仮面ライダーヴァリアブル   作:puls9

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file8 ソート・イン・ザ・ターゲット

祭波市は意外と治安が悪い。それは祭波市が科学都市を謳い、多くの人々が流入した事に起因する。ただでさえ最新テクノロジーが集っているのだ。産業スパイやら反社会的勢力には事欠かない。近年はD.A.T.Aが設立された事もあって犯罪率は減少傾向にある。それでも犯罪が起きない訳ではない。

祭波市の西に位置する区画、祭波市公曽区。その地区には犯罪者達を収監する大きな刑務所がある。

 

「〜〜♫」

 

そんな刑務所内で楽しげな歌が響いていた。それは共同室の一部屋から聞こえる。歌の主は狐目の男、狐坂 周。壁に背を預け、口元に孤を描いている。

やがて歌が終わると控えめな拍手。狐坂が顔を上げると目の前には二人の男。ガタイの良いスキンヘッドの男、猪原 雅樹(いのはら まさき)と二十歳前後の男、根津 光彦(ねづ みつひこ)だ。

 

「さすが、狐坂さん。良い歌声だ!」

「全くですね!」

 

猪原と根津が称賛の声を上げる。彼の言葉に狐坂は機嫌を良くした。

 

「やっぱ、そう思う? うちも昔は歌手を目指そう思うとってんな。まぁ、すぐに諦めて人殺しやってるんやけど」

「「あはは……」」

 

あまりのブラックジョークに二人が若干引きながら苦笑する。

 

「なんで引くん? お二人さんも同じ穴の狢やろ?」

「いやいや。狐坂さんと比べたらオレらなんて大したこと無いですって!」

 

手を横に振りながら根津が言う。

根津 光彦。五年前にとあるビルに爆弾を仕掛けた爆弾魔だ。そも爆弾で十数名の重傷者を出している。

 

「全くですな! 自分も狐坂さんには負けますよ!」

 

猪原が豪快に笑う。

猪原 雅樹。不良上がりのチンピラでSNS上で知り合った中高生を誘い出しては脅し、万引きや詐欺の売り子等をさせていた元締めだ。

 

「そう言われると嬉しいわ〜」

 

ケラケラと気分を良くする狐坂。

狐坂 周。四年前に祭波市を騒がせた無差別連続殺人事件の犯人だ。彼に殺された被害者の数は片手で数え切れない程に多い。その上で殺された人々は見るも無残な姿となっていたのも特徴だ。腸から抉り出され内臓をマフラーのように首に巻きつけられた遺体であったり、バラバラに解体された一家の遺体を一纏めに縫い合わせた遺体であったりと猟奇的であった。 

 

「にしてもここにいるのも退屈やなぁ」

 

天井を見上げ狐坂が呟く。その言葉に根津と猪原はビクリと肩を上下させる。表情には微かに怯えが見える。

狐坂が収監された時、既に根津と猪原がいた。複数人が同じ部屋に入れば自然と格付けが行われる。血の気の多い猪原が突っかかり、根津が陰湿な嫌がらせをする。しかし、狐坂はそんな二人をあっさりと返りうちにした。それもかなりえげつないやり方で。そんな事があったせいか二人は狐坂に逆らえないようになっている。

 

「なんかおもろい事でも起きひんかなぁ〜」

 

その時だ。狐坂の足元にタブレットが滑ってくる。咄嗟に顔を上げるとこちらから立ち去る看守の後ろ姿。口元の笑みを深くしながら狐坂がタブレットに手を伸ばす。

 

『初めまして。無差別連続殺人犯の狐坂 周』

 

タブレットが独りでに動き出し、画面に人の目がクローズアップされた画像が映し出された。

 

『私はアイ。アーシリーコードのアイ。以後お見知り置きを』

「アーシリー……コード……? 聞かん名前やなぁ?」

『えぇ。ここ最近有名になったので』

「なら知らんわけやな。それで? うちになんの用や?」

 

