知ってる名前の少年に転生したけど、俺には正拳突きしかできない   作:幻覚症状

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終わる世界(4)

「市内の目標、螺旋形状に変化していきます!」

 

 ザザァ、と。

 

 ひとつひとつが小さな個体の第12の使徒は、街を洗うように移動して群れを大きくし、竜巻のように巻き上がっていった。その範囲に巻き込まれたビルは、あっという間に粉々になって消えていく。

 

「N2航空爆雷の使用許可出ました!」

「住民の避難は100%完了」

「こういうときばかりは政府の決断も早いわね」

 

 ミサトさんが皮肉を言う。その表情は険しい。

 

「N2航空爆雷投下準備! 標的、市内部の第12の使徒。包囲焼却、やるからには欠片も残すな!」

「N2航空爆雷投下準備」

「MAGIによる投下地点計算完了」

「投下部隊、上空1200メートル北北西より進入開始」

「風向きよし。Tマイナス20」

「目標に動きなし」

 

 すぅ、と小さく息が吸われた。

 

「投下!」

 

 モニターに映る曇天、その上空で、複数の飛行機が円を描いて爆弾を投下した。その様子は地上からは見えない――

 

「目標の動きに変化!」

 

 それは、一瞬のことだった。

 

 螺旋を描いてまとまっていた使徒たちから、稲妻のように飛び出していく個体。後を追う個体が次から次へと続き、まるで竜巻から解き放たれた糸のように空へ舞う。

 

「爆雷に向かって行きます!」

「まさか」

 

 そしてそれぞれの先端が爆弾に近づくと、ブワッとまとわりついてその進路をそらす。使徒を中心に円状に投下された爆弾は、螺旋を描いて一箇所にまとめられ、押し上げられ、そして個体たちが何重にも包み込む。幾何学的な不思議な形状。

 

 爆発。

 

 しかし……それはわずかな音と光だけを残し、幾何学的形状の使徒の群れとともに消えた。

 

 第3新東京市に渦巻く竜巻のような使徒の群れは、ほとんど変わらない様子で螺旋を描いている。

 

「……効果測定!」

「目標……およそ0.8トンの質量を焼却しました!」

「たったそれだけ!?」

「個体群による未知の形状の構造体に包囲され、威力が大幅に減衰しました。熱、衝撃波、共に想定の99.996%減」

『おそらく多次元的な格子構造ね。第6の使徒の形状変化と類似性が見られるわ』

 

 赤木さんが感心したように言う。

 

「格子構造……N2爆雷の威力を防ぐほどの緩衝材ってこと?」

『それだけじゃない。エネルギーのほとんどが虚数空間に消えている。解析できれば世界の物流と材料工学に革命が起きるわね』

 

 何を言ってるのかよくわからないけど……爆弾は効果が薄いらしい。

 

「我が身を犠牲にしても群れを守るか。ますます小魚ね」

「頼みの綱のN2兵器も役に立ちませんね。いっそ網でも投げますか?」

「……アリか!?」

「えっ」

 

 メガネの人……日向さんが、茶化しを真面目に受け取ったミサトさんに虚を突かれたその時だった。

 

「エヴァMark.07-22、墜落! 使徒に取りつかれます……これは!?」

 

 次なる異常が告げられたのは。

 

「モニターに映して!」

 

 映像が切り替わる。白いガイコツの仮面をかぶったエヴァが、使徒の群れに叩き落されて砂浜に落ちていた。水柱のように吹き上がる黒い砂。

 

 そして、その中で倒れるエヴァMark.07に滝のように降り注ぐ使徒。それは――エヴァMark.07についたバルブのようなパーツ、仮面の下の口など、あらゆる穴からエヴァの中に潜り込んでいく。

 

 衝撃にグネグネと不気味にエヴァMark.07の手足が動き、膨らみ……そして急に元のサイズに戻ると、スッと直立する。

 

「なんだ……?」

「ダメージはないのか?」

「ッ! パターン青! エヴァMark.07-22、侵食されました!」

「なんですって」

 

 ゆらり、と動き出したエヴァが……他のエヴァMark.07に襲いかかる。不意を打たれたエヴァは、しかしすぐに他のMark.07たちと共に侵食されたエヴァを攻撃し始める、けど――

 

「エヴァMark.07-06、11、29、同じくパターン青!」

「円柱形状の使徒、全てエヴァへの侵食を開始!」

 

 1体、また1体と次々にエヴァが、乗っ取られていく。

 

