「絶対に……絶対に違います! 恋さんが犯人な訳がありません!」
病室を後にした創斗とトワル。駐車スペースまできた時、彼女は険しい表情で先程の心護の言葉を否定する。
「どうする気だ?」
「D.A.T.Aより先に恋さんを見つけます。事情を確かめるんです」
トワルの視線が創斗を射抜く。
「そうかよ。俺は別行動だ。以前作った新作、あの蛙怪人に有効そうだからテストプレイを済ませておく」
停めてあるヴァリアルストライカーからヘルメットを手に取り被る。
「止めないんですか?」
「お前は言ったって聞かないだろ。頑固だし」
「でもさっきは止めたじゃないですか」
「あれは錬児が一緒だったからだよ。お前だけならすぐに逃げられるだろ? それに何かあるんだろあの二人にさ……」
その言葉にトワルが頷く。
「とは言え、くれぐれも無茶はすんじゃねえぞ」
創斗はヴァリアルストライカーに跨ると発進させる。
「わたしも頑張らなきゃ!」
改めて気合を入れ動き出そうとしたその時。玄関の自動ドアが開き、病衣を着た雨衣が現れた。
「雨衣さん!?」
慌てて駆け寄るトワル。
「どうしたんですか? 怪人に襲われたんですから安静にしていないと」
「そうは言っていられません。恋を見つけて誤解を解かないと!」
「……雨衣さんは恋さんが怪人じゃないと思っているんですね」
「当たり前じゃないですか。恋はそんな事しません。もしわたしに文句があるなら怪人に何かならないで面と向かって言ってきますから」
彼女の瞳には相方への強い信頼が垣間見える。
「分かりました。一緒に探しましょう」
「はい! ……でも、どうやって探しますか?」
「それなら任せてください!!」
トワルは付近の監視カメラの元へ向かう。
(緊急事態ですから……仕方ないですよね?)
若干の罪悪感を感じながら、右手をカメラへ伸ばし、目を閉じる。瞬間、彼女の意識は電波に乗り、カメラの中へ侵入した。そのカメラからさらに別のカメラへ乗り移り、大元となるサーバーへ辿り着くと、野外フェス付近の監視カメラのデータを漁る。
(!?)
意識を機械の体に戻す。カメラの前に立ったトワルに疑問符を浮かべながら雨衣が恐る恐る聞く。
「あの……トワルさん?」
「雨衣さん、重大な事実が判明しました。行きましょう」
「えっ!? どこへですか!?」
動き出すトワル。雨衣は慌てて後を追った。
「ここって!?」
トワルと雨衣がたどり着いたのは雨衣が襲われた野外フェス近くの建物だった。入り口にはD.A.T.Aの隊員達が立っており、予防線が張られている。
「お前達は!? 何故ここにいるんだ?」
二人を見つけた心護が駆け寄ってくる。特につい先程、襲われた雨衣には心配気な目線を送っている。
「それが……恋がここにいるって、トワルさんが」
「なんだと?」
二人の視線がトワルへ集中する。
「監視カメラを調べた結果、恋さんがこの建物に入っていく映像はありましたが、出ていく映像はありませんでした。勿論映像が加工された形跡も無しです」
「調べた? どうやってだ?」
「え? え、え〜っと……。 アハハハ……」
露骨に誤魔化すトワル。彼女がやった事と言えば広義的に言えばハッキング、所謂犯罪行為なのだ。心護に知られるのは特にまずい。
「おほん、おっほん! とにかく!! 恋さんはこの建物の中にいる可能性が高いのです!」
語気を強めて話を戻す。
「確かにその可能性も考えて今、建物内を調べている。だが、今の所それらしい痕跡は見当たらない。それに建物内はあらかた調べつくしている」
心護が建物の方を親指で示す。確かに先程からD.A.T.Aの隊員達が引っ切り無しに動き回っている。
「ならば人が立ち入れなさそうな場所を探しましょう」
