知ってる名前の少年に転生したけど、俺には正拳突きしかできない   作:幻覚症状

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決戦、第3新東京市(中)

『第6の使徒は芦ノ湖上空から第3新東京市に侵入してくるわ』

 

 エントリープラグの中で映像を見せられる。……なんだこれ。立方体? これが使徒なのか?

 

『対空迎撃が必要だけど……まっ、見せてやろうじゃないの! シンジくんの正拳突きを!』

「押忍!」

 

 作戦は奇襲に決まった。使徒の近くに出撃次第、正拳突きを連発。コアを露出させてそれを叩く。

 

『零号機はバックアップのため待機』

 

 零号機はまだ調整が済んでいなくて戦闘に耐えられない……らしい。なので何か不測の事態が起きるまで待機だ。

 

 でも、今回は。最初から僕の正拳突きを信じてもらえている。作戦にも不満はない。綾波さんの出る幕はないだろう。

 

『エヴァ初号機、発進準備よろし』

『発進!』

「くッ」

 

 急加速。急上昇。落ち着け……。

 

『目標内部に高エネルギー反応!』

『なんですって!?』

『まさか!』

 

 へっ?

 

『避けて!』

 

 地上に到達、急停止。次の瞬間。

 

「ぐああああああああああああっ!?」

 

 使徒から放たれた光線が、ATフィールドを貫いて胸を撃つ。

 

「あ……が……ああああああっ!」

 

 あづい! いだい……! うごけ、ない……!

 

『シンクロ率をミニマムに落として!』

『防護アーマー展開!』

 

 前方に壁がそり立ち、光線が遮られる。ぜ、は……。

 

「……ッ! ミサトさん、リフトから降ろしてッ! はやくっ!」

 

 避けようにもねえ! 拘束されてるんだよこっちは! 早く――

 

「はっ……」

 

 視界が、輝く。使徒の威力を増した光線が――防護アーマーを溶解して貫く!?

 

「ぎゃああああああああ……あああああっがああああ!」

 

 熱。衝撃。周囲の全てが吹き飛ぶ。

 

 ATフィールドで守られた身体以外の全てが溶け――

 

「がッ」

 

 ――背後の拘束が……リフトが溶けた。

 

「フッ……!」

 

 反射的に腰を深く落とし、正拳突きの構えを取る。

 

「はっ……はっ……ぐ、くぅ……!」

 

 正拳突きの構えは、突きのための土台。

 

 その威力を支える、それゆえに不動、不壊。だから。

 

『初号機……攻撃に耐えています!』

『ッ! 正拳突きの構えね!』

『ですが全てを防いでいるわけではありません!』

 

 警告がエントリープラグ内の全てのモニターを覆い尽くす。

 

「ぐ、ああああ、い、があああああ!」

『ッ……! 作戦要綱を破棄、パイロット保護を優先。プラグを緊急射出して!』

『ダメだ』

 

 ……!? この声は、父さん?

 

『今パイロットを失うとエヴァのATフィールドは完全に消失してしまう。そして正拳突きの姿勢による防御効果も失われる。……もっとも憂慮すべき事態になるわ』

『……!』

『あの姿勢を崩すことも許容できない。ミサト』

『……やむを得ないわ。機体を強制回収! 爆砕ボルトに点火して! シンジくん! 落下に備えて!』

 

 何を、と問う暇もなかった。

 

 足元で何か爆発音がしたと思ったと同時に――僕は奈落の底へと落下していった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 戦術作戦部作戦局第一課。

 

 暗く狭い部屋に、何人もの大人たちがすし詰めになって顔を突き合わせる。

 

「現在、目標は我々の直上に侵攻。ジオフロントに向けて穿孔中です」

 

 映像が近くのモニターに映し出される。立方体の使徒の下部が、細いドリルのようになって地面を掘る……というよりは潜っていた。

 

