わんだふるぷりきゅあ!!~わんだふる♡わーるど~ 作:重要大事
深い闇が、音もなく広がる。
そこには形もなく、ただ黒いもやが漂っていた。それはどこからともなく現れ、何かを探るかのように、ゆっくりと蠢きながら空間を満たしていく。
もやは静かに渦を巻き始め、その中心に、小さな光の粒がいくつも浮かび上がる。その光はただの光ではない。まるで苦しみと怨念が凝縮されたかのように、ひどく重たく、不安を掻き立てる。
その中で、無機質な声が低く響いた。
「ジョウホウシュウシュウ、カンリョウ……」
黒いもやが脈動するように動き、その中へと光の粒が吸い込まれていく。
粒が消えるたび、空気がひしゃげるような金属音が響き、次第にその音が空間全体を支配した。低く歪んだその音には、どこか聞き手の心を揺さぶる不快さがあった。
やがて、もやは渦の形を崩し、ぼんやりと拡散していく。重々しい静寂が戻ったその空間は、すべてが何事もなかったかのように消え去り、何も残さない。 ただ、その場に存在した何かが確かに蠢いていた記憶だけを残して。
◇
四月某日
アニマルタウン 犬飼家
朝日が窓から差し込み、柔らかな光が部屋の中を優しく照らしていた。鳥のさえずりが耳に心地よく響き、平和そのものの一日の始まりを告げている。
「んん~……」
布団の中で何かが蠢いた。顔を出したのは、後頭部にハートの模様を持つパピヨン犬、こむぎ。大きく伸びをしながら、未だ眠りの中にいる主人、犬飼いろはを起こすべく、こむぎは勢いよく布団の上に飛び乗った。
「ぐおぉ!」
突然、重みが体にのしかかり、いろはは思わず声を上げる。毎朝のことながら、容赦のない起こし方に困惑しつつ、耳元に届く愛犬の第一声に目を開けた。
「いろは! 朝だよ、起きてワン!」
流暢な日本語とともに、こむぎは主人に話しかける。
「うぅ……おはよう、こむぎ……」
いろははこむぎの頭をなでると、重い体を起こし、窓を開けた。
「ん~……今日もいい天気!」
朝日を全身に浴び、澄んだ空気を吸い込んだいろはは、にっこりと微笑みながらこむぎの方を振り返る。
「いろは! はやくはやく、お散歩お散歩!」
「はいはい、そんなに慌てなくても、お散歩は逃げないよ」
二人が家を出る頃には、空には雲ひとつなく、清々しい風が通り抜けていた。アニマルタウン特有ののどかな風景が広がり、木々の間から覗く朝の太陽が街全体を穏やかに包み込んでいる。草花に残る朝露は光を受けて輝き、どこか心を落ち着けるような景色だった。
「いち! にー!」
「ワン! ワン!」
「さん! しー!」
「ワン! ワン!」
いろはとこむぎは息を合わせて走りながら道を進み、目を輝かせて声を上げた。
「おはよう! みんな、おはよう!」
散歩中に出会うすべての動物たちに挨拶をしながら、二人は足を止めることなく海岸へ向かった。
「こむぎ! 今日もみんな元気、みんな仲良しだね!」
「ワン!」
そして、二人は阿吽の呼吸の如く、声を張り上げながらジャンプする。
「「ワンダフルー!」」
すると、いろはは地平線から昇る太陽を凝視しながら、しみじみと語り出す。
「信じられないなー。一年前は、こうしてこむぎと話ができるなんて思ってもみなかったもん。アニマルタウンにガルガルが現れたり、その後すぐにこむぎが人間になったり、プリキュアになったり……今でも夢みたいって思っちゃう」
思い返せば、あの頃のアニマルタウンは平穏とはほど遠い状況だった。突然現れた「ガルガル」や「ガオガオーン」と呼ばれる謎の黒い瘴気に取り憑かれ、暴れ出す動物たち。街が混乱に陥る中、鏡石を介して不思議な力が目覚め、二人は共に「プリキュア」として立ち向かうことになったのだ。こむぎが人間の姿になり、いろはと力を合わせてガルガルを鎮める日々は、楽しいだけでなく試練の連続だった。そうして幾度もの危機を乗り越え、最後には復讐の思念に憑りつかれた人間、スバルとオオカミとも絆を結び、アニマルタウンの平和を取り戻したのだった。
「こむぎは、いろはとプリキュアやれたこと、すっごくよかったって思ってるよ! ガルガルしてた動物たちを助けたり、スバルやオオカミたちと仲良くなれたの、すっごくわんだふるだったワン!」
こむぎは元気いっぱいに言いながら、耳をピンと立て、体全体で喜びを表現している。その輝くような瞳には、共に乗り越えてきた数々の試練と、それを経て築き上げられた絆が映っているようだった。
「うん。わたしもだよ」
いろははこむぎの気持ちを受け止めるように穏やかに微笑む。その笑顔には、感謝と充実感がにじんでいた。一緒に戦い、悩み、喜びを分かち合った時間が、二人にとってかけがえのないものになっていることを、改めて実感する瞬間だった。
その時、こむぎのお腹がぐうっと鳴った。