「どうしてですか?」
「忘れていませんか? 相手は怪人です。それも蛙の……」
そこでトーンダウンするトワル。次の瞬間、何かに気付き弾かれたように駆け出す。雨衣と心護が後に続く。
「どうしたんですか、トワルさん?」
「そう、相手は蛙の怪人です。なら、建物の壁を登る事が出来るはず!」
建物の上を見ながら走り、トワルは目的の物を見つけると指差した。そこは屋上に設置された貯水タンク。
「なるほど。あの中なら確かにそうそう見つけられそうも無いな」
「待ってください! 怪人に襲われたなら、恋が危ない!!」
納得する心護。トワルの言葉を聞き、慌てる雨衣。心護はすぐさま通信を開始。隊員達に屋上へ向かうように伝える。
「わたしも行きます!」
「駄目だ! 君は怪我人だ。危ないからここにいてくれ」
「でも! 恋はわたしの大切な相棒なんです!」
食い下がる雨衣。トワルが横に並び頭を下げる。
「わたしからもお願いします。雨衣さんを連れて行ってあげて下さい。雨衣さんに危険が迫れば、わたしが助けますから」
「……。はあ、仕方ない。勝手な動きはしない、それを約束するのが条件だ。いいな!」
「「はい!!」」
二人は元気良く返事を返した。
屋上に辿り着くと既に到着した隊員達が貯水タンクを調べていた。
「いました!」
隊員の一人が叫ぶ。そして、隊員達に支えられ、貯水タンクからぐったりした状態の恋が姿を現した。
「恋!」
雨衣を筆頭に駆け寄る三人。雨衣はそのまま恋を抱きしめる。重い瞼を上げて恋は弱々しく口を開く。
「雨衣?」
「そうだよ、恋。心配したんだよ!」
今にも泣きそうな表情で笑いかける雨衣。
「その傷……。雨衣、大丈夫?」
雨衣の肩に巻かれた包帯に気付き、恋は雨衣を心配する。
「わたしは大丈夫だよ。恋の方が大変なんだから、自分を心配してよ」
「雨衣が心配してくれてるから必要無い。だから私が雨衣を心配するの」
互いを気遣う相棒同士ははにかみながら笑い合う。その様子にトワルにも思わず笑みが溢れた。
「トワルさん。恋を見つけてくれてありがとうございます」
「いえいえ。これくらいお安い御用です。……やっと恩返しが出来たので」
「恩返し?」
「あ、えっと……。半年前の話なんですけど……。私とソートとの間でギクシャクした事があって」
あれはヴァリアブルドライバーが完成して間も無い時の事。テストプレイの段階で問題が起きたのだ。当初、ヴァリアブルのシステムは創斗とトワルの動きをシンクロさせて最大限のパフォーマンスを発揮させるように設計されていた。しかし、迷わず動けるが集中すると視野が狭くなる創斗と幅広くルートを探す事が出来るが考えすぎて咄嗟に動けないトワルでは上手くシンクロ出来なかった。
「どうすれば良いか分からなくて途方に暮れていた時、お二人のダンスを見たんです」
雨衣が完璧に近いダンスを踊り、恋がそのサポートをして雨衣をより引き立てる。それはトワルには無い発想だった。二人がただ同じ動きをするのでは無く、自分にしか出来ない動きで互いを支える。
「その時にわたしは二人の、雨恋ケロッピーズのファンになりました」
雨恋ケロッピーズのダンスで見つけた発想を創斗に伝え、そして生み出されたのがトワルが複数の選択肢を提示し、創斗がその中から最適な道へと進む新しいスタイル。そのおかげでヴァリアブルは完成した。
「お二人のダンスのおかげで問題を解決する事が出来ました。だからこそ今回、お二人の力になれて、恩返しが出来て嬉しいんです。一方的にではありますけど……」
照れたように頬を掻く仕草をするトワル。
「そんな事ありません。とても嬉しいです。ありがとうございます、トワルさん」
