わんだふるぷりきゅあ!!~わんだふる♡わーるど~ 作:重要大事
五月上旬
アニマルタウン 海風公園
沈みゆく陽が海風公園の芝生を照らし、静かな波の音が遠くに響く。だが、その穏やかな風景とは裏腹に、場の空気はどこか緊迫していた。
「兎山くん……選ばせてあげるね。右手でひっかかれるのと、左手でひっかかれるの、どっちがいい?」
まゆはにっこりと微笑みながらも、その言葉には明確な圧が込められていた。
「ちょ、落ち着いて猫屋敷さん!!」
悟は額に汗を浮かべながら、一歩後ずさる。しかし、まゆの迫る気配はそれを許さない。
「そうですよ、まゆ様! 悟くんが一体何をしたというのですか!?」
メエメエが慌てて悟の肩を庇うように前に出る。だが、まゆはそのメエメエにも同じ笑顔で顔を近づけ、小さな声で囁いた。
「メエメエ……彼はとんでもない裏切り行為を働いたんだよ」
「ど、どういうことでしょう……?」
まゆのただならぬ気迫に押され、メエメエの耳がぴくりと揺れる。次の瞬間、まゆが耳元で真相を暴露した。
「なんですってぇぇ!!!!」
メエメエは跳び上がり、悲鳴のような声を上げた。そして、興奮のあまり悟を指さし、猛抗議を始める。
「悟くん、ひどいじゃないですか!! わたくしですらお泊りダメェ~! だったのに、どうしてかなえ様と一緒に暮らしてることを黙っていたんですか!?」
「だから、これにはいろいろと深い事情があって……」
悟は言い訳を試みるが、まゆは容赦なく詰め寄る。
「何が深い事情なの!? ただの不純異性交遊の間違いでしょう! いろはちゃんの想いを弄ぶだけ弄んで、この恥さらし! サ〇〇〇ッチ! 人の心とかないの!」
「見損ないましたよ悟くん! あなたがそんなひどい方だったとは思いませんでした!」
メエメエまでもが顔を真っ赤にして悟を責め立てる。完全に理不尽な袋叩き状態だ。
「ちょ、ちょっと待ってよ二人とも!」
悟は顔を引きつらせながら必死に弁明しようとするが、彼らの勢いは止まらない。
その時、冷静な声が場を貫いた。
「二人とも落ち着きなさい!」
ユキが両手を伸ばし、まゆとメエメエの襟首を掴んで引き離す。彼女の冷ややかな視線が二人を制するように向けられた。
「悟は何も悪くないでしょう」
毅然とした言葉に、悟は意外そうに目を瞬かせる。
「ユキちゃん……」
悟を庇うとは思わなかったため、彼は驚きを隠せなかった。一方、まゆとメエメエはユキの手から解放されるやいなや、ひそひそと小声で囁き合う。
「メエメエ……ユキって結構兎山くんに甘いと思わない?」
「そうですね。いざってときに我々の敵に回るのは、ユキ様のような方かもしれませんぞ」
だが、その言葉はしっかりとユキの耳に届いていた。彼女のこめかみに青筋が浮かび、ゆっくりと二人を睨みつける。
「二人とも、引っ掻かれたいの?」
静かに、しかし確実な圧が込められた言葉に、まゆとメエメエはぴたりと口を閉ざす。ユキは深く息を吐き、悟へと視線を向けた。
「とはいえ、少しややこしいことになったね。これからどうするつもり?」
彼女にそう問われ、悟は真剣な表情で考え込む。いろはの悲痛な叫びが頭をよぎる。
──悟くんのバカ!!!
拳を握り締め、悔しさを滲ませた表情で呟く。
「……ボクは、いろはちゃんの気持ちに気付いてあげられなかった。彼氏失格だ……」
すると、まゆが血相を変えて悟の肩を掴む。
「わかってるなら兎山くん!! 今すぐいろはちゃんを追いかけて!! このままじゃ、本当にいろはちゃんとの関係が終わっちゃうよ!!」
「っ!!」
まゆの言葉が現実味を帯び、悟は息を呑む。だが、そのとき、静かに様子を見守っていた大福が口を開いた。
「……やめとけ」
悟とまゆの方へ歩み寄り、静かに諭すような声で言う。
「今追いかけたところで、何の解決にもならねーよ。こういうのは時間が解決してくれるもんだぜ」
だが、メエメエがすかさず反論する。
「大福の兄貴、何をそんな悠長なことを言ってるんですか!! 事は一刻を争うんですよ!!」
「恋愛は当人同士の問題だ。外野のオレらが首を突っ込むもんじゃない。それに、こういう試練が二人の愛をより強くするんだ」
達観したような大福の言葉に、ユキは納得しつつも少し不安げな表情を浮かべる。
「言ってることはもっともだけど……果たして、そう上手くいくかしらね」
彼女は遠くを見つめる。そこには、いろはとこむぎが走り去っていった道が広がっていた。
*
アニマルタウン 犬飼家
夕暮れの色が窓に映り、穏やかな時間が流れる犬飼家。しかし、玄関のドアが勢いよく開くと、その空気は一変した。
「おかえ……?」
夕食の準備をしていた剛が声をかける間もなく、いろはは靴を脱ぎ捨てるようにして家へ上がると、そのまま二階へ駆け上がった。彼女の足音が、沈んだ心を映すように弾ける。
「いろは……?」
異変を感じ取った陽子が眉をひそめる。だが、いろはは振り返ることもなく、ドアを閉める音だけが響いた。
こむぎは階段の上を見上げ、心配そうに呟く。
「いろは……」
いろははベッドの上に崩れるようにうずくまり、強く瞼を閉じた。
──どうして、あんなことを言ってしまったんだろう……。
悟に気にかけてほしかった。ただ、それだけだったのに。だけど、焦燥と不安が先に立ち、気持ちの裏返しで悟を傷つける言葉が口をついてしまった。
(バカなのは私だよ……! もう、悟くんにどんな顔して会えばいいのか分からないよ……)
熱くなった頬を枕に埋める。胸の奥がじんじんと痛んだ。
友達だった頃には、こんなことで悩んだことはなかった。だが、恋愛は違う。自分の気持ちがどこへ向かうのかも分からず、ただ出口のない迷路を彷徨うばかりだった。
──悟くんは、どう思ってるんだろう?
