エネルギー状の飛蝗が群れをなして迫りくる。その有り様は濁流の如し。
「くっ!?」
ヴァリアブルは咄嗟に両手で防御姿勢を取った。だがそれでは攻撃を防げない。圧倒的な力を受けて、建物の外へとふっ飛ばされる。地面を転がり、倒れる。
「ソートくん!」
「伝導!」
外ではエフェクトと心護がヴァリアブルを見て、歯噛みしていた。二人の姿はボロボロで、立っているのがやっとの状態だ。
「うぅ……」
だが、ヴァリアブルの闘志はまだ消えていない。顔を上げ、建物の中を睨む。
「ふふふ」
嘲るように笑いながら出てきたのはアイ。その隣にもう一人も姿を現す。黒に銀のラインが入ったアンダースーツ。その上から銀色の装甲を纏った姿。顔には飛蝗を模した仮面が貼り付き、複眼が紫色の光を放っている。
「さぁ、イマジナリー。とどめを差しなさい」
アイの呼びかけにイマジナリーと呼ばれた戦士がゆっくりと手を前へ翳す。呼応するようにエネルギー状の飛蝗が再び出現。
「くっ!」
仮面の奥で歯を食いしばり、ヴァリアブルが立ち上がる。しっかりと相手を見据えながらも脳裏に浮かぶのは何故こうなったのか? という疑問。
それは遡る事、数時間前。
エレクトロ伝導の作業台を前に創斗はしきりに手を動かしていた。その顔は真剣そのもの。
傍らではエフェクトと錬児が固唾を飲んで見守っている。トワルは箒を手に、店内を清掃している。
「邪魔するぞ」
「おいっす!」
店の自動ドアが開く。入って来たのは心護と玲。
「お二人共、いらっしゃいませ」
気付いたトワルが返事を返した。エフェクトと錬児も手を上げて挨拶した。
創斗はよほど集中しているのか作業を続けている。
「創斗くんは何やってるの?」
そんな彼を指差しながら玲が尋ねる。あまりにも失礼な行動に心護は眉を寄せた。苦言を呈する前に創斗が答える。
「新作を作ってるんですよ。いい着想を思いついたんで」
「へぇ〜」
玲が作業台に近寄り、覗き込む。そこには二つのメモリアライズバッジの未完成品が置かれていた。配線が接続されており、その先にはこれまで創斗達が使用していた全てのメモリアライズバッジと繋がっている。
「このメモリアライズバッジはヴァリアブルの集大成になり得る代物です。完成出来ればアーシリーコードには絶対に負けない」
よほど自信があるのか創斗は得意気に笑う。
「ところでお二人はどういったご要件で?」
トワルが心護に尋ねた。
「あぁ。こないだの工業地帯での話だ」
心護が書類を取り出し、トワルに渡す。書類を受け取り中身を検めるトワル。内容が気になったのか、エフェクトと錬児も一緒になって見る。
「アーシリーコードが証拠隠滅に破壊した塔。それが何なのかが分かってきた」
心護が玲に視線を送る。彼女はコホン、と咳払いをして話を引き継いだ。
「恐らくあれは電波塔だと思う」
書類には塔に関する考察や推測、そして現状判明している事などが事細かに書かれていた。
「通常と少し違うのは受け取った電波をちょっと強くしてまた送信するっていう点。それと、」
玲が書類を捲る。次の紙に描かれていたのは地図。それは祭波市のでは無い。日本地図だった。
「調べてみたら同系統の塔が各地に建設されてた。祭波市だけじゃなくて、門出市や上田場市。何なら海外にもあったよ」
「「「「!?」」」」
玲の言葉に創斗達は瞠目した。アーシリーコードの企ては恐るべきスピードで進行しているらしい。
「このまま手をこまねいている訳にはいかない。まずは一刻も早く塔を確保してその詳細を探る必要がある」
心護が創斗達を見回しながら言う。
「けど、迂闊に近づけばまた……」
創斗の脳裏を過るのは前回の光景。向こうの妨害に阻まれ、塔の破壊を許してしまった苦い記憶が蘇る。
「そこは問題無い。長官より一度だけ強行的に調査してもよいと許しが出ている」
「それって……」
「実はもう塔の目星をつけている。これからアポ無しで突入を敢行する予定だ。お前たちにも手伝ってほしい」
創斗達は顔を見合わせる。そして不敵な笑みを作った。
「当然、手伝います」
創斗達が向かったのは赤出味区の建設現場。中からひっきりなしに作業音が響いている。見上げると目蟹区で見た塔と同様の物がそびえつつあった。
