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「…そんなところでコソコソ見ていないで、出てきたら?」
私は後ろに声をかける。
別に、確信があったわけじゃない。ただ、私も戦場に出ていたこともあって、勘はいい。
だからまぁ、いるだろうなと思っていた。
「す、すいません。声もかけずに。」
「いや、別に怒るわけじゃないよ。こっちも、本来見られたらまずいんだし。」
即座に殺される、ということは流石にないだろうが、どんな罰があるかわからないし、見られないに越したことはない。
ぐっ、と伸びをしながら羽を目一杯広げ、人の方に向き直る。
「で?どうしてこんな時間にこんな場所にいるんだい?少年。」
振り向いた先にいたのはおそらく10歳前後であろう少年。
まぁ少なくともそんな年の少年が深夜12時に、それもあかりも月と星しかないような裏山にくるものではないだろう。
「見た感じ十歳くらいだろ?そろそろ寝る時間だと思うぜ?少年。」
私が何か話すたびにビクッと震えるが、一向に帰ろうとも、というか動こうとしない少年が少し面白くなってくる。
「親に言わずに来たか、喧嘩したか。なんにせよ、さっさと帰らないと親御さんが心配するだろ。」
「…どうせ、僕のことなんて心配しないですよ。あの人たちは。」
ようやく口を開いた少年から飛び出した言葉は、予想と違っていた。
私が言ったことか、事故で親がいないか。そのどれかだろうと思っていたのだが、何やら複雑な事情がありそうだ。
少年の近くまで歩きながら、私は話を続ける。
「複雑な事情がありそうだが…ま、いいや。少年。」
「…?」
「空は、星は、風は、好きか?」
私は、初対面の相手には決まってこれを聞いている。
「私は好きだ。大好きだ。」
「この青くて、赤くて、黒い空も、夜空に光り輝いて浮かんでいるこの星も、時に強く、時に優しく私たちに吹き付けるこの風も、大ッッッッッッ好きだ!」
「少年。君はどうだ?」
そう言うと、少年は即座に答えた。
「好きです。」
「そうか。なら、いい。」
そうやって笑って、私は少年の隣に腰を下ろす。
別に、特別意味のある質問というわけではない。
これから広がる話題なんてたかが知れているし、私自身何かを語れるほど空にも、星にも、風にも詳しくない。
でも、こうやって何か少しでも共通点とか、相違点とか、そういうものを見つけた方が分かり合える。そう思っての質問。
まぁ、これも後づけの理由なんだけど。
「お姉さんは、なんでその羽をいつも広げないの?」
「…少年。学校でも、塾でもなんでもいいが、そういう何か物事を学ぶところに行ったことはあるか?」
「…ない。自分が生きていく金を稼ぐので精一杯だから。」
言葉が止まる。
働いている子供なんてこのご時世ごまんといる。
ただまぁ、親からだとか、知り合いからだとか。それこそ配達の仕事をしているならその新聞からでも周りの話からでもなんでもいい。
二十年前、戦争があっただとか、そこで有翼人種が活躍しすぎたとか、そのくらいの知識はあるもんじゃないのか。
「少年。二十年前に終わった戦争は知っているか?」
「知らない。仕事にも生きていくにも関係なかったし…」
またしても言葉が止まる。
いやまぁ、今までも戦争を知らないっていう子供は数人会ったことがある。
でも、そいつらは揃って5.6歳とか、そのくらいの、世の中を少しづつ知り始めるくらいの歳のやつが多かった。
「…そうか。それほど、しんどいか。」
「うん。」
「ところで、仕事って何してるんだ。」
「荷物運んだり、作業手伝ったりかな。」
…思ったより真っ当な仕事だった。
いやまぁ運ぶってのが何かの隠語という可能性は捨てきれないがそれはない…と信じよう。
「きついねぇ…世の中ってのは。」
「うん。でも、これが生きるってことでしょ。」
話して思ったが、この少年、かなりしっかりしてるな。
「ところで、そんなしっかりした感じだが、なんで最初あんなビクビクしてたんだよ。」
「あ、いや、あの」
「はっ、別にどっか言いつけるとか、説教するとかじゃねぇよ。ただ、純粋に気になっただけだ。」
少年が少し口ごもる。
「…羽が、綺麗で。急に見つかったと思ったから。」
「はっはっは!!そんな理由か!!可愛いじゃねぇの!」
そう笑いながら少年の背中をバシバシ叩く。
「別に恥ずかしがることねぇだろ!そりゃ私の羽は綺麗だしな!見惚れるのもわかる!」
「じゃ、もう一個質問。」
「今、一番したいこと、願いはなんだ?」
「…空を、飛んでみたい。」
その言葉を聞いた時、自分が少し恥ずかしくなる。
まぁ、羽に見惚れてたってのも事実だろうが、そこはいい。
生活が苦しくて、家庭環境も悪くて。
今を生きることに精一杯な少年が願うことが。
『もっと楽をしたい』とか、『親と仲良くなりたい』とか、『友達を作りたい』とか。
そんなことじゃなく、ただ『空を飛びたい』ときた。
「あぁ。私もだ。」
「そんな、立派な羽があるのに?」
「この羽は、今を飛ぶには枷が付きすぎちまったからな。」
「なら、その枷が外れた時は、僕も一緒に飛ばせてよ。」
「あぁ。外れたら、な。」
そう言って立ち上がり、そばに畳んでいた服を取って、着直す。
「また来い、少年。たまになら相手してやるよ。」
「そんときゃ、羽の枷も外れてるかもな。」
私もこのくらいの歳の時は今では忘れてしまったが、何か夢があった。
だからこそ、この少年には夢を持ったままでいてほしいし、戦争を知ったならそれでいい。
ただ、自分で知るまでは、私は何も言わない。
「はい。また、いつか。」
この羽根のように軽いものだとしても、戦争などという暗いことは、覆い隠してしまった方がいい。
書き始めたらノってきたのでもう少し続くと思います