わんだふるぷりきゅあ!!~わんだふる♡わーるど~   作:重要大事

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第12話:鏡石のきせき

6月下旬

アニマルタウン 市街地上空

 

「一対一の勝負だ」

 次の刹那、シャスールは矢とともに、天を裂いた。

 放たれた一矢が雲を切り裂き、輝きを纏いながらニコガオガオーンへと向かう。

「ガオガオーン!!」

 ──瞬間、異形のユニコーンが疾駆する。

 漆黒の影が奔り、残像を引きながら回避。

 矢はその角の先をかすめたが、次の刹那──ニコガオガオーンの跳躍で地面が抉れた。

 着地と同時に蹄が大地を打ち砕き、衝撃が地を這うように広がる。

 シャスールは素早く距離を取りながら、その暴力的な威力を見極める。

 上空には、どす黒い雲が垂れ込めていた。

 本来ならば太陽が降り注ぐはずの時間帯。

 しかし、空には暗雲が渦巻き、光を遮っている。

 あたかも、この戦場そのものが「闇に呑まれようとしている」かのようだった。

「ハンターズ・フレア!」

 矢を空中へと放ち、炸裂させる。

 光の奔流が曇天を裂き、爆発の閃光が広範囲を照らし出す。

 浄化の力を宿した輝きが、怨念の瘴気をかき消すように降り注ぐ。

 ニコガオガオーンの動きが、一瞬、鈍る。

 シャスールは即座に次の動きへ移る。

「ソアリング・スラッシュ!」

 疾風のごとく、彼女の姿が空を駆けた。

 残像を引きながら、エネルギーの刃が幾重にも迸る。

 空間そのものを断つかのような鋭い閃きが、ニコガオガオーンを包囲する。

「ガオガオーン!!」

 だが──ニコガオガオーンは、暴風を思わせる咆哮を放った。

 黒い瘴気が荒れ狂い、光を押し戻す。

 シャスールは瞬時に体を翻し、重く垂れ込めた暗雲の下、空間へ跳躍する。

 舞い上がった風が彼女の翼を翻す。

 どんよりとした曇天が広がる空の下、冷たい空気が戦場を包み込む。

 そして、次の矢を素早く番え、追撃の構えを取る。

「ほう……やるではないか」

 その言葉に応えるように、ニコガオガオーンの目が光る。

 だが、それは敵意や怒りだけではなかった。

 刹那、シャスールの胸中に、奇妙な感覚がよぎる。

(……何かが……違う?)

 黒い瘴気を纏ったその目の奥に、確かに揺らめく何かがあった。

 単なる暴走ではない。

 そこには、意志が、叫びが、訴えが──。

 その瞬間だった。

 視界が、一瞬、歪んだ。

「っ!」

 ──黒い空間。

 ──耳をつんざくような咆哮。

 ──影のように佇む、何者かの姿。

 シャスールは矢を番える手を止めた。

 頭の奥に、微かに響く声。

『……まだ、終わっていない……!』

 それは誰の声だったのか。

 わからない。ただ、確かに、自分はあの場にいた。

 暗闇の中で、誰かと共に戦っていた。

「ガオガオーン!!」

 直後──

 巨大な角が突風を巻き起こす。

 ニコガオガオーンの突進が迫る。

 シャスールは反射的に翼を広げ、素早く上空へと舞い上がった。

 曇天を裂くように風が吹き荒れる。

 翼の羽ばたきが、渦巻く瘴気を払いのける。

(……何だ? この違和感は……?)

 あの記憶は何だったのか?

 なぜ今、この戦いの最中に……?

 シャスールの戦場に生じた、微細な迷い。

 それが、この戦いの行方を決定づけることになる──。

 だが、その決着は、すぐには訪れなかった。

「ガオガオーン…」

 突如、ニコガオガオーンの動きが鈍る。

 猛り狂っていた獣が、深い息を吐くように咆哮を止め、脚を止める。

 その巨体がわずかに揺らぎ、黒い瘴気がゆっくりと収束していく。

「これは──」

 シャスールはその異変をすぐに察知した。

 目の前の敵が、エネルギーを回復させるために活動を停止したのだと。

 闇に呑まれた神獣ですら、無限の力を持つわけではない。

 一度破壊し尽くしたことで、次の暴走へ備えているのだろう。

(……運が良かったな)

 シャスールは静かに息を整え、僅かに距離を取った。

 戦闘が続いていたら、どうなっていたかわからない。

 だが──戦場はまだ終わっていなかった。

 轟音。炎。悲鳴。

 ふと、耳を澄ませば、街のあちこちから火の手が上がっているのがわかる。

 立ち上る黒煙が、曇天の空と溶け合いながら、不吉な影を作っていた。

 視線を下げると、瓦礫に埋もれた建物、逃げ惑う人々、倒れた動物たちが目に入る。

 誰もが混乱し、恐怖に染められていた。

 アニマルタウンは、すでに戦場になっていた。

 シャスールは、高度を落としながらその光景を見下ろす。

 戦いの最中は敵に集中していたが──今、戦場の全貌が見えた。

 彼女は、一瞬だけ目を閉じる。

(……この感じは、胸が痛む?)

 シャスールは自らの感覚に、僅かな違和感を覚えた。

 自分は冷静に物事を見極める狩人。

 だからこそ、こうした光景を「痛み」として感じることなど、本来はないはずだ。

 それでも──今の彼女の胸には、確かに重苦しさがあった。

 再び目を開くと、遠くで泣き叫ぶ子供の声が耳に届いた。

 シャスールは静かに矢を収め、意識を切り替える。

(……まだ、やるべきことがある)

 すぐに翼を大きく広げ、シャスールはアニマルタウンの空を疾駆する。

 

           *

 

アニマルタウン 鏡石前

 

「悟くん!! 悟くん!!」

 フレンディの叫びが、空高く響く。

 シャスールは崩れた建物の間を縫うように滑空し、目標地点へと向かう。

 視界に飛び込んできたのは、鏡石の前で倒れる二つの影──悟と大福。

 その傍らでは、わんぷりメンバーが必死に呼びかけていた。

 フレンディの声が、空の高みからでもはっきりと届くほど切迫している。

 シャスールはすぐに降下し、鏡石の傍に着地した。

 巨大な鏡石は、戦いの余波を受けながらも、皹ひとつ入っていない。

(……あれだけの破壊を受けても、傷ひとつないだと?)

