を呑んだのだった。