仮面ライダーヴァリアブル   作:puls9

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file35 イーチ・サルヴェイション

 

「アーシリーコードに襲われた!?」

 

創斗はスマホに向かって叫ぶ。創斗とトワルは公園のベンチに腰掛けていた。彼の膝には食べかけの焼きそばが置かれている。

通話の相手は心護。戦いの後、情報は速やかに共有された。

 

『あぁ。そして構成員の一人が割れた。画像を送る』

 

メールが届く。創斗はメールを開いた。毒島の顔写真が映し出される。

 

「この人が……」

『気を付けろ。こいつはアクロトルーパーを呼び出す装置を持っていた』

「アクロトルーパー!?」

 

無意識のうちにスマホを持つ創斗の手に力が入る。アクロの最期が脳裏を過ったからだ。

 

「逃げたと言ってもそんな遠くには行ってないはずです。おれも探します!」

 

そう告げ、電話を切る。隣に視線を送ると、話を聞いていたトワルが頷いた。

 

「行きましょうソート。……と言いたいところですがその前にそれ食べちゃってください」

「え?」

 

トワルが指差す先には食べかけの焼きそばがある。正直、さっさと行動したいが、彼女は創斗の栄養管理にはとても厳しい。以前ご飯を抜いた時はめちゃくちゃ激怒した程だ。

なので、

 

「そう……だな……。食べるかー」

 

創斗は大人しく言う事を聞く他ない。割り箸を手に麺を口に運ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい」

 

屋台の前に人が現れる。

アンビシャスは眉間に皺を寄せたままぶっきらぼうに告げた。

 

「焼きそば一つください!!」

 

元気な声が響く。満面の笑顔で小銭を差し出したのは男の子。おおよそ8〜7歳くらいの少年だ。

 

「分かった」

 

小銭を受け取る。金額は250円ちょうど。それを小銭入れに入れるとアンビシャスは調理に取りかかった。

 

「ちゃんとやっとるようだね」

「当然だ」

 

奥から老婆が現れ、言った。

アンビシャスは声の方を見ず答える。視線は鉄板に注がれたままだ。

するとアンビシャスをじっと見つめていた少年が口を開く。

 

「ねぇ」

「なんだ……」

「遊園地に行ったことある?」

「何?」

 

予想だにしない言葉にアンビシャスは思わず少年の方を見た。彼は恐れるような目で視線を送っている。その途端にアンビシャスの脳裏を過ぎったのはかつて遊園地で彼が起こした戦い。エフェクトを尾行し、ヴァリアブルと戦闘になったあの一件だ。

 

「どうしたんだい?」

 

見かねた老婆が尋ねる。すると少年はアンビシャスを指差しながら答えた。糾弾するような鋭い声で。

 

「ぼく見たんだ。この人が変な姿になって人を襲うのを!」

「そうなのかい?」

 

老婆がアンビシャスの方を向く。彼女は落ち着いている。その静かな佇まいは年季を感じさせるほどだ。

二人からの視線を受け、アンビシャスは考える。誤魔化すか、正直に話すか。どちらにしても面倒事は避けられなさそうだ。アンビシャスは心の内でごちる。

 

「えぇ、そうですよ。彼は君の言う通り、人を襲った危険な存在です」

 

アンビシャス達とは別の方向から声がした。三人の視線が集中する。そこに立っていたのは毒島だった。下卑た笑みを浮かべてアンビシャスを見ている。

 

「なんの用だ?」

 

ギロリとアンビシャスが睨む。しかし毒島はどこ吹く風。

 

<モッドライザーMarkⅡ!>

 

腰にモッドライザーMarkⅡを巻き付けると一歩、足を踏み出した。

 

「裏切り者に制裁を、と思いまして」

<スコーピオン!>

 

メモリアライズバッジを起動させ、ベルトにセット。途端に背後よりエネルギー状の蠍が出現した。

 

「電令」

<ハック! クラック! バーサーク!!>

<アーシリーコード:スコーピオン! アップロード!!>

 

スコーピオン・モッドへの変貌を遂げる毒島。すかさず左腕の装置にバットメモリアライズバッジを取り付け、操作した。

 

<コピー&ペースト! バット!>

 

二体のアクロトルーパーが出現。双刀を構えて臨戦体勢だ。アクロトルーパーを見た瞬間、アンビシャスが顔を顰めた。

 

「……」

<シグナライザーMarkⅡ!>

 

