知ってる名前の少年に転生したけど、俺には正拳突きしかできない   作:幻覚症状

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決戦、第3新東京市(後)

『作戦予定時間です』

『さあ正拳突きの真髄を見せてやろうじゃないの。作戦開始! 各機、稜線越えろ!』

「押忍!」

 

 ミサトさんの指示に応じて、エヴァンゲリオン……初号機を立ち上がらせる。第3新東京市から隠れるように山の向こう側にいたのを、山の尾根を歩いて越える。すぐ後ろには、零号機が装備を持って続く。

 

『ガイドライト点灯!』

『点灯します!』

 

 カッ!

 

 無数の明かりが、第6の使徒までの道を照らす。一直線、まっすぐな道。突貫工事で造られた道標。

 

『進行開始!』

 

 歩く。使徒までの道を。

 

『目標まで残り5.5キロ』

『ッ、目標に高エネルギー反応!』

『シンジくん!』

 

 気づいたか。

 

 僕は。

 

「フゥ……」

 

 歩みを止め、腰を落とし。

 

 ドンッ――

 

「撥ァッ!」

 

 カァンッッ! ――ドドォン!

 

『初号機、攻撃の迎撃に成功!』

『速射、続けて来ます!』

 

 ドンッ――

 

「撥ァッ!」

 

 カァンッ! ――……ドンっ!

 

 僕は。

 

 正拳突きで――使徒の光線を、弾き反らした。

 

『目標、再び高エネルギー反応!』

『持続性の攻撃と予想されます!』

 

 溜めている。その隙に、僕は。

 

 正拳突きの構えのまま、一歩。二歩、歩みを進め。

 

 カッ――ゴオッッッッ!

 

 使徒の放ったビームを。

 

「撥ァッ!」

 

 どぱっ……!

 

 迎え打つ。ビームが花開くように裂け……しかし再び押し寄せてきて。

 

「撥ァッ!」

 

 どぱっ……!

 

「撥ァッ!」

 

 どぱっ…………!

 

 正拳突きを、放ち続ける。

 

『初号機、目標の攻撃を、お、押し返しています!』

『周囲への損害軽微』

 

 迎え打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。

 

 ――やがて。

 

『目標、攻撃を中断』

 

 ビームが、途切れる。

 

『よっしゃっ! 目標はチャージ中よ。この隙に前進して!』

「押忍!」

 

 正拳突きの構えのまま、一歩、二歩。

 

 じりじりと……僕は距離を詰める。

 

 ――これが、僕たちの作戦だった。

 

 使徒からビーム攻撃を受けたとき。僕には手ごたえがあった。

 

 これは、打てる。打ち返せる。……正拳突きで、貫くことができる。

 

 それを証明するため、僕は使徒のビームに似た武器で試すことを提案した。ミサトさんは快諾し、戦自研というところが秘密に作っていた陽電子砲というものを借りてきて、ジオフロントでの実験を行った。

 

 結果は、成功だった。

 

『荷電粒子砲は光速ではないとはいえ亜光速。見てから弾くなんて不可能と思ったけど……なるほど。ATフィールドで減速させているのか。それでもなんという反射神経。まるで虫ね』

『先輩。それでも正拳突きが間に合うのはおかしいと思うんです……』

『マヤ。そもそも粒子は普通、正拳突きでは打ち返せないわ』

 

 赤木さんが何か言っていたが、とにかくそれで作戦の骨子は固まった。

 

 僕が、ATフィールドを全開にし、使徒の攻撃を弾きながら近づく。そして、コアを正拳突きする。

 

『目標まで残り5.2キロ』

『持続性攻撃来ます!』

「撥ァッ!」

 

 ビーッ! 警告音。

 

『初号機、アンビリカルケーブル断絶!』

『内蔵電源に切り替わります。残り4分52秒』

『流れ弾にケーブルが巻き込まれた……!』

『慌てないで。シミュレーション通りよ。初号機の端子をパージ。レイ!』

『了解』

 