「うぅ~……走ったらおなかすいたワン……」
「じゃあ、早く帰って朝ごはんにしよっか」
いろはが笑顔でそう提案すると、こむぎは思わずぴょんと軽く跳ね上がった。その仕草には、素直で無邪気な喜びがにじんでいる。こうして二人は穏やかな気持ちで家路に向かった。
◇
ニコガーデン
地球とは異なる異世界で、動物たちが仲良く暮らす奇跡の楽園――それがニコガーデンだ。そこは悠久の時を生きるダイヤモンドユニコーン、「ニコ」と呼ばれる神が、自らの力と「ニコダイヤ」と呼ばれる神秘のエネルギー結晶体を用いて創り上げた地である。
虹の橋がかかり、四季折々の花々が咲き乱れ、柔らかな風が運ぶ花の香りは訪れる者の心を和ませる。スバルとの戦いが終わり、いろはたちとの別れを経て、ニコの深い愛情と献身によって、ニコガーデンは常に整えられ、キラリンアニマルやニコアニマルたちが安全に暮らせる理想郷であり続けてきた。
その日も、ニコガーデンは穏やかな時間に包まれていた。小さなニコアニマルたちが広場で戯れ、キラリンアニマルたちがその様子を見守るようにのんびりと横たわっている。柔らかな陽光の下で、草木の葉が風に揺れ、彩り豊かな花々がささやくように揺らめいていた。
広場に隣接するテラスには、人の姿となったニコが、動物たちの微笑ましい様子を見守っていた。目元には優しさが滲み、唇には穏やかな微笑みが浮かんでいる。
「ニコ様、お茶の準備が整いました」
そんなニコに、執事であるヒツジのメエメエが、紅茶のトレイを携えてやってきた。シルバーのトレイには、ふたつのカップが揃えられ、繊細な香りを漂わせる紅茶が注がれている。
「ありがとう、メエメエ。今日もいい香りですね」
ニコが優雅にカップを手に取り、そっと口元に運ぶと、ほのかな花の香りがふわりと鼻腔をくすぐる。
「皆さまが平和に暮らせるのも、ニコ様の尽力のおかげです」
メエメエは深々と一礼し、紅茶のもう一方のカップを手にしてニコの隣に立つ。その視線の先には、無邪気に遊ぶ動物たちの姿があった。
「いいえ、わたくしの力だけではありません。今こうして皆が幸せに暮らせるのは、スバルの怒りと憎しみを祓いのけたプリキュアたちの力があってこそです」
一年前の出来事を思い返すように、ニコの目が遠くを見つめる。彼女の言葉には、プリキュアたちへの深い感謝と尊敬が込められていた。
「アニマルタウンのみなさん……お元気でいらっしゃるでしょうか」
メエメエが不安げに呟く。心配する執事に向けて、ニコは柔らかく微笑みながら答えた。
「メエメエ、心配なさらずとも、あの子たちなら全員ご健在でいらっしゃるはずです」
その声は優しくも確信に満ちていた。ニコの落ち着いた言葉に、メエメエは小さく頷き、少し肩の力を抜いた。
ニコの柔らかな声が響き、その場を包む空気はどこまでも静かで穏やかだった。しかし、その静寂が破られるのは、もうすぐ訪れる出来事の前触れに過ぎなかった。
「……!?」
微かな違和感が、空気に紛れるように広がる。心地よい風の中に混じる微細な震え。それにいち早く気付いたのは、他でもないニコだった。
「いかがなさいましたか、ニコ様?」
異変に気付いたメエメエが心配そうに声をかける。だが、ニコは微かに目を細め、周囲に意識を巡らせるだけだった。
その時、地平の彼方から何かが蠢くような、不気味な感覚がじわじわと広がり始めた。まだそれが、楽園を飲み込む暗い影の始まりだと気付く者は誰もいなかった――。
◇
数日後――
アニマルタウン 海浜公園
海浜公園はアニマルタウンで最も広大な公園であり、住民たちや動物たちの憩いの場だ。地理的に海や湖にも近いこの場所には、開放感あふれるペットフリーエリアが設けられており、動物たちが自由に過ごせる空間として人気を集めている。広がる芝生、散策用の遊歩道、そして波打ち際に続く砂浜は、訪れる者に癒しを与えている。
「みんなー、おまたせー!」
「ワン!」
いろはとこむぎが公園の入口から元気よく駆け込んできた。こむぎは耳をぴょこぴょこと動かしながら、いろはよりも先を走る。
「いろはちゃん、こむぎちゃん」
「遅いにゃん」
広場の一角に敷かれたピクニックシートの上から、クラスメイトで同じプリキュアだった少女、猫屋敷まゆが手を振った。その腕の中で、真っ白な毛並みを持つまゆの飼いネコ、ユキは冷静な表情で軽く眉を上げながら言葉を続ける。
「まゆちゃん、ユキちゃん、遅れてごめんね!」
いろはは両手を合わせ、陳謝の姿勢を見せた。
「悟くんと大福ちゃんも、ごめんね」
すぐさま、その視線を彼氏である兎山悟と彼の飼い兎であるロップイヤーの大福にも向ける。
「うんうん。ぜんぜんだよ」
「オレらのことは気にすんな」
