知ってる名前の少年に転生したけど、俺には正拳突きしかできない   作:幻覚症状

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アスカ、来日(後)

「まったく何様や、あの女! 何ぬかしとんのや。シンジさんに対して偉そうに!」

「でも同い年にしてすでに大尉っていうのはすごいよ。飛び級で大卒ってことだよ?」

「シンジさんの方がすごいに決まっとるやろ!」

 

 鈴原くんからの信頼度が高い。高すぎる。僕は大学になんか行けそうもないから、式波さんの方がすごいってことにして、式波さんの舎弟をやってくれないかな……。

 

 そんなことを考えながら、僕たち三人は改札を抜け、駅構内を歩く。

 

 エヴァの出撃があった日は訓練が休みになる。整備やら後始末やらで、僕らにかかわっている暇がないらしい。ということでお得意の現地解散。式波さんはネルフ職員と本部へ。綾波さんはミサトさんの車で送られていき、男子三人は電車というわけだ。

 

「失礼」

 

 と、なんかいい声で呼び止められた。振り返ると……髭の処理の甘いポニテの男性が、スーツケースを持って立っていた。

 

「ジオフロントのハブターミナル行きは、この改札でいいのかな?」

 

 ……出張の人かな? 迷うよね、第3新東京市の交通網。ごちゃごちゃしてて。

 

「わかりません」

 

 なので僕もよく分からない。ここからジオフロントって行けるの?

 

「しょうがないなあ碇は。はい、この改札ですよ。4つ先の駅で乗り換えがありますから注意してください」

「ふむ……」

 

 相田くんがフォローしてくれると、男性は感慨深そうに案内板を仰いだ。

 

「たった2年離れただけで浦島太郎の気分だ。ありがとう、助かったよ。ところで、葛城は一緒じゃないのかい?」

 

 かつらぎ? ……ああ、ミサトさんのことか。ジオフロントに行くらしいし、この人もネルフの関係者かな。なんて考えていると。

 

「古い友人さ」

 

 考えが顔に出ていたらしい。男性はウインクして背を向ける。

 

「君だけが彼女の寝相の悪さを知っているわけじゃないぞ。碇シンジくん」

 

 うん?

 

 ……うん?

 

「ね、寝相……」

「なんやアイツ、シンジさんに偉そうに!」

 

 うん。14歳の少年たちに言うことじゃないよな。元彼だというのはよくわかったけど、なんでそう……ミサトさんもそういえば胸の谷間を注目させようとしてたな……感性が似た者同士ってことか。

 

 今は鈴原くんの反応が少しありがたいかな……舎弟はやめてほしいんだけど……。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「加持リョウジ主席監察官。信用に足る男かね?」

 

 大きな窓からジオフロントを見渡しながら、老人……冬月が言う。

 

「問題ない。今は我々の意図通りに動くしかない」

 

 碇ゲンドウは、机の上のスーツケースを閉じながら応える。

 

「むしろ問題はお前の息子の方か」

 

 ゲンドウの手が不自然に止まる。

 

「出自不明の謎の拳法。目的遂行の障害と成りえるかね」

「問題ない」

 

 冬月の言葉に、ゲンドウは重ねて言う。

 

「規格外の力を持っていようと、しょせん子供のすることだ」

「そうか。そうだな。いずれにしろ、我々はあと6体の使徒を倒さねばならない。ならばその力も有用か」

「ああ」

 

 ゲンドウは頷く。

 

「レイとの接触の機会も増やした。計画に変更はない」

「14年前からのシナリオ。運命を仕組まれた子供たちか……過酷すぎるな」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「ちょっと、ミサト!」

 

 ネルフ本部内で先の戦闘について報告書をまとめ……といっても、ほとんど蚊帳の外だったので各部署の報告をとりまとめるだけですぐに仕事の済んだミサトがついでに事務仕事を片付けていたところ、肩を怒らせてアスカがやってきた。

 