 シャスールの目がわずかに細められる。

 普通の石なら、ここまでの衝撃を受ければ粉々になっていてもおかしくない。

 だが、この鏡石だけは、何かに守られているかのように、その姿を保ち続けている。

 シャスールは知らなかった。

 ──この鏡石が、ニコダイヤの欠片であることを。

 わずかな違和感が胸に残る。

 だが、今はそれを考えている場合ではない。

 すぐに意識を切り替え、戦況を確認する。

「……状況は?」

 地に足をつけると同時に問いかける。

 わんぷりメンバーが振り返り、強張った表情で答えた。

「悟と大福が……まだ、目を覚まさないの……!」

 ワンダフルの声が震える。

 シャスールの視線が、鏡石の傍らに横たわる二人へと向かう。

 その姿は、一目で深刻だと分かるほどに痛々しかった。

 悟の衣装は裂け、露出した肌には無数の傷跡が走っている。

 額から流れた血が頬を伝い、地面に滲んでいた。

 かすかに震える指先だけが、彼がまだ生きている証だった。

 大福はさらに重傷だった。

 不自然に歪んだ体、荒い呼吸、口元から溢れる鮮血。

 その小さな体が、今にも壊れそうなほど脆く見えた。

「兎山くん! 大福ちゃん!」

 リリアンの声が震える。

「二人ともがんばりなさい!」

 ニャミーが必死の形相で叫ぶ。

「悟くーん! 大福の兄貴も死んではダメェ~、ですよ!!」

 メエメエが涙目で叫びながら、必死に手を伸ばす。

 その周りでは、キラリンアニマルたちも落ち着きを失っていた。

「お願いキラ……起きてキラ……!」

「がんばってキラ……いつもの二人に戻ってほしいキラ……!」

 キラリンアニマルたちは小さな体で悟と大福に寄り添い、必死に呼びかけた。

 だが、二人はまるで応える力すら残っていないかのように、動かない。

 だが、どれだけ願っても、どれだけ呼びかけても、二人は目を開けない。

 無情な沈黙が返ってくるだけだった。

 次第に、キラリンアニマルたちは声を詰まらせ、肩を震わせ始める。

「キラ……こんなのいやキラ!」

「ニコ様はガオガオーンになるし、二人はボロボロ、おしまいキラ……!」

「もう……もう、どうすればいいキラ……?」

 その小さな目には涙が滲み、かすかな嗚咽が漏れる。

 彼らはわんぷりメンバーと同じく、どうしようもない現実に押し潰されそうになっていた。

 本来ならば、重症の二人をすぐにでも病院へ連れて行きたい。だが、それは叶わなかった。

 災害レベルの被害を受けたアニマルタウンは、すでに混乱の渦中にあった。

 負傷者は溢れ、病院は満員状態。

 この場に救急車を呼んでも、すぐには来られないどころか、他の重症患者が優先される可能性が高い。

 ──それだけではない。

 彼らを病院へ運んだとしても、彼らの正体が露見する危険があった。

 悟と大福は、プリキュア同様にただの一般人ではない。

 鏡石から授かった特別な力を持ち、変身し、戦っていた。

 大福に至っては、人の姿を取れるとはいえ、本来は動物だ。

 彼の治療を施そうとすれば、必ず異常が発覚する。

「どうすれば……」

 フレンディが唇を噛みしめる。

「このままじゃ……!」

 ワンダフルが拳を握りしめる。

 わんぷりメンバーは、ただ焦るしかなかった。 焦燥が広がる。

 すると、その時だった──

 

 ──鏡石が、微かに光を放った。

 同時に、悟と大福が持っていたコンコルドフレーテが震え始め、淡い金色の輝きが波紋のように広がっていく。

 次の瞬間、それに呼応するように、フレンドリータクト、アミティーリボンタンバリン、そしてキラリンアニマル9体が一斉に光り出した。

「な、なに……!?」

 ニャミーが驚きに目を見開く。

「鏡石が……光ってる?」

 リリアンが、いつもとは違う神妙な表情でつぶやく。

「フレンドリータクトとアミティーリボンタンバリンも……!」

 フレンディが思わず手に持つアイテムを見つめる。

「キラリンアニマルまで光ってる……?」

 ワンダフルが、戸惑いながらも目の前の異変を見つめる。

「い、一体どういうことでしょうかぁ~!?」

 メエメエがあたふたと体を揺らしながら叫ぶ。

 鏡石の光が、ゆっくりと悟と大福を包み込んでいく。

 その輝きは、まるで彼らの傷と疲れをそっと癒すように、静かに満ちていった。

 シャスールはじっとその光を見つめる。

 ──ただの奇跡ではない。

 もっと……根源的な何か。

「これは……鏡石の力なのか……?」

 さながら、この地そのものが悟と大福を守ろうとしているかのようだった。

 ──そして。

「……っ!」

 悟の指が、微かに動いた。

「……っ、が……」

 かすかな声が漏れ、悟がゆっくりとまぶたを開く。

 大福も、苦しそうに顔をしかめながら、ゆっくりと目を開いた。

「悟くん!!」

 フレンディが涙ぐみながら叫び、駆け寄る。

「大福!!」

 ワンダフルも笑みを浮かべ、大福の顔を覗き込む。

「よかった!! 悟くん!!」

 フレンディは迷わず悟の体を抱きしめた。

 ワンダフルも大福に寄り添い、その体のぬくもりを確かめるようにそっと撫でた。

「……いろはちゃん、ボクらは……?」

 悟がぼんやりと呟く。

「……何がどうなっちまったんだ……?」

 大福もまだ状況を理解できず、ゆっくりと周囲を見渡した。

 しかし、確かに彼らは、意識を取り戻した。

 鏡石の力が、奇跡を起こした。

「よかった……ほんとうによかった……!」

 リリアンは震える手で目元を拭いながら、胸を押さえるようにしてほっと息をついた。

 瞳には滲んだ涙が光り、声も微かに震えている。

「心配かけさせないでよね」

 ニャミーは腕を組みながら、ふっと肩の力を抜く。

 その表情はいつもの強気なものとは違い、柔らかく、安心した色を帯びていた。

「悟く~ん!! 大福の兄貴も、生きててよかったですぅ~!!」

 メエメエが涙を滲ませながら、思い切り抱きつく勢いで叫ぶ。

「みんなに……心配かけちゃったね」

 悟が少し照れくさそうに微笑む。

「……そうだな」

 大福も深く息を吐き、改めて無事を実感するように目を閉じた。

 シャスールは、静かに二人の様子を見つめる。

 悟と大福がこうして目を開け、仲間たちに囲まれている。

 その光景を目にするだけで、自然と胸の奥が温かくなった。

 ──安心する。

 自分がそう感じていることに、ふと気づいた。

(ああ、そうか……これが、生きているということか)