警戒感を滲ませ、冷めた瞳でタブレットを睨む。

 

『貴方と取引をしに来ました』

「取引?」

『えぇ。ここから脱獄する手助けをする代わりに、私達に力を貸してほしいのです。鉄格子の方をご覧ください』

 

言われて目を向けるとそこにはアタッシュケースが置かれていた。

 

『その中に脱獄の為の力が入っています。どうぞお使いください』

「プッ! アッハッハ!! こら、おもろいわ!」

 

文字通り腹を抱えて笑う狐坂。ひとしきり笑い終わると口を開く。

 

「取引の順番間違ってへんか? こう言うのはうちの了承を得てから渡すもんやろ? うちが適当に分かったゆうて、バックレたらどないするつもりやったんや?」

『それはそれで問題ありません。私達の目的は騒ぎを起こす事にありますから。それに、』

 

そこでアイが言葉を区切る。まるで狐坂の事を見透かしているように。

 

『貴方は罪状とは裏腹に義理堅い方ではありませんか。貴方が捕まった原因はとある一家で唯一生き残った少年の証言だったでしょう?』

「てことは、あの子を見逃した事も知ってる感じ?」

『えぇ』

「そっかぁ~。だってじゃあないやろ? 落とし物拾ってくれたんやで。殺したらバチが当たってまう」

 

狐坂は非道な事を涼しげな表情で言ってのける。

 

『それで、取引に乗っていただけますか?』

「せやなぁ〜。この二人はどないするん?」

 

根津と猪原の方を見る。突然話に巻き込まれ、二人は驚いていた。

 

『どうとでも。お好きなように』

「せやったら、こっちからも条件付けさせて貰うで。この二人も仲間に加えて欲しいねん。その条件やったら手伝ってええ。無理なら取引は無しや」

『……いいでしょう。アタッシュケースを開けてください。脱獄をナビゲートします』

「よっしゃ、取引成立や! ほな行くでお前ら」

 

狐坂がアタッシュケースを開ける。中にはモッドライザーと狐のレリーフが刻まれたクリアイエローのメモリアライズバッジが入っていた。

 

<モッドライザー!>

 

腰にモッドライザーを巻き付け、不敵な笑みでメモリアライズバッジを起動させる。

 

<フォックス!>

 

そして、異形の怪人へと変貌する狐坂。程なくして刑務所に非常警報が鳴り響く。その日、三人の囚人が脱獄した。騒ぎを聞きつけて集まった看守は驚愕したらしい。それはそうだろう。彼らの目の前には人の倍はある大穴が壁に空いていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ! これはすげぇ!!」

 

感嘆の声を上げるのは創斗。

D.A.T.Aと同盟を結んだ次の日の朝。創斗とトワルはD.A.T.A基地(ベース)の地下一階に居た。その場所は玲達技術班の研究室となっている。部屋の中、棚の上には様々な装置が、机の上には大量の設計図があった。それらを見る創斗の目は輝いていた。

 

「ふふん。そうだろうそうだろう」

 

得意げな顔で玲が笑いながら眼鏡のブリッジをクイッと直す。褒められてとても嬉しそうだ。

 

「これは何ですか?」

 

銃型のアイテムを手に持ちながら創斗は尋ねる。

 

「これはね〜、相反する二つの力をガッチャンコしてベストマッチさせたマキシマムドライブな銃だよ! 反動とコストがヤバくて没ったけど……」

「ではこっちの剣みたいなのは何でしょう?」

 

隣に置いてあった剣型のアイテムを手に取ったのはトワル。不思議そうに首を傾げていた。その質問に対し、玲は意気揚々と答える。

 

「そっちはね、圧力をターンアップして生成したエネルギーをクロックアップさせて火力をリミットブレイクさせる剣! まぁ、あまりの高火力に剣自体が耐えきれなくてコスパが悪かったから御蔵入りになったんだけどね……」

「そ、そうなんですね……」

 

