朝顔の忍び   作:ふみどり

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思考

 朝来が土井に文を送ってしばらく時が流れた。

 利吉から紹介された仕事のいくつかを、若王寺と桜木は難なくこなしたらしい。まあ昔から優秀だったから大丈夫だろう、としばらく目を離した矢先のことであった。

 

「……随分派手にやられたんだね」

 

 すでに治りかけではあるが、確かに怪我の痕跡が見える。

 我々の未熟故です、と後輩たちはどこか安堵した表情で返した。どうやら忍務は問題なく完了し、しかも怪我を負ったことに悔しさ以上に納得を感じているらしい。

 その返事だけで十分すぎる情報を与えていることを気付いているのかな、と朝来は目を細める。まだまだ素直がすぎる後輩たちにひとつ息を吐き、ちゃんと手当てをしておくんだよ、と彼らに背を向けた。

 隠れ家に使っている山間のボロ小屋を出る。頭上で鷹の鳴き声が響いた。指笛でそれに応えれば、ばさりと鷹が肩に降りる。

 その足にくくりつけられた文を解き、中を見た。

『夕刻に毒を喰らう』――タソガレドキがドクタケの領地を奪った、と。忍鳥を育てる傍ら情報屋の一面をもつ実家からもたらされたそれ。ここしばらく、どうにも忍術学園の付近が物騒だとは感じていた。自分の「厄介ごと」から目を離すわけには行かなかったので動くことはできなかったが、こちらがある程度片付いた今なら。手の中の紙切れをぐしゃりと握りつぶし、鷹にくわえさせる。

 焦げ茶の翼が飛び立ったのを見送り、そのまま空を眺めた。朝来の脳内で、これまでに届いた情報がひとつずつ浮かんでは繋がっていく。

 ひとつ、忍術学園とタソガレドキ忍軍は比較的友好関係にある。

 ひとつ、最近忍術学園の付近で「ドイハンスケ」という若い男の捜索が行われていた。

 ひとつ、タソガレドキ忍軍の動きが急に活発になった。

 ひとつ、ドクタケがスッポンタケに領地の割譲を求めた。

 ひとつ、ドクタケにひどく優秀な軍師が現れたらしい。

 ひとつ、何故かスッポンタケを攻める前にドクタケが戦の構えを解いたという。

 そのうえで、今日届いた情報は「タソガレドキがドクタケから領地を奪い取った」。

これらすべてが関連しているのなら、おおよその流れは見えてくる。まさかあのひとに限ってと思える部分もあるが、何か事情があったのかもしれない。そこも含めて調べればいい。

 いや、調べる必要があるだろうか、と朝来の中の冷静な部分が問いかける。

 詳細は不明にしても、一件落着はしているのだろう。だからこその後輩たちのあの表情だ。ならば今さら首を突っ込んで何になるというのか。それはプロの忍者のやることなのか。迂闊に藪をつつけば出てきた蛇に噛みつかれる可能性もある。あの近辺にはまだまだ朝来の力量では敵わない化け物が多すぎるというのに。

 ひい、ふう、みい、と数える間に朝来は考えるのをやめた。人間として生きることを覚えても、そもそも考えることが好きなわけではない。

 何か気になる。心によぎった陰がある。いつまでも頭の片隅にへばりつくような違和感があり、進もうとする足に何かがしがみついているような。訳がわからないがこれは良くない。放置していては思うように走れない。言葉にできない感情があるのなら、それを解きほぐして己の心を知るべきだ。何かそんなことを言っている同期がいたはずだからきっとそうだ。おれがおれを知らずして、優秀な忍びにはなれない。

 答えは出た。うん、と頷いて踵を返す。出立は明日でいい。後輩たちによれば利吉もこちらに顔を出すという話だった。そちらも少しつついてみようと頭を掻く。

 ボロ小屋の軒下で干していた肉を取る。後輩たちの怪我はたいしたことはなさそうだが、そういうときほど血肉となるものを食べて精を付けなければ。

 何でおれが後輩たちのメシの用意を考えているのだろう、などとぼんやり考えながら、朝来はまた笑顔をつくり、ボロ小屋の戸を開けた。

 

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