 それは戦いの勝敗ではなく、ただ誰かの命が繋がったことへの安堵。

 この温もりこそが、生きるということなのだと──シャスールは、静かに実感した。

 

           *

 

アニマルタウン 犬飼家

 

 わんぷりメンバーは体勢を立て直すため、一度犬飼家へと戻った。

「いろは! こむぎ!」

「おう! みんなも無事だったかー!」

 陽子が駆け寄り、七人を抱きしめるように迎えた。

「よかった……怪我はしてないようね……!」

 いろははホッとしたように頷き、こむぎは「ただいま!」と力強く答えた。

 二人の顔には疲れが滲んでいたが、それでも無事に帰ってこられたことに安堵していた。

 剛も安堵の息を吐き、全員の姿を見て深く頷く。

「よく帰ってきたな」

 その傍らで、まゆの母・すみれと父・貴行も駆け寄ってきた。

「まゆ!」

「ユキも無事だったんだな……!」

「ママ! パパまで!」

 まゆは両親の姿を見つけると、思わず駆け寄った。

 すみれがすぐにまゆを抱きしめ、貴行は彼女の頭を優しく撫でる。

「心配したわよ……! もう……本当に……!」

 すみれの声が少し震えていた。

「ごめんね……でも、わたしは大丈夫!」

 まゆが少し照れくさそうに微笑む。

 そんなまゆの傍らにいたユキを見て、貴行が目を細める。

「ユキも無事だったか」

「ええ、なんとか。でも……アニマルタウンが……」

 ユキが言葉を詰まらせると、貴行は静かに頷いた。

「今は、みんな無事だったことを喜ぼう。それが何よりだ」

 ユキは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに小さく微笑んだ。

 彼女が猫から人間になれることを知っている両親は、動揺することなく、ただ彼女の無事を喜んでいた。

 温かく迎えられたのも束の間だった。

 ──その瞬間、次々と動物たちが運び込まれてくる。

「陽子先生! この子の意識がありません!」

「こっちの犬もひどい怪我です!」

 スタッフたちが次々と負傷した動物を抱えて駆け込んでくる。

 担架に乗せられた大型犬、ぐったりした猫、羽を傷つけ飛べなくなった鳥──。

 診察台はすぐに埋まり、奥の処置室からは獣医の指示が飛び交う声が響いていた。

「痛み止めの準備を急いで!」

 白衣を翻した陽子と、剛もすぐに動き出す。

 すみれと貴行も、その混乱の中に身を投じた。

「この子、出血がひどいわ!」

 すみれが傷ついた柴犬を優しく抱きしめ、陽子に報告する。

 彼女の手に、犬の血がじわりと染み込んだ。

「大丈夫、すぐに楽にしてあげるよ」

 貴行は応急処置セットを手にしながら、次々と手当を施していく。

 冷静な表情を保ちながらも、その手はわずかに震えていた。

 彼らは、ただの家族ではない。

 動物を愛し、守る者たちだった。

 いろはたちは、その光景に言葉を失った。

「……こんなに……」

 いろはが腕の中の小さな子猫を見下ろす。

 子猫の体はひどく震え、か細い声で鳴いた。

「今日だけで、どれだけの動物たちが傷ついたのか……」

 悟が小さく呟く。その表情には、深い疲労と痛みが滲んでいた。

「ママ、パパ……」

 まゆが、両親の背中を見つめながら、小さく声を漏らした。

 すみれと貴行は、忙しく動き回りながらも、一瞬だけ娘に視線を向ける。

「まゆ……これが、今の現実よ」

 すみれが、わずかに歯を食いしばりながら言った。

 貴行も言葉なく頷く。

 それは、甘やかすでもなく、突き放すでもない。

 ただ、今目の前にあるこの惨状を、しっかりと見て、感じてほしい──そんな思いが込められていた。

 まゆは強く拳を握る。

「……うん。わたし、手伝うよ」

「なら、私も」

 ユキがまゆの隣に立ち、静かに頷く。

「いろは、動物さんたちを助けよう」

 こむぎがいろはの手を握り、まっすぐな瞳で見つめる。

「そうだね」

 いろはも決意を込めて微笑んだ。

「オレたちも協力するぜ」

 大福が腕をまくり、力強く宣言する。

「力不足かもしれませんが、ボクたちにもできることがあるはず」

 悟がメンバーを見渡しながら言うと、かなえが静かに口を開いた。

「浅学非才。私も力になる」

「ありがとう、みんな」

 陽子が温かく微笑み、すぐに指示を出す。

「まず、傷の深い子から処置するわ! 大福ちゃんは、剛くんと一緒に大型犬を運んで!」

「了解!」

 大福は剛と共に、ぐったりとした大型犬を担架に乗せ、処置室へと急ぐ。

「いろはとこむぎは、軽傷の子たちの様子を見て! 触ると痛がる場所がないか確かめて!」

「「うん!」」

 二人は傷ついた子猫たちを優しく撫でながら、ひとつひとつ確認していく。

「まゆちゃん、ユキちゃん、応急処置キットを持ってきて! すみれさん、貴行さんと一緒に止血をお願い!」

「はい!」

「任せて!」

 まゆとユキは棚から応急処置セットを抱え、すみれと貴行のもとへ急ぐ。

「悟くん、包帯とガーゼを用意して! かなえちゃんは、薬のラベルを見て、鎮痛剤を取ってくれる?」

「はい!」

「承知した」

 悟はすぐに備品棚を開け、包帯やガーゼを次々と取り出す。

 かなえも指示通り、慎重に鎮痛剤のラベルを確認し、陽子に手渡した。

 ──処置室の中、全員が休む間もなく動き続けた。

 鳴き声が響く中、陽子が次々と負傷した動物たちの診察を進め、まゆの両親と剛がサポートする。

 いろはたちは軽傷の子たちをケアし、悟やかなえは治療に必要な道具を次々と準備していく。

 大福は力仕事を引き受け、ユキやこむぎは、怯える動物たちを落ち着かせるために優しく寄り添った。

 陽子がふと顔を上げる。

 ──彼らは全員、動物たちを助けるために動いていた。

 それぞれができることを考え、迷いなく行動していた。

「……すごいわね」

 すみれが、少しだけ感嘆の息を漏らす。

「みんな、本当に頼もしいわ」

 陽子は小さく笑いながら、手を止めることなく処置を続けた。

 