「改めて作戦を伝える」
心護が口火を切る。
「これから俺達は建設現場に乗り込む。向こうにアーシリーコードのメンバーがいるならば恐らく抵抗されるだろう。その場合はなるべく最速で倒す必要がある」
「証拠隠滅されるかもしれないからですね」
「そうだ。その上で勘付かれるのを防ぐ為に、少数精鋭で挑む」
心護が振り返り、創斗達を見回す。
「いけるな?」
「当然!」
エフェクトが皆を代表して答えた。得意気に胸を張る。
「行くぞ」
一同が動き出す。
「ところでアンビシャスは呼ばなかったのか?」
エフェクトにこっそりと創斗が尋ねる。対するエフェクトは少し言いづらそうに答えた。
「行けたら行くって」
「それ絶対来ないやつじゃねぇか」
建設現場の中では、多くの作業員がひっきりなしに動き回っていた。だが、創斗達――突然現れた闖入者を見て動きが止まる。
「D.A.T.Aだ。悪いがここを調べさせてもらう」
D.A.T.Aの身分証と捜査令状を見せる心護。作業員達の雰囲気が殺気立つ。中にはモッドライザーとメモリアライズバッジを取り出す者も。読み通りここは既にアーシリーコードの息がかかっているようだ。
「あらあら、兄さん達じゃありませんか? 奇遇ですね?」
背後から聞き慣れた声がした。振り返るとそこにはアイがいた。彼女は笑顔で上機嫌な様子。彼女の後ろには見慣れない人物が控えている。
「アイ!」
ベルトを取り出し警戒体勢を取る創斗達。対するアイは値踏みするように見回す。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……。アンビシャスはいないんですね。まぁ、いいでしょう。イマジナリー」
「うん、分かった」
アイの後ろに控えていた人物が前に出る。短く整えられた黒髪。瞳は命が宿っていないかのように無機質。中性的な見た目の少年が姿を現した。
「イマジナリー?」
「えぇ。私が作った最高傑作」
アイが仰々しく両手を広げてみせる。
「ぜひ、ご堪能くださいな」
イマジナリーがベルトを取り出した。横長の長方形。シルバーに彩られたバックルに紫色のカバーが装着されている。どことなくヴァリアブルドライバーに似ているそのドライバーには見覚えがあった。否、創斗にとっては知っていて当然の代物だった。
「おい、それって……」
「あぁ。当然気付きますよね」
「プリミティブ……ドライバー……」
絞り出すように呟く創斗。
「慧眼ですね。その通り、これはあなたのお父さんのドライバーを改造した物です。素敵でしょう?」
「ふざけんな! お前は、どこまで父さんを馬鹿にすれば気が済むんだ!!」
唇を噛み締めて、アイを睨みつける創斗。対照的にアイは涼しい顔でどこ吹く風。
その間に、イマジナリーがベルトを腰に巻いた。
<イマジナリードライバー!>
続けて取り出したのはメモリアライズバッジ。濃い紫色に飛蝗のレリーフが刻まれている。イマジナリーが上部のボタンを押して起動させた。
<ローカスト!>
グリップをスライドさせ、スロットを引き出す。すかさずバッジをそのスロットにセットした。
<イマジナライズ、バッチゴー! イマジナライズ、バッチゴー!>
音声が流れ出すとともに、おびただしい数の飛蝗が出現する。それらは群れなしてイマジナリーの周囲をひっきりなしに飛び交う。
「変身」
イマジナリーは静かにそう告げる。グリップを押し込むとバッジがイマジナリードライバーの中央に移動した。
<群れて蠢くローカスト! 全てを滅ぼすホロコースト!>
<シャットダウン・ローディング!!>
イマジナリーが黒に銀のラインが入ったアンダースーツに身を包む。そこへ無数の飛蝗が襲いかかるかの如く纏わりつき、銀の装甲へと変化していく。
そして、飛蝗を模した仮面が装着され、複眼が紫色に輝いた。
「僕はイマジナリー。仮面ライダーイマジナリー」
その恐るべきあり様に創斗達は息を呑む。
だがすぐに我に返った。
「行くぞトワル!」
「はい!」
創斗はトワルの腰からヴァリアブルドライバーを外し、自らの腰へ装着する。
<ヴァリアブルドライバーV2>
