祭波市台並区は祭波市の中央に位置する区画である。その地区にはD.A.T.Aの基地が建っている。半球のドーム状の建物だ。その場所に一台のバンが止まる。扉が開いて出てきたのは心護達D.A.T.Aの隊員達と彼らに囲まれている創斗とトワルだ。
「ここがD.A.T.Aの基地」
創斗とトワルが建物を見上げる。そんな彼らを心護が見つめていた。
「D.A.T.A。あんた達と取引がしたい。一番偉い人に取り次いでくれ」
大学での出来事が蘇る。ヴァリアブルの正体を知った時、心護はとても驚いた。まさかこれまで多少なりとも関わっていた人物だとは夢にも思わなかったのだから。全く気付けないかった事を恥じると共にこれからどうするべきか決めかねていた。
「さぁ、行こう」
気を取り直した心護が促す。入り口の自動ドアを抜けてエレベーターに乗り込む。心護がB2のボタンを押す。暫くするとエレベーターが動き出し降下していく。
「地下にあるのか……」
「そうだ。その方が何かと都合が良くてな」
思わずとばかりに呟いた創斗の言葉を心護が肯定する。それから暫く無言が続き、気まずい空気が漂った。それから二、三分程待った後、扉が開き、そのまま右の方向へ進む。長い廊下を抜けると突き当たりに扉が。そこには会議室の看板とその隣には電子ロック用のキーボード。心護がそれに慣れた手付きで入力していく。会議室の扉が開き、創斗達が入室する。
「ようこそ、D.A.T.Aへ。私はD.A.T.A長官の平 和明だ。よろしく」
会議室の上座の前にD.A.T.A長官、平 和明が立っていた。その左隣では夢崎 玲が軽く手を振っている。周囲には他にもD.A.T.Aの隊員が座っていた。創斗とトワルは軽く会釈する。
「座ってくれたまえ」
座るように促され、和明の向かいの座席に着席した創斗とトワル。和明の右隣に心護が座った。
「あーっと……」
全員が座ったのを確認して口火を切ろうとした創斗だったが、何から話せばいいのかと言い淀む。すかさずトワルがフォローした。
「本日はお忙しい中、こうして話の場を設けてくださりありがとうございます。改めて自己紹介を。わたしはトワルと言います。そして、」
「伝導 創斗です。よろしくお願いします」
二人が頭を下げる。トワルのおかげか少しだけ気が楽になった。
「色々考えてましたけどやっぱりおれの目的から話そうと思います。おれの目的は一つ。十年前に父さんを殺した犯人を見つける事です」
創斗がきっぱりと言う。
「君がここに来るまでの間に、君の事についてある程度調べさせてもらった。夢崎技術顧問」
「はいはーい!」
和明が玲に声をかける。玲は意気揚々とパソコンを取り出すと操作。スクリーンが降りてきて、想助の顔写真と経歴が映し出された。
「君の父、伝導 想助は政府非公認の研究施設の爆破事故で亡くなっている。警察の見解では事故死とされている」
「けどその事故には不審な点があった」
和明の言葉を遮るように創斗が口を挟む。
「父さんの遺体には銃弾が残されていた」
「確かにその記載はある。だが、その研究施設には沢山の銃火器が置かれていた。爆発の際に暴発した可能性があるとも書かれてる」
「可能性と言うだけで断定はされていません。であるならば不審な点には変わらない筈です」
尚も不満げに言う創斗。その様子を見た心護にある疑問が浮かぶ。
「お前の父の死が事故死か、殺人かは置いておくとして、それとヴァリアブルとして戦う事に何の関係がある?」
「……初めて怪人を見た時、心底驚きました。怪人には父さんが研究していたパワードスーツ、ライダーシステムの技術が使われていたんだから」
創斗は俯く。彼の手は固く握られている。
「だからヴァリアブルを作った。怪人と戦い続ければ父さんの死の真相に近づける。そう思って。そして、手がかりを見つけた」
「手がかり?」
その言葉に創斗が頷く。
「アーシリーコードと名乗る組織。そして奴が変身した仮面ライダー」
「あいつの事か!」
心護が思い浮かべるのは大学で対峙した仮面ライダーの姿。
「君は敵の存在をどこまで知っているのかね?」