考えれば考えるほど、不安は膨れ上がる。部屋の外では、メエメエから連絡を受けたキラリンアニマルたちが、静かに様子を見守っていた。
その頃──
夕食の席に集まった剛と陽子は、こむぎから事情を聞き、何となく状況を理解した。
「そう……悟くんと、そんなことがあったんだ」
陽子は湯飲みを手にしながら、静かに呟いた。一方で剛は驚きを隠せない様子で腕を組む。
「しかし意外だな。いろはの口からバカなんて言葉が飛び出すなんて。しかも、あの悟くんを前にして、な」
こむぎはスプーンを握ったまま、気が気でない様子で不安げに尋ねた。
「お母さん……いろは、大丈夫かな?」
だが、陽子はどこか穏やかに微笑み、ゆったりと頷いた。
「大丈夫よ。今はまだ、気持ちの整理がうまくできていないだけだから」
そう言うと、彼女は湯飲みを置き、言葉を続けた。
「本音を言うと、私はこの状況にむしろほっとしているの」
その意外な言葉に、剛が目を細める。
「陽子さん、それはどういうこと?」
陽子は少しだけ考えるようにして、ゆっくりと答えた。
「ほら、いろはって博愛主義でしょ? そんな子が初めて恋愛をして、好きな人との間で想い悩んで……ようやく人として先に進んでいる気がするの」
彼女の言葉には、確かな温かさがあった。いろはのことを心から想っているからこそ、今の状況が成長の一歩に思えたのだ。
陽子は天井を見上げながら、静かに持論を展開する。
「あの子の夢、世界中の動物と友達になりたい……それ自体は、とても素晴らしいものだと思う。でも、だからこそ、いろはは知らないといけない。誰もかれも同じように愛することはできないってことを」
陽子は穏やかに、けれどはっきりとした口調で言葉を紡いだ。
「愛情は、傾きや歪みみたいなものなの。八方美人って言葉があるでしょ? 全部を丸ごと愛そうとするのは、誰にも心を傾けていないのと同じこと。誰を選ぶかが自然に決まってしまうのが、愛情なのよ」
「………」
こむぎは、黙ったまま陽子の言葉を聞いていた。
元来が動物であるこむぎにとって、人間の恋愛を完全に理解できたわけではない。だが、なんとなく、大切なことを言われている気がした。
*
アニマルタウン 兎山家
夜の静寂が部屋を包む中、悟は机に突っ伏したまま、ぼんやりと考え続けていた。
いろはほど感情を爆発させることはないにせよ、今夜の出来事の重さが胸にのしかかっている。どうすればいいのか、自分にできることは何なのか。考えれば考えるほど、答えは霧のように掴めなかった。
ふと顔を上げ、近くに飾ってある写真ボードに目を向ける。
そこには、わんぷりメンバーと一緒に撮った写真が並ぶ。その中に、彼にとって何より特別な一枚──いろはとのデートの写真があった。
二人だけの世界。カメラの中に収められたのは、幸せそうな笑顔。
──ずっと、こんな日々が続くと思っていた。
「……どうして、こうなっちゃったんだろう」
つぶやいた言葉は、あまりにも空虚だった。
心の中では、早くこの関係を修復したいと思っている。けれど、焦って動くことで余計に状況を悪化させるかもしれないという不安が、彼を足止めしていた。
──時間が解決してくれる。
大福の言葉が脳裏をよぎる。確かに、時間を置くことが正しい場合もある。でも、いろはのことを考えると、ただじっとしているのも違う気がした。どう動けばいいのか分からないまま、袋小路のようなもどかしさに苛まれる。
ふと、大福のいるケージを一瞥する。
すでに床についた彼は、穏やかな寝息を立てていた。今、相談しても仕方がない。悟は小さくため息を吐いた。
──そのとき、部屋のドアをノックする音が響いた。
「……どうぞ」
悟が声をかけると、ドアが静かに開き、バスタオルで濡れた髪を拭きながらかなえが入ってきた。
「兎山、風呂が空いたから次いいぞ」
「……うん、ありがとう、鷹目さん」
悟の返事はどこか覇気がない。その声のトーンや表情から、かなえはすぐに彼の意気消沈を察した。
持ち前の洞察力で、悟が何かに悩んでいることを感じ取る。とはいえ、あえて直接的に聞くのではなく、それとなく探りを入れる。
「……時に、お前と犬飼いろはは番なのか?」
「えっ!? つ、番って……」
悟は思わず声を裏返らせた。
番=夫婦。その言葉が頭をよぎった瞬間、耳まで真っ赤になる。
「あ、その……ボクといろはちゃんは、その……」
言葉に詰まりながら、赤くなった顔を伏せ、小指と小指を触れ合わせるようにして、ぎこちなく訂正を加えた。
「……恋人同士、だよ……」
かなえは、じっと悟の反応を観察していた。
照れくさそうに視線をそらしながら、小指と小指を触れ合わせる仕草。顔を赤くして「恋人同士だよ……」と口ごもる様子を見て、彼がどれだけいろはのことを大切に思っているのかが伝わってくる。
「そうか……」
ぽつりと呟くと、かなえの視線は悟の背後にある写真ボードへと移った。
そこには、いろはと一緒に映る悟の笑顔があった。普段は落ち着いた雰囲気の彼が、心の底から楽しそうに笑っている。その姿を眺めているうちに、胸の奥に言葉にしづらい違和感が広がる。
──わからない。これが何なのか、私には。
他人の感情の機微を読むのは得意だった。けれど、自分の感情に関しては驚くほど鈍い。
「……お前たちみたいな関係は、正直、私にはよくわからない」
ふっとため息をつきながら、かなえはバスタオルを肩にかけた。
「恋愛とか、そういうの。私自身には縁がなかったし、今もさっぱり理解できない。ただ……」
言いながら、悟に背を向けつつ語る。
「手が届くのに手を伸ばさなかったら死ぬほど後悔する。それが嫌なら、必死に手を伸ばせ」
その声には、どこか冷静で、そして確信に満ちた響きがあった。
それは、恋愛経験の有無ではなく、これまでの彼女の生き方そのものに基づいた言葉のように思えた。
「鷹目さん……」
悟は思わず、かなえの顔を見上げる。
「早く入れよ。湯が冷める前にな」
そう短く言い残すと、かなえはそそくさと部屋を出て行った。
彼女の瞳は、まっすぐに悟を射抜いていた。どこか遠くを見つめるようなその眼差しは、同時に悟自身を試しているようでもあった。
「ありがとう……」
かなえに感謝しつつ、悟は勇気をもらった気がした。
──その言葉が、悟の胸にずしりと響いた。
*
アニマルタウン 犬飼家
こむぎは、いろはの様子を見に行くと決めると、あえて人間の姿のまま、静かに部屋へ入った。
部屋の中は真っ暗で、ベッドの上ではいろはがシーツに包まったまま微動だにしない。
「いろはー、何か食べないと元気でないよ?」
明るくも心配そうに声をかけるが、布団の中から返ってきたのは、か細い拒絶だった。
「いらない……何も食べたくない……」
いろはの声は力なく、沈んでいる。胸がいっぱいで、食欲など考えられない。
こむぎは、こんないろはを見るのは初めてだった。