 僕がビームを弾き続ける背後で、零号機が動く。手にしていた超大型コードリールを一気に引き出し、初号機の背中に電源を接続する。

 

『初号機、アンビリカルケーブル再接続。外部電源に切り替わりました』

『よし。レイはそのまま後退、次のコードリールを受け取って。初号機の陰からは出ないように気を付けて』

『はい』

 

 零号機が離れていき、所々に設置された電源の予備を取ってくる。

 

 ――この作戦の弱点は、エヴァンゲリオンの電源確保だった。ケーブルを切断され、内蔵電源に切り替わるとエヴァンゲリオンは5分で動けなくなる。時間のかかる作戦だから、5分では途中で力尽きてしまう。

 

 だから、零号機がこうやって電源の予備を用意してついてくる。それを初号機は正拳突きで守る。

 

 この命綱が確保されたことで、この作戦は実行可能となった。

 

『初号機、前進。残り5キロ』

『目標に反応。速射と思われます!』

「撥ッ! 撥ッ! 撥ッ! ……撥ァッ!」

 

 カァン、ドン! カァン、ドン!

 

 ……もうひとつ。この作戦には重要な要素があった。それは。

 

『敵先端部、21層を突破。最後の装甲に接触します!』

『逆に助かるわね。墓穴を掘って今更引き返せない、ってところかしら』

 

 僕たちは、一直線に使徒に向かう必要がある。ケーブルを守るため進路を変えることはできない。だけど……使徒はネルフ本部への穴掘りに夢中で、その場所から動けない。

 

 だから、なるべく斜度のなだらかな一直線の経路を使って、じっくりと使徒を追い詰めることができる。

 

 リフトを使って至近に出現するのは、防御が間に合わない可能性が高く却下された。採用されたのは、この約5.5キロの道のり。

 

 僕が、約1時間強、正拳突きして進む道。

 

 装甲を焼失した初号機で、一打たりとも打ち漏らしの許されない、行。

 

「撥ッ!」

 

 カァン、ドン! ビーッ!

 

『初号機、再びアンビリカルケーブル断絶!』

『内蔵電源に切り替わります。残り4分41秒』

『レイ!』

 

 ケーブルの再接続が急がれる。

 

 ……実は、内蔵電源というのは……エヴァンゲリオンを動かしている間は、電源を接続しても充電されない。

 

 だから、切断されるたびに残り時間が短くなっていく。

 

 内蔵電源の残量が切れれば……状況に追いつめられるのは、僕たちも同じだ。

 

 使徒がネルフ本部に到着するのが早いか。

 

 内蔵電源を全て失うのが早いか。

 

 ……僕の正拳突きが使徒を倒すのが早いか。

 

『目標まで残り4.8キロ』

 

 じりじりと、一歩ずつ進む。ATフィールドの展開と正拳突きの姿勢は、不意打ちに備えて崩せない。亀のような歩み。

 

 進み、弾き、電源を繋ぐ。

 

『目標まで4キロ』

「撥ッ!」

 

 カァン! ……ドンッ! ビーッ! ビーッ!

 

『初号機および零号機、アンビリカルケーブル断絶!』

『っ!』

 

 同時に2機の電源ケーブルが切れる。

 

『初号機の復旧を最優先! レイは後方に下がって接続!』

『はい』

『初号機の内蔵電源の残りは?』

『4分――』

 

 ビーッ!

