「トワル!!!!」
創斗の絶望の叫びが木霊する。
場所はアーシリーコードの息がかかったとある建設現場。
創斗の前には光無い瞳を開けたまま倒れるトワルの姿。胸からぽっかりと空いた風穴が痛ましい。
「トワル! トワル!! しっかりしろ!」
創斗がトワルの体を揺さぶる。けれど反応らしきものは表れない。彼女は光なき瞳を開けたまま微動だにしない。彼の顔には焦りが浮かんでいる。
そんな創斗に影が降りる。前を見るとイマジナリーがすぐそこにいた。彼は飛蝗の群れを呼び出すと創斗の元へ向かわせる。群れが一直線に迫ってくる。
その時、飛来した針がイマジナリーの肩へ着弾した。飛来した方向へ顔を向けたエフェクトが声を上げる。そこにいたのは、
「アンビシャス!」
「待たせた」
アンビシャスMarkⅡが立っていた。右腕を真っ直ぐにイマジナリーへと突きだしている。
ニードルが突き刺さったイマジナリーにスタンが入る。途端に飛蝗の群れが力なく地面に落ちた。
「!?」
驚く創斗。
「今だ! 一旦引くぞ!!」
すかさず心護が叫ぶ。創斗はボロボロのトワルを抱き上げる。そして、アンビシャスを殿にして彼らは撤退した。
「おう、おかえり〜、って……トワルちゃん!?」
店番をしていた錬児が目を見開く。ボロボロの創斗達。半壊しているトワル。何かがあったのは一目瞭然だ。慌てて立ち上がる彼の脇を創斗は抜けていく。
「しっかりしろ、トワル!!」
店の奥。地下の部屋へ向かうと簡素な作業台の上に横たわらせた。
創斗の呼びかけにトワルからの反応はない。無言のまま微動だにしなかった。
電脳生命体とは未知の存在。正直に言えば何をどうすればいいか分からない。その現状が彼を焦らせる。
「ソートくん、任せて」
そう声をかけたのはエフェクト。彼女はアンビシャスに視線を送った。彼もまた無言で頷き、二人はトワルへ向けて手を翳す。自らの一部を遠隔でトワルの体へ接続。彼女の状態をスキャンしたのだ。
「なるほどな」
「何か分かったのか!!」
アンビシャスの反応に創斗が即座に聞く。食い入るように身を乗り出した。
「うん。分かったよ」
彼の問いに答えたのはエフェクトだった。二人は創斗へ向き直る。
「体を貫かれた事で素体に入っていたトワル本来の
「!? 治す方法は?」
「俺達エルフはデータで出来ている。つまり、損傷部分を補うデータを与えれば治すはずだ。だが、」
そこでアンビシャスが言葉を区切った。
「ただのデータでは意味が無い。対象に関わるデータが望ましい」
「他のデータだとどうなるの?」
傍らで聞いていた玲が聞き返す。命が関わっているからかいつも以上に真剣だ。
「これまでの記憶を失う可能性が高い。最悪の場合は人格さえも変容して、かつてのトワルには戻らないだろう」
「「「「!?」」」」
アンビシャスの衝撃的な言葉に人間一同が瞠目した。
「アーシリーコードにいた頃はそうなった時用にあらかじめデータの一部を保存しておくんだよね。そうする事でワタシ達は何があっても人格を保てるの」
「つまり、トワルのデータがあれば補填が可能って事だな」
それならアテはある。創斗は部屋を飛び出す。上の店内に戻ると作業机へ向かった。
そこには作業途中だった新作のメモリアライズバッジが置かれている。そしてそれは他のメモリアライズバッジとケーブルで繋がっていた。創斗の視線は新作ではなくこれまで使用して来たメモリアライズバッジの方へ注がれている。
「それって……」
追いかけて来たエフェクトが呟く。同じく追いかけて来たアンビシャス達も無言で創斗を見つめる。
「そうだ。このメモリアライズバッジ達にはこれまでヴァリアブルとして戦ってきたデータが蓄積されている。ヴァリアブルもトワルの一部。このデータを転用して治す」
「確かにそれなら可能かもな。だが……」
そこで心護が口を噤む。
彼の言いたい事は分かる。今このデータを失うという事は新作のメモリアライズバッジが完成出来ないという事だ。
イマジナリーを相手にヴァリアブル、エフェクト改、マルティプル。三人のライダーが相手をしても敵わない。それを倒すには、もはや新たな力に頼るしか手立てがないのが現状。
