知ってる名前の少年に転生したけど、俺には正拳突きしかできない   作:幻覚症状

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決戦、第3新東京市(前)

「ワシを殴れ、転校生! せやないとワシの気持ちも収まらん!」

「まっ、こういう実直なヤツだからさ。頼むよ」

 

 直立不動になるジャージ男子、鈴原トウジ。テヘヘとウインクする眼鏡男子、相田ケンスケ。

 

 困り果てる僕、碇シンジ。

 

 ……どうやらこの間の第5の使徒との戦いに巻き込まれて、思うところがあったらしい。僕を殴ったことを反省して、おあいこにするため殴ってこいと言ってきた。

 

「そうは言っても、鈴原くんは僕のせいで怪我しているし……もういいんじゃ」

「これはワシのヘマや! 関係ない!」

 

 指の骨折れてるのをチャラにしてくれるだけでいいんだけどなあ。とはいえ、これ以上押し問答してこの渡り廊下に人が来ても困るし……。

 

 何より……これは原作にありそうな展開の気がする。二人とも特徴的な生徒だし……いくらかわいそうな主人公といっても、友達ぐらいできるんだろう。でないと学園パートが寂しいことになるし。

 

「分かったよ」

 

 僕は、腰を深く落とす。

 

「手抜きはナシや。ええからはよせい!」

「フゥ……」

 

 手加減すれば関係改善は望めないだろう。だから。

 

「ハァッ!」

 

 全力の! ……寸止めを! 鈴原くんの眼前に叩きつけた。

 

 ボッ。

 

 圧壊した空気の音がし、鈴原くんの頬や頭髪が波のように揺れる。

 

「……これで貸し借りなし、かな」

 

 僕はニコッと笑って手を差し出し――

 

「ふが……」

「……はっ。と、トウジ!? トウジーッ!?」

 

 鈴原くんは白目を剥いて倒れた。……あ、あれぇ……?

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 エントリープラグの中に入り、LCLを肺にみたあいだだだだ! ひぃ、ひぃ……満たす。はぁー痛い! 痛いなぁー! いったい何回で慣れるのかなぁー!

 

『コンタクト開始』

 

 今日は、エヴァンゲリオンを実際に動かしての訓練になる。3度目のエヴァンゲリオンとのシンクロだ。

 

 ……おそらく。

 

 エヴァンゲリオンには、心がある。

 

 ……人造人間、と言っていたし、当然と言えばそうか。とにかく、シンクロというのはきっと……エヴァンゲリオンと心を合わせることだ。

 

 でも。当然のように、僕の心の形とエヴァンゲリオンの心の形は違う。だから……教えるしかない。

 

 正拳突きを。

 

(腰を深く落とし、放つ。これを繰り返す。正拳突きに近道はない。一つずつ、丁寧に)

 

 心の形が……少し変わる。

 

『初号機、移動完了。固定具解除します』

『シンジくん、聞こえるわね』

 

 ミサトさんの声を聞いて目を開く。地下だというのに明るい。

 

『ここはジオフロント内の特設試験場よ。あそこに見えるのがネルフ本部。うっかり踏みつぶさないように気をつけてね』

「分かりました」

『地下湖があるのは見えるわね? そっち方向にターゲットを出します。まずは……近距離攻撃から』

 

 シュッ、と壁が地面から生えてくる。

 

『防御特化したアーマーよ。エヴァサイズの火器や、使徒の攻撃にも耐えるように設計されているわ。遠慮なくやっちゃって!』

「押忍!」

 

 今回の訓練は、僕の正拳突きを測定する目的で行われる。

 

 どうもネルフの使っているコンピューターでは、僕の正拳突きがシミュレーションできないらしい。そこで実測を行ってデータを入力して、今後の作戦立案に活かすそうだ。

 

 ……正拳突きに完成はない。けれど、今できる精一杯を。

 

「フゥ……」

 

 深く、腰を落とし。

 

「……破ァッ!」

 

 全力で、放つ!

 

 ガォン……!

 

『ぼ……防御アーマー、貫通……!』

『貫通!? 倒壊させるならまだしも』

『ハニカム構造の特殊装甲が……』

『いいわねぇ!』

 

 穴の空いた壁を前に、構えを解く。

 

『っぱ正拳突きよ! じゃ、次! 湖の向こうにいろんなターゲットを出すから、マーカーされた順にやっちゃって!』

「押忍!」

 

 湖の向こうにバルーンだったり丸い的だったり柱だったりが出現する。僕は、腰を深く落とし。

 

 新しく身に着けた技術。飛ばす正拳突きを、放つ。

 

「発ッ! 発ッ! 発ッ! 発ァッ!」

 

 ドンッ! バンッ! バシュッ! ゴォン!