 

『ッ、初号機再びケーブル断絶!』

『零号機、補給地点到達』

『レイ! 零号機の復旧は後! 初号機を急いで!』

『了解』

 

 連続してケーブルを切断される。内蔵電源の残りが減っていく。ケーブルを接続しないままの零号機が駆け寄り、初号機に電源を接続する。

 

『初号機、再接続!』

『内蔵電源は残り3分34秒』

『零号機、一つ前のポイントまで後退します』

『チッ……一気に削られたわね』

 

 近づけば近づくほど、使徒の攻撃が激しくなる。隙を見ての前進も、なかなか行えない。

 

『目標まで残り2.8キロ』

『目標、本部直上到達まで残り32分!』

『初号機、持続性攻撃で身動き取れず』

『このペースでは間に合いません!』

『時間稼ぎに切り替えてきた? 小癪な』

 

 天秤が使徒に傾く。このままでは僕の到達前に、ネルフ本部がやられる。

 

 ……守ると決めたんだ。そのための正拳突きなんだ。

 

 できる……!

 

「ミサトさんッ! 前進しますッ!」

『シンジくん!?』

「撥ッ!」

 

 どぱぁ! ビームを押し返し――

 

 わずかにすり足で、前へ。

 

「撥ァッ!」

 

 どぱぁ!

 

『し、初号機、攻撃を押し返しながら前進しています!』

『うおーっ、やるぅー!』

 

 前に進むほど、ビームが重くなる。だけど。

 

「撥ァッ!」

 

 どぱぁぁっ!

 

 正拳突きは、前に進む。

 

 ――こんなに打っているんだ。

 

 正拳突きが、成長しないわけがない。

 

「撥ァァッ!」

 

 どっ、カァァン!

 

『目標、攻撃中断!』

「フゥ……」

 

 空白の時間を利用して、歩みを進める。

 

 近づくにつれ、使徒の攻撃が激しくなる。電源ケーブルを切断される頻度も増え、再接続がスムーズにいかないケースも増えてきた。初号機も零号機も、内蔵電源をすり減らしていく。

 

『目標まで残り2キロ!』

『内蔵電源残り2分2秒』

 

 進む。

 

『残り1.8キロ』

『再接続完了、内蔵電源残り1分45秒』

『目標、本部直上まであと18分』

 

 進む。

 

『流れ弾で予備のケーブルが3本やられました!』

『初号機、零号機、アンビリカルケーブル断絶!』

『ここからなら前方の最終補給地点が近いわ。そのまま進んで!』

 

 内蔵電源のカウントダウンと共に歩む。

 

『目標まで残り1.5キロ、最終補給地点到達!』

『初号機、零号機の順に再接続完了』

『内蔵電源残量は初号機54秒。零号機36秒』

『正拳突き有効範囲内』

『シンジくん!』

「……まだです!」

 

 まだだ。「いける」感覚がない。使徒のATフィールドが予想以上に硬い。

 

『了解、以降は現場の判断に任せます。シンジくんが必要だと思う距離まで近づいて』

「押忍!」

 

 前へ。使徒の攻撃が激しい。

 

『目標まで残り1.2キロ』

『目標、本部直上まであと8分』

「撥ッ……!」

 

 カァン! ……ドンッ!

 

 ……重い。前に進めない。

 

『持続性攻撃来ます!』

「撥ッ……! 撥ァッ……!」

 

 どぱぁ! 押し返す。すり足でなんとか進む。……ビーム攻撃が……途切れない……!

 

『目標まで残り1.1キロ』

『目標、本部直上まであと4分』

『これまでで最長の攻撃です!』

 

 ビーッ!

 

『どっち!』

『初号機です! ケーブル切断!』

『レイ!』

『くっ』

 

 すぐさま再接続が行われる。ビームを弾いてその作業を守る。

 

『初号機、内蔵電源残り24秒!』

『最終補給地点にもう予備電源ありません、すべて喪失!』

『他の電源は!』

『目標から3.8キロメートル後方に残数1!』

『……レイ、走って!』

『了解』

 

 零号機が、綾波さんが背を向けて走り出す。

 

「撥ァッ!」

 

 それを、ビームを弾いて援護する。

 

 僕は守る。この街を、みんなを……綾波さんも!

 

 前……進……!