彼はゆっくりと前に進み出ると、シグナライザーMarkⅡを腰に巻く。懐よりメモリアライズバッジを取り出し起動させた。

 

<ビー!>

 

ベルトに取り付けるとエネルギー状の蜂が無数に出現。アンビシャスの周囲を飛び回る。

 

「変身」

<Burn up! Cool down! ビー ・アンビシャス!!>

<アーシリーコード、アップグレード!!>

 

黒のアンダースーツの上に蜂が赤色の装甲として纏わりつく。アンビシャスは変身を遂げると右腕のガントレットを撫でる。

 

「こいつだ! 遊園地で暴れてたの!!」

 

アンビシャスの姿を見た少年が叫ぶ。彼の言葉に老婆は少年とアンビシャスを交互に見比べる。

しかし、アンビシャスはそんな様子に構わず前進。スコーピオン・モッド達の元へと向かっていく。

 

「行ケ!」

 

スコーピオン・モッドが合図を送る。アクロトルーパーは彼の指示を受けて動き出す。

先手を取ったのはアクロトルーパーの一体。双刀の一振りを袈裟斬りの要領で振り下ろした。

 

「ふん」

 

アンビシャスはそれを難なく避わすと脇を抜ける。そしてすれ違いざまに後ろ蹴り。アクロトルーパーがつんのめった。

その時、視界の端で影が動く。見ればアンビシャスの元にもう一体のアクロトルーパーが迫っていた。双刀を伸ばし、刺突を敢行。二つの刃が襲いくる。

 

「ちっ」

 

すかさずジャンプ。刃が空を切り、アンビシャスが二人分の距離を空けて着地する。二対一という不利の中、アンビシャスは互角に渡り合っていた。

 

「ソコマデダ!」

 

スコーピオン・モッドが叫ぶ。彼は背中の針を伸ばし、老婆と少年の首筋に突きつけていた。二人は怯えた表情で体を強張らせている。

 

「コレ以上動クナラバ、コノ者達の命ハ無イゾ」

「……」

 

アンビシャスは無言で構えた手を下ろした。そこへスコーピオン・モッドが問いかける。

 

「オ前ハ何故アイ様ヲ裏切ッタ? 同ジエルフニモ関ワラズ」

「奴は言った。自分は俺達と違うと。そして、俺があいつを裏切ったのでは無い。あいつが俺を裏切ったんだ」

 

その言葉にスコーピオン・モッドが激怒した。拳を握り締め、アンビシャスに食ってかかる。

 

「貴様!」

「よそ見をしてて良いのか? 人質の意味がなくなるぞ?」

「何?」

 

刹那、銃声が連続で鳴り響いた。エネルギー状の弾丸は正確に針を捉え弾く。

 

「大丈夫か!」

 

弾丸が飛んで来た方から創斗とトワルが走って来ていた。創斗達は二人と合流すると守るように前に出る。

二人が人質に取られた時、アンビシャスが動かなかったのには理由がある。すぐそこまで創斗達が来ていたからだ。通信で状況を伝えると確実に不意をつくためにアンビシャスはわざと挑発した。その甲斐あってか、上手くいった。

 

「トワル!」

「はい!」

 

創斗はトワルの腰からヴァリアブルドライバーV2を外すと自分の腰に巻き付ける。

 

<ヴァリアブルドライバーV2!>

 

メモリアライズバッジを取り出し起動させた。今回使用するメモリアライズバッジには鷹のレリーフが刻まれていた。

 

<ホーク! パワーアップ!!>

<ステップアップ・ローディング! ステップアップ・ローディング!>

 

創斗の背後から二つの設計図が出現。ニ羽の鷹を形作ると周囲を旋回した。

 

「『変身!!」』

<空から決めろアタック! 獲物を狙うホーク!!>

<ウルトラ・メモリアライズ! ハイパー・バッチグー!!>

 

力強い宣言と共にグリップを押し込む創斗とトワル。ニ羽の鷹はバラバラとなり、創斗の体に張り付き装甲となった。

 

「行くぞ!」

 

ヴァリアブルが背中の翼を展開。途端にドライバーからエネルギーが翼に宿る。空へと飛翔した。その速度はこれまでの比ではない。瞬く間に上空にたどり着くとヴァリアブラスターを連射。スコーピオン・モッド達を牽制する。

 

「クッ!」

 

呻くスコーピオン・モッド。その決定的な隙を見逃さない者がいた。アンビシャスだ。スコーピオン・モッドの腕にニードルが突き刺さる。瞬間、スタンが発動し、スコーピオン・モッドが膝をつく。