 

『すっげええー!』

『ターゲット1番から3番、貫通、4番、圧壊、5番……』

『すべて中央に的中』

『銃火器というより、もはや大砲ね……』

 

 ターゲットを吹き飛ばしている間に、ミサトさんたちが話し合う。

 

『アレって何が飛んでいるのかしら。観測できる?』

『不明です。空気ではありません。ATフィールドでもないようです』

『正拳突きの静止と同時にターゲットに影響が及んでいます』

『正拳突きの速度で何かが飛んでいる、というより……まるで対象間の距離がないかのような現象です』

 

 ガン! ドッ! パァン! コォン! ……。

 

 全てのターゲットを突き終わった。

 

『命中率……100%』

『距離別の損壊率、出ます』

『こりゃもう決まりでしょお!』

『そうね……さすがに遠距離攻撃では威力が落ちるようだけど、それでもどの火砲より高威力。弾速は言うまでもなく、精度、連射性にも問題なし。何よりエコね。弾薬費がかからない』

 

 赤木さんが評価をする。

 

『……MAGIの回答は?』

『データを入力したところ、回答を拒否されました。そんな威力が出るわけがないし、ましてや遠隔攻撃できるわけがない、原理が不明……とのことです』

『架空の兵器として入力して、論理モデルをクリエイティブに。あくまで思考実験というていで評価させて』

『全ての火器より有効と判断、積極的な採用が推奨されました』

『そうよねえ!』

『分かりました。初号機のパンチ……正拳突きを作戦に組み込むことに、技術一課としても賛成します』

『しゃあっ!』

 

 どうやら……僕の正拳突きは認められたらしい。

 

 構えを解く。

 

『お疲れ、シンジくん。今日の訓練はこれで終了よ。後でパァーッとお祝いしましょ! 今日は正拳突きデー!』

「はい」

 

 エントリープラグの中は……何か心地よいリズムに満たされている気がした。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

『固定完了』

『初号機、第三次冷却を開始します』

 

 エヴァンゲリオンの格納庫に戻ってくる。……これまでエヴァンゲリオンから降りるときは気絶していたから知らなかったけど、降りるときには冷やす必要があるらしい。

 

 アイシングみたいなものかな、とかぼんやり考えていると……なんか格納庫の様子が以前とは違うような……。

 

「って、誰!?」

 

 いや目の前にいる! 巨人! ……黄色いエヴァンゲリオンが! 何アレェ!?

 

『ああ。シンジくんとはまだ面識がなかったかな。彼女は綾波レイ、エヴァンゲリオン零号機の専属パイロットよ』

 

 伊吹さんが答えてくれる。が、え、誰? 綾波?

 

 ああ、デカいのに気を取られて分からなかったけど、黄色いエヴァンゲリオン……零号機の顔の前のプラットフォームに、プラグスーツを着た女子がいた。

 

 ……ああ、同じクラスの。……監視役じゃなくてパイロットだったのか。綾波さんっていうんだ。へえ〜。

 

 ていうか2機目があったんだ、エヴァンゲリオン。確かによく考えてみれば初号機ってことは続きが出てきそうな名前だ。そこで零が出てくるのは意外だけど。

 

「ん?」

 

 綾波さんは何か楽しそうに話している。相手は……。

 

「父さん……?」

 

 父さん、碇ゲンドウが綾波さんと話していた。ねぎらっている感じ……だろうか。ずいぶん親しそうだ。

 

 ふうん。知らない人間関係だなあ、と思いながらぼんやりその様子を見ていたけど……アレ? これってもしかして、かわいそうか?

 

 だって自分の子供と同じ年齢の女子と仲良くしてるんだぞ。恥ずかしいというか何かしてないか不安というか……身内だったらそう思うだろう。それを見せられている。かわいそう……。

 

 まあ僕は親を気にするような年齢はとっくに人生一周目で終えてしまったから、なんとも思わないけど。

 

「説明していなかったわね。エヴァンゲリオンにはテスト機があるの。それが零号機。そしてその専属パイロットが綾波レイ」

 

 エントリープラグから出て(LCLって吐く時も痛いんだが!?)プラグスーツから着替え、赤木さんのところへ行って訓練中に感じたことなどヒアリングを受けていると、零号機の話になった。

 

「テスト機ってことは、あれを動かしてデータを取っていたんですか?」

「そうね。でももう基本的なテストは終わったし、機体を遊ばせている余裕もない。だから実戦配備されることになったの。つまりレイとはこれから、一緒に作戦に参加してもらうことになるわ」

 

 と言って、赤木さんはIDカードを2枚渡してくる。

 

「これ、シンジくんとレイの更新カード。渡しそびれちゃったのよ。同じクラスだし、明日渡してくれる?」

 

 え、なんで僕が……とは言わなかった。

 

 なるほど。

 

 どうやら……綾波さんはこのアニメのヒロインなのだろう。きっとそうだろう。年も同じだし。

 

 うん、おかしいと思ってたんだ。ずっと一回り年上の女性の名前しか出てこないから……。

 

 とにかく、ようやく、満を持してヒロインとの交流回なのだろう。

 

 ……初回の顔合わせが、屋上でボソッと連絡してきただけ……というのは、ちょっとどうかと思うけど。

 

 もっと印象的な出会いとかあってもよくない?