「ヤツの狙いは、ここネルフ本部への直接攻撃か。では各部署の分析結果を報告して」

「威力偵察の結果、目標は一定距離内の外敵を自動で排除するようです。エヴァによる近接戦闘は不可能かと」

「範囲外からの攻撃に対しては応射することも確認しています」

「ATフィールドは?」

「健在です。おまけに位相パターンが常時変化するので中和作業は困難を極めます」

「MAGIの計算ではATフィールドをN2航空爆雷による攻撃で貫くには、ネルフ本部ごと破壊する分量が必要との計算が出ています」

「現在日本政府と国連が、ネルフ本部ごとの自爆攻撃を提唱中よ」

「対岸の火事と思って無茶言うわね。……ここを失えば全ておしまいなのに」

 

 重苦しい空気が部屋に充満する。

 

「今日までに完成していた22層のカクモ式装甲帯を貫き本部直上への到達予想時間は、明朝、0時6分54秒。あと10時間14分後です」

「零号機は未調整で実戦は不可能」

「初号機も装甲が焼失。戦闘に出せる状態じゃないわ」

「……状況は芳しくないわね」

「白旗でもあげますか」

「そうね……」

 

 

「でも、その前に」

 

 

 沈黙が支配する中で、僕は手を挙げる。

 

「発言を許可します、碇シンジ正拳突きアドバイザー。何かしら?」

「試したいことがあるんです」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「しかしまた、無茶な作戦を立てたものね。葛城作戦部長さん」

「無茶とは失礼ね。この9時間以内に実行可能、おまけにもっとも確実なものよ」

「その検証のために、戦自研が極秘に試作開発中の大出力陽電子砲を接収するとは……」

 

 ジオフロント内の特設試験場を共に歩きながら、リツコが呆れたように言う。

 

「成功しなければ貴重な数時間が失われるわ。よっぽど彼を信じているのね」

「もちろんよ」

 

 だって、それは希望だから。

 

「正拳突きならできる! 絶対に!」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 これまでの作戦で思い知ったことは……。

 

 意外と、というか、かなりネルフの作戦部はぶっつけ本番が好きということだ。余裕がないという事情はあるのだろうけど、それでも隙がありすぎる。

 

 そして作戦部長であるミサトさんが結構ポンコツだ。リフトに固定されたまま避けろと言われるとは思わなかったよ……。

 

 まあ……アニメ的な事情なのかもしれない。万全な作戦で当たったらピンチにならないから絵にならないとか。

 

 ……だけど、ここは現実だ。ポンコツで死にかけたらたまらない。

 

 だから、打てる手は打たせてもらう。病室を抜け出してミサトさんたちの作戦会議に参加させてもらったのも、そのためだ。

 

 ――使徒の攻撃で、僕は胸に火傷を負った。シンクロの結果らしい。催眠術みたいなものかな……思い込むと人間、自力で火傷するらしいから。

 

 まあ、正拳突きを構えられなかったらあの光線の影響でLCLが茹だって、もっと危ない状況になったらしいけど。

 

「はぁ……」

 

 というわけで、作戦会議後は病室にとんぼ返りして処置を受けた。しばらく別命あるまで待機とのことで、ベッドに横になって休ませてもらっている。

 

 コンコン。

 

「どうぞ」

 

 病室のドアが叩かれる。誰かと思ったら、綾波さんだった。

 

「試験の準備ができたそうよ。第3ケージに向かって」

「分かった」

 

 なんで綾波さんが連絡係をやってるんだろう……まあ、零号機は調整中らしいし、手が空いているのかな。他の人達は忙しそうだし。

 

「あなたは、信じているの?」

「うん?」

「正拳突きを」

「もちろん」

 

 これは僕の希望。

 

「試験で証明してみせるよ」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「では、本作戦における各担当を伝達します」

 

 夕日が地平線に沈んで、夜。22時。残り約2時間。

 

 ……ギリギリかもしれない。

 

「シンジくん」

「押忍!」

 