 やがて、一通りの処置が終わった。

 動物たちの傷は応急的に手当てされ、安静が必要な子たちは診察室のケージやクッションの上で休んでいる。

 陽子やすみれ、貴行たちもようやく一息つき、わんぷりメンバーも座り込んで大きく息を吐いた。

「はぁ……おわったぁ……」

 こむぎが疲れたように床に寝転がる。

「まだ終わりじゃないわよ。これからどうするか考えないと」

 ユキが厳しい表情で言った。

「そうだよね……」

 いろはは、その言葉を真摯に受け止め、眉を寄せる。

 この事態の元凶は、ニコがガオガオーン化してしまったこと。

 でも、どうすれば彼女を本来の姿に戻せるのか……。

「前代未聞の事態だよね……」

 まゆが小さく呟く。

「ニコの力が暴走しているのは確かだが、正気を取り戻させる術が見えない……」

 かなえが険しい表情で言葉を継ぐ。

「もしこのまま放っておいたら、アニマルタウンが……取り返しのつかないことになります……」

 メエメエが不安げに呟いた。

 場の空気が重く沈む。

 ──ピコンッ!

「……ん?」

 その時だった。

 悟のスマホが小さく音を立てた。

 疲れた手でポケットから取り出し、画面を確認する。

『政府、緊急対策会議を開催 暴走する巨大生物への対応を協議』

 悟の表情が一変する。

 急いでスクロールし、次の速報を目にした瞬間──息を呑んだ。

『自衛隊、特殊部隊を待機 状況次第では武力行使へ』

「……えっ……」

 思わず声を漏らした悟に、大福が振り向く。

「どうした、悟?」

「これ……まずいよ……」

 悟の手が震えながら、スマホの画面をわんぷりメンバーに向ける。

 その画面には──

『政府、ミサイル攻撃の検討開始』

 その場の空気が、凍りついた。

「え……?!」

「ミサイルって……まさか……」

 メンバーの視線が、次々とスマホに釘付けになる。

 誰もが息を呑み、信じられないという表情を浮かべた。

「みさいるって……なに?」

 こむぎが困惑したように首を傾げる。

「私も聞いたことがない……」

 かなえも難しい顔をしながら言った。

 悟は二人の反応を見て、スマホを握りしめたまま説明する。

「……簡単に言うと、ものすごく強力な爆弾を飛ばして標的を破壊する兵器のことだよ」

「爆弾……だと?」

 かなえの表情が険しくなる。

「ただの爆弾じゃない。超高速で飛んで、着弾すればとんでもない破壊力を生む。政府は、それを使ってニコ様を仕留めようとしてるんだ」

 悟は重い口調で続けた。

「ちょ、ちょっと待ってください! それって、本気ですか!?」

 メエメエが目を見開きながら叫んだ。

「そんなのダメキラ!!」

 キラリンアニマルたちが、一斉に叫ぶ。

「もしミサイル攻撃が始まったら……ニコ様が……!」

 いろはの声が震えた。

 その時だった。

 ──ズゥン……!!

 重低音のような振動が、地面を揺るがした。

 それはまるで、巨獣が目覚めたような──。

 悟の手からスマホが滑り落ちる。

「まさか……」

 犬飼家の窓から、アニマルタウンの中心地に目を向ける。

 遠く、視界の先で、黒い瘴気が再び立ち昇るのが見えた。

「ガオガオーン!!」

 ニコガオガオーンが、再び動き出した。

 

「ニコ様が!」

 こむぎが焦った顔で叫んだ。

 その言葉に、メンバー全員が一斉に顔を見合わせる。

 そして、迷うことなく頷いた。

「……行こう!」

 悟が力強く言う。

 全員が一斉に立ち上がり、玄関へと向かおうとした、その時だった。

「待ちなさい」

 陽子の鋭い声が響く。

 いろはたちは反射的に足を止め、振り返る。

 大人たちが揃って彼らを見つめていた。

 すみれ、貴行、剛──全員が、厳しい表情を浮かべている。

「お母さん……」

 やはり、止められる。

 その思いが、いろはたちの脳裏をよぎった。

 しかし──

「行くんでしょ」

 陽子が静かに言った。

「ニコちゃんを助けに」

 いろはたちは一瞬、言葉を失った。

 止められると思っていた。

 説得されると思っていた。

 なのに、彼らの目は──すべてを理解した者のそれだった。

「いろはたちはいつも、動物たちを助けようとしてきた」

 剛が腕を組みながら呟く。

「私たちは、それを知ってる」

「だから、助けに行くんだろ?」

 すみれと貴行が優しく微笑む。

「みんな……!」

 いろはの目が見開かれる。

 すると、陽子がゆっくりと歩み寄り、こむぎといろはの肩にそっと手を置いた。

「行きなさい。あなたたちが信じるものを、守るために」

 剛が悟と大福の肩を叩き、貴行がまゆの髪をくしゃっと撫でる。

 すみれはユキとかなえに微笑み、そっと背中を押した。

「みんな、ありがとう……!」

 いろはが嬉しそうに目を輝かせる。

「いってきまーす!」

 こむぎが力強く言うと、メンバー全員が一斉に玄関へと駆け出した。

 

           *

 

アニマルタウン 市街地中心部

 

「ガオガオーン!!」

 地響きのような咆哮が響き渡る。

 黒い瘴気をまとい、暴れ狂う巨影が、街の中心で猛威を振るう。

 踏みしめるだけで地面が砕け、建物は次々と崩れ落ちていった。

 その動きには理性の欠片もない。

 ただ、本能のままに破壊を繰り返していた。

「みんな! いくよ!」

 こむぎが叫ぶと、わんぷりメンバーが一斉に動き出す。

 

「「「「「プリキュア・マイ・エボリューション!」」」」」

 