「あたしからも言わせて下さい。ありがとうございます」
そんなトワルに雨恋ケロッピーズの二人は感謝を述べる。
「彼女が襲われたとなれば犯人は別にいる。と言うことになる。襲われた際に何か見なかったか?」
「すいません。何も……」
「となれば捜査は振りだしか……」
「いいえ。犯人はもう分かっています」
頭を悩ませる心護に対し、トワルがきっぱりと言った。その表情は自信満々で犯人の正体を確信しているよう。
「わたしに考えがあります。皆さんの力を貸してください」
夜の病院。消灯時間は既に過ぎており、辺り一面真っ暗だ。コツコツと音を立て人影は迷うこと無く目的地を目指す。辿り着いた場所は雨衣が入院している病室。人影はその部屋に入るとベッドの前に近づく。暗がりに布団を深く被って眠る少女の頭が覗いている。
<モッドライザー!>
腰にモッドライザーを巻いたその時、病室の照明が着いた。人影が振り返る。入り口の前には創斗と心護、そして雨恋ケロッピーズの二人がいる。
「よう。消灯時間はとっくに過ぎてるぜ? なぁ、井戸プロデューサーさんよぉ?」
4人の前にいるのは井戸だった。井戸は雨恋ケロッピーズの二人を見た途端、驚愕に目を見開いた。そして、布団を捲る。ベッドにいたのはトワルだった。
「その腰に巻いているのは何ですか?」
「こ、これは……今流行りのおもちゃだよ。実は私、こう言うのが趣味でね」
「そいつは知らなかったぜ。怪人の身に付けているベルトと同じのが発売していたなんてよ」
心護が携帯を突きつける。画面にはフロッグ・モッドの姿。トワルが提供した画像だ。
「もう言い逃れは出来ないぜ」
「どうして……。どうしてこんな事をしたんですか? 井戸プロデューサー!」
雨衣が叫ぶ。その目には涙が溜まっていた。
「君のためだよ!」
「え?」
井戸の態度が急変する。
「私はあの時、君だけをスカウトしたんだ。だと言うのに君はそこの足手まといを巻き込んだ! 本当ならば今頃君はもっと上にいるはずだったのに。だから!」
「だから、彼女を犯人に仕立て上げて追い出そうって腹だったのか」
創斗が言葉を引き継ぐ。その顔はとても険しい。創斗だけじゃない、井戸以外の皆が同じ表情だ。
「もしかして……。雨衣に迫ったファンって!?」
「あぁ、そうだよ。私が雇った。足手まといを陥れる為にね!!」
もはや取り繕う事もせず開き直る井戸。彼の言葉に雨恋ケロッピーズの二人は今にも泣き出しそうだ。
「そんな事を喋っていいんですか? わたしには録音機能がついています。あなたがここに来たときから起動させていますよ」
「構わないとも。こうなっては仕方ない。ここで君達全員を始末すればいいだけの話だ」
井戸がバッジを取り出す。それはカエルのレリーフが刻まれたクリアグリーンのメモリアライズバッジ。
<フロッグ!>
起動したバッジをモッドライザーに装填。アンダースーツに変わった途端にベルトからチューブが頭部に接続される。そして背後からエネルギー状の蛙が出現し、舌を伸ばす。
「電令!」
井戸はモッドライザーのボタンを押し込む。
<ハック! クラック! バーサーク!!>
<アーシリーコード:フロッグ! ダウンロード!!>
蛙がバラバラになり装甲となって貼り付く。井戸はフロッグ・モッドへと姿を変えた。
「これが……怪人……」
初めて目の当たりにする怪人が誕生する瞬間に創斗は顔を歪ませる。フロッグ・モッドは口を大きく開けた。
「伏せて!!」
トワルが叫ぶ。フロッグ・モッドが口から撓るビームを振り回した。
「きゃああああっ!!!」
周囲が破壊され、病室に悲鳴が響く。
「こっちだ!」
体を起こした創斗が雨恋ケロッピーズの二人を部屋の外へと誘導する。ベッドから移動してきたトワルが最後尾で続く。