 

『目標まで1キロ』

 

 まだ足りない。

 

『目標まで900メートル』

 

 まだっ。

 

『目標まで800メートル!』

「撥ァッ……!」

 

 どぱぁっ……。

 

『目標攻撃中断!』

 

 我慢比べに勝った――

 

 ビーッ!

 

「ッ!」

 

 警告音。……僕じゃない。

 

『零号機、アンビリカルケーブル断絶!』

 

 後方に電源を取りに行った零号機のケーブルが、やられた。

 

『零号機、内蔵電源残り20秒』

『零号機、ポイント到達!』

『ここまでか……レイ! 接続後全速で撤退! あとはシンジくんに任せて!』

 

 綾波さんは離脱か。もう追加の電源は得られない。なら。

 

「この隙に……詰める!」

 

 使徒の攻撃間隔は掴んだ。長いビームの後は3秒の休息がある。これまでにない長い攻撃だったんだ、もっと休息が必要だろう。

 

 だから、走る。ATフィールドから意識を外し、正拳突きの構えを解いて。

 

 1秒。

 

 2――

 

『もく――』

 

 カッ……ゴォッッ!

 

 目の前に広がる、閃光。

 

『目標攻撃再開!』

『シンジくん!』

 

 

「――撥ァ……ッ!」

 

 

 どぱっ……! 打ち返した。ギリギリだった。

 

「撥ッ! 撥ッ! 撥ッ……!」

 

 打ち返し続ける。けれど……押し返せ……ない!

 

 

 ビーッ!

 

 

『初号機、アンビリカルケーブル断絶!』

『内蔵電源、残り20秒!』

 

 カウントダウンが始まる。

 

 残り18秒で使徒のコアを貫かなきゃいけない。

 

 今の、距離は。

 

『初号機、目標まで残り450メートル』

 

 いける。

 

 確信がある。正拳突きをすれば終わらせられる。しかし。

 

「撥ッ……! 撥ァッ……!」

 

 どぱっ……! どぱっ……!

 

 ビームが、押し返せない。いや……正拳突きを、押し返されている!?

 

『内蔵電源、残り5秒、3、2』

 

 ビームが途切れない。もう――

 

 

 カウントダウンが止まる。

 

 

「!?」

『初号機、ケーブル再接続!』

『零号機、内蔵電源に切り替わります!』

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

『ここまでか……レイ! 接続後全速で撤退! あとはシンジくんに任せて!』

 

 その指示を受け取った綾波レイは、たどり着いた後方の補給地点で零号機にアンビリカルケーブルを接続し。

 

『目標攻撃再開!』

『シンジくん!』

 

 振り返った。輝きの中で、正拳突きを放つ初号機を。

 

 碇シンジの背中を、見る。

 

「……!」

 

 そして、走り出す。指示とは真逆の方向に。

 

『初号機、アンビリカルケーブル断絶!』

 

 弾かれた使徒の攻撃の流れ弾でケーブルが千切れ、跳ねて飛んでいくのを見る。

 

 レイは、零号機は背中に手を回す。

 

「ケーブル、強制パージ」

 

 警告音と共に表示されるカウントダウン。

 

 残り15秒。

 

 初号機に、零号機から外したケーブルを接続する。

 

『初号機、ケーブル再接続!』

『零号機、内蔵電源に切り替わります!』

 

 残り11秒。

 

 初号機の正拳突きは、押し返されている。

 

 この作戦は、使徒のコアを正拳突きしなければ達成しない。

 

 だから、綾波レイは――

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 綾波さんが、零号機のケーブルを初号機に接続する。

 

 僕のカウントダウンは止まり、綾波さんのカウントダウンが始まった。

 

 ――いや。

 

 ATフィールドを消失したエヴァは、流れ弾にも耐えられない。

 

 この10秒の間に決着をつける必要がある。のに。

 

「撥ッ! 撥ッ! ……クソッ!」

 

 使徒が唸りをあげて放つビームを、突破できない。それどころか。

 

「うッ……撥ァッ!」

 