 眩い光が五人を包み込み、空気が一瞬静寂に包まれる。

 次の瞬間、光はそれぞれの色を帯びながら弾け、彼女たちの身体を華麗に彩っていった。

「みんな大好き素敵な世界! キュアワンダフル! 一緒に遊ぼ♪」

「みんなの笑顔で彩る世界! キュアフレンディ! あなたの声をきかせて」

「気高くかわいくきらめく世界! キュアニャミー! 仕方ない、構ってあげる」

「結んで紡いでつながる世界! キュアリリアン! こわくない、こわくない」

「広く澄み渡る自由な世界! キュアシャスール! 飛び立とう、満たされるものを探して!」

 すべての光が一つになり、ワンダフルが手を伸ばし、フレンディ、ニャミー、リリアン、シャスールがそれぞれの手を繋ぐ。

「みんな一緒に!」

 ワンダフルの掛け声が力強く響く。

「せーの!」

 フレンディが号令をかけると、五人は声を合わせ、力強く叫んだ。

「「「「「わんだふるぷりきゅあ!」」」」」

 その言葉が空に響き渡ると同時に、彼女たちの周囲に新たなエネルギーが満ち溢れる。

 輝きは瞬時に夜明けのような希望の光となり、周囲の瘴気を払いのけていった。

 ──その光が、悟と大福にも届く。

 二人の傷が完全に癒えたわけではない。

 だが、それでも、彼らの中に確かに新たな力が湧き上がっていくのを感じた。

 悟は静かに目を開け、大福もゆっくりと立ち上がる。

 彼らは、お互いに無言で頷き合うと、五人の隣へと歩み出た。

「オレたちも……!」

 大福が拳を握りしめる。

「戦うよ……!」

 悟がその目に強い意志を宿す。

 ──そして、七人が横一列に並ぶ。

 中心に立つのは、プリキュアとして輝く五人。

 その両脇に悟と大福が加わり、七人の力が一つになる瞬間だった。

 高く掲げられた拳。

 背筋を伸ばし、希望の光をまとった姿。

 今この瞬間、彼らは、ただの仲間ではなく──アニマルタウンの平和を守る戦士たちとなった。

 

「ニコ様! 必ず、私たちが元に戻す!」

 フレンディが叫ぶと、わんぷりメンバーが一斉に動き出す。

「ガオガオーン!!」

 黒い瘴気をまとうニコガオガオーンが、咆哮とともに口を大きく開く。

 次の瞬間、凶暴な破壊光線が奔る!

「っ……!」

 光が地面をえぐり、爆風が周囲に広がる。

 だが、わんぷりメンバーは即座に反応し、それぞれの動きで回避する。

 ワンダフルとニャミーは、空中で回転しながら光線を避け、フレンディとリリアンは低空で素早く移動。

 シャスールは弓を引きながら後方に跳び、一瞬で戦況を見極める。

「今だよ!」

 ワンダフルの声に呼応し、四人のプリキュアたちが、それぞれの位置につく。

 ニコガオガオーンを取り囲み、足元を封じるための防御技を一斉に展開!