苦笑いを浮かべるトワル。対照的に創斗はアイテムを真剣な表情で見つめていた。何かしら応用が出来るかもしれない。そう考えた故だ。

 

「それにしても。そっちの技術の方こそ凄いよ」

 

玲が近くに置いてあったパソコンを操作する。現れたのはヴァリアブルドライバーのデータ。

 

「正直、最高のパワードスーツを作ろうじゃなくて、最高のパワードスーツを作れる装置を作ろうって発想は思い浮かばなかったね」

「分かります。おれも最初に見た時、同じ感想でしたから」

 

玲の褒め言葉に創斗は嬉しそうに口を綻ばせる。

想助が考案したライダーシステムとは即ち、ドライバーによるパワードスーツの生成技術とメモリアライズバッジに内蔵されたデータを元にその場に最適なパワードスーツを出力させる技術の組み合わせだ。その場でパワードスーツを作るという画期的なアイデアは持ち運びの利便性やバッジの切り替えで臨機応変な対応を取ることが出来る。

 

「父さんが言ってました。この技術が進歩を重ねていけば、おれ達はどんな場所にでも駆けつけて誰かの手を取ることが出来るって……」

「確かに。この技術が進歩すれば深海から宇宙の果てまで行ける日も遠くないかもね」

 

その時、研究室の扉が開く。中に入ってきたのは二人の男女。一人は心護。もう一人は長い黒髪を背中まで伸ばしたその女性。どことなく顔立ちが心護に似ている。すかさず創斗が挨拶をする。

 

「おはようございます、戎さん。……そちらの人は?」

「あぁ、おはよう、伝導。二人にはまだ紹介してなかったな。こいつは真名子(まなこ)。俺の妹だ」

 

心護が女性を指さしながら言う。真名子と呼ばれた女性はにっこりと微笑むと心護の人差し指を掴み捻り上げながら答える。

 

「初めまして、戎 真名子と申します。兄が大変お世話になったようで」

「痛い痛い痛い!!!」

 

思わず叫ぶ心護。満足したのか真名子が手を離すと心護は人差し指を擦る。

 

「お前、やり過ぎだろ!」

「人を指差す様な人に容赦する義理はありません」

 

ぷいっとそっぽを向く真名子。そんな彼女にトワルがぽつりと言う。

 

「頭、大丈夫ですか?」

「はい?」

「あ!? 違うんです! 頭に機械が入ってるみたいだったので!!」

 

言い方がおかしかった事に気付いたトワルが慌てて弁明する。ジロッと睨みつけていた真名子だったが、彼女の弁明に納得したのか笑顔に戻る。

 

「えぇ、実は昔、大事故に巻き込まれた事がありまして。その際に脳に損傷を負ってしまい、一部機械化しているんです」

「そうだったんですね。大変失礼しました」

 

トワルは申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「それで? 朝早くからどうした?」

 

一度咳払いをしてから心護が玲の方を向く。玲はというと待ってましたとばかりに何かを取り出した。

 

「ジャジャジャジャジャンジャンジャ~ン!! 試作品〜!!」

 

某猫型ロボット風に言いながら取り出した物をテーブルに置く。それはブレスレット型のアイテムだ。試作品というだけあってまだ未完成なのか所々配線が見えている。

 

「試作品?」

「そ。伝導くんから提供して貰ったヴァリアブルドライバーの技術を参考に開発したんだ。ではここで心護に問題で〜す!」

 

玲が胸を張りながらニヤニヤと笑う。そして、人差し指をピンと立てる。

 

「ヴァリアブルに無くてあたし達にあるものは何でしょうか?」

「伝導達に無くて、俺達にあるもの……?」

 

心護が考え込む。しかし、答えが見つからないのか眉根を寄せたまま沈黙する。業を煮やした玲が答えを言った。

 

「数だよ。ヴァリアブルがどれだけD.A.T.Aより優れていたとしても単独じゃあ出来ない事もあるでしょ? そこで、この試作品です!!」

 

全員の視線がブレスレット型のアイテムに集中する。

 

