知ってる名前の少年に転生したけど、俺には正拳突きしかできない 作:幻覚症状
魂の座(1)
「っは……!」
目を覚ます。広々とした部屋のベッド。いつもの病室。
……いや広すぎるんだよなこの病室……なんでベッドひとつなのにこんなに部屋でかいんだろう? 大部屋よりでかくない?
「いてて……」
体中に穴が空いた感覚がまだ残っている。エヴァとのシンクロによるフィードバックダメージ、というやつにはいつまでたっても慣れない。
やれやれまた病院送りになってしまった。こんな頻繁に病院送りになる主人公なんていないだろう。……いるのかな、かわいそうだから。
とにかく、いつも通り起き上がって、誰かが来るまで正拳突きの鍛錬でも――
「――いや、そんな場合じゃない!」
僕はなんでここにいる? エヴァ8号機から救出されたのか? ……そうだとして、いったい誰が?
ミサトさんたちは、ヴィレの人たちと脱出するようなことを言っていた。うまくいっていたら本部には残っていないはず。なら……。
シューッ、と音を立てて病室の扉が勝手に開く。……誰もいない。
「あの……誰かいますか」
首を廊下に出してみるけど、誰もいなかった。ただ、内装的にネルフではありそうだ。
「え、寒っ……風……?」
ただ、ネルフの完璧な空調は止まっていて、なぜか風が吹いていた。よく分からないまま風上へ向かう。すると。
「うわっ……!?」
穴。
壁に穴が空いて、空が見えていた。青い空と太陽。目の前……水平なその先に、白い雲。
おそるおそるその穴に近づいて、分かった。
ここは……空の上だ。
はるか下に山。そして……黒い柱……浄化無効阻止装置が並び、赤い大地と緑の大地の境になっている様子。
――いや、何が起きたんだよ!? なんでネルフ本部が空飛んでるの!? 地下にあったよね!?
「サードインパクト、その結果さ」
「おわっ!?」
急に後ろから話しかけられてびっくりした。誰もいないもんだと思ってたから……。
「……渚くん」
「やあ、シンジくん」
にこやかに手を振るのは、白髪赤目の少年、渚カヲルくんだった。
「なんでここに……」
「逃げそびれてしまってね。でもよかったよ、そのおかげで君とまた会えた」
「……サードインパクトの結果って、何のこと?」
「セカンドインパクトによる海の浄化」
渚くんは隣に立ち、外を睥睨しながら言う。
「そしてサードインパクトは本来なら大地を浄化するはずだった。けれどリリンたちによる封印と、槍による強制停止によって、その影響はジオフロント周辺に限定された……でも範囲が限定されたことで、逆に儀式の段階が進んでしまったんだ」
僕は頭が悪いから、渚くんの言っていることがほとんどよく分からない。ただ――思い出した。
「ッ、加持さんは!?」
「残念だけど」
「……ッ」
Mark.06の口腔に身を投じた加持さん。あの後、Mark.06は自ら槍を胸に刺した。あれが……きっと加持さんの奥の手だったんだろう。
「……そうだ。真希波さんは? それに綾波さん……アスカ、ミサトさんは? ネルフの人たちは?」
「第二の少女なら、反ネルフ組織ヴィレと一緒に方舟で撤退していったよ」
「反ネルフ組織……」
「そう。見てごらん」
渚くんが指した先。赤い大地と黒い柱の先に……戦車やヘリコプターがズラリと並んで駐留していた。たぶん……戦略自衛隊。いやそれだけじゃない。他国の軍隊もいるような気がする。
「ネルフは国連からテロ組織として指定されたんだ」
「テロ……?」
「サードインパクトを引き起こした組織だからね」
……そうだった。本来それを阻止するための組織だったはずなのに……使徒とリリス、そしてMark.06を使ってサードインパクトを人為的に引き起こした。
すべては僕の父、碇ゲンドウが手引きしたこと。
「……父さんは?」
「君を連れてくるように言われている。会うかい?」
僕は、拳を握りしめて頷いた。
◇ ◇ ◇
ネルフ司令室。広い、真っ暗な部屋の中で、ぼんやりと照明を受けている男が2人。……僕の父、碇ゲンドウと、副司令のお爺さん。
「父さんがサードインパクトを計画したの?」
「ああ」
……ネルフの人たち、ミサトさんたちを裏切っていたことを、何でもないかのように首肯する。
「……なぜ、そんなことを? サードインパクトが起きれば人類は滅ぶんでしょ? それを防ぐためのネルフだったんじゃ」
「お前が知る必要はない」
……ふぅん。なるほど?
――口下手だな!? もっとなんかこう……あるよね!? 悪役だとしてもさあ!? なんでそうコミュニケーション全拒否な受け答えしかできないんだよ!?
「シンジ」
「……なんですか?」
「もうエヴァには乗るな」
「え……?」
な……なんだ急に?
