知ってる名前の少年に転生したけど、俺には正拳突きしかできない   作:幻覚症状

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人の造りしもの(中)

「砂浜ってゴミが多いですよね」

「ん? ああ……そうだな」

 

 加持さんとネルフのヘリに乗って移動する。ヘリから見下ろす海岸の砂浜には、打ち上げられたゴミが山となっていた。

 

「昔はその地域の人々が清掃していたんだが……」

「今はしないんですか?」

「ああ。海から生命がいなくなり、泳ぐこともできなくなった。漁の仕事もレジャーもなくなったから、大半の漂着物は放置されているよ。危険なものもあるから何とかしないといけないんだが、人手も予算も足りなくてな……」

 

 沖の方に、プカプカと大量に浮かぶ黒いゴミの群れも見える。あれもそのうち浜に打ち上がるのだろう。

 

「厄介ですね。ゴミも赤い海に溶ければいいのに」

「一見ゴミに見えても自然にとっては大切なものもある。海は昔は、陸の生き物にとっての命の運び手でもあったのさ」

「陸の生き物を海が運んでたんですか?」

「ヤシの木は知ってるかな? ココヤシは硬い実を海に運んでもらって生息域を広げる代表的な海流散布植物だな。モダマっていう豆もそうだ。手の平ぐらいデカくて、とんでもなく硬い豆なんだぜ」

「へぇ……」

「海は陸を隔てる障害じゃなく、自然の生き物にとっては己の種の生息域を広げる道具でもあったわけだ」

 

 こうして生き物のことを話している時、加持さんはとても生き生きとしている。その後も海を渡る動物や、渡り鳥ならぬ渡り蝶のことなんかを話してくれた。

 

「っと、つい熱く語りすぎたな。若人には退屈じゃなかったかい?」

「いえ、面白いです。あまり大人の人と雑談なんてする機会ないし……」

「……碇司令とはどうなんだい?」

「父さんですか?」

 

 ミサトさんのことならともかく、父さんのことを聞かれるとは思わなかったな。

 

「それこそ、ほとんど話したことないですよ」

 

 まともに顔を合わせて話したのって、ヘリの中だけじゃないかな。その時も正拳突きのことを聞かれたぐらいだし。

 

「そうか……お父さんのこと、どう思う」

 

 実の息子を放置しすぎじゃない? と思う。普通にかわいそうだろう。僕は人生2周目だから、別に寂しく思うこともないけど。

 

 そのことを抜きにして考えると……。

 

「使徒を殲滅する、というネルフの使命のためなら非情になれる人……ですかね?」

「君が乗っている3号機の破壊を命じたことは、なんとも思わなかったのかい?」

「あれは、状況的にああするしかないんじゃないでしょうか」

 

 後で説明を受けたけど、初号機を無人で動かす以外には、封印中の2号機を動かすしかなさそうだ。でも条約を破ればネルフ全体の責任になる。

 

 結果としては僕の入ってるエントリープラグを初号機が噛み砕いたらしいけど……さすがにそんな不測の事態まで責めるのは酷だろう。僕はかわいそうだが。シンジさんはいったいどうやって生き延びたんだ?

 

「言葉は足りないですけど、指揮に間違いはないと思いますよ」

「……そうだな」

「?」

 

 加持さんは何か言い淀んで、ニッと笑う。

 

「いや何でもない。それより見えてきたぞ。今日のイベント会場、新東京湾埋め立て地が」

 

 山を越えると、大きく広がる赤い海が見えてくる。かつての日本の首都、旧東京が沈む広い海が。

 

「日本重化学工業共同体、日本の工業を古くから担う企業の集まりだ。セカンドインパクトとそれに続く戦争のあと、彼らが積極的に全国の港湾の再整備を行った。ここ、新東京湾もそうだ。あの広大な埋め立て地はもともと千葉北部の丘陵地帯でね、ずいぶんと山を削って――」

 

 加持さんが語る中、僕はぼんやりと何もない埋め立て地と、赤い海と、沖に広がる黒いゴミを眺めるのだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 伊吹マヤは激怒した。

 

 かならず、この厚顔無恥な主催者を除かねばならぬと決意した。

 