「イカセルカ!!」
「それはこっちの台詞だ!」
追いかけようとするフロッグ・モッドを止めたのは心護。携帯している銃を発砲した。
その隙に四人は病院を駆ける。やがて分かれ道に差し掛かった時、創斗とトワルは二人とは逆方向へ曲がった。そして、物陰に隠れるとトワルの腰からヴァリアブルドライバーを外す。
<ヴァリアブルドライバー!>
創斗はベルトを自分の腰に巻くとホルダーからメモリアライズバッジを取り出した。
<スパイダー!>
起動したバッジをベルトに装填。待機音が鳴り響く。そして背後に出現した設計図がエネルギー状の蜘蛛に変わる。
<スタートアップ・ローディング!>
<スタートアップ・ローディング!>
「『変身!!」』
構えを取り、二人の声が重なる。
<世界を守るライダー! 我らを繋げるスパイダー!!>
<メモリアライズ! バッチグー!>
蜘蛛が装甲となって装着され、仮面ライダーヴァリアブルへと変身を遂げた。
「行くぞ!」
ヴァリアブルが病室へ突入する。目の前には心護に迫るフロッグ・モッドの姿。ヴァリアブルは掌から糸を伸ばし、心護を巻き付けるとこちらへ引き寄せる。心護をキャッチすると同時に先程まで心護が居た場所にビームが振り下ろされていた。
「大丈夫か?」
「お前は! ヴァリアブル!!」
「ここはおれ達に任せろ。守りながらじゃ戦いづらい。あんたは皆の避難を頼む」
心護を庇うように前に出るとフロッグ・モッドを見据えながら言う。
「……分かった。気をつけろよ」
心護が病室を後にした。取り残されるのはヴァリアブルとフロッグ・モッドだけ。これで心置きなく戦える。
『出てきたな、ヴァリアブル! ここで会ったが百年目ぇ〜!!』
ヴァリアブルの出現を受け、フロッグ・モッドの中にエフェクトがやって来た。
「ふっ!」
先に動いたのはヴァリアブル。姿勢を低くして足払い。しかし、その攻撃はひとっ飛びで躱された。だが、空中のフロッグ・モッドは無防備。掌から蜘蛛の巣を発射して追撃。
「アマイ!」
その攻撃をフロッグ・モッドは口のビームで薙ぎ払う。まるで見計らったかのようにタイミングがばっちりだった。
「……なるほど。向こうも学習してるって訳か」
『でも問題ありませんよね? なんてったってわたし達が組んでいるんですから。ルート展開!』
「だな。行くぜ!!」
ヴァリアブルは再び走り出す。数多のルートから創斗は自分が一番動きやすい道を迷わず選ぶ。
『その動きは見えてるよ! さぁ、迎撃だ!!』
エフェクトが対応出来るルートを井戸へナビゲートする。しかし、フロッグ・モッドが対応するより早く、ヴァリアブルの蹴りがその土手っ腹に炸裂した。
「いくらおれ達の動きが分かっても場数が違うんだよ」
そう、エフェクトがヴァリアブルの動きを知っていようが、対応するのは生身の人間。喧嘩慣れしていない井戸とヴァリアブルになる為に鍛えてきた創斗では大きな差があるのだ。
「クソッ!」
フロッグ・モッドの姿が背景と同化する。保護色の機能で見えなくなったのだ。ヴァリアブルは冷静に周囲に蜘蛛の巣を連続で放つ。だが、前回と違いフロッグ・モッドは捕まらなかった。対策したのだろう。
「そんじゃあ、切り札の出番だ!」
ヴァリアブルはベルトを展開するとスパイダーメモリアライズバッジを外す。そして、ホルダーから別のバッジを取り出した。それはイルカのレリーフが刻まれたクリアブルーのバッジ。
<ドルフィン!>
ドルフィンメモリアライズバッジをベルトに装填。途端に背後から現れた設計図がエネルギー状のイルカに変わり、ヴァリアブルの周囲を泳ぐように動く。
<スタートアップ・ローディング!>