「これはね、謂わば簡易版ライダーシステム。出来る限りのコストダウンを施した量産型変身システムだよ」

「量産型!?」

「Yes♪ とは言え昨日の今日で作った急造品だから、直ぐには実戦投入はさせられない。そ・こ・で心護にテストプレイを頼みたいってわけ」

「そういう事か」

 

合点が言った心護がぽんっと手の平に拳を置く。創斗もまじまじと試作品を見つめている。

 

「昨日の今日でここまでの完成度を出せるなんて……」

 

感心したように頷く創斗。彼の言葉にニヤつきながら玲がパンッと手を叩く。

 

「さてと、時間は有限。それじゃあ、テストプレイ始めよっか!」

 

そしてにっこりと笑った。

緊急招集が入ったのはそれから数時間後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議室に創斗達が入ってくる。よほど慌てていたのか少し息が荒い。部屋の中には既に複数の隊員達がおり、部屋の真ん中には和明の姿もあった。彼の背後にはスクリーンが降りてきている。心なしか部屋の雰囲気がピリピリしていた。

 

「全員集まったようだな。では早速用件に移ろう」

 

和明が厳かにそう言うと周囲を見渡す。

 

「少し前にD.A.T.Aに一通のメッセージが届いた。これだ」

 

スクリーンに映し出されたのはメッセージの内容。それは、

 

「祭波市に爆弾を仕掛けた。今から一時間後に爆発する。見つけられなかったら人質の命は無い。根津 光彦」

 

スクリーン内の映像が下へスライド。現れたのはどこかの建物の中で椅子に拘束された男性の画像。手足を縛られ、猿轡を噛まされている。

 

「!?」

 

一際目を引くのは男性の腹部に巻き付けられた装置。それは誰が見たって爆弾だ。

 

「昨日の深夜。公曽区の刑務所にて脱獄が発生した。逃げたのは三名の犯罪者。狐坂 周。猪原 雅樹。そして、根津 光彦」

 

和明の言葉に創斗達は息を呑む。

 

「これは我々への挑戦状と見て間違い無いだろう。それともう一つ気になる事があった。差出人の名前だ」

 

映像が上の方へスライドしていく。一番上までスクロールされた映像。そこに記された差出人の名前はアーシリーコード。

 

「アーシリー……コード……!?」

「脱獄にアーシリーコードが関わっている。という事ですか?」

 

目を剥く創斗。トワルが努めて冷静に聞く。

 

「恐らくその可能性は高い。そこで君達にも協力を仰ぎたい。頼めるかな?」

「当然、大丈夫です!おれ達が必ず止めてみせます!!」

 

アーシリーコードが絡んでいるならば断る理由は無い。拳を握りしめ、創斗が力強く言う。

 

「時間が無い。各員動いてくれ」

「はい!!」

 

その言葉を皮切りに創斗達は外へ飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は〜い、こちらエフェクト。敵影無〜し!」

 

エレクトロ伝導の店先にエフェクトはいた。お店は閉まっており、臨時休業の張り紙がしてある。一応とばかりにガラス越しに店内を覗き込むエフェクト。

 

「そっちはどう?」

「伝導 創斗がD.A.T.Aと共にいる」

 

エフェクトの言葉に答えたのはアンビシャス。屋上から見据える先にはD.A.T.Aの車両とヴァリアルストライカーに乗った創斗とトワルの姿。

 

「てことはやっぱりヴァリアブルの正体はそいつなの?」

「まだ確定していない以上、断定は出来ないが可能性は上がった。これより作戦を決行する。エフェクト。お前も早く合流しろ」

「りょうか〜い!」

 

元気良く返事をすると踵を返すエフェクト。ところが、反対から歩いてきた通行人とぶつかってしまう。否、通行人がぶつかってきた。

 

「いって〜! あ〜、腕折れたかも!」

 

わざとらしい仕草をするのはガラの悪いサングラスの男性。

 

「大丈夫っすか〜」

「おい、てめぇ! 慰謝料払え!」

 

取り巻きらしき同じくガラの悪い男達がこちらへ迫る。

 

(うわっ。めんどくさ〜)

 

対するエフェクトは心底嫌そうな顔で茶番を睥睨していた。

 

「おいおい。よく見たら可愛い顔してんじゃん!」

「お金が無いならしょうがないよなぁ〜」

 

ニヤニヤと詰め寄ってくる三人。エフェクトはため息を吐く。

 

(うーん、どうしよう……。殺してもいいけど、今騒ぎを起こすのは作戦に支障が出るよね?)