悟は柔らかく微笑み、大福も落ち着いた声で答える。本来、大福は声帯を持たないはずのウサギだった。しかし、スバルとの戦いの後、こむぎやユキと同様に鏡石を介して人語を話せる力を与えられており、今ではこうしてみんなと会話を楽しめる存在になっていた。
「今日のピクニック、晴れてよかったよ!」
「ねー。わたし、早起きしてお弁当いっぱい作っちゃった」
まゆが笑顔で手元のバスケットを見せると、悟もその言葉に便乗した。
「ボクも、いろはちゃんと来るの楽しみで、いつにも増して気合が入ったよ」
「うわー! 二人ともうれしいな! 実はわたしも、今朝は四時起きして張り切って作ったんだよ!」
いろはは鼻高々にバスケットを見せるが、その中から漂う異様な臭いに、大福とユキが警戒心を見せる。動物的直感で、危険を察知したようだった。
その後、一行は公園内の大きな木陰へ移動し、ピクニックシートを広げる。海風が心地よく、みんなでお弁当を囲みながら楽しいひとときを過ごしていた。
「ほんとに平和だね~」
「こんな日がずっと続けばいいのに」
「あれから、もう三か月は経つんだよね」
いろはとまゆの言葉に、悟が続ける。スバルとの戦いがあった一月一日の出来事。それから現在の四月に至るまで、日常が穏やかに過ぎていくことが、彼らには不思議でならなかった。
「でも、こうしてまたユキと話ができるようになるなんて……」
まゆは膝の上でのんびりと寝そべるユキの顎を優しく撫でる。ユキもそれに満更でもない表情を浮かべている。
「ボクも大福と話せるようになって、すごくうれしいよ」
「ああ、オレもだ」
悟が大福の頭を撫でると、大福は嬉しそうに目を細めた。
「みんな仲良しわんだふるだワン!」
こむぎが満面の笑みで言い放つと、いろははふとニコガーデンへ帰ったニコやメエメエのことを思い出す。
「ニコ様とメエメエ、今ごろ元気にしてるかなー」
「メエメエなら、きっといつもみたいに『ダメェ~!』って言ってるんじゃないの?」
「言えてるね」
「ユキってば、物まねじょうず!」
「やるじゃねーか」
自然と笑い声が広がる。心の底から穏やかで、満ち足りた時間だった。
*
アニマルタウン 市街地
その頃、市街地では、不穏な異変が静かに始まっていた。
アスファルトの隙間や排水溝から、黒いもやがじわじわと溢れ出す。それは最初、ただの靄か煙のように見えたが、徐々に密度を増し始める。日差しの下でもどこか異質なその黒さは、周囲の景色に不気味な影を落としていた。
もやはゆっくりと流れ込むように一箇所に集まり、その中心には奇妙な振動が走っていた。周囲の空気はじっとりと湿り、冷たさを帯び、通りを行く人々が思わず足を止め、不安げに振り返る。もやが集まる中心部では、不気味な振動が地面を伝い、微かな轟音が低く響き始めた。
「なんだこれ……?」
異変に気付いた通行人が呟く。だが、その声も、もやが放つ異質な気配に呑まれるように薄れていく。
やがて、黒いもやが凝縮されるかのように集まり、形を成し始める。それはあたかも、獣がゆっくりとその身体を現すかのようだった。鋭い爪が地面を引き裂き、巨大な翼がもやを巻き込みながら広がる。頭部には鋭い眼光を放つオオカミの顔が浮かび上がり、羽ばたきのたびに風圧が周囲を揺るがす。
「ガオガオーン……!!」
その存在が生み出す威圧感は圧倒的だった。街路樹の葉は次々と枯れ落ち、もやが作り出す瘴気が街を包み込む。周囲の建物にひびが入り、轟音とともにその巨体が大地を踏みしめるたび、振動が周囲に伝わった。
*
同時刻――
アニマルタウン 海浜公園
「! ワン!」
そして、その異変を遠く離れた公園で察知したかのように、こむぎが耳をぴくりと動かし、真剣な表情で周囲を見回している。
「こむぎ、どうしたの?」
いち早く何かを察したこむぎに、いろはが怪訝そうに尋ねるが、こむぎは答えず、じっと遠くを警戒するような目つきをしている。
同じ頃、ユキと大福も不安げに空気の匂いを嗅ぎ取っていた。
「悟、なんか変だ」
「変って?」
「何か嫌な感じがするわ」
「え?」
悟とまゆが首を傾げたその瞬間、大きな爆発音が空気を裂いた。
全員が音のした方に目を向ける。遠くの空に黒煙が立ち上り、青空を汚すように広がっていく。その煙はまるで生き物のように渦を巻き、威圧的な存在感を放っていた。
「いろは! あっちワン!」
こむぎが警戒の声を上げる。いろはは唇を震わせながら、その異様な光景を凝視した。
「何が起きてるの……?」
「とにかく、行ってみよう」
悟がそう提案し、全員が爆発のあった方向へ駆け出した。穏やかな海風はいつの間にか止み、緊張感が周囲を支配していた。
*
アニマルタウン 市街地
爆発音を追い、こむぎたちが市街地へ駆けつけた。目の前に広がるのは、破壊の爪痕が刻まれたアニマルタウンの街並み。その光景を支配するかのように、巨大な黒い影が立ちはだかっていた。