 マヤには政治は分からぬ。マヤはネルフ技術部のいちスタッフである。他所との交渉は渉外担当者に丸投げし、司令なんかいない方が静かでいいと己の仕事のみに専念してきた。

 

 しかし、先輩であるリツコの仕事にケチをつけられるのには人一倍敏感であった。

 

「マヤちゃん、落ち着いたらどう?」

「これが落ち着いていられないですよ!」

 

 JA完成記念会。日本重化学工業共同体の開催するその記念会に、伊吹マヤは招待された赤木リツコの名代として出席していた。

 

 そして、控室で同じく碇ゲンドウの名代として出席している日向マコトに向かい、パンフレットを机に叩きつけながらキレている。

 

「この資料! どう見てもエヴァのことを当てこすりしてるじゃないですか!」

「いやぁ、痛いところを突かれてるよね」

「それに搭載されてる自律型コンピューターとかいうの、どう見てもスペック的に第7世代型ですよ! うち以外では実用化されていないはずなのに……」

「松代の爆発事故でMAGIのバックアップも消失したと報告されていたけど、もしかしたら横流しされたかもね」

「許せない」

 

 マヤは歯ぎしりする。エヴァも第7世代型――MAGIシステムも、赤木リツコの功績であるはずなのだ。それをこのパンフレットは、あたかも自分たちの手柄かのように。

 

「問い詰めて前歯全部折ってやる!」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「改めまして、ようこそ、本日はご多忙のところ、我が日本重化学工業共同体の実演会にお越しいただき、誠にありがとうございます」

 

 祝、JA完成記念会。

 

 そんな文字の書かれた横断幕が高々と掲げられ、いくつもの花輪が立ち並ぶ会場の中、壇上に立ついかにも技術者といった感じの男が、さんざんプロモーションムービーが流れた後にようやく挨拶する。

 

「今、我々はセカンドインパクトに次ぐ新たな脅威に見舞われています。謎の巨大敵性体、これに対抗するための新たな力。それが日本純国産ロボットのJA、ジェットアローンなのです」

 

 会場には多くの上流階級らしき人間が集まっていた。共同体の各企業の重役、国の役人、そして海外からの招待客。

 

 その中で、ネルフの席はドンと会場の中央に、ドデカく用意されていた。

 

 わざわざ特注したと思わしき、通常の3倍の直径はありそうな丸テーブルに。

 

「マヤちゃん、飲み物いる?」

「取れるもんなら取ってみてくださいよ」

 

 たった二人でこの席に案内されたマコトが皮肉を言うのを、マヤは睨みつけた。丸テーブルの中央に置かれたシャンパンボトルには、どうやったって手が届きそうにない。……むしろ置くときの方が大変だっただろう。

 

 幼稚な嫌がらせだが、今のマヤにはよく効いていた。

 

「日本の誇る科学技術の粋を結集して造りあげたジェットアローンは、既存の兵器に対して圧倒的な優位性を持ちます。すでに複数の機関でその性能は高く評価されており――」

「よく言いますよね。今日初めて動かすくせに」

「すでにJA-02、ジェットアローンの2号機がフランスのパリで建造、完成間近となります」

「えッ」

 

 おお、と会場が沸く。モニターにその姿が映し出されると、拍手まで沸き起こった。

 

「他にもすでにいくつかの国と交渉中です。JAシリーズはこれから世界各地で受注生産されることになるでしょう」

「えぇ……?」

 

 マヤは頭がくらくらした。

 

「なんでまだ実際に動かしてもいない機体の2号機が……」

「ウチも似たようなものじゃない?」

「先輩の理論に間違いはないんですッ」

 

 確かに強引な開発計画ではあったが、それは使徒の襲来に間に合わせるためであり、事実間に合った。とにかく、エヴァとは事情が違うのだ。

 

「さらにJAの特徴としては、親しみやすさというものもあります。参画企業の得意とする合成音声技術により、自然な音声でのコミュニケーションが可能です。こちらはマスコットキャラクターのJA子ちゃんとなります」