 

「分かりました」

 

 とにかく明日、クラスで会ったら渡すとしよう。どういうイベントになるのか、少しだけ楽しみだ。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 いや来ないじゃん?

 

 ……その日、綾波さんは学校に来なかった。休みらしい。学園パートの存在意義とは?

 

 とはいえ……渡せませんでした、で終わったらおかしいし、普通に綾波さんも困るだろう。このIDカードがなければネルフ行きの乗り物に乗れないし。

 

 しょうがない。IDに載っている住所まで届けに行くか。ネルフ行きの駅も近くにあるし、訓練に遅刻はしないはずだ。

 

 ということでやってきました。同じ建物がいくつも並ぶ団地、その人気のないボロいマンション。

 

 ……いや、人住んでるの、ここ? 電気とかガスとか水道、来てる? インターホンは鳴らしても鳴ってないみたいだし。ゴミが……廊下に散乱しているけど、ずいぶん古そうだし……。

 

「綾波さん。生きてる? 更新カードを届けに来たんだけど」

 

 ノック。応答なし。ドアノブに手をかけるとあっさり開いた。玄関に靴はなし。

 

「……入るよ」

 

 すれ違いになった可能性が高そうだけど、念の為中へ。……ずいぶん殺風景というか……殺伐とした室内だ。洗濯物の他は、捨てられた包帯に、薬局の袋しかない。

 

 あとは眼鏡。プライベートでは眼鏡っ娘ってこと? ……なんか壊れてるな。ははぁ、なるほど。眼鏡が壊れているからかけてないのか。

 

 しかしいないな。他の部屋かな、と思った時だった。カーテンが動く音がした。振り返ると……。

 

「ワ!」

 

 いたァ! 全裸で! ギュンと回転して反対を向く。バスタオルがなければ即死だった。

 

「ごめん!」

「何?」

「返事がないからトラブルかと思って入っただけで、やましい気持ちはないんだ」

「来た理由」

 

 え、そっち? なんか普通に着替え始めちゃった。胆力すごいな。慌ててるこっちが恥ずかしくなってきた。一度正拳突きの構えを取って落ち着こう。……フゥ。よし。

 

「綾波さんのIDカードを届けに来たんだ。これがないとネルフに行けないから困るかと思って。はい、これ」

 

 背中を向けたまま、カードを取り出して見えるように掲げる。するとしばらくして、パシッとカードを取られた。どうやら着替えが終わったらしい。

 

 ……そうか、室内で靴を履く欧米スタイルなのか……どおりで床が汚いと思った。まあ僕も脱がなかったけど。

 

「これから訓練だよね。一緒に行っていい?」

「好きにしたら」

 

 どうせ一緒の経路で移動するんだし、と申し出ると、先に立って歩き始めた。うーん、塩対応。まあ、初対面だしこんなものか。

 

 移動中、まあ喋らないこと喋らないこと。とても女子中学生とは思えない。ここは僕が話しかけるべきか。

 

「綾波さんは、父さんとはよく話すの?」

 

 とりあえず今まで見た数少ないシーン的に、共通の話題がこれぐらいしか見つからない。

 

「ええ」

「そうなんだ。どんな話をするの?」

「なぜ、そんなことを聞くの?」

「11年ぐらい会ってなかったから、父さんのことよく知らないんだよね」

 

 一応親族だから、綾波さんに失礼がないかは気にかかる。なんたって息子を捨てていくような父親だもんなあ。

 

「だから知りたくて」

「訓練や実験のことを話すわ」

「他には?」

「特にないわ」

 

 え、事務的。楽しそうに話してたの、そういう内容なんだ。

 

「あなたは」

「ん?」

「碇司令と何を話したいの?」

「えっ」

「あなた碇司令の子供でしょ」

 

 それはそうなんだけど……親子関係的なことは向こうから拒否されてるような状況だし。

 

「一緒にしたいこととか、ないの?」

「まあ……ちゃんとした親子関係になれるようなら」

 

 相手のことを知るために、一番いい方法。それは。

 

「正拳突きをしたいかな。一緒に」

「そう。正拳突き……えっ?」

 

 次の瞬間、警報。

 

『――総員第一種戦闘配置!』

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