「! あれって!」
「ウソでしょう……」
「ガオガオーン!?」
いろはたちはその場に釘付けになった。スバルとの戦いを終え、ようやく平和を取り戻したはずのアニマルタウンに、再び黒き獣の怪物・ガオガオーンが現れたのだ。その事実を目の当たりにし、誰もが言葉を失う。
「ガオガオーン!!」
轟音のような咆哮が街中に響き渡り、その音圧が建物を震わせる。こむぎたちは耳を塞ぐ間もなく、その姿に目を奪われた。
――その姿は異様だった。
鋭い眼光を持つオオカミの頭部。その下には力強いワシの翼が広がり、羽ばたくたびに風が周囲を巻き上げる。その風圧により、瓦礫や看板が次々と吹き飛ばされていく。
前足は鋭い鉤爪を備えたワシの脚であり、岩を砕くような力を秘めている。一方、後ろ足はしなやかで筋肉質なオオカミの脚で、大地を強く踏みしめるたびに地面に亀裂を生じさせる。その巨大な体から立ち上る黒い瘴気は、生き物のように蠢きながら空を覆い尽くし、周囲に不穏な圧迫感を与えていた。
「なんなの、あの姿!?」
ユキの言葉に、全員が改めてその姿を見据える。
「オオカミなのか? ワシなのか?」
確かに、目の前にいるのはガオガオーンだ。しかし、彼らがこれまで戦ってきたどのガオガオーンとも明らかに異なっていた。
これまでのガオガオーンは、ほとんどが実在する動物をベースにした単一の生物だった。ライオン、トラ、ゾウ――時には恐竜のような例外もいたが、基本的には一つの種を模した存在だったのだ。
しかし、今目の前にいるオオカミワシガオガオーンは、オオカミとワシという二種の特徴を融合させた異形だった。
その融合はただの見た目の話ではなかった。オオカミの頭部が持つ鋭い牙と眼光は、地上にいるものを威圧する力を放ち、ワシの翼は空を制するための巨大な影を作り出していた。陸と空、二つの世界を同時に支配しようとするかのような存在感を持っていた。
「二つの動物の特徴を併せ持ってるなんて、あんなガオガオーンは見たことない!」
「それより、なんでまたガオガオーンが? だって、スバルたちはもういないのに……」
驚愕の声を漏らす悟の横で、いろはの声は震えていた。あの日の激闘を経て、彼女たちはスバルたちを成仏させたはずだった。それなのに、再び現れたこの存在――その理由がわからない。
「なんだかあのガオガオーン……ものすごくいやな感じがするワン」
こむぎが低い声で言った。耳を伏せ、警戒心を露わにしながら、その視線は一瞬たりとも目の前の異形から離れない。
こむぎは本能的に悟っていた。視界に入るオオカミワシガオガオーンは、これまでのガオガオーンとは明らかに違う。その体から放たれる瘴気、鋭い眼差し、そして空気を歪ませるような威圧感――すべてが不気味で異質だった。
「ガオガオーン!!」
轟音のような咆哮が街中に響き渡り、建物の窓ガラスが震える。オオカミワシガオガオーンが巨大な鉤爪を振り下ろすと、目の前の建物があっけなく引き裂かれた。その動きには迷いもためらいもない。破壊のためだけに作られた存在であることを証明するかのように、次々と建物を瓦礫の山へと変えていく。
さらに、翼を大きく広げて空を仰ぐたびに、暴風が周囲を巻き込み、看板や車、屋台の残骸が風に飛ばされて街中を転がった。宙を舞う砂埃が視界を遮り、遠くの光景が霞んで見える。
「逃げろー!」
絶望的な光景に、住民たちは次々と叫び声を上げた。大人たちは子どもを背負い、泣き叫ぶ小さな動物たちを抱えながら混乱の中を駆け抜けていく。誰もがただ、この場を離れることしか考えられない状況だった。街全体が恐怖に包まれ、冷たい瘴気が肌にまとわりつくような不安をかき立てていた。
「どうして……こんなことが……」
いろはは膝を震わせ、その場に立ち尽くしていた。目の前の異形を見据えながら、頭の中で渦巻くのはただ一つの疑問だった。過去の戦いで何度も立ち向かい、ようやく勝ち取った平和――それが再び打ち壊されるなんて信じられなかった。
「プリキュアの力があれば……!」
唇を噛みしめながら、拳を握りしめるいろは。その言葉は虚しく空を切る。彼女たちが信じて戦った力、ワンダフルパクトもシャイニーキャッツパクトも、スバルたちとの最後の戦いの後に失われたままだった。
「どうすればいいの?」
まゆが声を震わせながら叫ぶ。その表情には不安と無力感が滲んでいる。横に立つ悟も、歯を食いしばりながら破壊を繰り返すガオガオーンを見上げることしかできなかった。
「ガオガオーン!!」
再び放たれた咆哮は、大気そのものを揺るがすような威圧感を伴っていた。その瞬間、ガオガオーンの目が鋭くいろはたちに向けられる。
「! まずいわ!」
ユキが低く叫び、全員がその視線を追った。
「こっちにくるワン!」