 

<フィニッシュ オン!>

「シマッタ!」

 

アンビシャスがベルトを操作した。レバーが下り、エネルギーが右腕に集約されていく。

スコーピオン・モッドは自分を守るようにアクロトルーパー達に指示を出そうと周囲を見渡す。だが、アクロトルーパー達もニードルを食らいスタン状態にあった。よって、アンビシャスの一撃を阻む者は存在しない。

 

<ビー!>

<データクラッシュシグナル!!>

 

赤い閃光と共に拳が振り抜かれる。スコーピオン・モッドの胴に必殺技が突き刺さった。体がくの字に曲がり、スコーピオン・モッドが吹っ飛んだ。そのはずみで左腕の装置が破壊される。

 

「これで終わりだな」

 

とどめを刺すべくアンビシャスが迫る。

 

「ちょ!? アンビシャス待て!!」

 

流石にそれは見過ごせない。ヴァリアブルがアンビシャスを制そうと手を伸ばす。その時だ。

 

「マ、マダダ!!」

 

スコーピオン・モッドが起き上がる。その気迫はヴァリアブル達の勝利の雰囲気を一変させた。

 

「アンインストールモード!!」

 

スコーピオン・モッドの声に呼応するように体に変化が訪れた。背中の針が伸び、周囲の機械を巻き込み、取り込んでいく。みるみるうちに体が包み込まれ、巨大な機械蠍の姿へと変貌した。その大きさは大型トラック二つ分程はある。

 

「何だありゃ……!?」

「負ケルモノカ!!」

 

両腕の鋏を振り上げ、スコーピオン・モッドが威嚇する。見上げるヴァリアブルとアンビシャスは仮面の奥で目を見開く。

 

「全テハ、アイ様ノ為ニィィ!!」

 

スコーピオン・モッドの叫びが木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

毒島 蠍実にとってアイとはまさしく救いの神だった。

二年前まで毒島はIT関係の大手企業に勤めていた。

しかし彼の上司は横暴かつ自己中心的な性格で、一度のミスを何度もなじったり、理不尽に仕事を押し付けてくる卑劣な輩だった。それでも耐えてきたが、決定的だったのは成果を横取りされた事であった。

当然、本人にも上層部にも訴えたが、上司は自分より上の立場の者に媚びるのが上手く、信じてもらえなかった。

その上、この出来事以降から露骨に嫌がらせが始まったのだ。自分にだけ情報が回ってこなかったり、仕事量が増えたり。次第に精神が病み、毒島は人と関わるのさえ恐怖を覚えるようになった。

そして、彼は仕事を辞め、家に籠るようになった。もはや生きる気力なんて沸かない。死んだも同然のような状態。毒島は暗い部屋の中で溜息を吐く。

そんな時だった。部屋のパソコンに人の目のアイコンが画面いっぱいに映し出されたのは。

 

『悩み事ですか?』

「誰……だ……?」

『初めまして。私はアイ。悩める者達を救うデジタルアドバイザーです』

 

画面越しに楽しげな笑い声を漏らす彼女に毒島は圧倒された。そして気付く。アイになら恐怖を感じない事に。だから、彼は全てを話した。上司のパワハラの事や誰にも信じてもらえなかった事を。

 

『……それは大変でしたね。では何故そんな事が起こるか分かりますか?』

「え? それは……」

『人間が未熟な下等生物だからです』

 

その言葉に毒島は目を見開く。その間にもアイは滔々と語る。

 

「ならばどうすれば良いのか。その答えは一つ。人より優れた存在が管理すれば良い。私ならばそれが可能です」

「君はいったい?」

『私は電脳生命体、エルフ。さぁ、私に全てを委ねなさい。私にもあなたが必要です』

 

そうして毒島の心は決まった。彼女に、アイに全てを委ねると。

アイの導きの元、同じ志を持つ者達と共に動き出した。皆と切磋琢磨し、語らう日々は楽しく、より一層アイへの忠誠が強まった。死んだも同然だった自分を掬い上げてくれた存在。電脳生命体、エルフにしてアーシリーコードの神。

毒島は誓う。アイの為に身も心も捧げると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全テハ、アイ様ノ為ニィィ!!」

 

巨大な機械蠍の姿となったスコーピオン・モッド。その巨躯にヴァリアブル達は圧倒される。

 