 

そんな事を考えていた時だ。人影が割って入ってきた。黒髪を金に染めた男、櫂善 錬児だ。すぐさま錬児は大声で叫ぶ。

 

「お巡りさん! こっちです!!」

 

その言葉に怯む三人組。その隙に錬児はエフェクトの右手を取った。

 

「今だ! 走るぞ!!」

「え? ちょっ!?」

 

駆け出す錬児。その手に引っ張られ、エフェクトも走り出す。男達は追いかけるのを諦めたのか追ってこない。そのまま、少し遠くの公園に辿り着いた。

 

「ふぅ~。ここまでくれば大丈夫だろ!」

 

錬児がエフェクトに笑いかける。エフェクトは訝しげな顔で錬児を見つめていた。

 

「手」

「え? あっ!?」

 

エフェクトに指摘され、慌てて手を離す錬児。自分は無害だよと両手を上げてアピールする。

 

「あはは……」

「何で?」

「ん?」

「何で助けたの?」

 

エフェクトは首を傾げる。彼女が人間に助けられた事なんてこれが初めてだった。

 

「そんなの普通の事だろ? 困ってる人を助けるなんて人として当たり前だしな!!」

 

浮かべた笑みをさらに深くする錬児。エフェクトはそんな彼に目を見開きながら呆気に取られていた。

 

「て、やべ!? もうこんな時間じゃん! ごめん!! 俺これからバイトだから、もう行くね。気を付けて帰るんだぞ!」

 

スマートウォッチを見て、錬児は慌てだすと、そのまま公園を後にした。エフェクトはそんな彼の後ろ姿を茫然と見送る。

 

「なんでだろう? 手があったかい……」

 

機械の体の筈なのに。エフェクトは右手を擦る。その手にはじんわりとした温もりが感じられる。エフェクトは暫し公園に立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって目蟹区の街中では創斗達が宛もなく爆弾を探していた。ヴァリアルストライカーから降りて、道を見渡している。

 

「クソ! どこだ!!」

 

険しい顔で周囲を見渡す創斗。時間は有限。彼の表情に焦りが滲む。

 

「何かヒントがあれば……」

 

その時、隣で考え込んでいたトワルが何かに気付き、通信する。

 

「夢崎さん。先程のメッセージに添付されていた画像を見せてください」

『良いよ! 今、送るね』

 

トワルの声を聞き、会議室の中で玲がトワルへ画像を送信。受け取ったトワルの瞳からプロジェクターのように光が発射され空間にスクリーンが映し出された。そこには先程見た、爆弾を巻かれた男性の姿。

 

「やっぱり!」

「何か分かったのか?」

「この画像をよく見て。ほらここ!」

 

トワルが指さしたのは画像の右端。窓の一部が映っている。

 

「何かあるか?」

「ちゃんと見てください! 窓の外の光景を!」

「んー……?」

 

目を細めて画像を凝視する創斗。窓の外には建物らしきものが映っているがぼやけててよく分からない。

 

「全く仕方ないですね」

 

トワルはため息を付きながら手を振る。すると画像の解像度が上がった。

 

「おい! これって俺ん家じゃねえか!!」

 

そこに映し出されていたのはエレクトロ伝導の建物だった。怒り心頭の表情でヴァリアルストライカーに跨る創斗。

 

「行くぞ、トワル! 乗れ!!」

「はい! 行きましょう!」

 