『どうも~。JA子ちゃんダヨ~』

「オォ~!」

「各種グッズも展開予定です。サンプルは会場外にありますので、お帰りの際にご覧ください」

 

 おしゃべり人形とエヴァは違う。そのことを分からせなければならない。マヤは使命感に拳を固く握りしめた。

 

「さて、皆様には後ほど管制室の方から公試運転をご覧いただきますが」

 

 壇上の男、時田シロウはちらりとネルフ一行を見る。

 

「ご質問のある方はこの場にてどうぞ」

「はい」

 

 あ〜あ、という顔をするマコトを無視して、マヤは高く手を挙げる。

 

「これはネルフの技術部にお勤めの、伊吹さんでしたか? お越しいただき光栄です」

「質問を、よろしいでしょうか?」

「ええ、ご遠慮なくどうぞ」

 

 余裕そうなその前歯を折ってやるという気概で、マヤは質問を始める。

 

「JAは内燃機関を内蔵とありますが」

「ええ、本機の大きな特徴です。連続150日間の作戦行動が保証されております」

「しかも武装はなし、戦闘手段は格闘戦のみとのことですね」

「JAの出力ならば武器は必要ありません」

「すべてナンセンスです」

 

 マヤは先輩の姿を思い浮かべながら、キリッとした表情を作って言った。

 

「人型兵器の利点は人間と同じ動作ができるということです。様々な道具を扱えるという利点を捨てる意味がありません。最低でも数種類の火器は運用できるようにするべきです」

「銃弾やミサイルを撃つだけなら、人型の兵器がわざわざ引き金を引く必要はないのではないでしょうか? そんなものを作るより砲台のほうがコストがかからず大量生産できます」

 

 ……た、確かに!? とマヤは納得しそうになった。

 

 いや、だが使徒にはATフィールドがあるのだ。あれを中和することはエヴァにしかできない……あれっ、エヴァには中和作業だけさせて兵装ビルから砲撃すればいいのでは?

 

 いけない。惑わされるな。マヤは疑念を振り払って質問を続けた。

 

「格闘戦を前提とした陸戦兵器にリアクターを内蔵することは、安全性の点から見てもリスクが大きすぎると思います!」

「コードが抜けると5分も動けない決戦兵器よりはよい選択肢だと思いますよ」

「遠隔操縦だと緊急時の対処に問題があります! 実際に通信妨害を行う敵性体も以前襲来しました!」

「そのための自律型コンピューターの搭載です。通信が切断された場合、JAは自分の判断で安全行動を取ります」

 

 時田はフッと笑う。

 

「まさか緊急時の対処のためにパイロットを乗せろとでも? コクピット内で手動操作できることなんて限られています。人を内部に乗せるなど、無駄なリスクをとった非人道的設計でしょう」

「それは……」

 

 自分だって分かっている。好き好んで子どもを危険にさらしたくなんてない。しかしATフィールドのためにはどうしても必要な処置なのだ。

 

 だが、それを主張することはできない。ATフィールドは機密事項に指定されている。時田に自分たちの苦悩が分かるはずがない……。

 

「分かりますよ」

「エッ」

 

 まるで心を読んだかのようなタイミングで発せられた時田の言葉に、マヤは思わず間抜けな声をあげる。

 

「ネルフの兵器にパイロットを乗せなければならない理由は分かっています」

「そんな」

 

 どこから情報が漏れたのか? マヤが困惑している間にも、時田の言葉は続く。

 

「ええ、皆さんも疑問に思われたことでしょう。なぜ、JAには武装がないのか? なぜ、外部操作だけでなく自律型コンピューターを採用したのか? その答えは……これです!」

 

 モニターがパッと切り替わる。

 

「は」

「え」

 

 それを見て、マヤもマコトもポカンと口を開いた。

 

 

 日 本 空 手 道 × 超 統 一 正 拳 突 き 理 論

 

 

「現代兵器をはるかに上回る火力!」

 

 ばっ、と時田はスーツを脱ぎ捨てる。その下に着込んでいたのは、真っ白な道着だった。

 

「それを生み出すのは日本の伝統武道、空手。人体の神秘の力を科学技術で研ぎ澄ませて放つ、正拳突きなのです! ハァッ!」

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