「どしたの、アスカ。そんなプリプリしちゃって」

「さっきの戦闘! なんであたしにキルカウントが加算されないで、ナナヒカリが使徒を倒したことになってるわけェ!?」

 

 どうやら先ほど提出したばかりの報告書を見たらしい。バンッ、と机を叩くアスカに、ミサトは真剣な顔をする。

 

「アスカが撃ち抜いたのはダミーのコア。シンジくんが打ち抜いた方が本命のコア。MAGIはそう判断を下したわ」

「はァ? ダミー?」

 

 食って掛かろうとして、アスカは爪を噛んで止まる。

 

「……確かに手ごたえがない気はした。でも、それならエコヒイキが倒したんじゃないの? 初号機は武器なんて持ってなかったじゃない」

「シンジくんに武器は不要よ」

「は?」

 

 何を言うんだ、という顔をするアスカに、ミサトは真正面から応える。

 

「正拳突きがあるから」

「はァ?」

「さっきの使徒を倒したのも、シンジくんの正拳突きよ」

「……正拳突きってアレでしょ」

 

 アスカは構えをとって拳を突き出す。

 

「せいっ! ……っていうダサイやつ」

「全然違う!」

「エッ」

 

 急にボリュームを上げたミサトの剣幕にアスカは気圧される。……が、それ以上ミサトが喋らないので、少し勢いを抑えて話を続けた。

 

「と、とにかく……それって近接格闘じゃない。あそこから使徒のコアに届くわけないでしょ」

「正拳突きならできるわ!」

「えぇ……」

 

 澄み切った瞳で言い切られ、アスカは閉口する。何がミサトを変えてしまったのか思考している間に、ミサトが「そうね」と話し始めた。

 

「アスカはこれから本部で作戦に参加するわけだし、真実を知らないとね」

「真実?」

「実は、各ネルフ支部に送った戦闘報告書には伏せられているんだけど」

 

 ミサトは重大な秘密を打ち明けるように言う。

 

「第4、第5、第6の使徒も、シンジくんが倒したの。――正拳突きで」

「……は?」

「これは隔離サーバーに保存してある記録映像よ」

 

 ミサトは動画を再生する。アスカが最初に目にしたのは、第4の使徒に頭を掴まれて脱力している初号機の姿だった。

 

「何よ、使徒に捕まってるじゃ――」

 

 ドンッ!

 

「は?」

 

 次の瞬間、使徒の胸に穴が開き、赤い液体になって爆散した。……正拳突きの姿勢で固まる初号機の前で。

 

「次は第5の使徒ね」

 

 触手のドリルに胸を貫かれそうになっている初号機。先ほどと違い、使徒とは距離がある――

 

 ドンッ!

 

「え?」

 

 初号機が拳を前に出した途端、使徒のコアがへこんだ。距離を無視して。

 

 ドンッ! またへこんだ。

 

「えっ……」

 

 ドンッ! ……ひび割れて、使徒が爆散した。

 

「第6の使徒。あ、時間かかるから早送りするわね」

 

 それはずいぶんと遠くから撮られた映像だった。左端に青い立方体の使徒。それがビームを放ち……右側で何かにぶつかって弾け飛ぶ。その様子が延々と繰り返された。

 

「……?」

 

 初めは何が起きているのか理解できなかったアスカだが。

 

「……ッ!?」

 

 その弾け飛ぶポイントが徐々に左側に近づくのに気づいて、息を飲んだ。

 

「び……ビームを弾いて……?」

「そうよ。正拳突きでね」

 

 そして最後は正拳突きでビームを撃ち抜き、コアを打ち抜いた。

 

「どお!? すごいでしょ、正拳突きって!」

「……信じらんない」

 

 アスカは頭痛を抑えるようにしながら、声を絞り出す。

 

「何者なの、ナナヒカリって」

「気になるわよね~!」

「こんなの、絶対何か秘密があるはずよ。それさえ分かれば、あたしにだってこれぐらい……」

「知りたいんだ?」

 

 ミサトに問われ、アスカは歯を食いしばりながら頷く。するとミサトはニコッと笑った。

 

「なら、いい考えがあるわ!」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「イヤー! 汚いッ!」

 

 ……訓練がないからと、鈴原くん、相田くんと一緒に遊んですっかり遅くなってから家に帰ってくると、そんな女の子の悲鳴が聞こえた。

 

「ただいま……うわっ、なんだ?」

 

 ただでさえ狭い家が、段ボール箱でさらに狭く!?

