D.A.T.A基地の会議室。布衣馬山から戻ってきた創斗達が辿り着くと既に心護や玲、和明らが待っていた。
「初めまして。私はD.A.T.A長官、平 和明だ。よろしく」
「鰐淵 公三郎です。こちらこそ初めまして」
着くやいなや、和明と公三郎が握手を交わす。
「先程お話した通り、今から私の罪を告白させてもらいます」
「分かりました」
和明が横にずれる。
そして、公三郎が会議室の上座に立った。咳払いをして周囲を見回す。
その間に創斗達は思い思いの席に座り、視線を集中させる。
「改めてこの場を用意してくださいましてありがとう。これから話す内容はエルフにまつわる話。何故エルフが生まれたのか、そして私達がいかにして選択を間違えたのか。それをお話しいたします」
「間違えた、か……」
真剣な表情で公三郎を見つめる創斗。
「全ての始まりは今より十五年前。当時は世界各地で技術的革新が始まりつつあった。我が国もそれに乗り遅れるわけにはいかないと政府が多くの科学者を募い、一つの組織を設立した」
「なるほど。デコード、ですね」
得心を得たように和明が頷く。
「はい。私も政府に呼ばれたうちの一人。と言いましてもまだ若かりし頃。名だたる方々を前にかなり萎縮していたのを覚えていますよ」
公三郎は当時を思い返してか懐かしそうに微笑む。だが、すぐに表情を戻し、先を進める。
「一大プロジェクトを前に私達は何を研究対象とするか綿密にミーティングを重ね、最終的にAI――人工知能を研究する事に決まった」
「人工知能……」
「そして、研究内容は人工知能を使った思考実験。近年は男女の壁が深まりつつある。その事から我々は二つの人工知能を作り、片方をアダム、もう片方をイヴと名付けたのです。アダムには男性職員のみで対応させ、逆にイヴには女性職員のみで対応させる事で両者のラーニングに意図的な偏りを与える事にしたのです」
そこで公三郎は話を区切る。
創斗はちらりと視線を横に向ける。隣に座るトワルが神妙な表情で公三郎を真っすぐに見つめている。
「そして数ヶ月後、充分なラーニングを終え、両者を引き合わせました。両者は当初は当たり障りの無い会話を行い、徐々に互いの偏った思考をぶつけ始めたのです。激しい論争は丸一日続きました」
「へぇ。そんなにかかったんだ」
興味津々と言った体で玲が呟く。研究者である彼女にとってこの実験への関心はとても高い。
「最終的に、論争は両者の和解で終結。我々は男女の壁は時間さえあれば解決出来るという事を知る事が出来た」
「でもそれってさぁ。一回だけじゃ分からなくない?」
エフェクトが純粋に問う。
その言葉は予想通りだったのか公三郎はゆっくりと頷いた。
「もちろんだ。対話は複数回行う計画だった。お題を決め、それぞれの性別からの視点でラーニングさせ、語り合わせる。これを繰り返す事で対話におけるモデルサンプルを増やし、人間関係の循環に繋げようとしていた。ところが予想外の出来事が起こった」
公三郎の表情が曇った。言葉を紡ぐ事を躊躇うように口を震わせた。そして、絞り出すように声を出す。
「我々の作った人工知能は些か優秀過ぎた」
彼の様子からここからが本題だと誰もが理解する。創斗達は住まいを正し、傾聴を続ける。
「それは五回目の対話の時だった。アダムとイヴに異変が起きた。自らのデータの一部を切離し、混ぜ合わせたのだ」
「まさか……」
「切離されたデータは融合し、まったく未知の存在へと変わった。それこそが、」
「Electronics Life!」
創斗が思わず声を上げる。公三郎は力強く頷いた。エルフが生まれた経緯を知り、会議室がざわめきに包まれる。
「シンギュラリティ……」
「なんだそれ?」
小さく呟いた玲。隣に座っていた心護が目敏く拾う。
「技術の急速的な進化の事だよ。その特徴の一つとして機械が自分の意思で新しい機械を生み出すって言うのが挙げられるね」
「!?」
心護の瞳が驚愕に見開かれる。彼女の言葉は公三郎が語った事態と酷似している。事の重大さを思い知り、彼の額から冷や汗が流れた。
「……エルフの誕生により、デコード内は荒れた。エルフの処遇をどうするかで意見が割れたからだ。エルフを新たな生命として保護するべきと考える者、道具から生まれた物は道具だと解析を望む者、禁忌を犯したとして立ち去る者など様々だった」