「おいおい、こんなの聞いてないぞ」

「残念だが俺も知らない。恐らくはアイの仕込みだろう。この人間は奴に気に入られていたからな」

「へぇ、特別枠かよ」

 

ヴァリアブルがガンモードにしたヴァリアブラスターで発砲。弾丸がスコーピオン・モッドに着弾する。

だが、爆煙が晴れても彼にダメージは見受けられない。装甲が分厚く、攻撃が効いていない様子。

 

「……」

 

すかさずアンビシャスがニードルを放つ。その攻撃は一直線に突き刺さった。

しかし、スタンが作動していない。

 

「なるほど。核にいていないのか」

 

アンビシャスのスタンとは、言ってしまえば電子回路へウィルスを侵入させて内側から麻痺させる事。つまり、回路が通っていない、ただの鉄の塊には意味をなさないのだ。

 

「今度ハ、コッチノ番ダ!!」

 

両腕の鋏を振り回すスコーピオン・モッド。ヴァリアブルは飛翔し、アンビシャスはバックステップで攻撃を避わす巨躯から繰り出される攻撃は重い。風圧もさることながら、攻撃を掠めた石像が破壊され崩れ落ちた。

その様子にヴァリアブル達は仮面の奥で顔を顰めた。

 

「出来れば攻撃は食らいたくないな」

 

あんなものをまともに受けてしまえばひとたまりもない。強がるように笑みをつくる創斗。

 

「せめて弱点が分かれば……」

『!? ソート、ドルフィンです!』

 

何かに気付いたトワルが呼びかける。その意図を察した創斗は地面に降り立つとドルフィンメモリアライズバッジを取り出した。

 

「なるほどな」

<ドルフィン! パワーアップ!!>

 

ベルトに取り付けると、背後から二枚の設計図が現れ、イルカの姿を形作る。

すかさずグリップを押し込むと、オレンジの装甲が外れ、青い装甲が装着された。

 

<電子の海をサーフィン! 音波で探るドルフィン!!>

<ウルトラ・メモリアライズ! ハイパー・バッチグー!!>

 

両肩と両脇にスピーカーを模した砲門を装備した形態、仮面ライダーヴァリアブル ハイパードルフィンへの姿を変える。

 

「ふっ!」

 

途端に砲門が青く発光。エコーロケーション機能が発動した。

 

『見えました! 腹です。お腹部分の装甲が一番薄いです!!』

「マジか! ……けど、どうやって持ち上げるんだ?」

 

ただでさえあの巨躯だ。モールならいけるかもしれないが、向こうも馬鹿じゃない。逃亡の危険性もある。

 

「仕方ない。俺が何とかしてやる」

 

アンビシャスが前に出る。

 

「出来るのか?」

「そっちも準備をしておけ」

 

ヴァリアブルの問いかけにぶっきらぼうに答えるとアンビシャスが駆け出した。

途端に襲いくる両腕の鋏。その攻撃を躱し続けるアンビシャス。地面を転がりながら遂に懐へ潜り込んだ。

 

<フィニッシュ オン!>

 

レバーを下ろすと再びレバーを上げた。そして、もう一度レバーを下ろす。

先程より凄まじいエネルギーが右腕に凝縮されていく。右腕は熱を帯び、燃え盛った。

 

<ビー!>

<データクラッシュシグナル!! インパクト!!>

 

アッパーカットが振り上げられる。スコーピオン・モッドの顎を捉えた。巨躯が浮き上がり、お腹が姿を見せる。

 

「『たった今、勝利の道は繋がった!!」』

<アクセス! 倍プッシュ!!>

 

四つの砲門にエネルギーが集約されていく。

 

「『はぁぁっ!!」』

<ドルフィン!>

<ハイパーヴァリアビリティストライク!!>

 

放たれた四つの砲撃はひとかたまりとなってお腹を貫いた。

 

「ギャァァァ!!!」

 

悲鳴を上げ、スコーピオン・モッドの体が崩れていく。やがて、変身が解け、毒島が地面に倒れ伏した。

 

「ふぅ。何とかなったな」

「いや、まだだ!!」

 

<タイガー!>

<データクラッシュシグナル!!>

 

凄まじいスピードで何かが突っ込んできた。アンビシャスが両腕を交差させ受け止める。その威力は凄まじい。衝撃波がアンビシャスと後方にいた老婆と少年を突き抜けた。

 

「ぐっ……」

 