いつもなら元気で、こむぎの世話を焼き、頼れる主人であるはずのいろはが、今はまるで壊れた子犬のようにうずくまり、涙を堪えている。
──だけど、なぜか迷いはなかった。
どうすればいいのか。今、この瞬間、いろはにとって自分が何をすべきか、こむぎははっきりとわかっていた。
おもむろにベッドの上に腰を下ろし、いろはのそばに寄り添う。
「いろは。いろはにとって悟は『特別なワンダフル』なんだよね。それってどうして?」
穏やかに尋ねると、いろはの身体がぴくりと動いた。
「どうしてって……」
戸惑いながらも、悟が自分にとってどれほど特別な存在なのかを思い返す。
「わたしが困ってる時、いつも傍にいてくれて、何度も助けてくれた……悟くんが困ってる時、わたしが助けになりたいから……悟くんと笑ってる時間が好きだから……これからもずっと、ずっと一緒にいたいから──だから……」
言葉にすることで、悟への想いが次々と溢れ出してくる。
いろはの目から、堰を切ったように涙がこぼれた。
こむぎは、そっとその様子を見つめながら、あえて問いを投げかける。
「いろはは、悟のこときらいになったの?」
「違う!! そんなことない!!」
いろはは、がばっとベッドから顔を出し、こむぎに向かって涙でぐしゃぐしゃの顔を晒す。
「すき……好き……大好きだよぉ!!!」
悟がどれほど大切な存在なのかを口にした途端、幼児のように声を上げて泣きじゃくる。
「でも! でも!! わたし……悟くんにバカって、ひどいこと言っちゃった!! 悟くんにきらわれちゃった!!」
嗚咽混じりにそう訴えると、こむぎは静かに尋ねた。
「どうしてきらわれたって思うの?」
「だって……! 悟くんの話ちゃんと聞かなかったし、そのせいでかなえちゃんを怒らせちゃった……」
「悟がそう言ったの?」
「ううん……言ってないけど……」
「じゃあ、ちゃんと聞いてないってことだよね」
──いつもなら、いろはが自分に言う言葉だった。
気づけば、普段とは真逆の関係になっている。
慰められる側にいるのは、いつもならこむぎのはずだったのに、今はこむぎがいろはを包み込むように寄り添い、導こうとしていた。
いろははこむぎの言葉を受け止めながら、少しずつ感情を整理していく。
「だったら、悟がいろはのことどう思ってるのか、悟にちゃんと聞いてみたらいいと思うよ。前にわたしがいろはとケンカして家を出たときにね、悟がそう言ってくれたんだ」
過去の自分の経験を振り返りながら、今度はいろはと悟の仲を取り持とうとするこむぎ。
「悟言ってたよ。言葉ってね、自分の気持ちを伝えるだけじゃなくて、相手の気持ちを聞くこともできるんだよって。話し合い、してみよう!」
「こむぎ……」
いろはは、いつもより大人びたこむぎの姿に驚きながらも、こんな自分に寄り添ってくれる愛犬の存在に深く感謝した。
そして、その様子を外からこっそり見守っていた陽子や剛、メエメエも、キラリンアニマルたちもそっと安堵の表情を浮かべる。
暗く沈んでいたいろはが、少しずつ前を向き始めた。その小さな変化に、皆が胸をなでおろした。
*
ニコガーデン
かつて動物たちの楽園と呼ばれた庭園は、今や見る影もなかった。
黒い瘴気がすべてを覆い、命の象徴だったはずのニコダイヤの輝きは完全に失われている。
草木は黒ずみ、花々は色を失い、動物たちは石のように硬直したまま、まるで時間ごと凍りついたかのように静止していた。
しかし、そこにはまだ、唯一の光が残っていた。
ダイヤモンドユニコーン、本来のユニ。
庭園の中心で、彼女は未だに抵抗を続けている。
その肢体は半ば黒い結晶に覆われ、大地に縛りつけられるように動けない。
それでもなお、額の一本角からわずかに放たれる光は、完全な闇に呑み込まれるのを必死に食い止めていた。
──それを、闇の中から静かに見つめる影があった。
「……まだ足りませんね」
低く、冷たい声が闇に滲む。
庭園の隅に、影が揺らめいた。
──そこには、確かに何かが形を持ちつつあった。
黒い瘴気の塊が蠢き、その中から僅かにのぞくのは、不吉に煌めく紫の装飾。
さながら漆黒に染まった絹のように流れる髪が、重く沈む瘴気の中でたゆたう。
暗い霧の奥、双眸が細く開き、淡く紫色の光を宿した。
「あなたもしぶとい方です、ダイヤモンドユニコーン」
黒幕の影が、囁く。
彼の身体はまだ闇の奥に完全に溶けていたが、その姿は徐々に輪郭を持ち始めている。
ユニはその存在を見据えながら、かすかに息を吐いた。
──そして、その呼吸すらも、瘴気に絡め取られていく。
「……いいでしょう」
黒幕はくつくつと嗤い、闇の中に不穏な気配が満ちる。
「あなたが望むなら、ここは根競べと参りましょう」
闇がゆっくりと広がり、黒い靄がユニの体を包むように蠢く。
ニコガーデンは、未だその静かなる攻防の只中にあった。
◇
アニマルタウン 犬飼家
翌日。朝の日課を終えたいろはは、リビングの隅に置かれたコードレスフォンを見つめていた。
昨夜は、ただ布団の中で泣き疲れ、悩み続けるだけだった。悟にひどいことを言ってしまった後悔と、自分がどうすればいいのか分からないもどかしさに押し潰されそうだった。
けれど、こむぎがずっとそばに寄り添ってくれていた。
自分の気持ちを整理するように優しく問いかけてくれた。
そして、いろは自身も、話しているうちに悟への想いを再確認した。
(……わたし、悟くんとちゃんと話したい)
そんな気持ちが少しずつ形になり、ようやく今朝、目を覚ました時には決意が固まっていた。
こむぎと一緒にいつもの散歩へ出ると、ひんやりとした朝の空気が頭を冷やしてくれた。
こむぎはいつも通りいろはの隣を歩きながら、時折ちらりとこちらを見上げていた。
「いろは、今日はちゃんと話せそう?」
「……うん。まだちょっと怖いけど。でも、ちゃんと向き合いたいって思う」
言葉にすることで、自分の気持ちを確かめる。
――だから、今ならできる。
家に戻り、朝食を済ませたあと、いろははリビングの電話台の前に立った。
ゆっくりと受話器を持ち上げる。
悟の番号を押す動作は、もう自然だった。何度もかけたことがある。メモを見るまでもなく、指が勝手に動く。
1……0……X……X……X……
あと一桁。だが、いろはの指がその手前で止まる。
(……どうしよう)
悟くん、ごめんなさい。
いや、それだけじゃ足りない。
ちゃんと自分の気持ちを伝えたい。でも、どう言葉を選べばいい?
戸惑いが生まれ、指が宙で迷う。
それを見た犬姿のこむぎが、じれったそうに言う。
「いろは。まだかけないワン?」
「ちょっと待って……急に緊張してきちゃった」
一旦自分を落ち着かせるために、大きく深呼吸をする。
そして、もう一度最後の数字を押そうとする――
しかし、胸の奥から恐怖がこみ上げてくる。
昨日のことが脳裏をよぎる。悟の傷ついた顔、そして自分が投げつけた言葉。
(ダメだ……やっぱり怖い!)