「プニプニバリア!」

「リボンバリア!」

「ニャミーシールド!」

「リリアンネット!」

 四方向から発動された防御技が、ニコガオガオーンの動きを抑え込むように包囲する。

 地面に伸びたバリアが、ニコガオガオーンの動きを鈍らせる。

「今のうちに……!」

 ニャミーが叫ぶと、控えていた悟と大福、シャスールが即座に動き出した。

 シャスールが弓を引き絞る。

 矢先に光が収束し、瘴気を裂く一筋の閃光が放たれる。

 狙うは、ニコガオガオーンの肩部──その黒い瘴気が濃く渦巻く部分。

「ハンターズ・フレア!」

 放たれた矢が赤い閃光を帯び、空を裂く。

 着弾と同時に小さな爆発が起こり、黒い瘴気が一瞬だけ霧散した。

 ──しかし、それだけでは止まらない。

「いくよ、大福!」

「おう!」

 悟と大福が同時に地を蹴り、ニコガオガオーンへと駆け出す。

 二人の手の中で、眩い光が脈動しながら収束していく。

 光は跳ねるように弾け、やがて形を成す──巨大なウサギ型のエネルギー弾。

 澄んだ輝きをまとい、宙に浮かぶそれは、静かに鼓動するかのように波紋を広げていた。

「今だ……!」

 悟と大福が息を合わせ、一気に腕を振り上げる。

 光のウサギが舞い上がり、その巨体をふわりと翻しながらニコガオガオーンの頭上へと迫る。

 次の刹那──

 二人の力が解き放たれた。

 ウサギ型のエネルギー弾が弧を描きながら降下し、ニコガオガオーンの全身を包み込むように覆いかぶさっていく。

「よし!」

 悟が拳を握る。

「うまくいったな」

 大福もわずかに息を吐き、安堵の色を見せる。

 だが──

「ガオガオーン!!」

 轟くような咆哮が空を切り裂いた。

 張り詰めた空気が震え、地面がわずかに揺れる。

「……ッ!?」

 眩い光の中で、バリアとウサギ型エネルギー弾が不穏に揺らぎ始める。

 束縛されたはずの巨体が、暴れ出そうとしていた。

 黒い瘴気が周囲へと広がる。

 バリアの表面にひびが入り、光のウサギの輪郭が揺らぐ。

 次の瞬間、弾けるようにバリアが砕け、エネルギー弾が拡散した。

「そんな……!」

 フレンディが息を呑む。

「まだ……抑えきれないの!」

 リリアンが低く唸る。

 ニコガオガオーンの体が荒々しく痙攣するように動き、さらに濃密な瘴気が吹き荒れる。

「まだ諦めないで!」

 悟が力強く声を張る。

「今こそ、総力戦だ!」

 大福も叫び、コンコルドフレーテを力強く握りしめる。

「「アニマルコンコード! キラリンアニマル!」」

 二人の声が響くと同時に、澄んだ笛の音が戦場に鳴り響いた。

 その音色に呼応するように、キラリンアニマルたちの体が輝き始める。

 光の波が、シャスールを除くわんぷりメンバーの元へと収束していく。

 彼女たちのキラリンアニマルが、それぞれのプリキュアと共鳴し始めた。

 ワンダフルの元には、キラリンベアーとキラリンコジカ。

 フレンディには、キラリンウサギとキラリンペンギン。

 ニャミーには、キラリンライオンとキラリンキツネ。

 リリアンには、キラリンスワンとキラリンパンダ。

 キラリンアニマルたちが、四人のプリキュアとリンクし、エネルギーがさらに高まっていく。

「いっくよー!」

 ワンダフルが声を上げると、四人は一斉に動き出した。

「ガオガオーン!!」

 ニコガオガオーンが黒い瘴気を吹き上げながら暴れ出す。

 だが、今回は攻撃ではない──捕獲が目的。

 ワンダフルは両腕を振るい、クマのような剛力で大地を揺るがす。

「パワー、全開!!」

 その振動でニコガオガオーンの動きを鈍らせると、すぐさま地を蹴った。

 コジカの力が彼女の脚に宿り、ワンダフルは風を切るようにニコガオガオーンの頭上を跳躍する。

 ワンダフルの攻撃で生まれた隙を見逃さず、フレンディが滑るように動いた。

 氷の上を蹴り、滑走しながらニコガオガオーンの正面へと移動する。

 ニコガオガオーンの動きに集中し、耳を澄ます。

 相手のわずかな動きや呼吸の乱れ、瘴気の流れ──あらゆる音を聞き分けながら、最適なタイミングを見極める。

「今だ!」

 フレンディは氷上の動きを利用し、ニコガオガオーンの足元をさらに滑らせるように立ち回る。

 ペンギンの冷気が凍らせた地面をさらに踏み固め、ニコガオガオーンの動きを制限していく。

 さらに、ニャミーはライオンの力を活かし、一気に加速する。

 地面を蹴り、疾風のように駆け抜けると、相手の死角へと回り込む。

 ニコガオガオーンの巨大な体を見上げ、ニャミーは片手をキツネの形に構える。

「いくわよ」

 キラリンキツネの輝きが尾を翻し、淡い煙がニコガオガオーンを包み込む。

 その瞬間、一瞬だけその姿が変化する。

 黒い獣の巨体が、ふと小さな影へと変わった──それもほんの一瞬のことだった。

 しかし、ニコガオガオーンはその違和感に動揺し、動きが鈍る。

「リリアン、今よ!」

 その隙を見逃さず、リリアンが空から急降下する。

 スワンの羽ばたきが彼女を支え、自由自在な機動力で敵の頭上を旋回する。

 そして──

「ニコ様、おやすみなさい!」

 リリアンの視線がニコガオガオーンを捉えた瞬間、丸眼鏡を思わせるパンダの力が作用し、催眠波が静かに広がる。

 混乱したニコガオガオーンの動きが、わずかに鈍る。

 ニャミーの変身能力による一瞬の隙と、リリアンの催眠波がかみ合い、戦場の流れが変わり始める。

 シャスールは戦況を見つめ、わずかに目を細める。

 ニャミーとリリアンの連携が成功し、ニコガオガオーンの動きが明らかに鈍っていた。

 今なら捕獲の決定打を狙える。

「よし、これなら……」

 シャスールが弓を引き絞り、次の一手を打とうとしたその時だった。

 ──ドォン……!

 遠くで、空気を裂くような重低音が響いた。

 シャスールの表情が一瞬にして険しくなる。

 わんぷりメンバーも、思わず動きを止めた。

「何……?」

 フレンディが振り向いた瞬間、空が赤く染まる。

 それは、轟音とともに曇天を引き裂きながら降り注ぐ、無数の閃光だった。

「ミサイル攻撃だ……!」

 悟が驚きの声を上げる間もなく、次々と飛来するミサイルが視界に映り込む。

「待って、まだニコ様が……!」

 ワンダフルの叫びも虚しく、爆風がすぐそこまで迫っていた。

 ──ドォォォン!!

 轟音が大気を揺るがし、地面が割れんばかりに震えた。

 曇天を裂いて降り注ぐ無数のミサイルが、ニコガオガオーンの巨大な体を直撃する。

「ガオ……ガオーン!!」

 悲鳴にも似た叫び声が響き渡る。

 黒い瘴気が激しく揺らぎ、ニコガオガオーンの体から閃光が弾け飛んだ。

 同時に、爆風が周囲に広がり、衝撃波が地を這うように奔る。

「──きゃあぁっ!!」

 わんぷりメンバーは、吹き飛ばされる。

 瓦礫が舞い、視界が白く染まる。

 それぞれが地面に転がりながら、すぐに体勢を立て直そうとする。

「……やめて……お願いだから……やめてぇ!!」

 フレンディが涙を滲ませながら叫んだ。

 立ち上がろうとするも、爆風による衝撃で体が思うように動かない。

「まだ……ニコ様は……ニコ様は……!」

 ワンダフルの声が震える。

 リリアンとニャミーも、ミサイルの閃光に目を覆いながら、祈るように声を絞り出す。

「こんなのって……!」

 ニコガオガオーンの巨体がゆらりと揺れる。

 爆発の熱が、深く傷ついた体を焼き焦がしていた。

 しかし、その刹那。

 

 ──わたしを……終わらせて……

 