 ミサトさんの呼びかけに、気合を込めて返事する。ミサトさんは満足げに頷いた。

 

「初号機にて攻撃と防御を担当。……あなたが全ての要よ」

「押忍!」

「そして、レイ」

「はい」

「零号機にて工兵を担当」

「はい」

 

 綾波さんが静かに応える。続いて赤木さんの説明。

 

「シンジ君。初号機は応急処置は施したけど、装甲をすべて焼失しています。ATフィールド越しでも直撃は数秒と耐えられない。ミスは許されないわ」

「押忍!」

「敵のコアは攻撃時に実体化する中心部と想定されます。勝負は一瞬。正確にコアの一点を貫くのよ」

「押忍!」

「私は……」

 

 綾波さんが言う。

 

「初号機を補佐すればいいのね」

「そう。この長期戦を支える、文字通り命綱よ」

「分かったわ」

「時間よ。二人とも着替えて」

「押忍!」

 

 仮設テントの中へ移動。プラグスーツに着替える。カーテンの向こうには綾波さん。

 

 ……口数少ないのはそういう性格なんだと思うけど、ちょっとは打ち解けておきたいかな。これから初めての共同作戦だし。

 

「綾波さん。作戦に不安はない?」

「ないわ。あなたは?」

「やれると信じてる」

「自分に自信があるのね」

「確かに正拳突きを信じているけど」

 

 プシュッ、とプラグスーツが音を立てて肌に張り付く。

 

「綾波さんのことも信じてる」

「……?」

「綾波さんは僕が守るよ。だから、僕の命は綾波さんに預ける」

 

 そういう作戦だ。

 

 僕はテントを出て初号機に向かう、と。

 

「シンジくん。本部広報部宛に届いていた伝言よ」

 

 ミサトさんがレコーダーを渡してくる。はて、なんだろう……と思いながら再生すると、予想外の声がした。

 

『あの……鈴原です。碇……いや、シンジさんと呼ばせてくれ! シンジさん、頼むで!』

『えー、相田です。いや~、こっちは大規模な避難になって大変で……』

 

 流れ弾を考慮して、今回はかなり広範囲に避難命令が出ていると聞いた。今、第3新東京市はネルフ関係者以外無人のはずだ。

 

『でも、碇ならやれるって信じてる。頑張れよ』

『なんやお前シンジさんに偉そうに!』

『いや僕は舎弟になった覚えはないし! ――』

 

 電子音がして、メッセージ終了。

 

「いい友達……舎弟ができたわね?」

「……元気は出ました。ありがとうございます」

 

 とりあえず生きて帰って関係の修復をはかろう。うん。絶対に鈴原くん舎弟ルートは違うと思うんだ。

 

 ――出撃前、最後の待機時間。

 

 綾波さんと二人で、目の前で第3新東京市の明かりが消えていくのを見る。最後にはライトアップされて青く輝く第6の使徒だけが残った。

 

「あなたは」

 

 ふと、綾波さんが話しかけてきた。

 

「自分に自信があるから、エヴァに乗るの?」

 

 エッ……。

 

 ……改めて聞かれると、困るな。僕としては「アニメの主人公だから乗らなきゃ」で乗っていたんだけど……。

 

 でも……今は。

 

「……守りたいから、かな」

 

 この世界に住む人を。

 

「そう」

「綾波さんは?」

「私は……絆だから」

「絆? 誰との?」

「みんなとの」

 

 おお。いいこと言うな、と思った次の瞬間。

 

「私には他になにもないもの」

「エッ」

 

 なんか悲壮なこと言ってる!?

 

「時間よ。行きましょ」

「ちょ、ま」

「さよなら」

 

 行っちゃったよ。やばい……めちゃくちゃプレッシャー感じてるんじゃないのか、この子。確かに命がけの作戦だけど……。

 

「不安、なのかな。いや、まだ信じられないのか。なら……僕は、見せるしかない」

 

 拳を、握る。

 

「……正拳突きを!」

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