それはエフェクトと心護も同様。二人もベルトを腰に巻いた。
<シグナライザーMarkII!>
<キマイライザー!>
各々がメモリアライズバッジを取り出し起動させる。
<スパイダー! パワーアップ!!>
<バタフライ!>
<レオ!>
ベルトに装填すると二体の蜘蛛、無数の蝶、大きな獅子が出現する。
<ステップアップ・ローディング! ステップアップ・ローディング!>
「「「『変身!」』」」
四人の声が重なり響く。メモリアライズバッジの力を纏い、三体の仮面ライダーが誕生する。
「先手必勝!」
先に動いたのはエフェクト改。二丁の拳銃――エフェクタールガン改を引き抜き、イマジナリー目掛けて発射する。無数の弾丸が襲いかかる。
「……」
イマジナリーは慌てる事なく手を翳す。するとエネルギー状の飛蝗が出現した。独りでに動き出し、数多の飛蝗が弾丸の行く手を阻む。
それどころか弾丸をまるで食べ物のように貪るとそのままエフェクト改の元へ飛来した。
「うぇ!?」
慌てて飛び退くエフェクト。しかし、一歩遅かった。掠めた右腕が火花を散らす。見ると右腕の装甲がまるで食い破られたかのようにズタズタになっていた。
「うひぃ!」
もしこれが生身だったら。そんな想像をしてしまい、エフェクトは小さく悲鳴を漏らす。
「伝導、トワル。連携で仕掛けるぞ」
<スネーク!>
マルティプルがメモリアライズバッジを起動させ、ベルトの右スロットに装填した。
<キマイライズ・レオ、スネーク! ブレスト&ライトアーム!!>
マルティプルの右腕に蛇の鞭が装着される。すかさず鞭を振るう。空気を切り裂いてイマジナリーの元へ迫る。
「……」
イマジナリーは無言のまま、再び飛蝗の群れを出現させ、その行く手を阻む。たちまち鞭が貪られ、ボロボロになった。
しかし、勢いはマルティプルの攻撃が上。飛蝗の群れが散らされ、イマジナリーの前はがら空きになった。
「今だ!」
「『了解!!」』
蜘蛛の巣を足場に加速して、ヴァリアブルが懐へ潜り込んだ。
「喰らいやがれ!」
二人の心が重なり、シンクロシステムが発動。エネルギーが腕へと流れ込む。そのままの勢いで拳を握り、振るう。
「ふふふ。無駄ですよ」
その様子をアイが嘲笑う。
イマジナリーがヴァリアブルの攻撃を難なく手の平で受け止めた。
「なっ!?」
仮面の奥で目を見開く創斗。
だが、彼はここまで沢山の戦闘を潜り抜けてきた戦士。攻撃を一回止められたくらいでは終わらない。続けざまに左足で回し蹴りを敢行する。
「これならどうd……、え?」
回し蹴りを繰り出しながらイマジナリーを見るヴァリアブル。そこで目にしたのは、既に防御体勢を整えているイマジナリーの姿。彼らの放った一撃は軽々と止められてしまった。
「さぁ、イマジナリー。お返しをしてあげなさい」
「うん」
イマジナリーが跳び、ドロップキック。ヴァリアブルの胴に突き刺さり、吹っ飛ぶ。
「うぁぁっ!!!」
地面を転がるヴァリアブル。その様子を嘲笑いながらアイが告げる。
「無駄ですよヴァリアブル。あなた達のデータは既にインプットさせてありますから」
「くっ……!」
仮面の奥で歯噛みするヴァリアブル。そこへイマジナリーの追撃が容赦なく襲いかかる。飛蝗の群れが二手に分かれて向かってきた。対するヴァリアブルは、受けたダメージが大きく、片膝をついたまま動けないでいる。
「させるか!」
マルティプルとエフェクト改がヴァリアブルの前に立つ。両腕を交差させ防御。攻撃からヴァリアブルを庇う。
「うわぁぁぁ!!」
「ぐあぁぁっ!!」
だが、攻撃の威力は凄まじい。二人は攻撃を受けきれず吹っ飛んだ。建物の外へ投げ出され、地面を転がり、変身が解ける。
「エフェクト! 戎さん!」
叫ぶヴァリアブル。イマジナリーの攻撃は止まらない。
再度飛蝗の群れを送り込む。エネルギー状の飛蝗が群れをなして迫りくる。その有り様は濁流の如し。
ヴァリアブルは痛みを押し殺して立ち上がると、両手の平から蜘蛛の巣を連射した。
されど、効果は薄い。即座に食い破られる。速度も変わらない。
「くっ!?」