 

「あ、シンジくんおかえり~」

「ちょっと、ナナヒカリ!?」

 

 ミサトさんが空き缶タワーの向こうから缶ビールを振っている。そしてなぜかいる式波さんが米の品種のように僕を呼んでつっかかってきた。

 

「なんでこの家、こんなに汚いのよ!?」

「ああ、うん」

 

 うん……そうなんだ。

 

「僕もミサトさんも、家事が苦手だから……かな」

 

 僕は父さんに捨てられてから、先生の家の離れで一人で暮らしてきた。

 

 ……だからといって、家事ができるようになるわけじゃない。家事はたまにやってくるお手伝いさんに全部任せていたから……食事も毎日運ばれてきてたし……。

 

 僕? 僕は正拳突きをしていた。

 

 ……たぶん、展開的にシンジさんは家事もできるんだろうな、と思う。エヴァンゲリオンの天才なうえ家事まで万能とか、本当にすごすぎる。僕には正拳突きしかできないというのに。

 

「冗談じゃない。こんな汚いところに住めっていうの?」

「えっ、住むの?」

「そうよぉ~」

 

 空き缶タワーが機嫌良さそうに言う。

 

「パイロット同士の連携は重要! 同じパイロット同士、同じ釜の飯を食って仲良くしないとね」

 

 なるほど。どうも式波さんは僕や綾波さんを敵視しているみたいだから、その改善を図ってということか。しかしこの段ボール箱の数、すごい荷物の量だな……。

 

「何よ。文句あるの?」

「いや、大歓迎だよ」

 

 僕は笑顔を作る。

 

「……式波さんは家事って得意?」

「やらないわよ! そんな雑事!」

 

 ……そうか、ダメか。まあ、そんな感じだもんな。仕方ない、これからも出張家事サービスの人にがんばってもらおう。

 

 それにしても……式波さんはシンジさんのライバル枠かと思ってたんだけど、さすがに一緒に住むということは綾波さんと同じでヒロイン枠なんだろうな。

 

 どちらも外見的にはかわいいし、嬉しいことなんだろうけど……正直僕はかわいそうな展開のことが気がかりでそういう気分にならない。仲良くはしておくべき、とは思うけど。

 

「はぁ~、コンビニ飯ばっかりだと肌荒れしそう」

 

 ちなみに、式波さんは僕と同じ釜の飯は食えない。

 

 ……なぜなら僕もミサトさんも炊飯しないからだ。

 

 炊飯器はあるけど……アレを式波さんが開けないことを祈ろう。うん。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「キャー! なっ、なな、なんか変な生き物がお風呂にいる~!」

 

 部屋で正拳突きをしていると、式波さんがミサトさんの洗礼を受けている声が聞こえてきた。

 

「クワ、クヮ~!」

「ミサト!? 何言ってんの!?」

「クワ~!」

「えっ、何!? 何なの!?」

 

 式波さんはミサトさんと以前からの知り合いなおかげか、あの形態のミサトさんの言葉も理解できるようだ。

 

 お湯を浴びると変身してしまう特異体質。他のアニメで見ていなければ受け入れがたかっただろうな。……水だっけ? まあどっちでも同じことだ。

 

「クワクワ~!」

「ミサト、正気に戻って!?」

 

 水をかけるといいよ、と言いに行こうかと思ったけど、正拳突きがいい感じだったので放っておくことにした。

 

 エヴァンゲリオンを通して知る正拳突きの粗を見つけるたびに、新たな正拳突きを知ることができる。

 

 僕には正拳突きしかできない。だから、それで何もかもを貫けるようにならなければ。

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