「ど……どうして? 父さんは僕をエヴァに乗せるために呼んだんだよね。それなのに乗るなって……」
「お前はもう必要ない」
「……父さんの計画には、ってこと?」
身勝手な発言だけど、テロリストの言うことに倫理なんて期待できない。
「そうだ」
「それを僕が……大人しく聞く必要なんてないよね?」
腰を、深く落とす。
「何のつもりだ」
「父さんを拘束して、国連に突き出す。使徒との戦いは、ミサトさんと一緒に続けるよ」
「使徒はもう現れんよ」
父さんの隣、副司令のお爺さんが言う。
「死海文書に記された使徒は12体だ。これ以上の使徒は現れん」
しかいもんじょ……?
「それに君は碇の息子だ。国連に向かえばただでは済まんぞ」
……よく分からないけど、これはつまり……。
使徒との戦いは終わって、めでたしめでたしではなく。
エヴァを使った人類同士の戦争に突入した、ということなんだろうか?
……加持さんに世界平和を願うと話していた、あの日が懐かしい。
「……覚悟の上です」
そして国連に捕まるぐらい、平和のためならどうってことない。父さんの罪を一緒に償う……という気にはさらさらならないので、精いっぱい自己弁護しようと思うけど。
「子供らしい軽い言葉だ」
「何を」
「見ろ」
父さんが言うと、後方でカッ、とスポットライトがふたつ灯った。そこにいたのは。
「綾波さん……! それに真希波さんも……!」
「………」
「……やっほ、ワンコくん」
狭い檻に入れられている、綾波さんと真希波さん。どこか疲れた様子で、真希波さんが手を振る。
「! 今助けます!」
「待て」
構えた僕を、父さんが低い声で制止する。
「待てと言われて――」
「悪いな。綾波レイと真希波・マリ・イラストリアスには自爆用の首枷をさせてもらった」
「なっ……」
お爺さんの言葉を聞いて、ふたりを見る。首に……黒いチョーカーみたいなもの。肩をすくめる真希波さん。
「君がこちらに従わない場合は、彼女たちの首輪が爆発して命を奪う。それでも碇を国連に突き出すかね?」
「………」
僕は……構えを、解く。すると、ふたりを照らしていたスポットライトが消え、見えなくなった。
「賢明だな。それと、彼女たちはここにいたわけではない。映像だよ」
「別の場所にいるってことですか……僕に何をさせたいんですか?」
「さっきも言ったとおりだ。エヴァに乗るな。そして、それをつけろ」
僕の近くにあった机の引き出しが音を立てて開く。見ると、綾波さんたちがしていたのと同じチョーカーがあった。
……こいつ……実の息子に。かわいそうすぎるだろ、シンジさんが。
「……ふたりの安全は保障されるんですよね?」
「お前次第だ」
僕は静かにチョーカーを手に取り、首に巻きつける。
「やはり呪詛は発動しないか……」
お爺さんがぽつりと言葉をこぼす。……呪詛? カースドアイテムなのか、これ? 爆発よりそっちの方が怖いぞ。
「……それで?」
「好きにしろ。後のことはゼーレの少年とアドバンスドシリーズで行う」
「ゼーレ……?」
「僕のことだよ」
背後の扉が開き、渚くんが入ってくる。
「渚くん……」
「ネルフの上位組織。人類を導き知恵を与えたもの。僕はそこの直属ということになってる」
渚くんは僕と顔を合わせないまま、まっすぐ前を向いて僕の隣に立つ。
扉は、閉じない。足音が続く。軽い、4つの足音。振り返り――
「……は? えっ……?」
綾波さん。
……綾波さんが……4人、いる……!?
「アドバンスドシリーズ、その初期ロットだ」
綾波さんと同じぐらいの背丈の子。その背中に、3人の小さな綾波さんが隠れている。
「どっ……どういう……」
「彼女たちはクローンだよ。綾波タイプのクローン、ナンバー6、7、9、そして10」
「綾波……タイプ? 綾波さんのクローンを作った……ってこと? な、何で……」
「Mark.09、10、11、12のパイロットとして用意されたんだ。アダムスの器は穢れなき魂でなければ動かせないからね」
「渚くんが何を言っているのか全然分かんないよ……」
だって――
――新規の! 単語が! 多すぎる!
前々から思ってたけど、ぽんぽん難しい単語が出てくるんだよなあ! 難しすぎるだろ! アニメなのになんでこんなに難しいんだ、子どもに分かるのか? 少なくとも僕は頭が良くないからさっぱりだぞ!
「ゼーレの少年には、新造した第13号機に乗ってもらう」
「じゅ、13号機……?」
つい最近までミサトさんが予算とかなんとか言ってた気がするんだけど。いや、そうじゃない。
「……渚くんに、何をさせる気なんですか?」
「サードインパクト、その続きだ」
「……!」
こ、こいつ……。
「悪いね。ゼーレがそれを望んでいるんだ」
「ゼーレ……」
「人類補完計画、その完遂をね」
ほらまた! 知らない単語が!
「サードインパクトの停止後、セントラルドグマにはリリスによって結界が張られている」
父さんが説明し、モニターにセントラルドグマを封している赤い床が映る。
「これを13号機によって突破し、リリスに刺さった槍を回収。そして改めて完全な形で儀式を行う」
「その儀式を行って……世界はどうなるの。父さんは何がしたいんだよ?」
「説明の必要はない」
「………」
モニターが消える。
「話は終わりだ。あとは好きにしろ」