「くッ……そのうえ第9+10と同じ侵食タイプ!? ってか、あんたたちATフィールドはどうしたのよATフィールドはっ! ATフィールドで防ぎなさいよ!」

「どうやらMark.07シリーズもATフィールドを発生しないようです」

「なんなの最近のエヴァーは! ナメてんの!?」

 

 キィーッ、とミサトさんが頭をかきむしる。そして――

 

「……エヴァMark.07シリーズ、30体、全てパターン青に変化」

「海岸の72円柱は全てMark.07シリーズの体内に侵入しました」

 

 30体の巨人が、第3新東京市に向けてゆっくりと飛行を始める。

 

「……ATフィールドはない! 迎撃して!」

「兵装施設の97%超がすでに群体形状の目標によって破壊済みです」

「チッ……」

「役に立たない援軍でしたね」

「……群体から人型形状にまとまってくれて、むしろ状況がシンプルになったわ。Mark.07シリーズを第12の使徒の一部として認定、作戦目標に設定」

「目標Mark.07タイプ、第3新東京市到着までおよそ5分40秒」

「零号機発進準備完了しました!」

 

 いつの間にか綾波さんは零号機に向かっていたらしい。モニターにエントリープラグ内の綾波さんが映される。

 

『出撃。いけます』

「ダメよ。まだ群体タイプが地上にいる。零号機にはATフィールドがあるとはいえ、あの数に包囲されて侵食されたら元も子もないわ。レイは待機」

「ミサトさん、僕も」

「初号機は国連の決定で封印中よ」

「でも非常事態ですよ!」

 

 初号機さえあれば戦える。少なくともアレを吹き飛ばすぐらいはできるはずだ。なのに、ミサトさんは首を縦に振らない。

 

「……他にも方法はあるはず。それを考えるのが私たちの仕事よ。だから今は耐えて」

「でも――」

「目標、回転を停止!」

 

 第3新東京市を蹂躙していた使徒の竜巻が、ぴたりと止まる。

 

「動きを止めた? なぜ――」

 

 そして――頂点から溶けるように崩壊していった。細かく分かれ、落ちて転がり、雪崩れていく。

 

「目標、さらに細分化。砂状形態に……ッ! ビルシャフト内部に侵入を検知!」

「……! やられた!」

 

 まるで流砂のようになった使徒の群れが、ゆっくりと都市の中に沈んでいく。

 

「ジオフロントを行き来するビル群のシャフトには当然すき間がある……ビルを破壊した今、あの使徒なら容易に侵入できる!」

 

 すき間、と言ってもかなり大きなモノもあるらしい。安全点検を怠ってビルを引っ込めると、ジオフロントに車が降ってくることもあるとか。

 

「地上との接続部を全て閉鎖! 水道管、通気孔、あらゆる穴と管を閉じて! ヤツの狙いはドグマよ!」

「通気孔閉塞開始! 隔壁閉鎖!」

「取水封鎖」

「排水システム稼働停止急げ!」

 

 ガツン、ゴゴゴ、キリキリキリ。ネルフ本部内のさまざまな場所から機構の動く音がする。

 

「第81から2340までの隔壁閉鎖確認」

「通気孔完全封鎖。ネルフ本部内の二酸化炭素濃度限界値まで約80時間の予想」

「排水の汲み上げも停止しました。こちらは数日は持ちます」

「メインシャフト隔壁全閉鎖完了」

「目標の一部、ジオフロントに到達します!」

 

 天井から、薄明かりを反射してサラサラと使徒が落ちてくる。

 

「迎撃設備起動。銃撃、爆撃、火炎放射、なんでもいい、とにかく質量を削って!」

 

 ジオフロント内の至る所に埋め込まれていた兵装が起動し、攻撃を加え始める。しかし――

 

「目標流入速度さらに増加!」

「ダメです、殲滅間に合いません!」

「兵装施設に目標が侵入! 破壊されていきます!」

 

 今や至る所から滝のように流れ落ちてくる使徒に、対処ができなくなっていく。

 

「封鎖は完了しましたが、完全に密閉されていない区画もあります。いずれ侵入されますよ」

「いいから時間を稼いで。セントラルドグマまで侵入させなければいい。なんたって本部の構造は複雑怪奇なんだから、案内もなしに入り込もうとしたってすぐにはたどり着かないはず……物量で迷路を攻略されるのだけは阻止しないと」

 

 ミサトさんは唇を噛む。

 

「……あるいはここに全て引きずり込んで自爆するか……? あのN2爆雷を防いだ防御形態を取るのに十分な空間が必要なのであれば……」

 

 そして僕の目線に気づいて、苦笑いした。

 

「大丈夫よ、その時はシンジくんとレイは地上へ送るわ」

「そういうことじゃ……!」

「セントラルドグマへの到達時間の予想は?」

 