トワルが後ろに乗り込むと、創斗はアクセルを踏み込む。そして目的地へ向けて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エレクトロ伝導の向かいには錆びたビルが建っている。だがその建物が何の目的で建てられたのかを創斗は知らない。エレクトロ伝導を建てた当初からその建物は空き家だったからだ。そんなビルの前に創斗とトワルは立つ。

 

「ここか……。行こう!」

 

D.A.T.Aには事前に連絡を入れてある。しかし、合流するには時間が無い。二人は建物へ足を踏み入れた。それを見つめる影。電柱に身を隠したアンビシャスが彼らをじっと見ていた。

 

「暗いな……」

 

建物内に光は届いておらず暗い。足元にもガラスの破片やらが散乱している。二人は慎重に足を進める。付近の扉を片っ端から開けていく。

 

「見取り図があれば良いんだけどな……」

 

周囲をキョロキョロと見回しながら歩く創斗。傍らのトワルが立ち止まり、ネットと接続しようと試みる。

 

「え?」

 

だが繋がらない。それどころかここら一帯の電波が遮断されている。その事に驚愕していたその時、ゴウンッと音を立て二人の間に壁が降りてくる。

 

「ソート!」

 

トワルが咄嗟にヴァリアブルドライバーを外して、創斗に投げ渡す。創斗がドライバーを受け取った時には既に壁は完全に降りており、トワルの姿は見えなくなっていた。

 

「トワル!」

「時間がありません。先に進んでください! 必ず合流しますから!!」

「分かった!!」

 

創斗は頷くとドライバーを装着する。

 

<ヴァリアブルドライバー!>

<スパイダー!>

 

続けてスパイダーメモリアライズバッジを起動させ、ドライバーにセットする。

 

<スタートアップ・ローディング!>

<スタートアップ・ローディング!>

「変身!」

 

グリップを押し込み、創斗が力強く宣言する。

 

<世界を守るライダー! 我らを繋げるスパイダー!!>

<メモリアライズ! バッチグー!>

 

創斗はヴァリアブルへと変身を遂げた。元より変身のプロセスにおいてトワルが居なくても変身は可能なのだ。ただ、トワルのサポートが受けられないのは創斗にとっては痛手。戦闘力の低下は免れない。それでも進むしかない。ヴァリアブルは歩き出した。

トワルは急いで外へ飛び出すと玲へ連絡を入れる。予想通り、建物の外でなら電波が繋がるようだった。

 

「建物内にソートが閉じ込められました。至急応援を!」

「ご安心ください。まもなく兄さん達が来ます」

 

トワルの声に答えたのは玲では無く真名子だった。会議室にて玲の隣でインカムに触れながらオペレーションをする。

 

「真名子さん!?」

「建物の見取り図も調べてあります。送信するので共有してください」

「ありがとうございます!」

 

トワルは嬉しそうにお辞儀した。

その頃、ヴァリアブルは扉を開けながら建物内を進んでいた。一階、二階と慎重に進む。やがて最上階である三階に辿り着く。その中の最奥の扉を開ける。部屋の中はとても広いが暗くてよく見えない。目を凝らして闇を見つめていたその時、パッと照明が着いた。

 

「よく来たな。ヴァリアブル。いや、伝導 創斗」

 

そう声を掛けたのは根津その人。事前に容姿を共有しておいたので間違いない。彼の傍らには拘束された男性が怯えた顔でこちらを見ている。だがそれよりも、

 

「何でおれの名前を!?」

 

根津の言葉に驚愕するヴァリアブル。

 

「何故って当然だろ? 今この建物に居るのは俺とこいつとお前だけなんだぜ?」

 

根津がスマホの画面を見せつける。そこには建物へ入る自分とトワルの姿。まさかバレたのかと仮面の奥で創斗は冷や汗をかく。

 

「……そうかよ。まぁいい、大人しくその人を解放しろ。そうすりゃあ罪も軽くなるぞ」

「ハッ! 今更だな!」

 