それでも創斗に迷いはない。命より大切なものは無い。それがトワルならなおさらだ。メモリアライズバッジ達を手に取る創斗。
その時、唐突に通知音が響く。心護の携帯だ。
「悪い」
一言謝って携帯の画面を見る心護。その表情は見る見るうちに険しくなった。
「どうしたんですか?」
「見ろ」
心護が画面を見せる。そこには街で破壊活動を行うアーシリーコードの姿が映し出されていた。アイやイマジナリーの姿もある。
「俺は行く」
「ならアタシも」
創斗をまっすぐに見つめる心護。彼の言葉にエフェクトも同調した。
「……仕方ない。俺も付き合ってやる」
小さくため息をつくとアンビシャスが一歩足を踏み出した。
「お前はトワルに集中しろ」
「分かりました。気を付けて」
彼らは頷きあうと動き出した。創斗、錬児、玲は地下へ。エフェクト、アンビシャス、心護は店の外へ向かったのだった。
遡ること少し前。
創斗達に逃げられたアイ達、アーシリーコード。彼女達はまだ建設現場にいた。
イマジナリーがベルトを外し、変身を解除した。
「素晴らしい! あの仮面ライダー共に完全勝利するとは流石アイ様!」
声高々に賛辞を送るのは話を聞いて駆けつけた毒島。アイは機嫌良く微笑む。
少し離れた場所からそれを黙って見ているイマジナリー。彼の足元から声がした。下に目を向けると真っ白な生き物がイマジナリーを見上げている。
「……?」
イマジナリーが検索を行う。すぐにその答えが出てきた。彼の足元に鎮座しているのは猫。毛並みの特徴を踏まえると白猫という事になる。
「にゃー」
白猫が人懐っこい笑顔で鳴く。そしてイマジナリーの足へ頬擦りをし始めた。さしもの彼も戸惑いを隠せないでいる。彼には預かり知らない事だが、機械の体は温かい。それ故、動物を引き寄せてしまうのだ。
「……」
なんとなく猫へ手を伸ばすイマジナリー。
「これからどうなさいますか?」
その間にもアイと毒島の会話は続いている。イマジナリーの様子を二人は知らない様子。
「街へ攻撃を行います。そうすれば彼らは嫌でも出てきざるを得ないでしょうから」
「かしこまりました。すぐにメンバーを集めてまいります」
「イマジナリー、行きますよ」
イマジナリーの手が猫へ触れる直前。声がかかり、イマジナリーは動きを止めた。見上げると動き出すアイと毒島の姿。イマジナリーは未だ頬擦りする猫を見る。しかし、彼にとってアイの命令は絶対。猫は選択の対象にさえない。
伸ばした手を引っ込めてイマジナリーは歩き出す。猫は動きを察知したのか頬擦りをやめて茂みへ逃げ出した。イマジナリーの心に猫への興味を残して。
地下室にて創斗達がメモリアライズバッジと配線を持って戻ってきた。作業台の上に持ってきた物を置くとトワルの体へ接続。電源を入れると配線を伝ってデータが流れ込んでいく。その様子を創斗達は静かに見つめていた。
「……」
されどトワルは中々目覚めない。目を閉じたまま微動だにしないでいる。
「トワル! おいトワル!!」
耐えかねた創斗が叫ぶ。身を乗り出して今にもトワルを揺さぶらんとする。
「「トワルちゃん!」」
錬児と玲も祈るように両手を合わせる。
「頼む、起きてくれ……。おれにはお前が必要なんだ」
思い起こすはこれまでの日々。最初の出会い、共に復讐を決めた時、ヴァリアブルとして戦った日。様々な光景が創斗の脳裏を流れては消えていく。
「トワル……」
創斗はそっと目を閉じる。そんな彼の様子に呼応するように、彼女の指がかすかに動いて――。
真っ暗闇。朧げなトワルの意識はそこに佇んでいた。手や足を動かす事は出来ない。いや、そもそも手足の感覚は無い。胴体も目も鼻も口も何一つ無いように感じる。
(あぁ……。わたし、死んじゃったんだ……)
彼女はぼんやりとそう思う。ピンチの創斗を見て考えなしに駆け出した。その結果深手を負い、この有様だ。
後悔はほんの少しだけしている。きっと創斗は怒っているだろう。もしくは悲しんでいるだろうか?
(どちらにせよ、傷ついてるだろうなぁ……)
間違いなくそうだろう。彼は既に大切な家族を失った身だ。けれどちょっと嬉しく思う。限りなく不謹慎なのだけれど。自分が創斗にとって大事な存在なのだと認識出来るから。
(うん?)