こむぎが警告を上げると同時に、ガオガオーンの巨体が地を揺らしながら彼女たちの方へ向かってきた。無数の瓦礫が砕け散り、足元の地面が悲鳴を上げる。逃げるべきか、立ち向かうべきか――その選択すら許されない圧倒的な力が迫っていた。
「ひとまず、逃げよう!」
悟が声を張り上げたが、その提案に即座に反論が返る。
「逃げるたってどこにだよ!?」
大福が上擦った声でツッコミを入れながらも、その目には焦りが滲んでいた。現実を見れば、逃げる以外に選択肢などない。しかし、どこへ逃げれば安全なのかすらわからない状況に、全員の足は一瞬ためらい、判断を鈍らせてしまった。
だがその迷いが命取りとなる。
「ガオガオーン!!」
再び咆哮を上げたオオカミワシガオガオーンが、凄まじい速度で彼らに接近してきた。その巨体が地面を砕き、瓦礫を巻き上げながら迫る。その圧倒的なスピードと威圧感に、全員が動きを止めてしまった。
「「「「「「うわああああ!」」」」」」
次の瞬間、ガオガオーンが放った衝撃波のような一撃が周囲を襲った。激しい風圧が全員を吹き飛ばし、地面へと叩きつける。
いろはは地面に転がりながら、身体中に痛みが走るのを感じた。視界の端で、こむぎも瓦礫の中に崩れ落ちているのが見える。
「こむぎ……」
震える手を伸ばすいろは。傷つきながらも、こむぎが弱々しく手を伸ばしてくる。
「いろは……」
お互いの手が、あと少しで届きそうになる。しかし、無情にもその瞬間、再びガオガオーンが巨大な爪を振り上げた。
「いろはちゃん!!」
悟が叫び声を上げる。
「いやああああ!!」
まゆの悲鳴が響く。ガオガオーンの一撃が、いろはとこむぎに向かって振り下ろされようとしていた。
もうだめか――そう思ったそのときだった。
突然、眩い光が空を貫いた。それはアニマルタウンの中心にある巨大な石、『鏡石』から放たれたものだった。
光は、暗雲のように街を覆っていた黒い瘴気を切り裂くように降り注ぎ、周囲の空気を震わせた。
「ガオガオーン……?!」
オオカミワシガオガオーンが一瞬動きを止めた。その巨大な体が光に照らされ、異形の影が歪む。その鋭い眼差しに迷いの色が浮かぶのが見て取れた。
七色の光は街全体に広がりながら、まるで意志を持っているかのようにいろはたちの元へと集まっていく。そして、その光は傷ついた二人――いろはとこむぎ、さらにはユキとまゆの体を優しく包み込んだ。
「これは……!」
悟が驚愕の声を上げる。横にいた大福も目を見開き、言葉を失った。その光景はまさに奇跡そのものだった。
光が彼女たちの体を包むと同時に、犬と猫の姿だったこむぎとユキが、眩い輝きの中で人の姿へと変わっていく。こむぎの長い耳はふわりと揺れ、人間の髪へと変化し、ユキの白い毛並みもその美しい姿を維持しながら人型へと戻っていった。
「こむぎ……」
いろはがかすれた声でその名を呼ぶ。
「いろは……」
光の中で手を伸ばし合う二人。奇跡の瞬間に涙を浮かべるような表情を浮かべた。
「ユキもどうして……」
まゆが戸惑いの声を漏らす。
「わからないわ。でも、これって鏡石が……」
ユキが静かに答える。その目には光の意味を測りかねる困惑が浮かんでいた。
そのとき――。
彼女たちの手元に失われたはずの『ワンダフルパクト』と『シャイニーキャッツパクト』が現れた。柔らかな光の中から現れたそれは、かつての戦いで手放さざるを得なかった希望の象徴だった。
「戻ってきた……!」
いろはは息を呑んだ。手に握られたその感触――あたたかく、確かな力を持つそれは、彼女たちが何度も戦い抜いてきたプリキュアの力そのものだった。
「みんな、ガオガオーンを止めよう!」
いろはの決意に満ちた声が響く。
「うん!」
まゆが元気よく頷く。
「ええ」
ユキが落ち着いた声で同意する。
「じゃあ、ひさしぶりにいくよー!」
こむぎの溌剌とした声とともに、四人はそれぞれのパクトを掲げた。
「「「「プリキュア・マイ・エボリューション!」」」」
眩い光が四人を包み込み、空気が一瞬静寂に包まれる。次の瞬間、光はそれぞれの色を帯びながら弾け、彼女たちの身体を華麗に彩っていった。
「みんな大好き素敵な世界! キュアワンダフル! 一緒に遊ぼ♪」
「みんなの笑顔で彩る世界! キュアフレンディ! あなたの声をきかせて」
「気高くかわいくきらめく世界! キュアニャミー! 仕方ない、構ってあげる」
「結んで紡いでつながる世界! キュアリリアン! こわくない、こわくない」
すべての光が一つになり、こむぎが手を伸ばし、いろは、ユキ、まゆがそれぞれの手を繋ぐ。
「みんな一緒に!」
こむぎの掛け声が力強く響く。
「せーの!」
いろはが号令をかけると、四人は声を合わせ、力強く叫んだ。
「「「「わんだふるぷりきゅあ!」」」」