<スタートアップ・ローディング!>
ベルトをスライドさせ、バッジがベルトの中央に移動した。ヴァリアブルの装甲が弾けて、消滅した。
<電子の海をサーフィン! 音波で探るドルフィン!!>
<メモリアライズ! バッチグー!>
イルカがバラバラになり、装甲としてヴァリアブルに装着される。最後にイルカの尻尾が波のエフェクトと共に張り付き、仮面となった。青い装甲に覆われ、両肩に砲門の付いたスピーカーが装着されたヴァリアブルの新しい姿。仮面ライダーヴァリアブル ドルフィンが誕生する。
『姿が変わった!?』
驚くエフェクト。
「ダガ、ミエテナイノナラモンダイナイ!」
フロッグ・モッドが素早く死角に回り込む。その間、ヴァリアブルは一歩も動かない。ただ肩のスピーカーがオレンジ色に淡く輝いているだけだった。
「クタバレ!!」
フロッグ・モッドのビームがヴァリアブルへ迫る。対するヴァリアブルはその攻撃を体を捻る事で回避。そして、ヴァリアブラスターを取り出すと相手を見ること無く発砲。全弾が命中。フロッグ・モッドは驚き、保護色が解けてしまう。
「ナンダト!?」
「エコーロケーションって知ってるか? イルカとか蝙蝠とかが音を出して周囲を探る技術だ。人間も訓練を積めば使えるらしいけど、おれ達はこの形態でなら訓練無しに使える」
ヴァリアブルがフロッグ・モッドを見据える。
「『たった今、勝利の道は繋がった!!」』
『これはもう無理かぁ〜。ワタシ帰るね〜』
「ナニィ、チョ!? マ、マテ!!」
エフェクトがフロッグ・モッドの中から姿を消した。
「チクショウ!」
エフェクトに見捨てられ、不利を悟ったフロッグ・モッドはビームで窓ガラスを破壊。そのまま外へ飛び出す。
「逃がすか!」
後を追うヴァリアブル。フロッグ・モッドは近くの用水路に飛び込んだ。水の中を進めば逃げられると思ったのだろう。だが、
「それは悪手だぜ」
ヴァリアブルも用水路へ飛び込む。ベルトからドルフィンメモリアライズバッジを外すとヴァリアブラスターへ装填する。
「この形態は元より水中戦用なんだよ」
肩のスピーカーが青く発光。エコーロケーション機能が最大出力となった証だ。今ならば範囲内の敵の位置は手に取るように分かる。
<ドルフィン!>
<ヴァリアビリティショット!!>
ヴァリアブラスターと両肩のスピーカーから青い光線が発射。それは逃げるフロッグ・モッドを一直線に飲み込んだ。
「ギャアアアアア!!!!」
爆発を起こし、フロッグ・モッドは地上へ投げ出される。そして、モッドライザーが破壊され、井戸はそのまま気絶した。
「戦闘終了。っと」
地上へ上がったヴァリアブルが井戸の姿を確認する。そこへ心護が駆け寄ってくる。恐らく避難を済ませて遠くから様子を伺っていたのだろう。
「後始末頼んだぜ」
そう言って立ち去ろうとするヴァリアブル。
「待て。お前に言わなければならない事がある。さっきは助かった。感謝する」
「……どういたしまして」
礼を述べる心護に顔を向けぬままヴァリアブルはその場を後にした。そして、付近の物陰に隠れて変身を解くと、創斗は何食わぬ顔で合流するのだった。
「手のひらケロリンパ! 雨恋ケロッピーズで〜す!!」
ステージの上で明るい二つの声が響く。そこにはアイドル衣装に身を包んだ雨衣と恋の姿があった。彼女達の登場に会場から歓声が轟く。怪人の襲来で一時は開催も危ぶまれたらしいが、犯人が捕まったのと、会場に主だった被害が無かった事から無事に開催された。
そんな会場の中に創斗達もいた。創斗はノリについていけず腕を組み、トワルと錬児はペンライトを振っている。
「やっぱ可愛いなぁ〜。あ~、サイン欲しいなぁ〜」