あと一歩の勇気が踏み出せない。もどかしさに、いろはは唇を噛んだ。
こむぎは残念そうにしながらも、そっとその場に座り込み、悟といろはが早く仲直りできることを願うように見守る。
――その時、玄関のチャイムが鳴った。
いろはは、思わず受話器を握る力を強める。
リビングの入り口から、陽子の声が聞こえてくる。
「いろはー、まゆちゃんたちが来たわよ」
玄関から陽子の声が響く。
「う、うん……」
生返事をしながら、いろはは受話器をじっと見つめた。
今、電話をかけるべきなのか。
けれど、玄関のチャイムが鳴った以上、すぐに出なければならない。
少しの迷いの後、いろはは受話器をそっと元の位置に戻した。
(……今じゃないのかもしれない)
「……今行く」
小さく返事をしながら、玄関へと足を向けた。
いろはが玄関へ向かうと、扉の向こうから弾むような声が聞こえた。
「いろはちゃん! 遊びに行こうよ!」
玄関を開けると、まゆが元気いっぱいの笑顔を浮かべて立っていた。その隣には、落ち着いた表情のユキもいる。
いろはは、戸口に立ったまま小さく頷いた。
「……えっと、その……」
気が進まない様子が表情に出てしまっているのか、まゆは彼女の顔を覗き込むと、すぐに眉をひそめた。
「どうしたの? そんな暗い顔してたら、せっかくのワンダフルが台無しだよ!」
そう言いながら、いろはの肩をぽんっと叩く。その妙に取り繕った明るい調子に、いろはは少しだけ目を伏せた。
「ごめんね……まゆちゃんたちにも心配かけて」
しおらしく呟くいろはに、まゆは一瞬だけ真剣な表情を見せたが、すぐに手を打ち、勢いよく話題を変えた。
「ねえ、ちょっと気分転換しない? いろはちゃん、ここ知ってる?」
そう言ってまゆは、スマホの画面に映った新しいテーマパークの動画紹介を見せる。
「……わんだふる海遊館?」
いろはが戸惑いながら聞き返すと、まゆはぐいぐいと腕を引くような仕草を見せた。
「ほらほら、落ち込んだときって、魚とか見たら癒されるってよく言うでしょ!」
「……でも……」
いろはが躊躇うと、まゆは今度こそ実際にぐっと腕を引いた。
「いいから、いいから! こういう時は気分転換が一番大事だよ!」
「たしかに、部屋に閉じこもってても解決しないし、外の空気を吸った方がいいかもしれないわね」
ユキも静かに後押しする。
そんな二人のやり取りを見ていたこむぎも、大きく尻尾を揺らしながら口を開いた。
「いろは、こむぎも行きたいワン!」
その言葉に、いろははわずかに迷ったあと、小さく息をついた。
「……そうだね。じゃあ、行っか」
しぶしぶながらも、いろはは誘いを受けることにした。
*
電車の揺れが心地よく響く中、いろはたちは窓際の座席に並んで腰を下ろしていた。
「みんなで電車で出かけ、ワクワク!」
人の姿になったこむぎが目を輝かせ、わくわくした様子で声を弾ませる。
「……あんまりはしゃぎ過ぎないでよね」
ユキが軽くため息をつきながら、周囲に目をやる。そこまで混んではいないが、ちらほらと乗客の姿があるため、浮かれすぎるのは控えた方がよさそうだった。
「えへへ、大丈夫っ!」
こむぎはそう言いつつも、尻尾を振るような勢いで足をぱたぱたと揺らしている。
一方、まゆはそんなこむぎたちの様子を横目で見つつ、さりげなくスマホを取り出した。
画面には、メエメエとのメッセージのやり取りが表示されている。
──メエメエ「悟くん、ちゃんと出発しましたよ!」
──まゆ「オッケー! 今どのあたり?」
──メエメエ「もうすぐ○○駅を通過するみたいです!」
(よしよし、計画通り!)
まゆは心の中でほくそ笑みながら、自然な仕草でスマホを操作し続ける。
実はこれは、いろはと悟を偶然を装って鉢合わせさせるための作戦だった。
メエメエが悟を「気晴らしに海遊館に行かない?」と誘い、彼も渋りながらも了承。そのため、悟はすでに別の電車で向かっていた。
(兎山くんの電車の到着時刻を調整すれば……うまく合流できる!)
「……まゆ、あなた何か企んでるでしょ?」
突然、ユキがじとっとした視線を向けてくる。
「え? き、気のせいじゃない?!」
とぼけたように笑いながら、まゆはスマホをポケットにしまう。
「……まあいいわ。でも、あまり強引なことはしないでよ」
ユキは半ば呆れた様子で視線を戻す。
「わ、わかってるよ! これは純粋な“偶然の奇跡”を演出するだけだから!」
まゆは引き攣った表情で誤魔化すように笑う。
そんなやり取りにも気づかず、いろはは車窓の外を眺めていた。
景色がゆっくりと流れていく。
「悟くんも一緒だったら、楽しかったのかな……」
ぼそっとつぶやく彼女の声を聞き、ユキはやれやれと苦笑した。
(……その願い、まゆがちゃっかり叶えてあげようとしてるんだけどね)
何も知らないいろはを横目に、ユキはまゆの計画がどう転ぶのかを静かに見守ることにした。
*
アニマルタウン郊外 わんだふる海遊館
『わんだふる海遊館』
アニマルタウンが出資し、人とペットが共に楽しめることをコンセプトに作られた、水族館と遊園地が併設された大型レジャー施設。
水族館エリアでは、ペット同伴で入館できる特別ゾーンが設けられており、専用のカートやリードを使えば、愛犬や愛猫と一緒に館内を回ることができる。遊園地エリアには、動物と乗れるアトラクションや、ペット専用の休憩スペースも完備されている。
開館から間もないこの施設は、アニマルタウンの新たな観光名所として注目を集めており、ゴールデンウィークの真っ只中ということもあって、館内は多くの家族連れやペット同伴の来場者で賑わっていた。
施設の入り口付近では、マスコットキャラクターの着ぐるみと記念撮影をする子どもたちの姿があり、園内放送ではイルカショーの開始を告げるアナウンスが流れている。活気に満ちた空間に、館内の大水槽が涼やかな青の光を放ち、訪れる人々を迎え入れていた。
入口をくぐると、館内を満たす涼やかな青の光が、まるで別世界へと足を踏み入れたかのような感覚を与えた。
大水槽の中では色とりどりの魚たちがゆったりと泳ぎ、天井のガラスドーム越しには、アザラシが悠然と回遊している。その優雅な姿に、こむぎの目が輝く。
「うわー! すごーい!!」
大興奮で飛び跳ねるこむぎ。その無邪気な様子を見て、いろはたちも思わず微笑んだ。
すると、こむぎが大水槽の前で立ち止まり、興味津々に指をさす。
「ねーねー、これなんていうの? シャケ!?」
その言葉に、ユキが呆れたように説明プレートを指し示した。
「スズキよ。ここに名前がちゃんと書いてるじゃない」
「スズキ……? シャケっぽくない?」
「全然違うわよ」
軽くため息をつきながら、ユキはきっぱりと言い切る。
そんな二人のやり取りに、いろはとまゆは思わず頬を緩ませた。
しかし、こむぎの好奇心は尽きることなく、次の水槽へと駆け寄る。
「ねーねー、これキスって言うの?」
「そうだよ」
いろはが優しく答えると、こむぎはまた首を傾げる。
「キスって意味?」
その無邪気な問いかけに、いろはの顔が一瞬で赤く染まった。
「え……えっと……つまりね……」
何とか説明しようとするが、言葉が詰まる。
その様子を見て、まゆのいたずら心がむくむくと湧き上がった。
猫耳をぴんと立て、こむぎの耳元にそっと囁く。
「あのね、ごにょにょ……」
こむぎの表情が一瞬固まり、すぐにパッと明るくなった。
「そっかー! キスって、お口とお口で仲良くすることなんだ!」
無邪気な声が響く。
「いやそうだけど……まゆちゃん! そのキスの意味じゃないって、知ってるでしょう!」
いろはが慌てて抗議すると、まゆは知らん顔でにやりと笑う。
一方、ユキは肩をすくめながら、小さく息を吐いた。
「まったく、まゆってば……」