その言葉が空に響き渡ると同時に、彼女たちの周囲に新たなエネルギーが満ち溢れる。輝きは瞬時に夜明けのような希望の光となり、周囲の瘴気を払いのけていった。
「プリキュアの力が……」
「戻りやがった!」
悟と大福が驚きの声を漏らす。目の前に立つのは、スバルとの戦いの後、失われたはずの力を取り戻した四人のプリキュア――キュアワンダフル、キュアフレンディ、キュアニャミー、キュアリリアン。その姿は眩い光をまとい、揺るぎない決意を全身から放っていた。悟と大福の目には、驚きと同時に希望の色が浮かんでいた。
「いくよ!」
キュアワンダフルの力強い声が響く。
その声に応えるように、四人は一斉にガオガオーンに向かって駆け出した。
「ガオガオーン!!」
咆哮が大気を震わせる中、四人は大地を蹴り上げながらガオガオーンに向かって突き進んだ。しかし、それぞれの目的は攻撃ではない。防御に徹しながら敵の破壊衝動を止めようと試みていた。
「プニプニバリア!」
キュアワンダフルが両手を前に突き出すと、柔らかな光でできた肉球型のバリアが展開された。そのバリアは優しくも強固で、ガオガオーンの爪から守る盾となる。
「もうー、そんなにガルガルしちゃ……ダメェー!」
必死に制止の声を上げるワンダフル。しかし、ガオガオーンはその声に一切反応を示さない。瞳には理性の欠片もなく、ただ純粋な破壊衝動が宿っていた。
「ガオガオーン!!」
その一声と共に、ガオガオーンの巨大な翼が振り下ろされ、突風がバリアを直撃する。衝撃に耐え切れず、プニプニバリアは弾けるように消滅し、ワンダフルの体が吹き飛ばされた。
「きゃああああ!」
地面に転がるワンダフルに、フレンディが驚きの声を上げる。
「ワンダフル!」
すぐさまガオガオーンが追撃に移るが、フレンディがその進路を塞ぐように立ちはだかった。
「リボンバリア!」
瞬時にリボンを模したバリアが結ばれ、ガオガオーンの爪を受け止める。
「お願いだから、もうやめて!」
その叫びも空しく、ガオガオーンの翼が再び振り下ろされる。
「ガオガオーン!!」
突風がリボンバリアを直撃し、ねじり裂くように破壊した。その圧力にフレンディの体も吹き飛ばされる。
「強い!」
「私たちもやるわよ、リリアン!」
フレンディの声に応えるように、ニャミーとリリアンも防御を張るために動いた。
「ニャミーシールド!」
「リリアンネット!」
二人が同時に個人技を発動する。ニャミーが作り出す肉球型のシールドと、しなやかで捕縛力のあるリリアンネットがガオガオーンの動きを封じようとする。
だが――。
「ガオガオーン!!」
鋭い爪が突き立てられ、一瞬でシールドとネットは紙のように引き裂かれた。
「「きゃあああああ!」」
二人もまた吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
凶悪無比な力を前に、四人は完全に追い詰められていた。防御に徹するその姿勢も、破壊衝動の塊であるガオガオーンには何の意味も持たなかった。
「そんな……なんて力だ……」
悟が目を見開きながら呟く。その声には恐怖と焦りが混じっていた。
「こいつはちとヤベーかもな……」
大福が低く呟く。その言葉は重く響き、この状況の絶望的な現実を代弁しているかのようだった。
「みんな……だいじょうぶ?」
フレンディが震える声で仲間たちを気遣う。
「ええ……」
ニャミーがなんとか立ち上がりながら答えるが、その声には疲労と焦りが滲んでいた。
「あのガオガオーン、どうして話が通じないの……」
ワンダフルが悲嘆にくれた眼差しで呟く。その瞳には、これまで戦ってきたガオガオーンたちとの戦いを思い返すような痛みが浮かんでいた。
これまでのガオガオーンたちは、敵意を剥き出しにしながらも、どこかに感情の兆しがあった。恐れ、怒り、迷い、苦しみ――それらを感じ取ることで、彼女たちは宥めたり、説得したりする道を見つけてきた。
しかし、目の前のガオガオーンにはそれがない。ただ冷たい瞳を輝かせ、すべてを破壊するために動いている。その純粋な破壊衝動は、感情や理性を一切持たない冷酷な存在そのものだった。
「破壊することしか考えてない……?」
「そんな相手を、どうやって大人しくさせれば……」
ニャミーが歯を食いしばりながら呟く。その言葉にリリアンが苦しげに声を漏らした。
その絶望的な雰囲気を切り裂くように、ガオガオーンが再び翼を振り上げた。
「ガオガオーン!!」
轟音と共に巨大な翼が空を裂き、猛烈な強風が四人を襲った。その勢いは防御の体勢を整える間すら与えず、周囲の地面を抉り取るように荒れ狂う。
「くっ……なんとか、止めなきゃ……!」