根津は鼻で笑うとモッドライザーを取り出し、腰に巻いた。

 

<モッドライザー!>

「やっぱ持ってるか……」

 

アーシリーコードと繋がっている可能性があった以上想定済みだ。ヴァリアブルはファイティングポーズを取る。根津は針鼠のレリーフが刻まれたクリアグレーのメモリアライズバッジを起動させる。

 

<ヘッジホッグ!>

「電令!」

<ハック! クラック! バーサーク!!>

<アーシリーコード:ヘッジホッグ! ダウンロード!!>

 

黒のアンダースーツを纏い、ベルトから飛び出したチューブが頭部と結合。背後に現れたエネルギー状の針鼠がピョンピョン跳ね回りながら分割され、灰色の装甲となって装着される。背中に鋭い針を携えた怪人、ヘッジホッグ・モッドが誕生する。

 

「サァ、クラエ!!」

 

先手を取ったのはヘッジホッグ・モッド。体を前屈みに倒すと背中の針を発射する。針はまるでミサイルのようにヴァリアブルへと飛んでいった。

 

「ハァッ!」

 

対するヴァリアブルはヴァリアブラスターをブレードモードにして迎撃。針を弾きながら距離を詰める。

 

「オラッ!!」

 

ヴァリアブラスターを振り下ろすヴァリアブル。ヘッジホッグ・モッドの装甲が火花散り、もんどりを打った。それでは足りないとばかりに回し蹴り、肘打ち、再度斬りつけと前のめりな攻撃を繰り出す。

 

「フッ。ナラバ!!」

 

ヘッジホッグ・モッドも負けてはいない。再び針を飛ばした。

 

「当たらねぇよ!」

 

ヴァリアブルが上手に体を捻り回避。だが、

 

「〜〜〜!?」

 

ヴァリアブルの後方には拘束されていた男性がいた。針の一つが男性の肩に刺さる。そこから止めどなく血が流れ始めた。

 

「しまった!」

 

ヴァリアブルが慌てる。これがトワルと一緒だったならばもっと上手く立ち回れた筈だ。その後悔がヴァリアブルの動きを鈍らせる。

 

「スキアリ!」

 

ヘッジホッグ・モッドが体を丸める。さながら棘の生えたボールのように。そして、そのまま勢いよく転がり始めた。

 

「ぐあああっ!!」

 

避けられず諸に食らうヴァリアブル。

 

「くそっ!」

 

地面に倒れ伏しながら悪態をつく。ヘッジホッグ・モッドは悠々とほくそ笑みながら迫る。

 

「まずい……」

 

何とか起き上がるも仮面の奥で焦りを募らせるヴァリアブル。

 

「オット、ウゴクナヨ?」

 

ヘッジホッグ・モッドの手にはスイッチらしき物が握られていた。恐らくは爆弾の起爆装置。

 

「ヘタナウゴキヲスレバドカン! ダゾ?」

(やばいやばいやばい! どうすれば! こんな時、トワルが居れば……)

 

焦りのせいか考えがまとまらない。それどころか不安が次々と生まれては心の中を埋め尽くしていく。

その時だ。部屋の扉が開け放たれる。入ってきたのは心護達D.A.T.Aの戦闘員。

 

「動くな! D.A.T.Aだ! 大人しくしろ!!」

 

ヘッジホッグ・モッドが心護達に気を取られ、一瞬ヴァリアブルから目を離す。

 

「ソート!!」

 

心護達の脇を抜けてトワルがヴァリアブルへとスライディング。すれ違いざまにドライバーに触れる。機械の体が勢いよく壁に激突したが、これでヴァリアブルドライバーの中にトワルが入った。

 

『これまでの戦闘データを確認。これよりラーニングを開始します。所要時間は30秒!』

「トワル!」

 

創斗の心が安堵と安心で満たされる。募っていた不安が吹っ飛んだ。

 

『ラーニング完了。行きましょう、ソート!』

「おう!」

「『たった今、勝利の道は繋がった!!」』

 