そんな賑やかなやり取りの中、水槽の魚たちはまるで彼女たちの会話を聞いているかのように、ゆったりと水の中を漂っていた。
その後も四人は、多種多様な魚を見学しながら館内を巡っていく。
この水族館は動物の入館が許可されているため、あちこちにペットを連れた来館者の姿が見受けられた。小型犬を抱えて歩く人、猫をキャリーケースに入れて見学する人、さらには鳥やフェレットを連れている飼い主までいる。普段の水族館とは異なる、アニマルタウンならではの光景だった。
「ねーねー、あれってマグロかな?」
こむぎが大きな水槽を指さしながら尋ねる。
「カツオよ。鉄分が豊富で貧血予防にはもってこいね」
ユキが淡々と説明すると、いろはが感心したように頷く。
「さすがユキちゃん、魚のことには詳しいね」
三人がそんなやり取りを交わす中、まゆは少し離れた場所で落ち着きなく周囲を見回していた。
(メエメエ、どこだろう……)
視線を巡らせていると、廊下の向こうから、目立たないように身を縮めながら歩く人物の姿が見えた。
「まゆ様!」
控えめな声で呼びかけながら近づいてきたのは、年配の女性のような格好に変装したメエメエだった。
「メエメエ! そっちはどんな感じ!」
まゆが素早くスマホを仕舞い、駆け寄る。
しかし、メエメエの表情はどこか微妙だった。
「まゆ様……悟くん、大福の兄貴と無事に到着しましたよ」
「おっけー! それで、今どこにいるの?」
まゆは期待を込めてメエメエを見つめる。
だが、メエメエは何やら歯切れが悪い様子で、口ごもる。
「……あの、そのですね」
「どうしたの? 何かまずいことでもあったの?」
何やら言いにくそうなメエメエ。しかし、まゆがじれったそうに詰め寄る前に、彼はまゆの手を引き、そのまま悟のいる方へと誘導した。
「と、とにかくこちらへ!」
突然の行動に戸惑いながらも、まゆは言われるがままついていく。
そして、メエメエが見せた光景に、まゆは絶句した。
「な──!?!?!?」
目をひん剥き、まゆの全身が硬直する。
視界の先にいたのは、動物用キャリーケースに入った大福を手にした悟。そして──なぜかその隣にはかなえの姿があった。
まゆはその光景を呆然と見つめたまま、メエメエを睨みつけた。
「ちょっとどういうことメエメエ!? よりにもよって、なんで鷹目さんが一緒なの!?」
「こ、これには深い事情がありまして……!」
まゆの鋭い追及に、メエメエは冷や汗をかきながら視線を泳がせる。
「かなえ様は、最近のフューザーガオガオーンの出没を非常に警戒しておられまして……もし敵の動きがあるなら、いつどこで襲われるか分からない。特に、プリキュアの皆さんや悟くんのような戦闘に直接関わらない者が不用意に単独行動をするのは危険だと判断されたようです」
「つ、つまり……兎山くんを護衛しながら、わたしたちとも合流しやすくして、いざって時には迅速に戦闘に対応するために……ってこと?」
「その通りでございます!」
「まじか~~~!!!」
思わず顔を覆いそうになるが、なんとかこらえる。
かなえに悪気などまったくない。ただ純粋に警戒心から悟についてきただけ。それが分かるからこそ、余計にたちが悪い。
悪意がないのに、この状況──完全に修羅場の火種でしかない。
まゆは絶望的な表情で頭を抱えた。
「ど、ど、ど、どうしよう……!」
思わずメエメエの肩をガシッと掴む。
「二人の仲を取り持つはずじゃ、これじゃ逆効果だよ! 完全に炎上案件! あんなの傍から見れば浮気カップルだもん!!」
「お、落ち着いてくださいまゆ様! 彼女は純粋に警戒のためでして、決して不純な意図など──」
「でもさ、見てみなよ! あれ!!!」
まゆはメエメエの肩をぐっと掴み、ぐいっと視線を向けさせた。
──そこには。
「鷹目さん、スズキは出世魚って言ってね、生まれた時はセイゴという名前なんだけど、成長するに伴って、セイゴ・フッコ・スズキと名前が変わるから、そう呼ばれてるんだ」
「ほう……それは興味深いな」
水槽の前、並んで立つ二人。
ごく自然な距離感で、なんの違和感もなく言葉を交わしている。
だが──傍から見れば完全にデートだった。
「いやこれ、完全にデートっぽいんですけどおおおおお!! これいろはちゃんが見たら、もう決定的にやばいって!!!」
「ま、まゆ様、もう少し声を落としてください! 周囲に怪しまれます!」「それどころじゃないよ~~~!!!」
まゆの絶叫が館内に響く。
その声を聞きつけ、遠くにいたユキたちがこちらへと近づいてきた。
「まゆちゃん、どうかしたの?」
いろはが小走りにやってきて、まゆの顔を覗き込む。
「あれ? メエメエ? なんでいるの?」
こむぎもまた、突然の登場に首をかしげる。
「やっぱり何か企んでると思ったら……」
ユキは腕を組み、冷めた視線をまゆへと向ける。
「ち、ちがうんです! これには深いわけが……!」
メエメエが必死に弁明しようとしたその瞬間──
「メエメエ? 誰と話してるの?」
悟の声がした。
そして──彼の隣には、当然のようにかなえがいた。
「! いろはちゃん……」
悟が驚き、思わず口ごもる。
「さ、悟くん……かなえちゃんまで……」
いろはの表情が、一瞬で強張る。
「あぁ~……」
まゆが顔を覆いながら青ざめる。これだけは避けたかった、最悪の展開。
いろはの視線は、悟とかなえの二人に向けられたまま、動かない。
「ち、ちがうんだよ! これは別に深い意味とかはなくて……!」
悟が慌てて弁解するが、いろはの耳にはもう届いていなかった。
彼女の中で、まるでガラスが割れるような音が響いた気がした。
目の前にある光景──
悟がかなえと並んで立っている姿。
話している内容なんて関係ない。
ただその構図だけが、彼女の胸に重くのしかかる。
次の瞬間、悟から目を背け、全速力で駆け出した。
「待って、いろはちゃん!!」
悟はすぐに追いかけようとする。
「ごめん、大福お願い!」
そう言いながら、大福をかなえに託し、いろはの後を追った。
その場には、まゆとメエメエが呆然と立ち尽くす。
「終わった……すべて終わった……」
まゆは膝をつき、完全に力を失っていた。
「我々は無力です……」
メエメエもまた、肩を落とす。
一方、こむぎとかなえは、事態をいまいち飲み込めていない様子で顔を見合わせる。
そんな二人とは対照的に、ユキと大福はあきれ果てたようにため息をついた。
二人の余計な行動が、結果として事態をより深刻にしてしまったことを痛感しながら──。
*
わんだふる海遊館 遊園地エリア
人混みの中を、いろははただ無心に走っていた。
涙が止まらなかった。
頬を伝い落ちるそれを拭おうともせず、息を詰まらせながら駆け続ける。
(やっぱり……悟くんは、かなえちゃんの方がいいんだ……)
たったそれだけの事実が、胸に鋭く突き刺さる。
まゆたちの声が背後から聞こえた気がしたが、立ち止まる気にはなれなかった。彼女たちに今の自分の顔を見られたくない。それに、今は何を言われても耐えられそうになかった。
悟の隣にいたかなえは、理知的で冷静で、どこか彼に似た雰囲気を持っていた。彼女が悟と並んでいても、不思議と違和感がない。むしろ、並ぶべきなのは自分ではなく、かなえだったのではないか――そんな思いがいろはの頭を支配し始めていた。
走り続けるうちに、やがて人の流れが途切れ、目の前に開けた遊園地エリアが広がった。
わんだふる海遊館に併設されたこの遊園地は、ゴールデンウィークの盛況もあって多くの人で賑わっている。明るい笑い声、弾むような歓声が飛び交う中、いろはの心はどこまでも沈んでいた。
目に映るのは、楽しそうに手を繋ぐカップルや、友達同士ではしゃぐ子供たち。彼らの姿は、今のいろはには眩しすぎた。
――どうして、わたしじゃダメだったんだろう?
