知ってる名前の少年に転生したけど、俺には正拳突きしかできない 作:幻覚症状
「全域!? そんな巨大な使徒が来たっていうの!?」
「いえ、それにしては反応がおかしいです。場所によって強弱があって……」
「地上の映像出ます!」
主モニターに第3新東京市が映る。暗い雲の下、雨に打たれる要塞都市。
しかし、どこにも異常は見られない。
「使徒なんてどこにも……」
「ッ! 工業エリアにて爆音! 映像出ます……これは!?」
「柱……?」
モニターに映る、煙の中に立つ黒い柱。
「爆心は市内第2ごみ処理場」
「この柱が使徒……?」
「パターン青、依然第3新東京市全域。いえ……反応拡大しています! 南部山稜、いえさらにその向こう――」
「何ですって!?」
「対象に動きが!」
柱が、動く。
瓦礫の中、ゆっくりと頂点から溶けるように形が変化する。流れ出していく。
「崩壊した?」
「違います、これは……単体ではありません! 集合体です!」
拡大された画像が、その詳細を映し出す。小さな手の平程度の大きさの円柱。それが浮遊して周囲の円柱と合わせて動き、全体として大きな柱を形作っている。
一糸乱れぬ動きで、円柱たちは巨大な柱として移動し、そして波のように崩れて市街部へとなだれ込む。津波のように飲み込んだものを破壊しながら進んでいく。巻き込まれて吹き飛ばされる乗用車、折れて電線から火花を散らす電柱。
「……ッ! この円柱を構成する物体群を第12の使徒と認定、作戦目標に設定。第一種戦闘配置。住民の避難急いで!」
「総員、第一種戦闘配置!」
「市全域に警報発令!」
「避難急げ!」
「市内に新たに目標発生! 第6ごみ集積所、第8臨時ごみ集積所からです!」
モニターに煙を上げて立ち上がる円柱の姿が映し出される。
「1体ではない? いえ……」
「駿河湾沿岸部……いえ遠洋までパターン青! 反応急激に増えていきます!」
「海から!?」
海を漂い、ゆっくりと押し寄せていた黒いゴミ。
それが今、洋上を駆ける津波となって陸を目指す。そして打ち上げられた集合体は、砂浜に堆積していたゴミと合流し、爆発的に膨らみ、円柱として立ち上がった。
「沿岸部に目標、円柱形状で集合していきます……数は、72! すべてパターン青!」
「数による飽和攻撃を仕掛けてきたか。……兵装ビル群および地上部隊で総攻撃、時間を稼いで」
「了解、攻撃開始!」
どうせ使徒にはATフィールドがある。通常兵器の火力では歯が立たないだろう。しかし足止めにはなるはず。ミサトはそう考え――
「その間に初号機封印解除の上申を――」
「目標第39円柱、攻撃により倒壊!」
「へ!?」
倒壊?
「モニターに出ます!」
映像が表示される。円柱の中央付近に銃弾の嵐を浴びて柱がぐにゃり、と曲がり、5発ほど打ち込まれたミサイルの爆煙でぽっきり2つに折れて倒壊する円柱が。
「まさか……通常兵器で使徒が倒せる? ATフィールドは?」
「確認できません!」
ATフィールドを持たない使徒。以前の報告にあった。第9+10の使徒がそうだったし、そういえばMark.06もATフィールドがない。
「ATフィールドがないならば火力で殲滅できるか?」
「駄目です! 目標第39円柱、再構築されます!」
モニターの中で、一度倒壊した柱が再び集合して立ち上がる様子が映し出される。
「ダメか。痛くもかゆくもないって感じね」
「あの円柱の質量の0.62%を損失させた見込みですが……」
「そこらへんからどんどん補充されてる。焼け石に水だわ」
足元を転がる小さい円柱が柱に近づき、ぱっと磁石のように吸い付いて合流していく。
「とはいえ有効には違いない。攻撃を続けて――」
「兵装ビル稼働率低下」
「次々に自壊していきます!」
「なぜ――」
モニターに爆発する兵装ビルが映る。その爆煙の中から飛び出した小さな円柱群。
「こちらの施設の破壊を……!?」
「沿岸部の72体の円柱、徐々に第3新東京市方面に移動しています」
「市内の目標は波のような形状で市内を無差別に移動中」
「使える砲台だけでいい、とにかく撃ち続けて! 零号機、Mark.06の発進準備急いで!」
「洋上に未確認飛行物体多数確認!」