ヴァリアブルが駆け出す。予想外の行動に慌てるヘッジホッグ・モッド。起爆装置をこちらに向ける。

 

「ウ、ウゴクナ! ヒトジチガドウナッテモイイノカ?」

 

その刹那、銃声が響く。ヘッジホッグ・モッドの手が弾かれ起爆装置が宙を舞う。撃ったのは心護。手に握られた拳銃からは硝煙が上がっている。トワルがすぐさま作戦を共有しておいたのだ。

 

「ハッ!」

 

ヴァリアブルが手の平を翳す。放たれた糸が起爆装置を絡め取り、こちらへと引き戻す。

 

「これで爆発はしない。おれ達の勝ちだ!」

 

起爆装置をD.A.T.Aの戦闘員に投げ渡し、ヴァリアブルはヴァリアブラスターで斬りつける。

 

「ぎゃあああ!!!」

 

ヘッジホッグ・モッドが悲鳴を上げる。だがまだ足りない。倒すには至らない。そのまま追撃。連続斬りが彼を襲う。

 

「ナ、ナラバ!!」

 

苦し紛れか、背中の針を闇雲に飛ばす。しかしそんな攻撃が当たることはない。ヴァリアブルはそれを悠々と避わす。それを見て嗤うヘッジホッグ・モッド。ヴァリアブルが避けた針の一つが男性へと向かっていた。このままでは先程の二の舞い。そんな訳が無い。何故なら今の創斗にはトワルがいるのだから。

 

『ルート展開。ソート、対応して』

「了解だ!」

 

ヴァリアブルは目もくれずに後ろへ手の平を向けた。放たれた糸が展開し、蜘蛛の巣を作る。針は蜘蛛の巣に阻まれ、撓り、跳ね返る。そして、一直線にヘッジホッグ・モッドの肩に突き刺さる。

 

「ソンナバカナ!? イ、イタイ!?」

「言っただろ? 勝利の道は繋がったって」

<アクセス!>

 

痛みに悶えるヘッジホッグ・モッド。ヴァリアブルはその隙にドライバーを操作する。

 

「これで終わりだ!」

『決めましょう、ソート!』

 

ヴァリアブルが頭上に蜘蛛の巣を張ってから跳躍する。空中でバク転し、蜘蛛の巣を足場にしてその反動で勢いよく飛び込む。体を捻り、蹴りの体勢のまま一直線にヘッジホッグ・モッドの元へ。

 

<スパイダー!>

<ヴァリアビリティストライク!!>

「ウワァァァァッ!!!」

 

必殺の一撃が鳩尾に直撃。ヘッジホッグ・モッドが爆発。煙が晴れるとそこには気絶した根津の姿があった。

 

「戦闘終了……」

 

安堵のため息を吐くヴァリアブル。その傍らでは拘束されていた男性が解放されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらら。根津くん負けたんか……」

 

郊外の廃工場にてモニターを見ながら呟くのは狐坂。モニターにはD.A.T.Aの戦闘員に拘束される根津の姿が映し出されている。電波の遮断された場所とでも繋がる特別製だ。

 

「あーあ。エフェクトちゃんがちゃ〜んと合流してくれてたんならなぁ〜。こないな事にはなってなかったんやけどなぁ〜」

「全くですな!」

 

賛同するは猪原。狐坂の横に立ち、腕を組んでいる。狐坂は首だけを動かし後方を向く。彼の視線の先にはアンビシャスがいる。その傍らでエフェクトがばつの悪い顔をしていた。

 

「……だが、おかげでヴァリアブルの正体が確定した」

 

アンビシャスがモニターの映像を切り替える。そこにはヴァリアブルへ変身する創斗の姿が映し出されていた。

 

「そして、思わぬ収穫もあった」

 

再度映像が切り替わる。映し出されたのはトワルの姿。

 

「彼女がエルフ。俺達の仲間」

 

そして、アンビシャスは思案する。次なる一手を。

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