 それは、戦場に響いたわけでも、誰かの口から発せられたわけでもなかった。

 まるで頭の中に直接流れ込んでくるような、不安定でか細い声。

「ニコ様……?」

 フレンディが息を呑む。

 他のメンバーも、互いに顔を見合わせながら、自分たちの頭の中に響く声の正体を悟る。

 ──お願い……わたくしのせいで……もう……これ以上……

 ミサイルの衝撃を受け、傷つきながらも暴れ続けるニコガオガオーン。

 だが、その内側で必死に抗い、苦しんでいるもう一つの意識があった。

 ──ニコガーデンを救ってくれたあなたたちにしか……わたくしを止められない……お願いです……

 ニコの声は、深い後悔と絶望に満ちていた。

 かつてニコガーデンを守るはずだった自分が、今はこの街を破壊している。

 それに耐えられない。

 だから……

 ──わたくしを……殺して……

 その言葉が響いた瞬間、空気が凍りついた。

「……ちがうよ!」

 最初に声を上げたのはワンダフルだった。

 彼女の拳は震え、歯を食いしばっていた。

「そんなの、ニコニコでもわんだふるでもないよ……!」

 ワンダフルの声が震える。

「わたしたちは、ニコ様を助けるために、ここまできたの!」

 フレンディが力強く叫ぶ。

「絶対に諦めない!」

 ニャミーが真っ直ぐな眼差しで続ける。

「あなたがくれた優しさを、わたしたちは決して裏切らない!」

 リリアンが強く拳を握る。

「だから、絶望しないでください!」

 悟が一歩前へ出て、懸命に訴えた。

「もうちっとだけ堪えろ!」

 大福も声を張る。

 ──ありがとう、みなさん……ですが……

 ニコの声は、どこか儚げだった。

 ──ガオウの怒りさえ鎮められず、挙句わたくし自らがこのような破壊の権化となった今……わたくしは死んで罪を償うしかありません……

「ニコ様ー! あなたが死んだら我々はどうなるのですか!?」

 メエメエが悲痛な叫びを上げる。

 ──メエメエ……本当にごめんなさい……わたくしの力不足のために、あなたやみんなに迷惑をかけました……

 静かに、けれども確かな絶望の色を帯びた声。

 彼女は、本気で死を選ぼうとしていた。

「──ふざけるな!!」

 鋭い声が、空気を引き裂いた。

 シャスールだった。

 彼女は弓を構えたまま、冷たい視線を前方に向ける。

「これだけの事態を招いておきながら、そんな甘ったれたセリフを口にするとは……神の名が聞いて呆れるぞ!」

 ニコの意識が、一瞬だけ沈黙する。

「お前はすべての生き物の頂点に君臨しているんだろう? なら、よく聞くんだ! この町のすべての生きとし生ける者の声を!!」

 その言葉が放たれた瞬間、ニコガオガオーンの体が小さく震えた。

 同時に、アニマルタウンのあちこちから、痛み、恐怖、絶望……それでも守りたいと願う人々の声が、かすかに響き始める。

 それは、決して絶望だけではなかった。

 愛するものを守りたい。

 日常を取り戻したい。

 たとえ傷ついても、最後まで立ち上がる。

 ──それは、紛れもない「生きようとする声」だった。

 シャスールは、弓を握る手に力を込めた。

 彼女の視線は、揺るぎない決意に満ちていた。

「私は……自らの生きる意味を考えたことなどなかった」

 彼女の声は、低く、だが静かな熱を帯びていた。

「ただ、与えられた役割をこなし、そうしてこの世界を見つめてきた……だが、プリキュアとして戦い、こむぎやいろは、ユキ、まゆ、兎山と大福……ついでにメエメエ」

 一瞬だけ、彼女は小さく息を吐く。

「彼らとの交流の中で、私は知ったんだ。生きるとはどういうことなのか。命とは何なのか」

 風が吹く。

 この世界には、光と闇がある。

 憎しみも、悲しみも、絶望もある。

 だが、それでも人々は笑い、愛し合い、手を取り合いながら前へ進もうとする。

「この目に映る生き物の命を守りたい……この複雑で悩み多く、だがそれでも素晴らしいもので満ちあふれた世界を、確かに味わいたい……」

 彼女の胸に、今までにない確かな想いが満ちる。

 それが、シャスールの願いだった。

「それが、私の中のわんだふる……私の願いだ!」

 弦を引き絞る。

 彼女の手の中で、光が弾けるように広がる。

「だから──私はお前を助ける!!」

 光の奔流が、弓矢に宿る。

「ダイヤモンドユニコーン!!」

 シャスールの矢が放たれた。

 それは、彼女の願いを乗せた、一筋の輝きだった。

 その刹那──

 鏡石が共鳴する。

 澄み渡る光が大地を走り、シャスールの放った矢と交錯する。

 輝きは波紋となり、空へと広がった。

「──これは……」

 予想だにしなかった事に、シャスールが息を呑む。

 光の粒が降り注ぐ。

 ワンダフル、フレンディ、ニャミー、リリアン、悟、大福──六人の体を優しく包み込む。

 彼らの視界が、一瞬にして白銀の世界へと塗り替えられた。

 ──記憶が流れ込んでくる。

 鏡石が刻んできた、人間と動物の軌跡。

 共に生き、共に歩み、時に助け合い、時に争いながらも、互いに支え合ってきた歴史。

 目を開けると、そこにはかつてのニコがいた。

 優しく微笑み、ニコガーデンを守るために戦っていた、あの姿。

 ──今度は、自分たちが助ける番だ。

「……ニコ様!」

 ワンダフルが、強く拳を握った。

「わたしたちの願いは、ニコ様と同じ」

 フレンディが、前を見据えた。

「全ての動物たちが笑顔になること」

 ニャミーが、冷静な瞳で光を受け止めた。

「みんな元気で、みんな仲良し」

 リリアンが、迷いのない心で決意を固めた。

「その中には、ニコ様もいる」

「だから、助ける」

 悟と大福が、互いに頷き合う。

「「「「「「それが、わんだふるぷりきゅあだから!」」」」」」

 光が形を変え、彼らを新たな姿へと包み込んでいく。

 

「「「「「「ミラーストーン、エボリューション!」」」」」」

 鏡石の光が映し出す、彼らの新たな可能性。

 ダイヤモンドリボンスタイルとは異なる、もう一つの強化形態が、今ここに目覚める。

 白と銀を基調とした衣装が、光の中で姿を成していく。

 ワンダフルのスカートはアシンメトリーに流れ、俊敏な動きを支える。

 フレンディのフリルには氷の結晶がきらめき、凛とした気品を際立たせる。

 ニャミーの袖口には鏡の欠片が浮かび上がり、鋭い視線と共に光を放つ。

 リリアンの衣装は優雅な流線を描き、背中の光がまるで羽ばたくように舞った。

 悟と大福の姿もまた、変わっていた。

 光沢を帯びた戦闘服は、鏡石の輝きを映し出すように、柔らかな虹色の光を帯びている。

 

「「「「「「ミラーストーンスタイル!」」」」」」

 

 その声が空に響き渡った瞬間、鏡石の輝きが最高潮に達し、六人の姿が神々しい光に包まれた。

 白銀の衣装がなびき、虹色の輝きがそれぞれの体に宿る。

 それはまさしく、新たなる進化──ミラーストーンスタイルの覚醒だった。

「す、すごいですぅ~!!」

 メエメエが飛び跳ねながら、興奮した様子で声を上げた。

「プリキュアのみんな、なんか……今までと違うキラ!」

「めちゃくちゃ……かっこいいキラ!」

 キラリンアニマルたちが口々に叫ぶ中、一人、ただ静かに佇む者がいた。

 キュアシャスール。

 彼女は目の前の光景を見つめ、信じられないというように息を呑む。

 まさか、このような展開になるとは──夢にも思わなかった。

 だが、それでも。

 彼女は自分の胸の奥に、不思議な感覚が広がるのを感じていた。

 言葉にならない、しかし確かにそこにあるもの。

 それは、誇り。

「……フッ」

 シャスールはタロンボウガンを下ろし、わずかに唇の端を吊り上げた。

「なかなか……悪くない」

 彼女はつぶやくと、前を見据えた。

 六人の後ろ姿が、光に照らされながら力強く立っている。

(私の願いは、確かに届いた……)

 シャスールの胸に宿る誇りは、六人のプリキュアへと繋がっていく。

 