「今度は何!?」
正体不明の集合体の使徒。それに続く未確認飛行物体。
それでもミサトは現状を把握しようとする。
「とにかくモニターに回して!」
「ミサトさん!」
「シンジくん!?」
発令所にシンジが飛び込んでくる。後ろにはレイも一緒だ。揃って訓練のために本部に移動していたのだろう。
「何が起きてるんですか!?」
「ちょうどよかった、碇シンジ正拳突きアドバイザー。現状を――」
「なっ……今映ってるあれって……」
シンジが、モニターを指す。
「……エヴァ!?」
◇ ◇ ◇
『最後の使徒が現れた』
『あれを殲滅するのが君の最後の仕事だ』
モノリスからの声。ゲンドウは手を顎の下で組んで言う。
「初号機の封印解除を。敵は物量で攻めてきました。こちらの手駒が足りません」
『駄目だ』
『認められん』
ゲンドウの要請は即座に否定される。
『何、心配には及ばんよ。援軍は送ってある』
『この難局を乗り切るのに十分な数だ』
『もはや旧型機の出番は必要ない』
『計画の完遂を期待しているぞ』
「……ええ。すべては人類補完計画のために」
◇ ◇ ◇
警報が鳴り響き、とにかく状況を知るために僕と綾波さんが飛び込んだ発令所の大きなモニターに、そいつらは映っていた。
「エヴァ……?」
光輪を背に空を飛ぶ、白いガイコツのような奇妙な仮面をかぶった巨人。
それが何十体も横一列に並んでいた。
「未確認飛行物体、総数30体!」
「まさか、使徒なの?」
「パターン検出されません……待ってください、識別名表示されます! これは……」
「エヴァンゲリオンMark.07シリーズ? 聞いてないぞ!?」
あれが、エヴァンゲリオン? なんか……ずいぶんホラーな外見だ。しかも30体。いつの間にそんなに作ってたんだろう。
「量産型、なのか……?」
「いったいどこで建造を……」
「今はとにかく状況の打開よ。味方が増えるなら結構、使わせてもらいましょ。どれでもいいわ、Mark.07のパイロットと回線をつないで」
「……駄目です、どの機体も応答ありません!」
「Mark.07シリーズ、目標と接触します!」
白い仮面のエヴァが、空から次々と海岸沿いでうごめく柱に飛びかかっていく。それは真っすぐに殴り、腕を振り回し、頭から突っ込んでかじりつく。
「……ずいぶん原始的な攻撃方法ね。正拳突きすればいいのに」
「ですが質量は確実に削っています。正拳突きほどのペースではありませんが」
エヴァの大きさでは腕を振り回すだけで爆弾並みの威力がある。柱を構成する物体群は、乱暴に叩き落とされて赤い液体と化し消えていく。
その様子は、まるで幼児が本能のままに暴れまわっているようだった。
「まさか、無人機?」
「ありえますね。少なくとも知性は感じません」
「海岸部の目標は、エヴァMark.07シリーズとの交戦を選択した模様」
「なにはともあれ、時間稼ぎはしてもらえそうね。それじゃ今のうちに――」
『今のうちに、目標について分かったことを報告するわ』
モニターに、白衣姿の赤木さんが映った。暗い、どこかの実験室のようだ。
『第12の使徒はこれまでの使徒とは違うわ。個として完成した単体の生物ではなく、群れとして活動する群体タイプ。そしてその発生源が、これよ』
赤木さんはガラスケースの中のものを指す。
「……ゴミ?」
『ここ最近海から漂着していたゴミ。この中の一部に極小の使徒が潜伏している。砂粒程度のものよ』
ガラスケース内の機械が動き、ゴミを切り分ける。そして砂粒のような物体が中央に置かれた。……なんの変哲もない砂、に見える。
『不活性状態では単なるタンパク質。けれど今、これらは周りの同種と融合しようとしている』
もうひとつ砂粒が近くに置かれると、まるで風に吹かれたか傾斜に負けたかのように、砂粒同士が引き寄せられていく。
『そして一定以上の質量が集まると――』
ざらっ、と追加でガラスケース内にばらまかれた砂粒たち。それは渦巻くように動いて中心で塊になると――ボコッと泡立ち、小さな缶コーヒーほどの大きさの円柱に変化した。
『こうして爆発的に増殖し、結合。使徒として覚醒するわ。そして群体として行動を取り始める』