満身創痍のキュアフレンディが必死に声を張り上げた。彼女の足元は震え、再びバリアを展開するために力を振り絞る。その姿に、仲間たちも同じく限界を感じながらも立ち向かおうとしていた。
だが――。
「ガオガオーン!!」
ガオガオーンが勝利を確信したかのように翼を広げ、周囲の空気を震わせながら咆哮を上げた。鋭く光る爪が空を切り裂き、四人に向かって最後の一撃を放とうと振り下ろされる。
「みんな……!」
悟が震える声で叫んだ刹那――。
突如、激しい風が吹き荒れた。
渦巻くような風は、一瞬にして周囲の瓦礫や砂埃を巻き上げ、ガオガオーンを襲う。その圧倒的な力に、巨体のガオガオーンがバランスを崩し、見えない壁に叩きつけられたかのように後方へ吹き飛ばされた。
「え……!?」
フレンディが目を見開き、信じられないものを見たかのように呟く。
「ガオガオーンが……吹っ飛ばされたちゃった……!」
ワンダフルも唖然とした表情でその光景を見つめる。これまでの戦いであれほど強力だった敵が、突如現れた謎の力によって後退させられるなど、誰も予想していなかった。
荒れ狂う風が少しずつ収まり、砂埃の中から現れた影が徐々に輪郭を明らかにしていく。
「あれは……」
フレンディの声が震える。目の前に現れたもの――その姿は、彼女たちがこれまで見たことのない異質な存在だった。
砂埃の中から現れたのは、わんぷりメンバーと非常によく似た特徴を持つプリキュアらしき戦士。深い藍色に包まれ、どこか威厳を漂わせている。髪の色は、藍色を基調としながら、太陽の光を受けた鷹の羽を連想させるようなグラデーションが入っていた。そのショートカットの髪は、風を受けて軽やかに揺れ、変身の証として、ウォーボンネットを模したカチューシャが装着されている。
さらに目を引くのは彼女の顔だ。目の下には藍色の化粧が施され、鷹の鋭い目をイメージしたデザインが刻まれている。深い青色に輝く瞳には、下部に金色のハイライトが加わり、その瞳孔は黒から赤へと変化していた。その鋭い眼差しは、ただ存在するだけで周囲の空気を張り詰めさせるほどの圧を放っている。
「私たちとよく似てる……」
ニャミーが驚きと戸惑いの入り混じった声で呟く。その視線の先には、風と共に現れた謎のプリキュアが、毅然と立ちはだかっていた。
「ひょっとして、あの子もプリキュア?」
リリアンがそっと仲間たちに目を向けながら言う。だが誰も確信を持てない。ただその姿から、彼女が自分たちと同じ力を持つ存在であることを本能的に感じ取っていた。
すると、プリキュアと思しき戦士はわんぷりメンバーの方に目を向けることなく、ゆっくりと前に歩み出た。その動きには一切の迷いがなく、圧倒的な威圧感が周囲に漂う。そして、ガオガオーンを鋭く睨みつけながら、冷ややかに言葉を放った。
「離れろ。ここから先は、私とやつ、一対一の果し合いだ」
その声は静かでありながら、空間を支配するほどの力強さを持っていた。その背中には、自らの意思で狩る者だけが背負う覚悟の重みが感じられる。
次の瞬間、彼女の手には風を纏ったような光が集まり、それが形を成していく。生成されたのは、猛禽類の爪を模した美しい装飾が施され、中央には鋭い鷹の目を象った宝石が鎮座する細身の弓だった。その弓は、まるで持ち主の冷静さと鋭敏な感覚を映し出すかのように静かに輝き、矢筒には風を纏うような光の矢が収められていた。
「ガオガオーン!!」
オオカミワシガオガオーンが咆哮を上げ、翼を広げると強烈な風圧が周囲を揺るがし、大地に亀裂を走らせる。その動きは荒々しく、破壊を目的とした純粋な衝動が見る者の背筋を凍らせた。
だが、彼女は動じない。足元をしっかりと踏みしめ、敵の動きを冷静に見据える。その眼差しは、経験豊富な狩人のごとく鋭く研ぎ澄まされている。
巨大な鉤爪が振り下ろされる刹那、彼女は弓を引き絞り、光の矢を放った。その矢は鋭い音を立てながら一直線に標的へと向かい、爪の付け根――動きを制するための急所を正確に射抜いた。ガオガオーンの攻撃は寸前で阻まれ、巨体がバランスを崩すように後退する。
「すごい……あの一撃で……!」
ワンダフルが感心したように呟く。その視線の先で、彼女は動じることなく再び矢を構えた。
ガオガオーンが翼を広げ、空中へ舞い上がろうとする瞬間を見逃さない。彼女の目には、感情を持たない敵の動きがはっきりと見えていた。狙うべき次の急所を瞬時に見極め、そして、再び射る。
その矢は正確にガオガオーンの翼の関節部分を射抜き、空中戦の優位を奪う。
地上に降りざるを得なくなったガオガオーンは、激しく地面を揺るがしながら立ち上がった。その体には迷いはなくとも、徐々に動きが鈍くなっていく。
「やはりそうか……お前には恐怖も、苦痛もない」
述懐した様子で彼女は静かに呟きながら、最後の一矢を静かに構えた。鋭い集中力の中で生み出されたその矢は、これまでのどれよりも力強い輝きを放ち、さながら風そのものをまとったかのように見える。