 僕から目をそらして、ミサトさんは指示を出す。

 

「目標の砂状形態の移動速度から現在シミュレーション中」

「最新の地図が施設部から上がってきました。再計算、3分ください!」

「毎日どこかしら工事やってるものね……」

「……予想時間出ました。ランダムな動きで本部内を移動した場合、到着までおよそ50時間」

「清掃ロボットによる浄化をフル稼働した場合は84時間とMAGIが回答しました。ただし二酸化炭素濃度に影響が」

「侵入状況は引き続き注視。Mark.07タイプは?」

「まもなく稜線を越えます!」

 

 ビルが破壊され、砂になった使徒に沈む、砂漠のような第3新東京市を囲う山並みから、Mark.07たちが飛来する。

 

「アレに隔壁を破壊されて流量を増やされると厄介ね……」

「しかしシャフトも閉鎖していますから、零号機は出せませんよ」

「兵装施設も全て破壊されたか動作不能です」

「………」

 

 ミサトさんが口を閉じる。深く考えている目だ。まだ何か手があるんだろうか――

 

「変です! 本部内に侵入した砂状目標、拡散しません! 指向性をもって移動しています!」

 

 その一瞬の静寂を、伊吹さんの悲鳴のような報告が消し飛ばした。

 

「ランダム移動ではないということ!?」

「セントラルドグマまで封鎖が完全ではないと予想されるルート47を、すべての目標がトレースしています! このまま最短距離を移動すれば到達までおよそ11分!」

「そんな馬鹿な。どうやってルートを割り出したんだ。物理的な経路探索には時間がかかるはず……!」

『何か目印でもあるのかしら?』

「目印……。っ!」

 

 ミサトさんが、目を見開いて息を呑む。

 

「まさか」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 それ、は――

 

 セントラルドグマで『槍』に貫かれて停止する、第2の使徒リリスからサンプルを採取するためにやってきた技術者の靴裏に張り付いていたゴミ……砂……――第12の使徒のひとつは。

 

 目覚め、同種を呼んでいた。

 

 それは、大きくなる必要があった。一粒では接触を果たせない。

 

 だから、群れるために……呼んでいる。

 

 物言わぬ巨人、リリスの前で、ただひたすらに呼びかけていた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

(間違いない。使徒はすでにドグマに潜入している)

 

 ミサトはそう確信した。それだけが使徒の動きに説明をつけられる。砂のような使徒だ。それをくっつけてレベルEEEに侵入した何者かがいてもおかしくない。

 

 そこまでは、いい。

 

 侵入したにも関わらずリリスと接触していない理由も分からないが、それも今はいい。

 

 問題は――セントラルドグマへの使徒侵入を許したというのに、 本部が自爆していないことだ。最終手段として、セントラルドグマでパターン青を検出すれば即座に自爆することになっている。

 

(ゴミの時はパターンが検知されなかったから? でも、今は検知している……されるはず……なのに自爆しない)

 

 考えられる可能性。

 

 自爆がブラフであること――それはない。使徒相手にブラフなど。それに爆薬の設置には多くの技術者が関わっている。実は自爆装置なんてないなら、とっくに噂になっているはずだ。

 

 であれば、何者かが自爆装置を無効にしている。そしてそんなことが可能な権限を持つものは。

 

(碇司令……? ゼーレ……? まさか人類への裏切りを?)

 

「Mark.07タイプ、降下します!」

 

 わずかな思考時間。それを中断させたオペレーターの声に、ミサトは顔を上げてモニターを見る。壊滅した第3新東京市に降り立つ、使徒に侵食されたMark.07たち。やはりジオフロント、そしてドグマを目指すようだ。

 

 阻止しなければならない。無理矢理にでも零号機を出すべきか。しかし――

 

「上空、北西から侵入を検知!」

 

 さらなる苦境の予感が告げられる。歯ぎしりして次の報告を待った。

 

「航空機の混成部隊です、所属は……」

『WILLEと呼んでくれ』

 

 割り込んで通信してくる、聞きなれた声。

 

「……加持!?」

「加持さん!?」

『待たせたな、葛城。それにシンジくん』

 

 加持は――いつもの調子ではなく、重い口調で言った。

 

『これよりWILLEは、使徒殲滅、そして――』

 

 ミサトは――己の耳を疑った。

 

『ネルフ壊滅作戦を遂行する』

「……は?」

 

 理解が、できないまま。

 

『エヴァンゲリオン各機、降下開始!』

 

 航空機に抱えられていた2機の巨人が切り離され、第3新東京市へと舞い降りる。

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