和明が尋ねる。
「奴が何者なのかまでなら知ってる」
「いったい何者なんだね?」
「
「電脳……生命体……!?」
予想外の言葉に心護達が驚きを露わにする。会議室にどよめきが起こる。
「何でそんな事を知っている?」
「それは……」
創斗がトワルに目配せする。トワルは静かに頷くと立ち上がる。そして、手を翳す。
その瞬間、スクリーンの画面にノイズが走る。画面がひとりでに切り替わり、一面真っ白な空間に規則正しく数字が漂う空間が映し出された。その場所にトワルが立っている。
『それは、わたしがそのエルフの一人だからです』
彼女の言葉に会議室のどよめきがさらに大きくなった。心護は口をあんぐりと開け、玲はキラキラと目を輝かせている。
「全ての始まりはおれのタブレット端末にトワルが迷い込んだ日から始まった。その時のこいつは記憶を失っていた」
『覚えていたのは自分の名前と種族だけでした。そんな時、ソートが協力してくれるって言ってくれたんです。初対面で種族だって違うのに』
当時を思い出してかトワルは嬉しそうに微笑む。
「けどおれだけじゃどうにも出来ない。そう考えておれは父さんに相談した。……父さんは二返事で協力してくれた。そして、」
創斗は言葉を区切る。彼の顔に陰りが見えた。
「そして、父さんは死んだ……」
今にも泣きそうな表情で絞り出すように言った。自責の念は十年経った今も創斗の中で蠢いている。
『ソート……』
トワルもまた画面越しに悲しげな顔をする。想助の死に遠因として関わっている事を理解しているからこそだ。
「……話の腰を折るようですまないが聞かせてほしい。何故、今頃になって我々と取引をしようと考えたのかね?」
一度咳払いをして和明が聞く。
「大学での戦闘でかなりの被害が出ました。新しい敵や知らなかった機能のせいで。そこで思い知りました。おれ達だけじゃもう守りきれないって……」
創斗は顔を上げると心護や玲、和明の方を見る。
「ライダーシステムも敵はモッドと呼んでいたあの怪人達も元々は父さんが作っていたライダーシステムから生まれたもの。これ以上、父さんの発明で誰かが被害を受けてほしくない!」
創斗の瞳が鋭利に尖る。燃えるような覚悟が滲み出していた。
「だからあんた達と取引をしようと決めたんだ。おれ達の持つ技術を提供する。だから一緒に街の人達を守ってくれ」
覚悟を込めた言葉でそう締めくくった。静かにそれを聞き終えた和明が厳かに口を開いた。
「では最後の質問だ。何故我々を選んだのかを聞かせてほしい? 警察等、他にも組織はあっただろう?」
「戎さんが言ってたんです。この街が好きで、この街や市民を守りたいって。そんな人が上に立って戦ってる組織なら信頼出来る。そう思ったからです。あなた達にならライダーシステムを託せるって」
「伝導……」
創斗の思いを聞いて心護は噛み締めるように呟いた。これまでの頑張りを肯定され心が軽くなる。
「では採決に移ろう」
和明が周囲を見渡す。
「彼らとの取引に賛成の者は挙手を願う」
和明はそう言うと手を挙げる。ちらほらと周囲の隊員達も挙手をしていく。
「あたしはさんせ〜い! デメリットも無いしね!!」
玲が元気よく手を挙げた。そして、心護の方を見る。
「心護はどうする?」
「ここまで言われて手を挙げない訳が無いだろ。俺も賛成だ」
心護が手を挙げる。
「満場一致か」
気が付けば会議室にいるD.A.T.Aの隊員達は皆手を挙げていた。和明は椅子から立ち上がると創斗の元へ歩いていく。そして、彼へ向けて手を差し出す。
「本日をもって我々と君達は協力関係となる。共に街や市民を守るべく戦おう。よろしく頼む」
「は、はい! こちらこそよろしくお願いします!!」
その手を取り、創斗は笑顔になった。途端に拍手が鳴り響く。かくして、同盟は締結されたのだった。
同時刻。郊外の廃工場にてエフェクトが姿を現した。
「アンビシャス〜。何の用?」
首を傾げる彼女に答えたのはアンビシャス。彼の周囲には三つのモニターが囲むように配置されていた。