――どうして、悟くんはかなえちゃんを選んだの?
胸の奥が軋むように痛む。
気がつけば、いろはの視線は観覧車に向けられていた。
大きくそびえ立つその姿。
ゆっくりと空へと登っていくゴンドラ。
(……あそこから飛び降りたら、どんな気持ちになるのかな)
何の感情も湧かなかった。ただ、心がひどく空っぽになったような気がした。
――もう、こんな気持ちになるくらいなら……全部、終わらせちゃおう。
足が、自然と観覧車のチケット売り場へ向かっていた。
財布から無意識に小銭を取り出し、カウンターに置く。
「一枚……ください」
静かな声に、係員は何の疑問も抱かずチケットを手渡す。
観覧車の乗り場へと向かう途中、ふと視線を上げると、青く広がる空が目に入った。
あの空の向こうに行けば、もう何も考えなくて済むのかな。
そう思いながら、彼女は静かにゴンドラへと乗り込んだ。
扉が閉まり、観覧車がゆっくりと動き出す。
いろははただ、ぼんやりと空を眺めた。
――てっぺんまで行ったら、飛び降りよう。
それが、彼女の最後の決意だった。
悟は必死に人混みの中を駆け抜けていた。
「いろはちゃん……どこに行っちゃったんだろう!?」
海遊館の広大な敷地内、人が多すぎるのも相まって、彼女の姿はまったく見当たらない。
さっきまでまゆたちと一緒だったのに、一瞬のうちにいなくなってしまった。
焦燥が胸の奥を支配する。
いろはのあの表情――まるで何もかもを諦めたような、泣きそうな顔を思い出し、嫌な予感が頭をよぎった。
彼女はどこか遠くへ行ってしまうんじゃないか。
その思いが、悟の心をざわつかせた。
だが、次の瞬間――
悟は、異様な気配を感じ取った。
人混みの向こう、誰も気にも留めない場所に、一人の男が立っている。
見たことのない顔。
不気味なまでに静かで、まるでそこだけ空気が違うかのような異質な雰囲気をまとった男。
(……なんだろう、この違和感のような異様な感じは)
悟は咄嗟に足を止め、息をひそめるようにして様子を窺った。
その男は、海遊館の展示スペースの一角にある巨大なはく製の前に立ち尽くしていた。
それは、かつてこの海で生きていた巨大なトドのはく製だった。
はく製にされたことで、すでに命の息吹を失い、静かに展示されている――はずだった。
しかし、男はその前で立ち止まり、低く囁く。
「ここに眠るのも、また怨み……」
その言葉と同時に、彼の指先がゆっくりと動いた。
悟の目には、黒い霧のようなものが漢の手元から放たれるのがはっきりと見えた。
それはまるで生きているかのように、揺らめきながらはく製へとまとわりつく。
(なんだ……? あの黒いもやは……!?)
悟の全身に警戒の色が走る。
男が手をかざすと、黒いもやがはく製の表面をじわりと染め上げ、命が宿るかのように、異様な波動が周囲に広がっていく。
「……あっ!」
悟が思わず声を漏らした瞬間だった。
不気味な震動とともに、はく製が変質し始める。
黒い霧に包まれたトドのはく製が、不自然に軋み、体の表面が変形し、異形の姿へと変わっていく。
次の瞬間――
その場にありえないものが誕生していた。
トドとデンキウナギを融合させた、巨大な怪物――ウナギトドガオガオーン。
鋭く裂けた口から、電流が迸る。
「こ……こんなことが……!」
悟は息をのむ。そして、確信した。
あの男は、普通の人間ではない。
何か異様な力を持つ存在――そして、おそらく、ニコガーデンを襲撃した黒幕と関係している……!
悟はすぐさま動き出そうとする。
しかし、その時、ウナギトドガオガオーンが頭をもたげ、低く唸った。
「ガオガオーン!!」
響き渡る咆哮。
海遊館の静寂が一瞬にして掻き消え、悲鳴と混乱が渦巻く。
巨大なフューザーガオガオーンがその場に君臨し、鋭く裂けた口から電流が迸る。
男はそんな怪物を見上げながら、薄く微笑む。
「さあ、思うがままに暴れなさい……」
その言葉に応じるかのように、ウナギトドガオガオーンがさらに大きく唸る。
「ガオガオーーン!!」
衝撃波のような咆哮が周囲のガラスを震わせ、水槽の水面が波打つ。
水族館の来館者たちは、目の前の異常な光景に凍り付き、次の瞬間、パニックが爆発した。
「なんなの、あれ……!?」
「怪獣が動いてる!?」
「逃げろー!!!」
悲鳴を上げながら、来館者たちは次々に非常口へと殺到する。係員たちも誘導を試みるが、この場の混乱を抑えきれるはずもなかった。
悟は男を睨みながら、後ずさる人々に紛れ、慎重に動きを見守る。
(やっぱりこの男……! こいつがニコガーデンを襲った黒幕だ!)
だが、まずは今目の前にいるフューザーガオガオーンの脅威をどうにかしなければならない。
――その時。
別の方向から、全速力で駆けつけてくる影があった。
「やっぱり、フューザーガオガオーンだ!」
まゆの叫びが館内に響いた。
遅れてこむぎ、ユキ、かなえ、メエメエ、そして大福も駆け込んでくる。
「みんな! あのフューザーガオガオーンを生み出した黒幕を見たんだ!」
悟が焦燥の滲む声で言う。
「何ですって!?」
ユキの表情が険しくなる。
「それは本当ですか、悟くん!」
メエメエが驚愕しながら問いかける。
だが、その言葉に返答する間もなく、ウナギトドガオガオーンの巨体が大きく動いた。
次の刹那、フューザーガオガオーンの体から膨大な電流が放たれ、天井を突き破るほどの轟音が響く。
「危ない!!」
四人は即座に跳び退いた。
直後、床へと這うように電撃が流れ、一瞬でも遅れていれば感電していたかもしれない。
かなえがきゅっと拳を握りしめる。
「背水之陣。……やるしかないな」
「ええ、ここで暴れさせるわけにはいかないわ」
「いろはちゃんがいない今、わたしたちで食い止めないと!」
ユキが冷静に言い、まゆとこむぎが大きく頷く。
視線の先、ウナギトドガオガオーンの赤黒い瞳が、じっと彼女たちを見据えていた。
戦いの幕が、今まさに切って落とされようとしていた――。四人は同時に変身のポーズを取る。
「「「「プリキュア・マイ・エボリューション!」」」」
光が弾け、鮮やかな衣装が身を包む。
「みんな大好き素敵な世界! キュアワンダフル! 一緒に遊ぼ♪」
「気高くかわいくきらめく世界! キュアニャミー! 仕方ない、構ってあげる」
「結んで紡いでつながる世界! キュアリリアン! こわくない、こわくない」
「広く澄み渡る自由な世界! キュアシャスール! 飛び立とう、満たされるものを探して!」
変身を終えた四人は即座に構え、ウナギトドガオガオーンを見据えた。
「先手必勝!」
初手の攻撃を仕掛けたのは、シャスールだった。
「フェザー・ブレード!」
鷹の羽を模したエネルギーを生み出し、複数の羽を敵に投げつけて攻撃する技。羽は敵を追尾する能力を持ち、素早く動く相手にも有効なはずだった。
鋭い羽がウナギトドガオガオーンに直撃する――そう思われた、その瞬間。
敵の体表から放たれた電流が、羽の刃をかき消した。
「な……っ!?」
シャスールが驚愕する間もなく、ウナギトドガオガオーンが反撃に出る。
「ガオガオーン!!」
巨大な尾が一閃し、ワンダフルとニャミー、リリアンの三人が即座に飛び退いた。
その勢いだけで周囲の壁が砕け、火花が散る。
「シャスールの攻撃が、弾かれた!?」
ワンダフルが息をのむ。
「……長期戦はまずいわね」
ニャミーが歯噛みする。
「ここで食い止めなきゃ、もっと被害が広がる!」
リリアンが状況を見極めながら拳を握る。
「いろはちゃんが戻るまで、何としても持ちこたえよう!」
リリアンの言葉が、メンバーを奮い立たせる。
フューザーガオガオーンの赤黒い瞳が彼女たちを睨みつけ、次の一撃の構えを見せた。
そのころ――