「……鷹視狼歩。これで終わりだ」
矢が放たれると、光の軌跡が一直線にガオガオーンへと向かった。その一撃は敵の中心を正確に射抜き、激しい光と共に爆発を引き起こす。
「ガオガオーン……」
凄まじい轟音が響き渡り、ガオガオーンの体は崩れ去るように黒い瘴気となって消えていった。風が静かに舞い始め、戦場に再び静寂が訪れる。
目の前で繰り広げられた圧倒的な光景に、わんぷりメンバーは動けないままその場に立ち尽くしていた。疲労と安堵が入り混じった表情を浮かべながらも、全員の視線は一人の戦士に向けられている。
「あなたもプリキュアなの?!」
フレンディが一歩前に出て問いかけた。声には驚きと戸惑い、そして仲間としての共感を求めるような響きがあった。
だが、弓を握るその姿はフレンディにわずかに視線を向けるだけで、答えは返さない。その冷静さが逆に圧倒的な威圧感を与える。
「どうして、ガオガオーンを……!」
フレンディの声は、宥めるでもなく、落ち着かせるでもなく、純粋に滅却という行動に対する動揺を含んでいた。その問いに応えるように、彼女は冷たくも毅然とした口調で短く言葉を返した。
「それが、私の使命だからだ」
その短い言葉には、重く、強い意思が込められていた。彼女の背中が語るもの――それは、自らの覚悟でしか説明できない、何か大きな使命を背負った者の風格を帯びていた。
次の瞬間、風が渦を巻き始める。砂埃が立ち上り、その中に立つ彼女の姿がゆっくりと薄れていく。その動きは、まるで自然に溶け込むかのような静けさを伴っていた。
メンバーが瞬きをしたときには、もう彼女の姿は消え去っていた。
「……使命……」
その場に残された余韻に包まれたまま、こむぎが変身を解き、人の姿のままで呟いた。その小さな言葉は、彼女たちの心に深く刻まれ、消えない疑問となって静かに胸の中で響いていた。「使命」とは何か――その意味を探る余韻が、重く漂っていた。
それから間もなく――。
静まり返った空気を裂くように、空が一瞬だけ鋭い閃光で弾けた。
直後、光の中から現れたのは、見覚えのあるキラリニコトランクだった。
「みなさーん!!」
トランクの上には、ニコガーデンの執事であるヒツジ、メエメエの姿があった。彼はキラリンアニマルをしっかりと抱え、必死に地上へと舞い降りてきた。
「メエメエ!?」
「それに、キラリンアニマルも!」
わんぷりメンバーはニコガーデンにいるはずの友人たちの突然の来訪に目を見開き、驚きの声を上げた。メエメエが軽やかにトランクから飛び降りると、全員が一斉に駆け寄る。
「メエメエ! どうしてこっちに!?」
悟が真っ先に問い掛ける。その声には状況を察しようとする焦りが滲んでいた。
地上に降り立ったメエメエは、荒い息を整えながら、切迫した声で言葉を紡いだ。
「ニコ様が……ニコガーデンが……!」
その短い言葉には、状況の深刻さが凝縮されていた。こむぎたちは全員息を呑み、緊張が全員を駆け巡る。
登場ガオガオーン
オオカミワシガオガオーン
声:高橋伸也
身長:400cm
体重:不明(推定数トン)
・特色/力
陸と空を支配する力、圧倒的な破壊衝動
・特徴
オオカミの頭部、ワシの翼、そして前足が鋭い鉤爪を持つ鷲の脚、後ろ足がオオカミの力強い脚で構成された異形の姿が特徴的。2つの動物の特性を融合させた姿はこれまでのガオガオーンとは一線を画しており、その巨体からは黒い瘴気が立ち上り、生き物のように蠢きながら周囲を威圧する。
・能力
強烈な攻撃力
巨大な鷲の爪での振り下ろしは建物や防御を容易に引き裂く。後ろ足のオオカミの脚は、地上での蹴りや踏みつけを強烈なものとする。
空陸両用の機動性
ワシの翼によって空中を自在に飛び回るだけでなく、地上でもオオカミの脚による俊敏な動きで敵を翻弄する。
瘴気の発生
全身から立ち上る黒い霧が周囲を覆い、環境そのものを歪ませ、視界や動きを制限する。
圧倒的なスピード
巨体に反して驚異的な速度を誇り、空中と地上の連携で攻撃を仕掛ける。
・行動
純粋な破壊衝動だけで動くため、理性や感情を一切持たない。そのため、交渉や宥める手段は一切通じず、目に入るものをただ破壊し続ける。
・戦闘記録
アニマルタウンを襲撃し、街を蹂躙。
キュアワンダフルたちは防御に徹し、動物たちを守る戦い方を試みるも、瘴気や空陸両用の攻撃に翻弄される。特に鷲の脚による鋭い攻撃と、オオカミの脚を活かした地上戦の連携は、これまでのガオガオーンにはない驚異的な戦術を見せた。
最終的に、新たに現れたプリキュアが狩猟の知識を活かし、正確な射撃でガオガオーンの翼を狙い空中戦能力を封じる。その後、必殺技によって完全に滅却される。