その時、眩い閃光が奔る。否、七色の光が真っ暗闇を怒涛の勢いで覆い尽くした。
刹那、トワルの中に数多のデータが流れ込む。それはこれまでヴァリアブルとして戦ってきた軌跡。
初めての変身。初めての実戦。ぶっつけ本番のパワーアップ。自分の真実を知り、その上で絆を深めたバージョンアップ。和解の為のステップアップ。
その全てが彼女の
そして、トワルはゆっくりと目を開いた。
一方その頃。エフェクト、アンビシャス、心護は現場へと到着していた。そこでは既に戦場となっていた。彼らより早く到着していた仁美達D.A.T.Aの隊員達、マルティプルワーカー部隊がアーシリーコードのモッド達と戦闘を繰り広げている。一般人の避難は完了している為、人気は無い。だが、建物は破壊され瓦礫が散乱し、アスファルトには亀裂が奔っている。
「ふふふ。来ましたね」
一斉に声の方を向く三人。そこには案の定、アイと毒島、そしてイマジナリーの姿があった。
彼女達は既にベルトを巻いている。
「まぁ、罠だよね」
「けどやるしかねぇ」
「行くぞ……」
三人がベルトを腰に巻く。そして、メモリアライズバッジを取り出し起動させた。
<バタフライ!>
<レオ!>
<ビー!>
彼らの周囲をエネルギー状の蝶と獅子と蜂が動き回る。構えを取り、三人が高らかに告げる。
「「「変身!!」」」
エフェクト改、マルティプル、アンビシャスMarkⅡが並び立つ。
対するアイ達もメモリアライズバッジを取り出して応戦の構え。
<タイガー!>
<ヴァイパー!>
<ローカスト!>
エネルギー状の白虎と毒蛇が唸り声を上げ、無数の飛蝗が無言で蠢く。その中でアイが不敵に、毒島が意気揚々と、イマジナリーが淡々と告げる。
「「変身!」」
「変身……」
<群れて蠢くローカスト! 全てを滅ぼすホロコースト!>
<シャットダウン・ローディング!!>
アイと毒島が変身を遂げる。一息遅れてイマジナリーも変身を完了させた。
対峙する六人の仮面ライダー達。最初に動いたのはイマジナリーへニードルを向けるアンビシャスMarkⅡ――へ蛇腹剣を振り回すピット。
「ハァッ!!」
撓る刃が風を切って迫る。
<キマイライズ・レオ、ゴート! ライトアーム&ブレスト!!>
それを受け止めたのはマルティプル。蛇の刃と山羊の角がぶつかり、けたたましい音を響かせる。
「ちぃ! 邪魔を……!」
「お互い考える事は同じだな」
仮面の奥で苦々しく舌打ちするピット。対照的にマルティプルは不敵に笑った。
その脇をすり抜ける人影。アイがアンビシャスMarkⅡへ突っ込んだ。そこへ横から銃声。
「ふん」
アイは急停止するとバックステップ。彼女がいた場所に銃弾が着弾。アスファルトに穴が開いた。
「させないよ」
横へ視線を向けるとエフェクト改が銃口をアイへ向けていた。
「それはこっちの台詞です」
アイが小さく合図を送る。途端に無数の飛蝗がエフェクト改目掛けて飛んできた。イマジナリーが放ったのだ。螺旋を描きドリルのようにして迫る。
<ファイナル!>
エフェクト改を守るようにアンビシャスMarkⅡが躍り出た。ベルトのレバーを勢いよく下ろす。エネルギーが彼の右手に集約された。
<ビー!>
<データクラッシュシグナル!!>
渾身の一撃が飛蝗の群れを粉砕した。
息もつかぬ攻防。各陣営の視線が交差し、火花を散らす。
互いの狙いは読めている。
数時間前の戦いで分かった事実。アンビシャスのスタン攻撃ならばイマジナリーに有効。一度決まれば無数の飛蝗さえもしばらく動けなくなる。だからこそ、アンビシャスは即座にイマジナリーを狙い、アイ達もアンビシャスへの攻撃を優先した。
「……とでも考えているのでしょうね。イマジナリー」
嘲笑うようにアイは口元に手を当てる。彼女の声にイマジナリーが本格的に動き出した。アンビシャスMarkⅡの元へ駆ける。
「「「!?」」」
驚くアンビシャス達。動きは直線的。場所が開けているのも相まって狙いをつけやすい。あまりにも無防備。さしものアンビシャスも困惑する。
だが、これはチャンス。そう考え直し、ニードルを発射した。放たれた針が一直線にイマジナリーへ向かう。間もなく直撃。その刹那、何かがニードルにぶつかり弾かれた。
「あれは!」
ニードルにぶつかったのはイマジナリーが生成する飛蝗の一体。スタンが発動し、飛蝗は力なく地面に墜落。されどイマジナリーは健在。距離が詰まる。