遠く離れた観覧車の中で、いろはは静かに涙をこぼしていた。
目を閉じると、脳裏に浮かぶのは悟と過ごした日々。
優しく笑ってくれたこと。何気ない言葉で救ってくれたこと。隣にいてくれるだけで、心が温かくなったこと――
(もう……全部、どうでもいい)
何度も手を伸ばして、それでも届かないのなら。
この苦しさから逃れられるなら。
それなら、いっそ――
観覧車は、ゆっくりと頂点へと向かっていた。
窓の外には、煌めく街並みと遠くに広がる青い海が見える。
だけど、いろはの目には何の意味もなさなかった。
ただぼんやりとその光景を見つめながら、悟との思い出を反芻する。
楽しかった日々。
あの笑顔。
傍にいてくれた温もり。
(さよなら、悟くん……)
いろはは、ゆっくりと扉のロックに手をかける。
カチリ――
扉を開けると、風が吹き抜け、いろはの髪が揺れた。
(これで楽になれる……もう、苦しくならない……)
一歩、足を踏み出そうとした、その瞬間――
観覧車の頂上で、扉が大きく開いたままのゴンドラが激しく揺れていた。
轟音が響き渡り、視界の隅に炎がちらつく。ウナギトドガオガオーンの攻撃が観覧車に飛び火したのだ。
「――っ!!」
いろはは足を滑らせ、ぐらりと体が傾ぐ。
風が吹き抜け、まるで背中を押されるような感覚。
指がゴンドラの縁を必死に掴むも、鉄の冷たさがじわりと汗ばんだ手を滑らせる。
(あ……落ちる……)
そんな最悪の予感が頭をよぎった瞬間――
「!! いろは!!」
鋭い叫びが上がった。
戦闘の最中、観覧車の異変に気付いたワンダフルが、ゴンドラの端で今にも落ちそうになっているいろはを発見したのだ。
「いろはちゃん!!」
リリアンが叫ぶ。
「なんであんなことになってるの!?」
ユキが驚愕の表情を浮かべる。
だが、彼女たちが動く間もなく、ウナギトドガオガオーンの攻撃がさらに降り注ぐ。
「ガオガオーン!!!」
放たれた電撃が爆発を引き起こし、観覧車の支柱が悲鳴を上げるように軋んだ。
悟はその光景を目にして、全身の血が逆流するような感覚に襲われた。
「みんなー!」
わんぷりメンバーの戦況を気にしながらも、悟の目はただひとつのものを捉えていた。
観覧車の頂点――そこにいるいろは。
彼女の手は今にも滑り落ちそうになっている。
悟の心臓が高鳴る。
(やだ……失いたくない!)
脳裏に浮かぶのは、いろはの笑顔。
あの日、無邪気に笑いかけてくれた姿。
――悟くん!!
記憶の中で、いろはが微笑んでいる。
その瞬間、悟は衝動のままに叫んだ。
「いろはぁぁぁあああ!!!」
普段は決してしない呼び捨て――それほどに切実な声だった。
彼の全身が、ただひたすらにいろはの元へと駆け出していた。
「悟っ!!」
ワンダフルが驚愕の声を上げる。
「おい、どこへ行く気だ!?」
シャスールの声も届かない。
悟は、自分のすべてを振り絞るように走る。
(いろはちゃん……もっと早く、君の気持ちに気付いてあげるべきだった! 君にこんな辛い思いをさせてしまったボクを許してくれとは言わない! だから、ボクの前からいなくなったりしないでほしい! 約束するよ、もう二度と君を手放したりなんかしない! だから――!!)
その瞬間、悟の叫びに応えるように、アニマルタウンの鏡石が強く輝きを放った。
「――ボクが、いろはちゃんを助けるんだぁぁ!!」
眩い光が天から降り注ぎ、悟と大福を包み込む。
まゆたちが戦っている中、異変に気付いたユキが息を呑んだ。
「これは……!」
かつてプリキュアたちが力を得たように、悟と大福にも奇跡が起こる。
光の粒が弾け、悟の姿がゆっくりと変わっていく。
オレンジと黄色を基調とした戦闘服が彼の体を包み、まばゆいエネルギーが溢れ出す。
「いけー! 悟っー!」
大福が力強く叫ぶと、悟は己の中に沸き上がる新たな力を確信するように拳を握りしめた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
変身した悟は、わんぷりメンバーのようにキラリンスワンの力を借りることなく、兎のような強靭な脚力を活かして地を蹴る。
一瞬で観覧車へと跳び上がり、そのまま空中を滑空するようにいろはの元へと向かう。
その刹那――
脳裏にかなえの言葉が蘇る。
――手が届くのに手を伸ばさなかったら死ぬほど後悔する。それが嫌なら、必死に手を伸ばせ
「……!!」
観覧車の頂点、開きかけた扉。
その縁にしがみつき、今にも落ちそうになっているいろはの姿があった。
悟はその姿を捉えると、迷うことなく手を伸ばした。
風を切る音が響き、次の瞬間――
いろはの手を、しっかりと掴んだ。
「……え……?」
宙に浮いたまま、悟の腕の中にいることを自覚し、いろはの目が大きく見開かれる。
「……悟くん……?」
だが、悟はそんな彼女をしっかりと抱きかかえ、安堵した表情で言い放った。
「よかった。いろはちゃん」
「悟くん……」
「大丈夫。もう絶対、いろはちゃんを手放さないから」
「……っ!!」
その言葉に、いろはの目から大粒の涙が溢れた。
張り詰めていた心がほどけるように、彼女は震える声で呟く。
悟は彼女をしっかりと抱いたまま、慎重に地上へと降り立つ。
安全な場所に着地すると、いろはは悟の胸に顔をうずめるように身を寄せ、小さな声で言った。
「……ごめんね……ごめんね……悟くん……」
悟はそんな彼女の頭を優しく撫でながら、静かに微笑んだ。
「いいんだよ、いろはちゃん……もう、大丈夫だから」
涙が止まらないいろはをしっかりと抱きしめながら、悟はただ、彼女がここにいてくれることに安堵するのだった。
その時――
「ガオガオーン!!」
轟音とともに、ウナギトドガオガオーンの咆哮が響く。
悟は顔を上げ、戦場へと視線を向けた。
戦う仲間たち。未だ暴れ続けるフューザーガオガオーン。
いろはの涙を拭い、彼はそっと彼女の肩を掴む。
「いろはちゃん……行こう」
いろはもまた、震える指で涙を拭いながら、悟の手を握り返す。
「……うん!」
そうして、いろはがキュアフレンディに変身し、悟とともに他のメンバーと合流するや否や、二人はすぐさまウナギトドガオガオーンへと向かっていった。
「ガオガオーン!!」
威嚇するガオガオーン。
プリキュアたちが警戒する中、大福と悟が一歩前へと踏み出す。
「悟。今まで見てるだけだった分、たまにはオレらも暴れたい気分だよな」
「うん。いこう、大福!」
「おうよ!!」
刹那、二人が同時に地を蹴った。
変身後の身体は驚くほど軽く、これまでに感じたことのない力が全身にみなぎる。
悟が先に駆け出し、地を滑るようなスピードで接近。
その直後、大福が弾丸のように跳躍し、一直線にウナギトドガオガオーンの顔面へと迫る。
「喰らえぇぇぇっ!!!」
大福の蹴りが、空を裂くように炸裂した。
凄まじい衝撃が直撃し、ウナギトドガオガオーンの巨体がぐらりと揺れる。
しかし、大福は止まらない。
空中で体を捻り、そのまま回し蹴りを放つ。
「おらあぁぁぁ!!!」
もう一撃、鋭い蹴りが横薙ぎに決まる。
ウナギトドガオガオーンの頭部が激しく弾かれ、周囲の空気が振動するほどの威力だった。
着地した大福は間髪入れずに次の攻撃へ移ろうとするが――
「ガオガオーン!!!」
敵が咆哮し、太い尾を大きく薙ぎ払う。
「大福ちゃん、下がって!!」
フレンディが即座に叫ぶが、すでに尻尾は大福の目前に迫っていた。
だが――
「その必要はねぇ!!!」
大福がニヤリと笑みを浮かべる。
直後、悟がウサギ型のエネルギー光弾を複数展開し、四方八方から敵を攻撃。
不意を突かれたウナギトドガオガオーンが一瞬ひるむ。
その機を逃さず、大福が跳躍。勢いを乗せた蹴りが真上から炸裂する。
バキィッ!!