ヴァリアブルは咄嗟に両手で防御姿勢を取った。だがそれでは攻撃を防げない。圧倒的な力を受けて、彼らもまた建物の外へと投げ出された。地面を転がり、再び倒れる。
「ソートくん!」
「伝導!」
エフェクトと心護が倒れ伏すヴァリアブルを見て、歯噛みしていた。二人の姿もボロボロ。立っているのがやっとの状態だ。
「うぅ……」
だが、ヴァリアブルの闘志はまだ消えていない。顔を上げ、建物の中を睨む。
「ふふふ」
嘲るように笑いながら出てくるアイ。その後ろからイマジナリーが着いてくる。
「さぁ、イマジナリー。とどめを差しなさい」
アイの呼びかけにイマジナリーがゆっくりと手を前へ翳す。呼応するようにエネルギー状の飛蝗が再び出現。
「くっ!」
仮面の奥で歯を食いしばり、ヴァリアブルが立ち上がる。
「トワル!」
『ルート展開!』
ヴァリアブルの視界にトワルが予測した道筋が複数現れた。その中からヴァリアブルが選んだのは、
「はぁっ!」
後方へ跳躍。
蜘蛛の糸を発射して次々と飛び移る。飛蝗の群れはそんなヴァリアブルを容赦なく追尾する。
「『ここだ!!」』
タイミングを合わせてイマジナリーへ飛びかかる。慌てる事なく応戦の構えを取るイマジナリー。彼の拳が迫る。
そこで、創斗は仮面の奥でニヤリと笑った。拳が触れる直前、ヴァリアブルの姿が消える。
「!?」
驚くイマジナリー。咄嗟に上を向くと建物に張り付けた糸にぶら下がるヴァリアブルがいた。
「イマジナリー!」
アイが叫ぶ。前を見ると飛蝗の群れが眼前に迫っていた。
これこそが創斗達の狙いだ。攻撃を防御しきれないなら相手に押し付けてしまえば良い。
イマジナリーが何かしようとするがもう遅い。飛蝗の群れは彼に着弾した。破裂音とともに煙が発生する。
「よし!」
ヴァリアブルの明るい声。見ていたエフェクトや心護も笑顔を浮かべる。
だが、煙の中からこれまで以上の飛蝗の群れが出現。四方八方からヴァリアブルを攻撃。建物に張り付けた糸も切られ、地面に落下した。
「ぐあっ!?」
前を見る。そこにはイマジナリーが佇んでいた。装甲は部分的に傷が入っているが、大した損傷には見えない。
「マジかよ……」
創斗が無意識のうちに呟く。
「今度はこちらの番。決めなさい、イマジナリー」
「うん」
イマジナリーがベルトのグリップに手を掛ける。スライドさせて引き出すとメモリアライズバッジのボタンを押す。
<アクセス!>
グリップを押し込むとベルトからエネルギーがイマジナリーの右足へ流れ込む。それと同時に飛蝗の群れが台風のように渦巻いて、ヴァリアブルを捕らえた。抵抗するも無意味。抜け出せない。
<ローカスト!>
<イマジナビリティストライク!!>
動けないヴァリアブルの胴へ回し蹴りが叩き込まれた。
「がっ!」
エネルギーがヴァリアブルの中を駆け巡る。凄まじい衝撃が襲いかかる。
そして、変身が解けた。創斗はゆっくりと膝から崩れ落ち、前のめりになって倒れ伏した。
「ソ、ソートくん!!」
「伝導!!」
二人が声を上げる。
「がはっ……! ごほっ……!!」
口から血を吐きだし、咳き込む創斗。彼は重傷。もはや動けないでいる。意識を保つのがやっとという有り様。
創斗は目だけを動かし前を見る。視界には引導を渡さんとばかりに飛蝗の群れを向かわせるイマジナリーの姿。
「う……あぁ……っ……」
創斗の意識は徐々に朧気になっていく。エフェクトや心護が何か叫んでいるが、良く聞こえない。やがて目に移る全てがスローモーションに見え始めた。
飛蝗の群れはすぐそこまで迫っている。
(あぁ、おれ死ぬんだ)
そんな確信めいた感情が生まれる。けれどそれもどこか他人事のように感じられる。これまでの出来事が走馬灯のように脳裏を過っていく。
そして、創斗の前に
その正体はトワル。だが、彼女はただの機械の体。イマジナリーの攻撃を防げるはずもない。あっという間に食い破られ、その胴体に風穴が開けられる。トワルは後方へ頭から倒れた。
「卜、トワ……ル?」
視界がクリアになる。朧気だった意識が甦る。震える体に鞭打ちながら、創斗は匍匐前進でトワルに近づく。彼女の目に光は宿っていない。それがどういう事なのか、創斗はすぐに理解した。
「トワル!!!!」
創斗の絶望の叫びが木霊した。