「くっ……」
アンビシャスMarkⅡは両腕を交差させて防御の構え。
「ふっ!」
イマジナリーは構うことなく蹴りを叩き込んだ。彼の一撃は重かった。鈍い音を立ててアンビシャスMarkⅡが吹っ飛ばされた。
「ぐあっ!」
苦悶の声を上げ、地面に転がる。
「確かにあなたのスタンはイマジナリーにも有効です。本体が麻痺すれば子機である飛蝗も機能を停止してしまいます。ですが逆はありません。本体が無事ならば子機が麻痺したところで新しいものを用意すればいいだけなのですから」
倒れるアンビシャスを見下ろし、アイが嘲笑う。そして、すかさずベルトを操作。
<ファイナル!>
レバーを下ろし、エネルギーを両腕の爪に凝縮させた。
<タイガー!>
<データクラッシュシグナル!!>
放たれる二連撃。動揺していたエフェクトとマルティプルは動き出しが遅れ、アイの攻撃をもろに食らった。
「きゃあ!」
「うあぁぁっ!!」
変身が解除され、二人がその場に崩れ落ちる。
「さぁ、イマジナリー。トドメを刺しなさい」
「わかった」
<アクセス!>
イマジナリーがドライバーを操作。彼の周囲を飛蝗の群れが渦巻く。
「くそっ!」
なんとか立ち上がったアンビシャスが拳を握りしめて迎撃の構え。
<ファイナル!>
レバーを往復させ、二回下ろした。凄まじいエネルギーが右手に宿る。
<ローカスト!>
<イマジナビリティストライク!!>
高く跳躍。飛蝗がイマジナリーの突き出した足へ集い、鋭い棘のように変化させる。
「うおおおっ!!」
<ビー!>
<データクラッシュシグナル!! インパクト!!>
アンビシャスが吠える。突き出した拳がイマジナリーのライダーキックと激突。エネルギーがせめぎあい拮抗。両者互角。だがそれも長くは続かなかった。
「がはっ!?」
イマジナリーが新たに飛蝗の群れを生成。それがアンビシャスの脇腹に食いついた。その攻撃で体勢が崩れ、力が弱まる。かくして均衡は破られた。徐々に押し込まれ、アンビシャスが地面に叩きつけられた。
そのまま変身が解ける。
「それでは正真正銘、終わりにしましょう」
アイ達が迫る。三人はダメージが大きく動けない。
「いいや。まだだぜ」
カツン、カツンと足音が響く。その数、
顔を向けるとそこには創斗とトワルの姿があった。
「あ……あぁ……!」
「伝導! トワル!」
エフェクトと心護の表情が明るくなった。アンビシャスは苦悶の表情でイマジナリー達を睨みつけながら短く告げる。
「遅い……ぞ……」
「悪い。けど、後はおれ達に任せろ」
「皆さんはゆっくり休んでください」
二人はイマジナリー達を見据える。
「また負けに来ましたか?」
「いいや。勝ちに来た」
嘲笑うアイ。それに短く返答する創斗。
創斗とトワルは互いに見つめ合い、小さく頷く。彼女の腰のベルトを外し、創斗は自らの腰に巻き付ける。
<ヴァリアブルドライバーV2!>
そして取り出したのは試作品だったはずのメモリアライズバッジ。送るはずだったデータはトワルに使われ完成しないはずだった代物。
「何ですか……それは?」
「軌跡と偶然の産物?ってやつだ!」
創斗はメモリアライズバッジを捻る。するとそれは二つに分割され、音声が鳴り響く。
<ネットワーク!>
片方をヴァリアブルドライバーV2のユニット中央付近へ。もう片方を通常のスロットへ取り付ける。
<コネクトアップ・ローディング! コネクトアップ・ローディング!>
創斗の背後に現れたのは無数の設計図。それは次々と飛び出して彼の周囲へ躍り出た。現れたのはこれまで作り上げてきたヴァリアブルの全てのフォーム。
「行くぞ、トワル」
『えぇ、行きましょう。ソート』
「『変身!!」』
グリップが押し込まれる。メモリアライズバッジ同士がぶつかり合い、人とエルフを模したレリーフが握手を交わす構図になった。
<世界を変えるアスタリスク! 我らで繋げるネットワーク!>
創斗の体を銀色のアンダースーツが包み込む。ヴァリアブルの全てのフォーム達がバラバラになり、コントラストを描く様に装甲となって張り付いた。
<ハイパー・メモリアライズ! オールバッチグー!>
複眼が青く輝き、ヴァリアブルの集大成がその姿を顕現させる。その名も仮面ライダーヴァリアブル オールネットワーク。
その威容に周囲が圧倒される中、ヴァリアブルが静かに告げる。
「『たった今、勝利の道は繋がった!」』