「デンドーソースケについての調査が済んだからな。その情報共有だ」
アンビシャスが片手を翳す。すると、モニターが切り替わり、伝導 想助のプロフィールが映し出される。
「おぉ~。これがデンドーソースケ……。死因が郊外の研究施設での事故死?」
「そうだ。あの忌々しき魔の巣窟での死だ」
アンビシャスの顔が険しい。憎悪がこれでもかと滲み出ている。
「だがそのおかげでヴァリアブルの正体を探る手がかりになった」
「分かったの!?」
「まだ推定の段階だがな」
アンビシャスが翳していた手をタクトのように振るう。その瞬間、画面が新たに切り替わった。続いて映し出されたのは創斗のプロフィール。
「デンドーソート。デンドーソースケの一人息子だ」
「一人息子!」
「そして、美湯地区のフェス会場と赤出味区の祭波テクノロジー大学の両方でその姿が確認されている。奴がヴァリアブルの可能性が高い」
正体を隠して故人について聞いてくるならば、肉親関係を持つ者こそが怪しい。アンビシャスの中では既に確信の段階に入っていた。
「次の作戦を伝える。ターゲットはこのデンドーソート。奴を襲い、ヴァリアブルの正体かどうかを暴く。いいな?」
『フフフ。そう思って、うってつけの人材を用意しておきましたよ』
アンビシャスでもエフェクトのものでも無い声が聞こえた。それは掴みどころの無い女性の声。途端にモニターにノイズが走り、画面に人の目がクローズアップされた映像が映し出された。その正体を二人は知っている。
「アイ……」
「アイだ! 珍しいね、そっちから来るなんて」
画面に向かい平然と話しかける二人。アイと呼ばれた存在も答える。
『えぇ。新しい情報を入手しましたので』
「新しい情報って?」
『まだ噂の段階ですが。ヴァリアブルがD.A.T.Aと手を組んだと言う情報を掴みましてね』
「「!?」」
アイの言葉に二人が驚きを露わにする。
「……お前はヴァリアブルについてどこまで知っている?」
『あなた達と同じくらいですよ』
「本当だろうな?」
アンビシャスが険しい顔でモニターを睨む。アイは基本的に秘密主義だ。アンビシャスとしては疑わざるを得ない。
『言ったでしょう。まだ噂の段階だと』
アイが言葉を続ける。
『とは言え、敵が手強くなるなら、こちらも手を打つ必要があります。そこで新たなモッドの候補者を見繕っておきました。どうぞ、入ってきてください』
扉が開き、現れたのは三人の人間。ガラの悪い男達だった。一人目はスキンヘッドにアロハシャツを着たガタイの良い中年の男。二人目は鍔付きの帽子を深く被り、パーカーを着た二十歳前後の男。そして三人目は清潔そうな白いシャツに整ったオールバックをした狐目の男。一人目や二人目とは見ただけでオーラが違う。怪しくない見た目が得体のしれない不気味さを醸し出している。
三人共、腰にモッドライザーを巻いていた。
「アイ。勝手に事を進めるな」
『ですが普通の人間では作戦の成功率は低いでしょう?』
咎めるアンビシャスに対し、アイが冷静に返す、
これまでを振り返れば分かる。そこらの心の弱った一般人程度ではヴァリアブルの相手にならないと。アイが見繕ってきた者達はどう見ても荒事に慣れているようだった。
「まぁまぁ。喧嘩はそこまでにして仲良うしよう。あっ、うちの名前は
流暢な関西弁で狐坂が手の差し出す。狐目をさらに細めていやらしげにニヤニヤと笑っている。アンビシャスはその手を弾く。
「あらら。振られてもうた」
『アンビシャス。貴方がここに居られるのは誰のおかげ? アーシリーコードがあるのは誰のおかげ? モッドライザーやシグナライザーが使えるのは誰のおかげ? その意味をよく考えて行動してくださいね?』
アイが冷たく言い放つ。アンビシャスは小さく舌打ちをすると怒りを飲み込むように深呼吸。
「分かった。従おう」
アンビシャスは改めて三人を見る。
「お前達はこれから俺達、アーシリーコードの駒だ。俺達の命令は絶対だ。従ってもらうぞ」
「了解でっせ。ほなら、粉骨砕身で頑張らして貰うで」
険悪な雰囲気の中でアーシリーコードも動き出すのだった。