「ガオガオーン…!!」
衝撃音とともに、ウナギトドガオガオーンの巨体がぐらついた。
驚くべきことに、大福の蹴りは、敵の攻撃を真正面から押し返していた。
「すごいすごい! 大福も悟もカッコいい!」
ワンダフルが歓声を上げながら跳びはねる。彼女の瞳は興奮と驚きで輝いていた。
悟と大福のコンビネーションは、まさに圧巻だった。
「やるじゃないか」
シャスールは腕を組みながら感心したように呟く。
戦闘経験豊富な彼女ですら、大福の蹴りと悟のサポートの絶妙な連携に舌を巻いていた。
これまでの戦いでは見たことのない、新たな戦力の誕生。
二人の躍動に、わんぷりメンバーも思わず目を見張る。
「悟!」
「うん、大福!」
二人は短く頷き合うと、同時に右手と左手を翳した。
それぞれの手のひらから、強烈なエネルギーが発せられる。
光が収束し、やがて巨大なウサギ型のエネルギー体が形成された。
それはまるで実体を持つかのように、力強く跳ねるような動きを見せる。
「「はあああああ!!!」」
二人が力を込め、一斉にエネルギーを投げ放った。
ウナギトドガオガオーンに向かって一直線に飛び、凄まじい衝撃とともに炸裂する。
「今だよ!」
「止めを刺せ!」
わんぷりメンバーが呼応するように動いた。
それぞれの力を発揮し、ワンダフル、フレンディ、ニャミー、リリアンが強力なバリアを展開。
ウナギトドガオガオーンの動きを完全に封じ込める。
「いくぞ!」
そして、シャスールが構え、必殺技「プリキュア・シャスールストライク」を放つ。
その一撃が、ガオガオーンの核心を正確に射抜いた。
*
わんだふる海遊館 フードコート
戦いが終わり、プリキュアたちの浄化能力によって破損した建物は修復され、海遊館には再び平穏が戻った。
フードコートでは、それぞれが安堵の表情を浮かべ、ようやく訪れた休息の時間を楽しんでいた。
「わーい! 大福も人間の姿になれたんだね!」
こむぎが嬉しそうに跳ねる。
「ああ。また妙なことになっちまったがな……」
大福は肩をすくめつつも、まんざらでもなさそうな表情だ。
一方で、かなえは真剣な眼差しで話を切り出した。
「それにしても、兎山が見たというフューザーガオガオーンを作り出した男というのは……」
「確かに気になりますね」
メエメエが腕を組みながら頷く。
「とりあえず、それは追々考えるとしましょう」
ユキが冷静にまとめた。
「そうだよ! 何はともあれ、極限状態が二人の愛を復活させたんだから!」
まゆが嬉しそうに口を挟む。
彼女の視線の先には、カップル用のジュースを注文し、仲睦まじくストローをくわえて見つめ合ういろはと悟の姿があった。
「いろはと悟、仲直りできてよかったね!」
こむぎが目を細める。
「ああ……にしてもメエメエ、オレは野暮なことをすんなよって忠告したはずだよな?」
大福が人の姿のまま、圧を込めてメエメエの肩に手を置く。
「あははは……わたくしはただ、悟くんのためを思って……」
ニコがいない今、兄貴分である大福の迫力に耐えられないメエメエは、苦笑いを浮かべながら肩をすくめた。
すると、ユキがまゆを鋭く睨みつける。
「まゆも反省しなさいね」
「うぅ……はい……」
シュンと肩を落とすまゆを横目に、遠巻きに見守るわんぷりメンバー。
その中心では、いろはと悟が甘い空気を漂わせていた。
「悟くん♡」
「いろはちゃん♡」
二人はお互いの名を呼び合いながら、幸せそうに微笑み合っていた。
登場ガオガオーン
ウナギトドガオガオーン
声:高橋伸也
身長:510cm
体重:不明(推定数十トン)
・特色/力
トドとデンキウナギを融合させたフューザーガオガオーン。
鋭く裂けた口から高圧の電流を放ち、咆哮は衝撃波となって周囲のガラスを震わせるほどの威力を持つ。
尾を大きく薙ぎ払う攻撃が特徴で、戦場を制圧する力を持つ。
膨大な電流を放つことが可能で、その出力は天井を突き破るほどの威力に達する。
・特徴
巨大なフューザーガオガオーンとして戦場に君臨し、その圧倒的な存在感で敵を威圧する。
目は赤黒く光り、鋭い視線で敵を睨みつける。
咆哮により周囲の環境を混乱させ、水面を波立たせる。
体表から放出される電流により、一定の攻撃を無効化することができる。
・能力
電流放射
体内に蓄積した高圧電流を一気に放ち、広範囲にダメージを与える。
衝撃咆哮
強烈な咆哮で周囲のガラスを震わせ、水面を大きく揺らす。
尾の薙ぎ払い
太く強靭な尾で広範囲を薙ぎ払う攻撃。
・行動
威嚇と咆哮を繰り返し、戦場を支配しようとする。
電撃を活かした攻撃を多用し、プリキュアの攻撃を退ける場面もある。
追い詰められても最後まで暴れ続け、徹底的に抗戦する。
・戦闘記録
わんだふる海遊館に突如出現し、咆哮と電撃で大規模な混乱を引き起こす。
プリキュアたちが応戦するも、シャスールの攻撃が弾かれる場面がある。
悟と大福のコンビネーションによる攻撃で、一時的に動きを封じられる。
最終的には、わんぷりメンバーの総力戦により撃破される。