 圧力が、増す。

 

 ――間に合わない。

 

 その言葉が頭をよぎった瞬間だった。

 

「!?」

 

 背後にいた零号機が――綾波さんが。

 

 横に、飛び出す。

 

 そして。

 

「な」

 

 使徒に向き直り。

 

『ATフィールド全開……!』

 

 

 正拳突きの、構えをとった。

 

 

 それは。

 

 とても未熟な正拳突きだった。

 

 足の位置も、腰の深さも、体幹も、腕も、肩も、握りも。何もかも未熟で。

 

 けれど、心の構えだけは本物だった。だから。

 

『目標、形状変化! これは――』

『二方向への同時射撃!? レイッ!』

 

 使徒は、ビームを零号機にも放った。

 

『きゃああああああああ……!』

『零号機、電源喪失まで2、1――』

 

 僕へ向ける、圧が減った。

 

「撥ァッ!」

 

 どぱぁッ! ビームを貫く。花弁のように散ったビームの向こうに。

 

 コア。

 

 正拳――

 

「発ァァァァッ――!」

 

 ――突き!

 

 

 カコォォン……!

 

 

 ビームが、止む。

 

 ガラスをすり合わせたかのような悲鳴を上げて。使徒が、赤い液体になって爆散した。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 救助隊は間に合わない。

 

 僕はミサトさんの指示に従って、零号機を横たえる。

 

「……破ッ!」

 

 ガンッ! 零号機の首の後ろのカバーを正拳突きで破壊する。するとエントリープラグが強制射出された。内部のLCLも強制排水される。

 

「ぐ、熱ッ……」

 

 エントリープラグを初号機で引き抜き、地表へ下ろす。シンクロで高熱を感じるということは……実際にも高熱ということ。

 

 使徒のビームに、ATフィールドなしで何秒暴露したのだろうか。

 

『あとは説明した通りよ。頼んだわ、シンジくん』

「はい。プラグ、強制射出」

 

 エントリープラグ内の強制脱出装置を操作して、エントリープラグを露出させる。LCLの排水。肺が痛いとか言っている場合じゃない。タラップを使って地上へ。

 

「綾波さん……!」

 

 零号機のエントリープラグに近づく。湯気を上げる側面の非常口に向かい。

 

「破ッ!」

 

 ガォン! 打ちぬく。

 

「綾波さん、生きてる!?」

 

 中には……お湯のようになっている、排出しきれなかったLCL。操縦席にもたれかかる綾波さん。

 

「綾波さん!」

 

 呼びかける。……指先が動き、顔を上げた。よかった……。

 

 いや。結果的にはよかった。でも、やり方は別にもあったんじゃないだろうか。

 

 確かに美しい心の正拳突きだった。でも……あんな身を犠牲にするようなやり方は、よくない。

 

 ああしたのはきっと、彼女が追い詰められていたからだろう。

 

「……自分にはエヴァの他に何もない、って言ったけどさ」

 

 綾波さんは、無言でこちらを見る。

 

「その気持ち、なんとなく分かるよ」

「……そうなの?」

「うん。僕も、僕には正拳突きしかない……って思っていた時があった」

 

 でもそれは間違いだ。

 

「けど、実はもっと他にあったんだ」

「そうなの?」

「うん」

 

 力強く肯定する。

 

「そうだと思うかどうか、だと思うな。望んで行動すれば、きっと他のものがあるって気づくことができる」

「……私には分からないわ」

 

 綾波さんは目をそらす。

 

「私は作戦を成功させるために、こうしただけ」

 

 そう呟いて、綾波さんはゆっくりとこちらを向いた。

 

「どうしたら、他に何かあるって分かるの?」

 

 実感か。

 

 自分には「コレ」があるという、実感。

 

 僕がそれを得たのは……いつだってそうだ。

 

「正拳突きをしたら分かるよ」

「ごめんなさい。やっぱり何を言っているか分からないわ」

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