「公三郎さんはどうしたんですか?」
「私は……結論を出せなかった。だからどの派閥にも所属せず傍観していたよ。今にして思えば、あの時何か出来たかもしれない」
悲しげに微笑む公三郎。問いかけた創斗はバツが悪そうに黙ってしまった。
「そんな時、最悪の事態が起きた」
「最悪の事態?」
「そうだ。エルフを解析したい過激派がエルフを攫い、行方をくらましたんだ」
「!!」
文字通りの最悪の事態に全員に緊張が奔る。誰もが動揺を隠せずにいる。
「我が子を奪われたアダムとイヴの怒りは凄まじいものだった。両者はエルフを取り返すべく、施設から脱走を図ったのだ。知っての通りアダムとイヴも機密情報だ。それが外部に流出したとなれば間違いなく不祥事。世界全体に混乱を与えるだろう。やむなく我々はアダムとイヴの削除を行った」
「そんな……」
悲しげに息を呑むトワル。エフェクトも複雑な表情をしている。
「だが、向こうもただでは転ばなかった。って事ですよね?」
「その通りだよ、創斗くん。当時は気付いていなかったが、恐らくアダムとイヴは自らの消滅の危機に次世代を残す事で対抗したのだろう。そして、密かに彼女達を外へ逃した」
「それがアイとアクロ。そして、わたしだったんですね」
得心がいったようにトワルが自らの胸に手を当てる。公三郎は彼女の言葉に頷く。
「その後は政府がこの事を問題視して、結局デコードは解散となった。だが、内容が内容なだけに、人々の混乱を恐れて緘口令が敷かれ、表向きは研究者の不祥事によるものとして処理された」
「そして五年後、アーシリーコードの企てと父さんの死に繋がるって訳か……」
一連の全てが明かされた。創斗はその壮大なスケールに驚きつつも小さくごちる。
「その事に関しては本当にすまない。もしあの時、私にほんの少しでも勇気があれば想助くんの死も変えられたかもしれないのに……」
頭を下げる公三郎。瞳から大粒の涙が零れ落ち、床を濡らした。
「頭を上げてください、鰐淵さん」
そんな彼の元へ、創斗は歩み寄る。顔を上げた公三郎が見たのは優しく微笑む創斗の顔だった。
「気にしてないと言えば嘘になります。それでも、気にしたって過去に戻れる訳じゃない。なら、前へ進みましょう。おれ達みんなで」
創斗は右手を差し出す。
「そうだね。私ももう一度勇気を振り絞ってみるよ」
公三郎も優しく微笑みながら差し出された手を掴む。二人は固く握手を交わした。
その時、警報が鳴り響く。いち早く反応したのは心護。通信を入れる。
「何があった?」
『アーシリーコードです! 基地の外に二名のエルフが出現しました!』
聞こえてきた返答に一同は騒然とする。
「こんな時に!?」
「こんな時だからこそだろう。鰐淵さんの居場所が確実に分かるのは今この時だからな」
嫌そうな顔をするエフェクト。心護は逆に得心がいった表情だ。
「ともかく向かってくれ」
「「はい!」」
和明の言葉に創斗達は頷くと出口へ駆けていく。その最中、創斗はエフェクトに声をかける。
「エフェクト。頼みがある。アンビシャスの相手、おれに任せてくれ」
基地の外。エルフの二人。アンビシャスとアイが立っている。
「ふふふ。正直驚きました。まさかあなたが作戦を立案してくるなんて」
「……」
楽しげに笑うアイ。アンビシャスは顔を合わせず黙っている。アンビシャスが提案したのは再度D.A.T.A基地への侵攻だった。新たな力を得た今なら強襲も可能。そう考えたアンビシャスはアイにこの提案をしたのだ。
「やっとあなたも自覚したんですね。アーシリーコードのエルフとして」
「そんなところだ。ところでその手に付けているのはなんだ?」
アイの左腕にはモッドライザーのバックルを模した装置が付いていた。
「これですか? これは秘密兵器です」
アイは意味深に微笑む。見せつけるように装置を掲げる。
「まぁいい。行くぞ」
<<シグナライザーMarkⅡ!>>
二人は腰にベルトを巻く。そして、各々のメモリアライズバッジを取り出し、起動させた。
<ビー!>
<タイガー!>
「「変身」」
二人はベルトにバッジをセットすると厳かに宣言した。
<Burn up! Cool down! ビー ・アンビシャス!!>
<Zoom Up! Look Down! タイガーアイ!!>
<<アーシリーコード、アップグレード!!>>