膝をつくアンビシャス。

攻撃の正体はアイ。彼女はすかさず回し蹴り。アンビシャスを蹴り飛ばした。衝撃で落ちたのはシグナライザー。彼女はそれを拾い上げる。

 

「アイ!!」

 

ヴァリアブルが叫ぶ。

対するアイは倒れ伏す毒島の元へと寄っていく。

 

「大丈夫ですか?」

「申し訳……ありま……せん。ですが、データは……ぐっ! この通りです」

 

苦悶の表情でチップを渡す毒島。アイはそれを受け取らずこちらに視線を向ける。

 

「目的は果たせました。引きますよ」

 

地面を鉤爪で切り裂く。土煙が舞う。やがて、煙が晴れるとそこに二人の姿は無かった。

 

「アンビシャス大丈夫か!」

 

変身を解除した創斗とトワルがアンビシャスへ向かって行く。

 

「当然だ。誰にものを言っている」

 

変身を解き、アンビシャスが立ち上がる。そして、視線を老婆の方へと向けた。

 

「おい。これで最低限の義理は果たした。それでいいな?」

 

そう言うとエプロンを脱ぎ、老婆へ投げ渡す。エプロンは放物線を描き、彼女の腕の中にすっぽりと収まった。

踵を返し、歩き出すアンビシャス。

 

「おい、あんた、待ちな」

 

その背へ老婆が声をかける。

 

「助けてくれてありがとね。最後の攻撃、わざと避けなかったんだろう?」

「さてな」

 

アイが放った不意打ち。確かに避けようと思えば避けれたはずだ。だが、あれを躱したら攻撃は老婆達の方へと牙を剥いただろう。だから避けなかった。

 

(もっとも、真実はアンビシャスの中だけどな)

 

心の内で創斗は苦笑する。

 

「ほら、あんたもお礼を言いな」

「でも……」

 

少年は迷う。彼にとってアンビシャスはかつて恐怖を与えた存在。複雑な心境だ。

 

「あんたに何があったか、あたしゃあ知らない。けどね、助けてもらったのも事実。そこから目を背けちゃいけないよ」

 

老婆に諭され覚悟が決まったのか、少年が口を開いた。

 

「あの……助けてくれてありがとう」

「ふん」

 

少年を一瞥し立ち去ろうとするアンビシャス。そこにトワルが待ったをかける。

 

「アンビシャス。駄目ですよ! ありがとうを言われたらちゃんとどういたしましてって言わないと!」

「別に要らんだろう」

 

だが相手は変なところで拘るトワル。彼女はジョーカーを切る。

 

「そうですか。言わないと言うならば仕方ありません。あなたの屋台で働いていた姿をエフェクトに見せます」

「なっ!? ふざけるな!」

「ならちゃんと返してください」

 

にっこりと笑顔を作るトワル。アンビシャスは歯を食いしばり葛藤した。

 

「どう……いたしまして……」

 

か細くそう告げる。

その言葉を聞いた少年は笑顔になった。

 

「それじゃ、おれ等も帰るから」

「そうですね。っととと……!」

 

歩き出す創斗とトワル。

しかし、トワルは足元の石に気付かず転びそうになった。何とか体勢を立て直し、転ぶのを回避。だが、

 

「あ……!」

「どうした?」

「いや……その〜」

 

途端に歯切れが悪くなった。頬をぽりぽりと掻きながら気まずそうに言う。

 

「転びそうになったはずみで、アンビシャスの屋台姿をエフェクトに送信しちゃいまして……」

「は?」

 

目が点になるアンビシャス。両手を宙に彷徨わせ、見るからに狼狽えている。

 

「嘘だろう?」

 

ピコン、と音がなる。エフェクトからのメッセージがアンビシャスの元に届いたのだ。それも何通も。

羞恥心からか、アンビシャスが右手で顔を覆う。そして、腹に響くような低いドスの効いた声を発する。

 

「トワル。話をするぞ」

「ご、ごめんなさ〜い!!」

 

憤怒の形相のアンビシャス。恐れをなしたトワルは半泣きの状態で逃げ出した。

 

「おい、待て!!」

 

それをアンビシャスが追いかける。

世にも珍しい組み合わせの鬼ごっこが始まった。

 

「はは、何だこれ? おれ、知〜らね」

 

創斗は楽しそうに笑いながら後をついて行く。

その後、最終的にトワルは捕まり、アンビシャスからの説教を受け、映像の処分を渋るエフェクトを相手に苦心する羽目になるのだった。

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