「ニコ様、今助けるよ!」

 ワンダフルの声が響くと、六人がそれぞれの位置についた。

 光の輪が彼女たちの周囲に広がり、鏡石の輝きが彼女たちの力を後押しするかのように瞬いた。

「「「「「「プリキュア——!」」」」」」

 六人が手を繋ぎ、円陣を組む。

「「「「「「サークルオブライフ!!」」」」」」

 その瞬間、六色の光が弧を描き、巨大な光の輪となる。

 命の輝きが循環し、全ての生命が繋がるように、穏やかな温かみを持って広がっていく。

「ガオ……ガオ……」

 ニコガオガオーンの咆哮が、次第に苦しげな呻きに変わっていった。

 黒い瘴気が光に包まれ、少しずつ剥がれていく。

 まるで、長い闇から解放されるかのように——。

 そして、眩い光が最後の瘴気を完全に浄化した。

 ふわっ……。

 ニコガオガオーンの巨大な姿が消え、そこに残ったのは……。

 小さな、ニコ。

 キラリンアニマルと同じくらいのサイズに縮んだニコが、皆の前にゆっくりと降り立った。

「……ありがとう……みんな……」

 ニコはか細い声で呟くと、ゆらりと体を揺らした。

「ニコ様!」

 ワンダフルが駆け寄る。

 だが、その瞬間——。

 ふらっ……。

 ニコの小さな体がぐらりと傾ぎ、そのまま力なく倒れ込んだ。

「わっ……!」

 ワンダフルがすかさず両腕を広げ、ニコの身体を優しく受け止める。

 ニコの白い毛並みは温かかったが、彼女の呼吸は浅く、明らかに疲労困憊していた。

「ニコ様……!」

 フレンディが心配そうに覗き込む。

「無理もないわ……あれだけ暴走してたんだから……」

 ニャミーが腕を組みながらも、安堵の息を漏らす。

「ほんとに……よかった……。」

 リリアンはそっとニコの頭を撫で、頬を寄せる。

「ニコ様……!」

 メエメエは感極まったように鼻をすすりながら、そっと寄り添った。

 ニコの小さな体は、ワンダフルの腕の中で微かに震えていた。

「……ニコ……すごく嬉しかったよ……」

 小さな声だったが、その言葉には、心からの感謝が込められていた。

 彼女の瞳には、今までの苦しみではなく、静かな安らぎが宿っていた。

 

 しかし——

 アニマルタウンの夜の闇の中、瓦礫の影に紛れるようにして、ひとつの黒い影が佇んでいた。

 遥か遠くから戦いの結末を見届けたその人物は、わずかに唇を歪める。

「これはまた、予想をはるかに上回る結末です」

 男はゆっくりと指先で蛇の頭をなぞりながら、静かに戦場を見つめ続ける。

「いいでしょうね。そうでなくては、この世界を手に入れる甲斐がないというもの」

 不敵な笑みが、月明かりの下で微かに輝く。

「じっくり楽しませてもらいますよ、プリキュアの皆さん」

 そして、彼はふと、鋭い視線をシャスールへと向けた。

「そして……キュアシャスール」

 夜風が静かに吹き抜ける。

 その言葉には、意味深な響きが宿っていた。

「あなたは、我々のものです」

 その言葉を最後に、黒衣の男の姿は闇に溶けるように掻き消えた。

 

 

 

 

 

 




登場ガオガオーン
ニコガオガオーン
声:高橋伸也
身長:7000cm
体重:不明
・特色/力
ニコの強大な力が暴走し、巨大な怪物と化した姿。彼女の持つ純粋な思いとは裏腹に、ガオガオーン化したことで圧倒的な破壊衝動に支配されてしまっている。
黒い瘴気をまとい、その咆哮一つで周囲の環境を荒廃させる。
さらに、彼女の力は周囲の動物に影響を及ぼし、意図せずとも動物をガオガオーンへと変異させてしまう能力を持つ。
・特徴
頭部:ニコ本来の面影をかすかに残しているが、瞳は黒く染まり、理性のない光を放つ。
胸部:中心に巨大な鏡石の模様が刻まれており、そこから黒いエネルギーが脈動する。
背中:大きな漆黒の翼が広がり、闇の霧を撒き散らす。
四肢:かつての優雅な姿とはかけ離れた、獣のような筋肉質な腕と脚を持ち、鋭い爪で大地を切り裂く。
体色:闇の影を思わせる黒と紫のグラデーション。暴走の激しさに応じて、模様が脈打つように変化する。
・能力
破滅の咆哮
強烈な咆哮を放つことで、周囲に衝撃波を巻き起こし、建物や地面を粉砕する。咆哮に含まれる闇の波動は、生き物の生命力を削り取るほどの威力を持つ。
闇の瘴気
ニコガオガオーンの周囲を取り巻く黒い霧は、生物の精神を蝕み、戦意を奪う効果を持つ。瘴気に長くさらされた者は次第に意識を喪失し、無抵抗の状態へと陥る。
天変地異の一撃
巨大な腕を振り下ろすことで、局地的な地割れや嵐を発生させる。振動とともに闇のエネルギーが広がり、周囲を破壊する。
ガオガオーン創生
動物を無意識のうちにガオガオーン化させる能力。
ニコガオガオーンの瘴気に触れた動物たちは、次第に黒い光を帯び、異形の姿へと変異してしまう。
ガオガオーン化した動物たちはニコの暴走に共鳴し、無差別に暴れ始める。
・行動
黒い巨大な卵から生まれると、破壊衝動に突き動かされ、アニマルタウンを壊滅させようとする。
しかし、内側ではニコの意識がわずかに残っており、わんぷりメンバーの呼びかけに対し、一瞬だけ動きを鈍らせることがある。
ミサイル攻撃を受けた際には苦しげな咆哮を上げ、体を震わせながら傷つくが、闇の力によりすぐに回復してしまう。
・戦闘記録
アニマルタウンの中心部でニコガオガオーンが暴走。黒い瘴気を広げながら、周囲の建物を次々と破壊していく。
ワンダフルたちがキラリンアニマルの力を借りて応戦。バリアや氷結、催眠などの戦術を駆使するも、圧倒的な力の前に突破され、決定打を与えられない。
闇の瘴気を浴びた動物たちが次々とガオガオーンへと変異。アニマルタウンのいたるところで新たなガオガオーンが暴れ出し、戦場は混乱の極みに達する。
日本政府がニコガオガオーンに対しミサイル攻撃を決定。複数のミサイルが直撃し、大きく怯むものの、闇の力によってすぐに回復。完全に倒すには至らない。
爆発の衝撃の中、わんぷりメンバーの呼びかけによってニコの意識が表層に浮かび上がる。
「……お願い……わたくしを……終わらせて……」
自らを犠牲にしようとするが、仲間たちの言葉によって踏みとどまる。
六人のプリキュアがミラーストーンスタイルに変身し、プリキュア・サークルオブライフを発動。光の輪がニコガオガオーンを包み込み、穏やかな姿へと戻していく。
ニコガオガオーンの姿は次第に光へと溶け、やがてキラリンアニマルほどの小さなサイズのニコへと戻る。
「……ありがとう……みんな……。」
疲労困憊しながらも、静かな安らぎを取り戻し、仲間たちに感謝の言葉を伝える。
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