ガラスケースの中の円柱……第12の使徒のひとつは、飛び回ってケースの中から逃れようと体当たりを始める。
「街中に使徒がいたのに気づかなかったとは……」
『そしてネルフ本部にもね』
サブモニターにネルフ本部の通路が表示される。普段なら清掃の行き届いているその場所は、最近のゴミ事情のせいでうっすらと汚れていた。そして、通路の隅では砂粒のようなものが、ゆっくりと動いている。
『幸い1個体の攻撃力、防御力は大した事ないわね。ATフィールドも発生させないし、通常兵器で倒せる』
ごおっ、とガラスケース内に火炎が放射され、使徒は燃え尽きて崩壊した。
『今、技術部と衛生部が総出で清掃ロボットを改造して焼却機能を搭載、逐次投入しているわ。本部の浄化はおよそ1時間48分後には完了予定。MAGIによるシミュレーションでも、今の本部内に入り込んだ質量では脅威足りえないと出ている。ただ――』
再びモニターに映る、沿岸部の巨大な円柱。それはMark.07に殴られながら突進し、駆け抜けていく。
『脅威なのはその数と群体としての生態ね。自己犠牲をいとわず、愚直に行動してくる……まるで小魚の群れだわ』
海を漂うゴミ、小魚の群れ。
それを聞いて、僕は渚くんと加持さんの言葉を思い出した。
もう何ヶ月も前……生き物について語るふたり。
『確かに食べられる魚はいるだろうね。けれどその犠牲のおかげで他の多くが生き残ることができる。個としての命ではなく、種としての命を優先する。これも生きる知恵さ』
『ヤシの木は知ってるかな? ココヤシは硬い実を海に運んでもらって生息域を広げる代表的な海流散布植物だな。モダマっていう豆もそうだ。手の平ぐらいデカくて、とんでもなく硬い豆なんだぜ』
……第12の使徒は海を使って種をまき、群となって生きる……生物?
「対処法は?」
『活性化するまえに焼却処分するのが有効だけど、一箇所にまとめるのは考えものね。群れとなった質量攻撃は危険よ』
「どこかに本体がいて、そいつを仕留めれば止まらないかしら」
『目標の組織は全てコアで構成されているわ。おそらくどれもが平等で、頂点や中心はない。全てを消滅させなければ、使徒を殲滅したとは言えないでしょうね』
「あれを全て消滅って……」
できるんだろうか? モニターには海岸に、街に、いたるところに使徒が映されている。
「ATフィールドがないなら……N2航空爆雷で地上を一掃、残りを各個撃破が妥当か」
「爆弾って……そんなことしたら街が!」
「使徒殲滅のための要塞都市よ。必要なら焼き払いもする」
ミサトさんの硬い言葉。オペレーターの人たちも無言でモニターを見ている。
その覚悟が、この人たちにはある。だけど……。
『使徒迎撃のための要塞都市とはいえ、誰も彼もがネルフ関係者ってわけじゃない。その生活を支える労働者がいて、そういう人たちにとっては日々の生活こそが戦いなんだ』
――ゴミ拾いのボランティア。あれに参加していた人たち、その全員に同じ覚悟があるだろうか?
「とにかくレイは発進準備。シンジくんは正拳突きアドバイザーとしてここで待機。Mark.06の少年の状況は?」
「現在所在不明です!」
「渚くん……」
僕は今、エヴァに乗れない。綾波さんと渚くんに託すしかない。
なのに今いないって……いったいどういうことなんだ?
◇ ◇ ◇
「最後の使徒が来たみたいだね」
『左様』
白髪赤目の少年、渚カヲルは天井を仰ぐ。彼を囲むように投影されたモノリスは、静かに応えた。
「僕は戦わなくていいのかい?」
『最後の使徒が殲滅され、契約の時を迎える』
『そのためのエヴァンゲリオンMark.06』
『些事は他に任せておけばよい』
ゼーレは、少年に静観を望んだ。
『儀式に必要な機体もまもなく揃う』
『人類補完計画。それが君の望みでもあるはずだ』
「………」
そう伝えている。ゼーレには。
しかし、リリンにはまた別のことをカヲルは伝えていた。
「望み、か」
これまでとは違う様子の『彼』に、カヲルは自身の計画に疑念を抱いている。果たしてそれが彼の幸せに繋がるのかどうか。
「………」
間違えたら、やり直せばいい。
カヲルは微笑みを浮かべ、ポケットに手を突っ込み、静かにたたずむのだった。