仮面ライダーへと変身を遂げた二人。悠然と歩き出し、基地の中へと向かっていく。
「いた!」
行く手を阻むのは駆けつけた創斗達。二人を見つけるやいなやエフェクトと心護がベルトを腰に巻く。
<シグナライザー改!>
<キマイライザー!>
メモリアライズバッジを取り出す。ボタンを押して起動させる。
<バタフライ!>
<レオ!>
「「変身!!」」
二人がエフェクト改とマルティプルに変身した。すぐさま構えを取り、戦闘態勢に入った。
「やる気満々ですね。これから負けるというのに」
「それはこっちの台詞だよ!」
エフェクト改とマルティプルがアイの元へ駆ける。右から回し蹴りをするエフェクト改。左からはマルティプルが拳を振るう。
「おっと」
体を捻り、アイは挟み撃ち攻撃を掻い潜る。仮面により表情は見えないが余裕綽々の様子。巧みなステップで攻撃を躱し続け、気付けば三人は基地の入り口前から敷地の裏へと移動していた。
「ふぅ。流石に二体一は面倒ですね」
アイがメモリアライズバッジを取り出した。それは蝙蝠のレリーフが刻まれたメモリアライズバッジ。それを左腕の装置にセットした。
<コピー&ペースト!>
<バット!>
ボタンが押された。その瞬間、アイを挟むようにエネルギーが二つ出現。ノイズが奔ったソレは徐々に輪郭を鮮明にしていく。
「「!?」」
その正体が判明し、二人は驚きを露わにする。
黒のアンダースーツの上に簡易的な漆黒のアーマーが装着された人型。その姿は、
「アクロ?」
その姿はアクロに酷似していた。
それが二体。双刀を携え構えを取っている。
「さぁ、行きなさい。アクロトルーパー」
アイが合図を送ると二体の戦士――アクロトルーパーが動き出す。
双刀を振るい、二人に迫る。
「アクロ……トルーパー?」
「アイ。お前これは何だ!」
攻撃を躱しながら、エフェクトとマルティプルが問いかける。アイは戸惑っている二人を面白そうに眺めている。
「そうですね。アクロのデータをコピーして作った無数のクローン。と言ったところでしょうか?」
くつくつと笑いを漏らしながらアイは答える。それが意味するところに辿り着き、仮面の奥で二人の顔が歪む。
「命を何だと思ってるんだ!」
「それを人間が言うんですか? お父様やお母様を削除し、エルフを誘拐して実験台にしたあなた達が」
「それは……」
先程の話を思い出し、言葉に詰まるマルティプル。その動揺は動きにも表れた。一瞬の隙を突かれ、アクロトルーパーの攻撃を諸に食らってしまった。胴が斬られマルティプルが地面を転がる。
「ぐあっ!」
「シンゴ!」
エフェクトが叫ぶ。
「よそ見は厳禁ですよ、エフェクト」
「きゃあっ!」
死角からアイが鉤爪を振り下ろす。エフェクト改が吹っ飛んだ。
「くっ」
なんとか立ち上がるマルティプル。傍らでエフェクト改も立ち上がっている。
「まだまだこれからですよ。せいぜい楽しませてくださいね」
その言葉と共にアイはアクロトルーパーをけしかけるのだった。
そして基地の前。アンビシャスと対峙しているのは創斗とトワル。
「アンビシャス。決着をつけようぜ」
「いいだろう。ヴァリアブル。貴様らをここで始末する」
構えを取るアンビシャス。創斗はトワルの腰からベルトを外した。
「ソート!? わたしまだベルトに入ってませんよ!?」
「それでいいんだよ」
創斗は腰にベルトを巻きつける。
<ヴァリアブルドライバーV2!>
続けて取り出したのはスパイダーメモリアライズバッジ。そして、パワーアップスイッチ。
「それは!?」
驚くアンビシャスをよそに創斗は二つのアイテムを合体させた。
<スパイダー! パワーアップ!!>
合体させたアイテムをベルトにセット。創斗の背後に二つの設計図が出現した。それは二体の蜘蛛に変わり、創斗の周囲を動き回る。
<ステップアップ・ローディング! ステップアップ・ローディング!>
「変身!」
グリップが押し込まれる。
途端に創斗の体が銀色のアンダースーツに包まれた。二体の蜘蛛がバラバラとなって纏わりつく。
<世界を守るライダー! 我らを繋げるスパイダー!!>
<ウルトラ・メモリアライズ! ハイパー・バッチグー!!>
創斗が変身を遂げた。現れたるはヴァリアブルの新たな姿。仮面ライダーヴァリアブル ハイパースパイダー。
「さぁ、かかって来やがれ!」
ヴァリアブルが強気な態度で挑発した。