ペンライトを振りながらそんな事を言う錬児。彼の言葉にトワルは得意満面な顔でバッグからある物を取り出した。それは三枚の色紙で、サインが書かれている。
「ふっふっふ。そう思われると思って貰ってきました! 雨恋ケロッピーズのサイン!!」
「な、なんだって!? いつ! どうやって!」
「つい先程です。フェスが始まる前に呼ばれて、先日の事を感謝された時にお願いしたんです。はい、どうぞ」
その内の一枚を錬児に渡す。
「いいの!?」
「当然です。わたし達は同じアイドルを応援する同志。ならばこれくらいお安い御用ですとも!」
「ありがとう、トワルちゃん。大好き! 愛してる!!」
「あっ……その、すいません。わたし、錬児さんは恋愛対象には見れないので……」
「ガチトーンで断られた!?」
オーバーリアクションで嘆く錬児を余所にトワルは創斗の方を向く。そして、色紙の一枚を渡してくる。
「はい、創斗の分です」
「え? おれは……別に……」
「要りますよね? ね?」
受け取るのを躊躇う創斗の目をトワルは真っ直ぐに見つめている。表情は笑顔だが、どこか圧を感じる。長年の経験から察するに大人しく受けった方が無難だと理解した。創斗は渋々受け取る。
「……お二人、このフェスが終わったら事務所を退所するそうです」
プロデューサーが怪人であり、二人を引き裂かんと画策していたのだ無理も無いだろう。
「けど、後ろ盾が無くなるのは大変だろうな」
「そうですね。でもお二人共言ってました。大切な相棒とその上でわたし達を応援してくれるファンがいるなら必ず大きな舞台でまた再会出来る。と」
「そうだな。あの二人なら出来そうだな」
ステージの上で遺憾無く才能を発揮する雨衣。そんな彼女を支えるように立ち回る恋。曲は盛り上がりを見せ、間もなくサビへと突入する。その様子にトワルの表情はいっそう明るい笑顔へ変わる。彼女はありったけの思いを込めてペンライトを振るう。
願わくば、彼女達の行く末が明るい未来へと繋がりますように。
会場の熱気はいよいよ最高潮を迎えていた。
同時刻。祭波市郊外付近にある廃工場。人気の無い薄暗いその場所に似つかわしくない楽しげな鼻歌が響く。声の主はそのまま扉を開けて、広間へと突入した。入室したのは藍色のゴシックドレスを着た少女、即ちエフェクト。彼女の入室に気付き、振り返ったのは赤と黒のツギハギ衣装を纏った眼帯の男、アンビシャス。彼女達がいるのは電脳世界では無い。現実世界だ。
「体の具合はどうだ? おかしな所はあるか?」
「ぜーんぜん。問題無し。バッヂグーだよ!」
サムズアップで意気揚々と答えるエフェクト。その様子にアンビシャスは安堵の表情を浮かべる。
「それにしても、何で急に機械の体を用意したの?」
「これまでの度重なる妨害を受けて、我らアーシリーコードはヴァリアブルを現状最大の脅威と認識した。奴の排除の為にアイに無理を言って新型の導入を前倒ししてもらった」
アンビシャスが傍らに置いてあったアタッシュケースを手に取る。
「とは言え前倒しにあたって条件を付けられた。これをお前に使わせてヴァリアブルと戦わせろとの事だ」
アタッシュケースを開く。中には蝶のレリーフが刻まれたクリアネイビーのメモリアライズバッジとレバーの付いた謎の装置が入っていた。
「シグナライザー。俺達エルフ用のドライバーだ。本当なら俺が戦うつもりだったんだがな……」
「大丈夫だよ! アンビシャスの代わりにワタシがヴァリアブルをギッタンギッタンのボッコンボッコンにしてあげるから!!」
屈託の無い笑顔でエフェクトがそう宣言する。暗がりの中で隙間から差し込む光がシグナライザーに反射して輝いていた。それは今か今かと出番を待っているかのようだった。